23話【Aランク昇格試験・後編】
テトに勝ち、勝ち残り戦のバトンが私に切り替わる。
マナポーションを飲んだが、回復量は冒険者の平均的な魔力量である3000と、魔法一発分の足しにしかならない。
複数人で討伐しようとするようなランドドラゴンに向けていた雷魔法だ。
Aランク昇格試験者と言っても、Bランク冒険者では、単独で受けたらタダでは済まない魔法のために次の試合以降は軽く封印しよう。
そして、9番目のドワーフの冒険者が私の前に現れる。
《サンダーボルト》なんて、普通の冒険者に向けたら死んでしまう。
とりあえず、結界を張って様子見かな、と思っていると相手が斬り掛かってくる。
「魔法使いなのに先制も回避もしないのは、舐めているのか!」
「そうじゃないんだけどね」
相手は、かなり精度の高い身体強化を使える。
だが、【身体剛化】を使うテトの威力を想定した結界のために、込める魔力と密度が違う。私の目の前で斧が止まる。
結界の強度に驚き、何度も打ち付けるが、まるで壊れる気配がなくて私から距離を取ろうとするが――
「遅い」
「グッ、仕舞った……降参だ」
逃げた相手の背後から土壁を生み出し、その土壁から腕を伸ばして体を拘束する。
殺傷力は、《サンダーボルト》で見せた。
相手の攻撃から身を守る防御力や回避力は、結界と飛翔魔法、回復魔法を見せた。
今回は、相手を無力化して捕まえる捕縛力を見せた。
ギルドには、薬草などの素材を丁寧に納品しているので、それは問題無い。
あと、何が必要か、と考えていると10番の冒険者が現れた。
その人も同じ魔法使いのようだ。
魔力量も多く、1万は超えているかも知れない。
「あれだけの魔法を使えるあなたに敬意を表して、私の必殺技だ!」
四方八方から襲う炎弾の嵐。
それを一つ一つ結界で包んで、内部で握り潰すように押さえ込む。
いつぞやの襲撃者に対処した時の方法だが、あの時より大分魔法の精密操作能力が上がっているお蔭で、スムーズに止めることができた。
「――降参だ」
続いて11番は、槍使いのようで、身体強化による加速と槍先に力を込める一点突破を狙う。
僅かに【身体剛化】の片鱗が見えたので多重結界を張ってみたら、予想以上の威力に、結界が三枚目まで割られて驚いた。
だが、その直後に土魔法で拘束した。
12番目は、他の冒険者に対しての対策を用意していた人で、魔封じの魔導具を持ち込んだようだ。
「これであんたは魔法を使えないはずだ!」
「珍しい魔導具を持ってるのね」
魔封じの原理とは、魔力のジャミングだ。
魔法を構築する魔力を外部から照射する別の魔力の波長によって乱し、阻害する。
だが、それも想定して制御能力を高めているので、ちょっと魔法の発動が遅いかな、という程度だ。
そもそも魔力量が多い私からしたら、魔力量のゴリ押しで魔法を成立することだってできる。
だが、今回は――
「まぁ、対策くらいはしてるんだけど」
「なっ、ぐはっ!」
一瞬で近づいて、杖で殴る。
シンプルな近接戦で相手を打ち倒す。
魔封じは、魔法使いの体外に放出される魔力で構築された魔法を妨害するのであって、体内魔力には作用しない。
そのために、テトに比べれば練度は落ちるが、【身体剛化】での近接戦もできないわけじゃない。
ちなみに、魔法使いなどの囚人に使う拘束具は、魔封じではなく魔力を吸収する【吸魔】の魔導具となっている。
こちらの方は、体内の魔力を強制的に吸い出して拘束具の強化に使うので、魔法を使えず、身体強化もできず、更に拘束具も破壊が難しくなる。
近接も魔法もできる私をどう攻めていいか分からず、他の冒険者たちの戸惑っている様子が分かる。
更に、そんな私を自慢するように胸を張るテトと嬉しそうなセレネが見える。
そして、12番目から16番目までの冒険者たちは、様々な方法で私の防御を突破しようと必殺の一撃を放つが、どれも無駄に終わる。
そして勝ち残り戦が二周目に入り――
「先程の戦闘での負傷が響いているとのことで棄権するとのことです」
「そう……」
一応、ギルドに治癒師を派遣しているらしいが、その人でも治りきらないとなると相当な重傷かもしれない。
更に3番はテトだが、既に再戦する気はないために棄権を宣言。
その後続くラフィリアさんを含む4番から7番までの冒険者も戦意喪失気味だ。
そうなると実質最後の相手は――
「魔法が少し使える程度のガキが粋がってるんじゃねぇ」
「別に粋がっているわけでもないし、こう見えても二十歳超えているからガキって歳でもないわよ」
「てめぇみてぇな魔力もまるで感じねぇガキが実力者なわけねぇだろ!」
私は、膨大な魔力を無駄なく抑え込んでいる。
確かに結界越しでは感じ取りにくいが、他の昇格試験を受けた冒険者たちがこちらを侮ることがないのは、その魔力の底を見通せないからで、だからこそ本気で掛かってきたのだ。
逆に、私の状態を感じられないということは、自分の魔力感知能力の低さを露呈しているということなのだが、気付いているのだろうか。
まぁ、浮遊魔法に雷撃、結界、回復魔法等の多様な魔法を使っている時点で一流と判断できるのに、余程自分の強さに自信……いえ、ユニークスキルによる驕りがあるのかしら。
「ただの実力よ。テトに負けたのによく吠えるわね」
「あ゛!? てめぇも俺様を馬鹿にすんのか!? この魔剣・肉断ちを持つロック様をよぉぉっ!」
魔力を放出して威圧してくるが、そよ風程度にしか感じない。
これならまだダンジョンで戦ったロングワームの方が脅威に感じる。
「いいだろう。去年は、イラッとしてつい殺しちまって昇格試験を逃したが、今年は殺しはしねぇ! ただし、二度とマトモに暮らせねぇ体にしてやるぜ!」
「……品がないわね」
私の結界に大剣を振り下ろしてラッシュを仕掛けてくる。
テトを除けば、今まで戦ってきた冒険者の中では一番攻撃力があるだろう。
それでも結界は、破れる気配はない。
(――粗暴で頑丈そうな体だ。手加減していると、何度も起き上がりそうね)
内心、どうやって倒すべきか思案していると、こちらが手も足も出ないと勘違いした巨漢の冒険者が挑発してくる。
「どうした! 俺様に手も足もでねぇのか!」
「そうね……これにしましょう。――《フリーズ・ウォーター》」
私は、魔法を発動させる。
ただ水球を幾つも浮かべて、巨漢の男に放つ。
「はっ、そんなちゃちな水魔法をくらうかよ! 冷てぇ!?」
大剣で斬り払い、バシャッと崩れて足元に広がるが、男の体に掛かった水が瞬間的に凍り付く。
「ただの相手の体温を奪うことを目的とした魔法よ。どうかしら?」
次々と生み出す水球は、過冷却水で構成された零度以下の水だ。
魔法で生み出したために当たるまでは水として維持しているが、当たった瞬間に瞬時に凍る水は、次々と重なって大きな氷の塊になる。
「クソがぁぁぁッ!」
だが相手も手練れの冒険者だ。
【身体強化】で強引に体の筋肉から熱量を生み出し、氷を溶かそうとするが――
「――《ブリーズ》」
ただのそよ風が溶けた氷の水分を吹き飛ばし、気化熱で更に体温を奪う。
そしてまた過冷却水の水球がぶつかり、体温がドンドンと下がる。
歯の根が合わずに、ガチガチに震えて剣を握る手も強張り上手く剣が握れない。
他のこの場に居る人たちは、三度驚愕している。
『こんな戦いがあっていいのか? 冒険者としての誇りはないのか?』
『これがAランク冒険者になる者の戦い? 底が見えん』
『魔法は知識量によって左右されると言うが、雷の大魔法が使えるかと思えば、あんな下級魔法でBランク冒険者をあしらうとは、恐ろしい』
『これは確定だな。実質、攻撃力Aランク相当のロックをあしらうんだ』
そんな声が聞こえる中、試合相手の巨漢の冒険者に降参を勧める。
「降参する? このままだと死ぬわよ」
「てめぇ、何を、した! 俺様には……魔法耐性が!」
「ただの物理現象よ。魔法の攻撃をスキルで防げても、大自然の変化は防げないのね」
気合いで腕を振るうが、血の巡りが悪くなっているのか動きが鈍く威力が乗らない。
低体温症は命にも関わるから、この辺りで心を折ることにしよう。
「降参しなさい」
「だれが……するか!」
「そう……なら、もう一度言うわ。降参しなさい!」
今まで抑えていた膨大な魔力を放出して威圧する。
テトとの模擬戦で魔力の半分近く使ったが、それでも宮廷魔術師の中でもトップクラスの魔法使いに匹敵する魔力を全て威圧に回す。
一度の放出では限界があるために、【身体剛化】の応用で体内で密度を上げた魔力による威圧は、寒さとは別で本能的な恐怖を呼び起こし、大の男が震え始めている。
しかも魔力の威圧には指向性を持たせているので、他の人には感じない。
魔力による威圧で恐ろしさから降参する前に、巨漢の冒険者は、白目を剥いて気絶することを本能が選んだようだ。
「終わりね。すぐに救護してあげて」
魔法を解除して、体温を元に戻すように温めるが、それでも霜焼けなどをしているのでポーションも振り掛ける。
これで実力の差を理解してくれれば、楽なのよね。
そんな感じでAランクの昇格戦は、再びテトとの勝負に戻るが――
「テトは、もう魔女様とやらないので降参なのです」
なんとも締まらない降参。
そして、ラフィリアさんを含む4番から7番の冒険者たちとも模擬戦をしたが、ほとんどがこれまでの私との戦いを見て降参し、唯一ラフィリアさんだけが挑んできたので戦った。
「くらえぇぇぇっ!」
テトに放ってきたやつと同じ精霊魔法を付与した弓矢の連射が私の結界に突き刺さる。
それも様々な角度ではなく一点突破を狙ってきて、結界に罅が入るのを感じた。
そして、次々と結界が割られていき、その威力は、テトが【身体剛化】を乗せた投石にも匹敵する。
また連戦による魔力の減少によって、結界の維持が難しい。
「残り魔力が少ないから私は、棄権するわ」
「えっ、まさか、私……勝ったの? っていえいえ、あなた、魔晶石の魔力が使えるでしょ!」
一度、アルサスさんの剣を【創造魔法】で作る時、足りない魔力を【魔晶石】から流用したのを見ているために、そう突っ込んでくるラフィリアさんだが……
「それでも疲れるのよ。あと結界に罅入れられたの地味にショックなのよ」
テト以外で、一度も傷つけられたことない結界なので、精神的なショックが大きくてやってられない。
それに魔力を使いすぎて地味に疲れた。
いつもは、【虚無の荒野】に少しでも魔力を満たすために放出するが、それと魔法を使うのは感覚的に別なので、もう休みたい。
こうして私とテトのイスチェア王国でのAランク昇格試験は終わった。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思った方は、『ブックマーク』や下記のポイント評価を押していただけたら幸いです。
【補足】
昇格試験を勝ち残り戦にした理由について。
トーナメント戦にするには、各冒険者の実力を把握するための戦闘数が少ない。(一人当たり最大4戦)
リーグ戦にするには、16人の受験者だと全体の戦闘数が多くなる。(一人当たり最大15戦)
そうした部分を考えて、勝ち残り戦を選びました。
また勝ち残り戦は、一巡目での他者の対応や手の内を確認して、その対策を練る対応力などを量るためにありますが、チセとテトの圧倒ぷりにどの冒険者も初手から全力を出したために、語られることはありませんでした。
諸々の事情をご了承いただけたらと思います。









