1話【虚無の荒野の現在】
皆様、お久しぶりです。アロハ座長です。
書籍化に伴いタイトルの変更と4章の更新を行います。
どうぞ、よろしくお願いします。
セレネの結婚式から時は遡り、私とテトが【虚無の荒野】に戻ってきた直後の話である。
「【転移魔法】の習得はできたけど、まだまだ私は鍛え足りないわね」
長距離転移は難しいが、目に見える範囲での中・短距離転移には慣れた。
今までは、空飛ぶ箒を使って移動していた【虚無の荒野】もそれらを併用して、数日掛けて、各所に配置した魔導具の点検に回っている。
「セレネとの生活を考えて【虚無の荒野】の外縁部に拠点を建てていたけど、やっぱり中心地にも拠点は必要よね」
【虚無の荒野】の中心地には、大悪魔を封印し、魔力に分解して消滅させる魔導具が稼働している。
万が一に、大悪魔の封印が解けたり、魔導具が故障した際には速やかに修理できるように拠点を近場にしておきたい。
「さて、ついた。ここも大分木々が生長しているわねぇ」
昔はホントに何もない場所だったのに、十数年の間に、小さな林になっていた。
植樹した様々な木々が林を形成し、その中心地には頭一つ飛び抜けて大きな樹――世界樹を見上げることができた。
「うん。世界樹の成長は早い。それにこの周囲は、魔力が濃いわね」
現在でも、植林を行なった魔力濃度の濃い場所では、微生物や昆虫などが繁殖し、低魔力下でも雑草が生える荒野の外縁部には、スライムや小動物魔物などが辛うじて暮している。
あと数十年もすれば、【虚無の荒野】の各所に作られた林同士が繋がり、巨大な森林を形成し、大結界内部の魔力濃度も小動物が生きていける程度にはなっているだろう。
その頃になれば、リリエル神が【虚無の荒野】全域を作り出した大結界を小動物が流入できるように設定を一段階下げ、将来的には大結界が消滅すればいいと思う。
「あら、小さな泉もできているのね」
森の木々を確かめるように歩いていけば、世界樹の傍には、小さな泉が湧き出していた。
きっと硬く締まった地盤を世界樹の根が地中深くまで穿ったために、地中内部の水圧で水が湧き出したのだろう。
そうした湧き水の光景は、【虚無の荒野】各所で見ることができ、風で運ばれた植物の種子が発芽して緑地ができあがりつつある。
「そうね、泉に小さな川の流れを考えて……この辺りに家を建てるのがいいわね。その前に――《サモン・サーヴァント》!」
拠点設置の前に、転移魔法の応用で、自身の眷属や使役・契約している対象を呼び出す召喚魔法を使う。
目映く輝く魔法陣の中から相棒のテトが軽やかな足取りで現れた。
「魔女様に呼ばれて来たのです! そして、置いていかれたのは寂しかったのです!」
召喚魔法陣から現れたテトは、シャキーンとポーズを取った後、早速私に抱き付いてくるのを苦笑しながら受け止める。
「テト、実験に付き合ってくれてありがとう」
「ふへへっ、どういたしまして、なのです」
イスチェア王国の王都から【虚無の荒野】までの距離をテトを連れて転移した際には、魔力量30万ほど消費した。
だが、転移魔法は、転移する距離と連れている人数や質量に応じて、加速度的に消費魔力が増えていくのだ。
そのために、効率的な長距離移動方法となると、【転移門】のような固定式の移動魔導具か、私が単独で転移した後に、テトを【召喚魔法】で呼び寄せた方が効率が良かったりする。
「さて、ここに改めて家を建てましょう。テト、地盤の整備をお願いね」
「はーい、なのです!」
テトが地面に手を翳すと、事前に決めておいた範囲の地面が蠢き、木々が動き始める。
拠点設置のために折角、植林して育てた木々を伐採するのは忍びないために、テトの土魔法で少しだけ移動してもらった。
そして、空いた土地にテトは、土石を圧縮した岩盤で土台を作り、その後私がその土台が劣化しないように【固定化】の魔法を使う。
「さて、仮の家を――《クリエイション》!」
そうして作った土台の上に、創造魔法で仮の家を建て、マジックバッグから転移門を設置して現在使っている【虚無の荒野】南東の外縁付近の家と繋げる。
「将来的には、ここの中心地から各所にハブのように転移門を繋げたいわね」
「ハブ、ってなんなのですか?」
「まぁ、簡単に言えば、車輪のように、ってことかしらね」
地面に分かりやすいように、車輪と車軸の絵を描けば、すぐにテトは理解してくれる。
「ハブなのですか! テトはまた一つ利口になったのです!」
「ふふっ、そうね。それに、王都の建築家に建てる拠点の設計図を作ってもらったし、少しずつ……」
少しずつ魔力を貯めて作ろうか、そう話している時、私の魔力感知の範囲内に、妙な動きを感じた。
「魔女様? どうしたのですか?」
「何かが、【虚無の荒野】の魔力を吸っている?」
この【虚無の荒野】は今まで極度の低魔力……いや無魔力環境下にあった。
ここ十年ほどで植樹を行ない、私の魔力を放出して魔力濃度を高めていたが、まだまだ魔力が足りない。
そんな中で魔力を吸い取る存在が現れれば、【虚無の荒野】の再生に遅れが現れるかもしれない。
「テト、様子を見に行きましょう」
「はいなのです!」
私は、マジックバッグから【空飛ぶ絨毯】を取り出し、テトと共に空から魔力を吸収されている場所を探す。
目に魔力を集中させ、魔力の流れを視認する中、何の変哲も無い平地の僅かな罅割れに隙間から呼吸するように魔力を吸い上げていた。
ゆっくりと【空飛ぶ絨毯】を地上に降ろして、土魔法が得意なテトにこの地面の下を調べてもらった。
「魔女様。この地面の下に建物が埋まっているのです」
「あー、古代魔法文明の遺跡。残っていたのね」
魔法実験の暴走の余波で生まれた【虚無の荒野】だが、当時の建造物が地中に残されていたとは。
以前は、【虚無の荒野】の中心地域を探索した際に、制御用魔導具を見つけ、それを【創造魔法】で同様の機能の魔道具を創り出して、結界管理システムに組み込んだ。
また、【虚無の荒野】には、古代魔法文明の遺産が残されている可能性は考えていたが、調べる機会が無かった。
まさか、今更ながらに稼働する遺跡があるとは思わなかった。
「とりあえず、影響を出さないために、結界で隔離して発掘しましょうか」
「はーい、なのです!」
結界魔導具を設置して魔力の吸収を遮断して、テトと共に結界内の土を退けていく。
「どうやら、生き物の魔力や発動する魔法には作用していないようね」
魔力を吸収すると言っても、動植物が空気中に発する余剰魔力を吸収しているらしく、生物から直接魔力を吸収したり、魔力を吸って魔法の発動阻害をしていないようだ。
「もしかしたら、空気中の魔力を吸収して自動稼働する施設が動き出したのかも」
それだったら、【虚無の荒野】に魔力が供給され始めたことで稼働を始めた理由が納得できる。
「魔女様、何かあったのです」
「これは……コンクリート建築?」
魔法による保護と固定化がされているが、どうやら建造物の一部を発掘することができた。
テトと共に壊さないように慎重に周囲の土石を掘り返して退けていけば、体育館くらいの大きさの建物が姿を現わす。
「魔女様、これなんなのですか?」
「分からないわ。けど、そうね。とりあえず、入って確かめましょう」
私は、扉らしき場所を見つけて、開けようとする。
だが、2000年もの間地中に埋まっていたために、殆どの機能が壊れているのか、扉は堅く閉ざしたままである。
「仕方がないか。――《レーザー》」
私は、杖先に光を収束させた光刃を生み出し、扉を焼き切っていく。
「おー、魔女様。力業、でもいいのですか? 遺跡は貴重なものなのです」
「いいんじゃない? 多少雑に扱っても。最悪、魔力実験の暴走の資料が残ってたら破棄しなきゃいけないし」
もし【虚無の荒野】ができる原因となった魔力実験の資料が残されていれば、再びその惨劇を引き起こさないために資料を破棄しないとならない。
そうして建物の中に入ると中は、真っ暗だった。
「暗いわね。――《ライト》。うわっ……」
2000年間の地下に埋まっていた施設の中には、人が住んでいた痕跡がある。
どうやら地下シェルター的なもののようだ。
風化した人の衣服やミイラ化した死体などが転がっている。
それと人同士が争ったのか、頭部が陥没した死体なども残されている。
タイトルを『魔力チートなロリ魔女になりました~転生特典の【創造魔法】と【不思議な木の実】で異世界生活~』から『魔力チートな魔女になりました~創造魔法で気ままな異世界生活~』に変更させていただきました。
『魔力チートな魔女になりました』1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当しております。
また、詳しい情報などは、活動報告やあとがきに書いていこうと思います。
また、先月発売のオンリーセンス・オンライン18巻やコミック10巻もよろしくお願いします。