2話【古代魔法文明の亡霊】
2000年地中に埋まっていた古代魔法文明の地下シェルターを開ければ、そこには、人の白骨死体や水分が抜けてミイラ化した死体が残されていた。
「魔力実験の暴走で即座に古代魔法文明が滅んだわけじゃないのかしら? 少しの猶予があって地下シェルターに逃げ込んで、閉じ込められて、そのまま……」
「切ないのですね」
とりあえず、2000年ぶりのお日様の下に出して丁寧に埋葬しよう。
そうして一歩踏み出したところ、ガタガタとこの場に散乱する白骨死体やミイラが軋みを上げ、澱んだ空気が残る地下シェルターから毒々しい色の煙が立ち籠める。
「魔女様! 敵なのです!」
「これは、ガイスト系の魔物かしら」
寄り集まる毒々しい靄は、巨大なガス状の霊体魔物の形を作り、怨嗟の声を響かせる。
『――イタイヨォ、クルシイヨォ、セマイヨォ、ヒモジイヨォ』
『――ダレカ、タスケテ、ココカラ、ダシテ』
『――シニタクナイ、コノママ、シニタクナイ』
「2000年物の嘆きと死への恐怖が地下深くで熟成された怨念の集合魔物ね。フィアー・ガイストといったところかしら」
私は、テトの手を引いて【飛翔魔法】で掘り起こした大穴から抜け出して地上に逃げれば、私たちを追って地下シェルターからフィアー・ガイストが出ようとするが、ある程度の範囲からは抜け出すことができずにいた。
「地縛霊みたいにあの地下シェルターに縛られているのね」
魔力を目に集中し、この地下シェルターやフィアー・ガイストなどを見れば、地下シェルターとフィアー・ガイストが繋がっているのが分かる。
2000年前に取り残された死者の怨念が熟成され、最近になって魔力を満たし始めた【虚無の荒野】の魔力を吸収して魔力を蓄え始めた地下シェルターに寄生するようにして存在を顕現しているようだ。
そのために、地下シェルターから離れることができない地縛霊になっている。
「2000年物の集合霊とは言え、低魔力環境に居たから大した脅威じゃないわね」
「魔女様、あの子たちを見ていると悲しいのです。早く助けてあげてほしいのです」
テトから悲しそうな声で頼まれる。
アースノイドのテトは、元はダンジョンに囚われて自我が崩壊した土精霊をクレイゴーレムが取り込んで生まれた存在だ。
同じ場所に囚われ続けることに対して、取り込んだ土精霊の琴線に触れたのかも知れない。
「ええ、助けてあげましょう。――《ピュリフィケーション》!」
地下シェルターの上空から浄化魔法を使い、清浄な魔力の波動が建物を通り抜けて降り注ぐ。
『『『ア、アアアッ――』』』
駆け抜けた浄化魔法の波動がフィアー・ガイストの霧状の体を崩していき、苦悶の声が響く。
だがその声は、次第に解れてフィアー・ガイストの霧状の体と共に空気に溶けていく。
そして、フィアー・ガイストに残された怨念と魂が昇華していく。
「魔女様、これで終わったのですか?」
「ええ、多分この地下シェルターには、悪霊の類いはいないはずよ」
10万を超える私の魔力の内、半分の5万ほどを注いで浄化したのだ。
圧倒的魔力による浄化は、どんな悪霊も逃さず浄化した。
そして、風魔法を使って、建物内に空気を送り込み、テトと一緒に死体やゴミを運び出す。
「魔女様~、人の骨や死体は全部火葬でいいのですか?」
「ええ、後で纏めて燃やすわ」
「了解なのです!」
私とテトは、丁寧に地下シェルターから骨やミイラ化した死体を地上に運び出し、火魔法で燃やして残った灰を風に流して撒く。
「どうか、転生して新しい人生を歩めますように」
散骨した灰に向かってそう小さく祈ると、私がこの世界に転生したように、この世界の住人の魂が新しい人生を送れるように祈る。
『――ありがとう、これで解放されたわ』
風に乗って、私たちの耳元にそんな声が聞こえた気がした。
「それじゃあ、改めて地下シェルターを調べましょうか」
「はいなのです!」
怨霊系の魔物の出現という出来事があったが、改めて地下シェルターの内部を調べる。
地下シェルターに残されていたゴミには、緊急時の防災道具などの残骸が残されていた。
実に近代的なものらしく、『1000年保存の安心防災用品』の謳い文句が入った道具の残骸には、保存魔法の残滓が残っていた。
だが、流石に2000年は保てずに、半ば風化していた。
そんな中、内部で暴動が起きて人によって壊された警備用ゴーレムなども見つけて、それらを運び出す中、見つけた地下シェルター同様に私とテトが放出する魔力を吸収する物を見つけた。
「あれは、人? 死体は、全部運び出したと思ったけど、まだ残ってたの?」
「魔女様、あれは違うのです。人じゃないのです」
「人じゃない……それじゃあ、人形?」
外皮が経年劣化で剥がれ落ち、剥き出しの金属骨格の四肢は、避難した人々の暴動が原因なのか砕かれている。
人を模した人形が呼吸するように魔力を吸い上げていた。
「動くのかしら」
「魔女様、危ないのですよ」
「大丈夫よ。――《チャージ》」
私は、人形に手を翳し、テトに魔力を補充する時と同じ要領で魔力を送り込む。
私の魔力を吸収した人形が僅かに発光し、ゆっくりと目を開けていく。
『……おはようございます。私は、奉仕人形B20984号です。現在、故障中のためにメーカーに送り、修理をお願いします』
声帯機能が劣化しているのか、声が聞き取りづらい。
「奉仕人形……あなたは、状況はわかる?」
『状況……シェルター内に避難した人々のお世話を目的として配置され、67日目に発生した人間同士の闘争の仲裁の際に、故障。その後、魔力残量の低下による長期間のスリープモードを確認。あなた方は、救助者、ですか?』
「いえ、遺跡発掘者ね。このシェルター内の人間は全滅して私たちが埋葬したところよ。それとあなたたちが生きていた時代から2000年以上経っているわ」
『……そう、ですか。状況を、詳しく伺っても、構いませんか?』
「そうね。一度、私たちの家に運んでから話しましょう。テト」
「はいなのです!」
テトが奉仕人形を優しく抱えるように運び、私は砕かれた手足などの部品を探し、持ち帰る。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
どうぞ、よろしくお願いします。