4話【人型魔導兵器】
壊れた奉仕人形・ベレッタを見つけた私は、他にも【虚無の荒野】に同様の施設などが眠っていないか、隅々まで探し始めた。
小国に匹敵する【虚無の荒野】の大結界。
その地下100メートルまでの範囲を【土魔法】の《アースソナー》で調べ回るのに、半年が掛かってしまった。
そして、その調査の結果、地下には37の遺跡を見つけた。
その遺された遺跡の中には、ベレッタを見つけたような地下シェルターも幾つかあり、そこには、同じように怨霊系の魔物が誕生しており、どれも浄化して丁寧に葬送した。
そんな遺跡探しでは、様々な古代魔法文明の魔導具を見つけたが、ベレッタの代わりとなる完品の奉仕人形は存在せず、どれも壊れた状態で発見された。
そうして【虚無の荒野】の遺跡には、他にも高度な魔導具などが見つかり【鑑定のモノクル】で調べた結果、やはり現代の魔導具とは次元と言うか、前提条件が違うものだと分かった。
遺跡の一つが魔導具の生産工場らしく、その施設を見ると、魔導具を作るための魔導具などが残されていた。
また、奉仕人形やゴーレムなどの統一規格の様子を見るに、大規模工業生産が可能だったのではないかと思う。
「魔導具部品を作り上げ、それを大規模工場で組み立てて、奉仕人形のような複雑なものを作っていたのね」
残されていた魔導具は、それ単体では意味の無いガラクタだが、そうした魔導具が互いに連動して、極めて人に近しい動きを再現したり、高度な機能を有した魔道具になっていたようだ。
「素体を魔力でねじ曲げるよりも関節部に様々な魔導具を仕込んで低魔力で運用できるようにしているのね」
姿勢制御や持ち運ぶ時の物品の重量制御など、一つ一つの魔導具の効果は小さいが、そうした小さい積み重ねにより旧来のゴーレムよりも低燃費で細やかな動きができるのだろう。
そして、逆にシェルターに残されていた避難者たちが身に着けていた小物などは、現在の手工業的な魔導具生産を極めたような性能に、アーティファクトと言われても頷けるレベルだった。
「このくらいのものなら、【創造魔法】で類似した性能の物を作り出して人に渡しても怪しまれないわね。それにしても範囲の割に得られる物が少なかったわね」
見つかる施設は、どれも頑丈な作りの場所だったり、【虚無の荒野】の外縁部に集中していた。
そのことから2000年前の魔法実験の暴走の威力が推し量れるだろう。
それと不幸中の幸いとしては、見つかった遺跡には記録媒体が2000年も耐えられなかったのか、魔法文明の滅亡の切っ掛けである魔法実験の資料は残っていなかった。
「魔女様~、次が最後みたいなのです」
「テト、ありがとう」
そして、いよいよ【虚無の荒野】の遺跡探しは、最後を迎える。
小国一つに匹敵する土地の調査を余すことなく行なった結果、半年ほど掛かったが、それも今日で終わりだ。
「はぁぁぁぁぁぁっ――てっりゃぁぁぁぁっ!」
テトは、慣れた手付きで地面を魔法で掘り返して、見つけ出したのは、遺跡ではなく地面に埋れた大型のゴーレムだった。
「えっ、嘘。ゴーレムって言うか、ロボット?」
人が搭乗することができそうな四脚を持つ人型兵器だった。
大きさとしては体長4メートルの大型ゴーレムでどことなく戦車のようなイメージである。
「あー、これも魔力を吸って起動しようとしているわね。このまま放置してたら遠くない未来に起動していたわね」
「魔女様、どうするです? 壊すのですか?」
「あー、うーん。とりあえず、下手に触れない方が良いわね。暴走しても困るし」
その魔導兵器の周りに結界を張った私たちは、一度転移魔法で拠点まで帰る。
「ベレッタ、ただいまー。調子はどう?」
「ただいま、なのです!」
『ご主人様、お帰りなさいませ。お出迎えできずに申し訳ありません』
【虚無の荒野】の拠点まで転移で戻った私とテトを、軒先のウッドデッキでロッキングチェアに腰掛けるベレッタが迎えてくれた。
2000年前に壊された手足の断面は、【研磨】の土魔法で丁寧に磨き整え、布を被せた。
ボロボロだったメイド服の代わりに新しいクラシックタイプのメイド服を着せて、ロッキングチェアに座らせて膝掛けを掛けている。
「ごめんね。手足を直したいけど、まだ直せなくて」
『本来ならば、2000年も形を保持することを想定に作られておりません。ご主人様はお気になさらず』
「ありがとう。実は、今日の調査で大型のゴーレムが見つかったのよ。それであなたの意見を聞きたいわ」
見つかったゴーレムについて説明すると、思い当たる節があるのか答えてくれる。
『2000年前にも魔物の脅威はありました。それらへの砲撃型魔導兵器でしょう。ご主人様たちがおっしゃる古代魔法文明と言えども、発動させる魔法の破壊威力は変わりません』
「へぇ、そうなのね」
ベレッタの話によれば、古代魔法文明は、便利であったが、発現させる魔法の規模は現在と変わらないらしい。
高魔力環境下の古代魔法文明人は、魔力も多く、個々人で得意な属性・苦手な属性などは多少あれど、全員が全ての魔法と呼べるものを扱う適性があった。
その反面、魔導具が家電のように発展し、地脈の魔力を吸い上げて魔導具を動かしていたために、人々が魔法を使う機会は減っていたらしい。
また、古代魔法文明人は、長寿・長命で魔力も多いので常時身体強化状態であった。
それは、魔物も同様に魔力が多かったので、求められる攻撃魔法は、広域殲滅魔法ではなく、貫通力の高い魔法だったり、相手の身体強化を中和・妨害するような魔法だったらしい。
それからスキルという概念も当時は、なかったようだ。
そちらの方は、どうやら五大神たち含むこの世界の神々が低魔力環境になった世界でも遺された人々が生き抜けるように、ステータスとスキルという形でレベルと技能による補正を与えたようだ。
『ですので、当時の魔法は、それほど派手ではないと思われます』
「なるほどね。竜巻や津波は起こせるけど、余波が大きいわよね」
だからこそ、逆にどんな魔法実験を行なった結果、暴走して滅んだのかは興味があるが、調べること自体が禁忌なのだろう。
知ってしまったら試したくなるのが人間なのだ。
『話を戻しますが、私の意見としましては、マトモに動くはずはありませんので放置。もしくは解体がよろしいかと思います』
「そう、でも私は操作とかできないけど、ベレッタはどう?」
『我々、奉仕人形などのゴーレムたちは、規格に互換性がありませんので、操作は不可能です』
「じゃあ、解体しましょう。終わったら解析して金属資源に戻しましょう」
「魔女様、魔女様。あれだけのゴーレムなら大きな魔石を使っているのですよね。なら、テトが食べたいのです」
そう言って、食べたそうにするテトに苦笑を浮かべて、ちらりとベレッタを見る。
雰囲気的には、同時代に存在した魔道具同士で何か感じるものがあるのか、と思ったが、どうやらベレッタにはなにもないようだ。
そうして、私はベレッタを抱えるようにして砲撃型ゴーレムのところに戻る。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
どうぞ、よろしくお願いします。