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魔力チートな魔女になりました~創造魔法で気ままな異世界生活~  作者: アロハ座長
3章【荒野に住まう魔女と幼女】

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20話【転移門】

 

 この部屋にいる側近たちから国王への不敬に対する苛立ちのような感情を受けるが、国王の無言の雰囲気が彼らを留めて問い掛けてくる。


「父と娘が再会したのだ。そして再び一緒に暮すことが最良の幸福だろう。それに私なら、セレネが欲しいものはなんでも与えることができる」


 それだけの権力と財力があると言うが、私は冷ややかな目で見つめる。


「平民と貴族の価値観の違いやマナーの違いで苦しむかもしれないわ。それにセレネには、一人で自立して生活できる方法を教えてきたし、欲しい物をセレネ自身で得る手段を持っている」


 そもそも欲しい物を与えることができるのは、私も同じだと内心思うが言わない。


「……冒険者のチセ殿か。そういえば、セレネに対する養育の謝礼に関して忘れていたな。我とセレネが共に暮すことを認めるには、幾らで納得する? それとも爵位が欲しいのか?」

「お金や爵位なんて一番要らないわよ。私が望むのは、セレネが一番幸せになる選択よ」


 バッサリと国王の提案を斬り捨てる私に、国王は苦笑を浮かべる。


「本当に報告通りに、清々しいまでに権力に興味が無いのだな」


 苦笑いを浮かべる国王は、背後に控える側近たちに目を向ける。

 先程の国王に対する不敬に対する苛立ちの感情は既に消え失せ、冷静な目で私たちを見ている。

 どうやら国王たちは、王都に私たちが着いたら、すぐにセレネに会いたかったらしい。

 だが、セレネの生活態度や思想、そして人格の形成に関与した私たちについて調べていたようだ。


「伝え聞くセレネの性格は、善良で活動的で、自立心がある。だが、それが王族の仕来りに合わないのも分かっている。エリーゼに苦労させたからな」


 セレネの母・エリーゼは、教会の聖女という立場だが、元々は平民だ。

 側室になって終わりではなく、側室になるためのマナーを覚える必要があった。


「セレネの一番かぁ。セレネとチセ殿たちの親子の絆を壊さぬことをセレネが望むなら、チセ殿を我の側室に召し上げるのも一つの手か」

「それはお断りよ! 誰が結婚なんかするか!」


 30代半ばで顔立ちも良く、地位もお金もある男性からの呟きに対して、反射的にそう答えてしまう。

 セレネとしては若干残念そうにして、テトが私を守るように抱き締めている。


「残念だ。優秀な魔法使いを手元に置けると思ったのだがな」

「陛下、お戯れが過ぎますぞ」


 国王は、文官服に身を包んだ男性――この国の宰相に諫められる。

 私に拒否されて、冗談っぽく溜息を吐く国王だが、給仕を務めてくれたメイドたちが若干引いているのに気付く。


「どうしたのだ? お前たち、そんな余所余所しい態度を」

「いえ、うちの国王陛下は、幼女を側室にしようとしていると思いまして」

「今だって、正妃のアリア様を含めて三人。エリーゼ様が生きて居られたら四人。一番若い側妃様は、5年前に王室に嫁がれた時が18歳ですから守備範囲が広いとは言われておりますけど、とうとう幼女にまで手を出そうなんて……」

「お父さん……」

「なぜ侍女たちと娘にそんな目で見られなければならん! それにチセ殿は23歳だぞ。彼女と同じ年だ」


 一応セレネは、獣人国の町で社会性を身に付けたので、獣人族の一夫多妻などにも多少の理解はある。

 特に冒険者にはその傾向が強く、セレネの友人の女の子たちもお母さんが二人居て、仲良くする場面がある。

 けれど、流石に合法ロリのような私をお嫁さんにしようと言うのは、一般的に特殊性癖の部類に入ることは知っている。


「私は、セレネの母のつもりだけど、誰かと結婚する気は特にないわ。セレネの幸せのために、色々と考えてほしいだけよ」

「いや、なぜ私がフラれたような感じになっているのだ……まぁよい。ならば、二人はセレネの護衛兼、メイドとして傍にいるのはどうだ? セレネには、かつてエリーゼが使っていた離宮を与え、そこで少しずつ王族の生活に慣れていってほしい」


 国王の提案にそれなら、と私も納得し頷く。

 側室は受け付けないが、セレネのメイドならありだろう。


「なるほど。なら、セレネの母としてメイドになって、お嫁として嫁いでいくまで見守ることにするわ」


 セレネは、私から【虚無の荒野】での生活を奪うことに躊躇いを感じているようなので、気にしないように微笑む。


「むむむっ、たしかにいつかはセレネもどこかに嫁がせる。そうなると、あと、六年か、七年か。ああ、それしかセレネと一緒に居られないのか!」


 そして、結婚という単語に苦悩する国王が少し面白くて私とテトが茶化す。


「女の子は、早熟だからもう少し早いかも知れないわね」

「そういえば、セレネは、ガルド獣人国で仲のいい男の子もいたのです」

「そんなのは、認めんぞぉぉぉぉぉぉっ!」


 ちょっとからかったら、中々に面白い反応をしてくれるが、セレネからは半目を向けられる。


「お母さん、テトお姉ちゃん。お父さんをからかっちゃ駄目だよ。それと仲のいいのは女の子の弟でまだ2歳だよ」


 それは私とテトも分かっているので、クスリと小さく笑ってしまう。

 件の2歳の獣人の男の子は、ふわふわとした毛並みとクリッとした目が可愛らしい幼児で、セレネの友達の女の子と一緒にその成長を見守っている。


「それと私は、お母さんたちを使用人? のように扱わなきゃいけないのは嫌だよ」

「それは困ったわね。じゃあ、お墓参りが終わったら、大人しく家に帰って、ガルド獣人国の方でいい人探しましょうか」

「折角、娘が手元に帰ってきたのに! また出ていくのは、認めんぞ!」


 まだ抵抗しようとする国王に、堂々巡りになりそうだ。

 だから、そろそろこちらの切り札を切ることにした。


「それじゃあ、そろそろメイドさんたちには、退室してもらえるかしら。ちょっと重要な話をしたいから」

「わかった。チセ殿から重要な話があるそうだ。下がれ」


 私の提案に、国王や宰相が頷き、メイドたちに退室を命じる。

 メイドたちが下がり、この部屋の中には、私とテト、セレネ。そして、国王と宰相、そして騎士が対面する。

 部屋の和やかな雰囲気から一変、真剣な空気が流れてセレネが不安そうにする。

 そんな中、私が提示できる妥協案を国王たちに提示する。


「私からの提案は、私たちとセレネが暮していたところからこの王宮に通って、少しずつ慣らしていくことよ」

「暮していた。ああ、大聖堂から王宮に通うなら、許可も可能だろうが、お前はどう思う?」

「騎士団長としての立場から言わせてもらいますが、警護の負担が増えると共に、襲撃の隙が生まれやすいです。できれば、こちらの態勢が整うまでは、大聖堂でそのまま暮していただいて、こちらから講師たちを送った方が賢明かと」


 国王が尋ねた騎士――騎士団長さんは、警護の関係上、王宮の方が良いが、いきなり見知らぬ場所に送り込まれるよりは、大聖堂から通うか、大聖堂の方に王族のマナー講師を送った方がセレネの精神面と警護面で負担にはならないだろうと、判断する。

 だが、私は、首を静かに横に振る。


「いえ、文字通り。私たちが暮していた場所とこの王宮を繋げるわ」


 そう言って、マジックバッグから事前に【創造魔法】で創っておいた【転移門】を取り出す。

 毛の長いカーペットに沈んで跡がついたらメイドさんたちに謝らなければ、と別のことを思ってしまう。


「これは、なんですか? 門型の魔導具、ですか?」


 宰相が聞いてくるので私は、素直に答える。


「【転移門】――対になる門との空間を繋ぐ転移魔導具よ」

「て、【転移門】だと!?」


 その魔導具の正体に驚愕する三人。

 本職の魔法使いではないだろうが、転移門の存在を知っているようだ。


「ほ、本物なのか! 転移を可能とする魔導具など、本当に存在するのか!?」


 転移魔法は、空間魔法の中でもかなり難易度の高い魔法らしい。

 それに魔力量に応じて転移できる距離も変わるらしく、宮廷魔術師でも使い手が一人いるか、いないか、というレベルで稀少らしい。

 また転移する距離によっても魔力をドカ食いするのでも有名で、私も密かに練習中の魔法だ。


「実際に、通ってみるといいわ」


 そして、転移門の通過設定をフリーに設定し直し、セレネを連れて転移門を通り抜ける。

 水面のように波打つ転移門を潜り抜けると、私たちの見知った家に帰ってきた。


「あー、流石に二ヶ月ちょっと家に帰ってないと湿気が籠るわね。ちゃんと部屋を換気しないと」


 そう言って、小屋の扉や窓を開け放ち、管理用のゴーレムたちが畑仕事をしているのが見える。

 ただ雑草取りや収穫などの細かな作業はできないので、地面に実って落ちた作物を拾い集め、堆肥置き場に捨てて、水遣りしてくれている。

 そのまま、地面に落ちた作物は、【虚無の荒野】の新たな土になることだろう。


 そうこうしている間に【転移門】には、騎士団長が確認のためにこちらにやってきて、一度王宮に戻って、国王たちを連れて戻ってきた。


「本当に、見知らぬ場所に転移したのか? それに、ここがセレネの暮していた家なのか……」

「うん、そうだよ」


 そう言って見回すが、普通に台所や食卓、それぞれの個室や作業部屋があるくらいの小さな家だ。

 そして、窓の外に見える家庭菜園とそれを管理するゴーレム、その遠くには、荒れ地が広がっている。


「ここはどこなのだ? セレネが暮していたというのは……ガルド獣人国なのか?」

「いいえ、ここは、どこの国でもないわ。【虚無の荒野】の結界内よ」


 私がそう言うと、国王が驚き、宰相が納得し、騎士団長は、退路を確保するために【転移門】の前に陣取っている。


「獣人国のギュントン王子がチセ殿と【虚無の荒野】に関する契約を結んだとは調べましたが、まさか【虚無の荒野】に出入りしていたなんて……」

「道理でセレネが見つからないはずだ。こんな場所に逃げ込まれたら、誰も追えぬな。チセ殿。この【転移門】は、まさか【虚無の荒野】に眠ると言われる古代魔法文明の魔導具なのか?」

「ええ、そうよ」


本当は【創造魔法】で作ったのだが、どちらにせよ人が作れないものなのだから変わらないだろう。


「セレネに与える離宮にこの【転移門】を設置して、こっちとそっちで行き来する生活をすればいいと思うわ」

「だから、人払いをしたのか……」

 そう言う国王は、今度は父親としてでなく国王としての顔を見せる。


「チセ殿。この【転移門】を我が国に売ってくれないだろうか」

「残念だけど、無理ね」


 私は、きっぱりと断る。

 理由を一つずつ提示していく。


「一つは、転移門を使えば、容易にどこにでも兵士を送り込める。私は戦争に使えるものは売りたくないわ」


 片方の転移門を兵の詰め所に置き、もう片方を密偵に持たせたマジックバッグの中に入れておけば、どんな場所でも即座に軍隊を送り込めてしまう。

 それは、非常に危険だ。

 それに――


「もし、セレネの離宮に置いた【転移門】から【虚無の荒野】を占領するための騎士団を送り込んでも無駄よ。事前にこちらで登録した魔力以外の人は、通れないようにしてあるわ」


 それにもし通れたとしても私が【転移門】を破壊すれば、【虚無の荒野】内部に送り込んだ人たちは、孤立してしまう。

 また、私の家の周りには魔力流出を阻害する結界が張ってあるが、一歩結界外に踏み出せば、低魔力環境下に晒される。

 慣れていない人には、急激な魔力の流出による虚脱状態に襲われ、更にこの周囲以外には、得られる資源は少ない。

 そんな、無意味で、無価値な場所なのだ。


「……そうか。ならば【転移門】の件は諦めよう。それでセレネはどうしたい?」


 国王が私の話を聞いて【転移門】の入手を諦めて父親の顔に戻り、セレネに尋ねる。


「私は、できれば、チセお母さんと過ごしたこの家にも居たい。でも、お父さんやエリーゼお母さんの近くにも居たい」


 ワガママかな、と上目遣いで私と国王を見るセレネ。


「そんなことはない。この【転移門】を離宮に設置することを許可しよう。それにこの家との行き来を自由にしても構わないさ」

「そうよ。王宮のあれこれが息苦しくなったらこっちに逃げて良いんだから。逃げることは悪いことじゃないわ」


 私も、国王もセレネと一緒に居たいための妥協案である【転移門】の設置が決まった。

 セレネがどこかにお嫁に行くまでか、それとも完全に私から離れて王族として生きる覚悟と準備が整ったら、対になる転移門の機能を停止させるつもりだ。


「陛下……外部から王宮内部に直接移動できる道具を設置するのは、王宮の警備の観点から賛成しかねます。それに、チセ殿が【虚無の荒野】の結界を越えて、テト殿やセレネリール様を連れてこられるということは、外部の者もこの結界内に連れてこれるということです」

「その点は私も同意します。登録された魔力の持ち主しか【転移門】を通れないと言っても、それの設定ができるのがチセ殿です。セレネリール様を守り育ててくださった恩はありますが、万が一の可能性があります」

「魔女様、そんなことしないのです」


 護衛団長と宰相からの反論に対して、テトが不満そうに呟く。

 国王陛下は、重鎮二人からの意見に、思案げな表情をしてこちらに話を振ってくる。


「こう言われているがチセ殿は、どう思う?」

「そうね。【転移門】を知りそうなメイドとかには、魔法契約で口止めしてもらうとか、私とテトには、【転移門】を使って王宮に人を送り込ませない、って魔法契約を結んでいいわよ」


 魔法契約――ギュントン王子と結んだような魔法契約は、契約書が破壊されるか、契約が完了するまで残り続ける強力なものだ。

 一種、呪いに近い継続性がある契約書に書かれている内容は、如何なる状況でも遵守しなければならない。


「ならば、問題無いな。それでは契約内容は、【転移門】の設置とその守秘だな。だが、それに対する対価はどうする?」


 だが、強力な魔法契約ほど、その制約に対して対価を設けなければならない。


「対価……困ったわね。イスチェア王国に近い側の【虚無の荒野】の所有権を認めてくれる?」

「獣人国と同じ契約か? そうだな……」


 国王が宰相に目を向けると困ったように頷かれた。


「いいだろう。ただし、セレネが帰ってきたことを貴族たちに周知させるためのお披露目が終わった後だ。その後、チセ殿の所有権を認めるとしよう」


 現状、この荒野はどの国も手出しできないので、認める他ないようだ。


「そう、ありがとう。それじゃあ、改めて王宮に戻って契約を結んでセレネの離宮に【転移門】を設置しましょうか」


 そうして、全員で転移門を通り抜けて王宮に戻り、契約を結ぶ。

 その後、早速セレネの母の聖女エリーゼの使っていた離宮に案内されて、セレネが使う一室の続き部屋に設置することにした。

【転移門】自体には、登録した利用者以外は使えないように設定したが見つかるとまずいので、続き部屋に【認識阻害】の魔法などを掛けて、意識の死角に入り込むようにした。


 そして、名残惜しそうにする国王の視線を無視して私とテト、セレネは、【転移門】で【虚無の荒野】の家に帰り、ゆっくりと過ごすのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
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2021/11/06 11:37 退会済み
管理
[気になる点] 血は繋がってなくとも今まで育ててくれた義母と、本人視点では会ったことすらない実の父や亡き母だったら普通義母に天秤が傾くと思うのだが、当たり前のように王家に戻る流れに違和感が凄い。
[一言] 王家と関わるのが1番気苦労だし庶民からの貴族マナーやルールって絶対なにもかもが息苦しくて自由がないだろうからスッパリハッキリと言ってくれた魔女お母さんまじ最高!!! セレネちゃんのためには正…
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