19話【父子の再会】
教会でのお手伝いがない日は、私とテト、セレネ。それに王宮から派遣された護衛数人をお供に連れて、王都に出かける。
「流石、王都。見慣れない本が沢山あるわね」
片っ端から本を購入する私に対して、テトとセレネは、屋台で買い食いして楽しむ。
私やテトの性格を受け継いだのか、セレネもあまり洋服や宝飾品には興味を示さないようだ。
少し距離の離れた護衛たちは、貴人であるセレネが庶民と同じように屋台で買い食いする姿に卒倒しそうになるが、無視する。
そうして、冒険者ギルドに訪れれば、流石にセレネのような小さい子に絡む人はいない。
明らかに小綺麗な護衛が遠巻きから付いてきているのを見て、お忍び貴族の縁者だとも思われたのかも知れない。
「すみません。余所から来た冒険者なので、王都のギルドに挨拶にきました」
「よろしくなのです」
「これは、ご丁寧に」
私とテトは、受付嬢に挨拶しつつ、Aランクの昇格試験について尋ねる。
「Aランクの昇格試験は、いつ頃行なわれるんでしょうか?」
「Aランク、ですか? Aランクの昇格試験は非公開となっているんですが……」
受付嬢の人は、なにか勘違いしているのかも知れない。
確かに、こんな小さい子が昇格試験を受けるというよりは、憧れの上位冒険者たちが集まる場面を見たいと思っているのかもしれない。
なので、ギルドカードを差し出す。
「Bランクで昇格試験の資格があります。ご確認を」
「っ!? し、失礼しました! 確認します」
そうして、私とテトの昇格試験の登録が認められ、詳しい説明がなされる。
Aランクの昇格試験では、昇格試験資格を得たBランク冒険者たちによる勝ち残り戦が行なわれるらしい。
「なにか難しい依頼を受けさせて、その成否で決める、とかないのね」
「昔はそれだったんですけど、受験者の死亡事例もあるので貴重なギルドの人材を潰さないために、このような形式になったそうです」
なるほど、と納得しつつ詳しい話を聞くと、トーナメント戦では運に左右されるために一対一の勝ち残り戦になっているらしい。
冒険者は、パーティーでの強さを発揮するのはもちろん、緊急時に一人でどれだけ多くのことに対応できるかの応用力が求められる。
それを見るためらしい。
「分かったわ。用事があって中々依頼は受けられないけど、空いた時に訓練所を借りることもあると思うわ」
「わかりました。ただ、他の昇格試験を受ける方々が受験者の情報などを仕入れたりします。その点で既に試験が始まっていると言えますね」
勝ち残り戦だから、二戦目以降は相手の手の内も見ることができる。
二周目に対策を取ったり、取られたり、そうした対応力が試されたり、事前に対戦相手の冒険者の情報を集めることも一つの戦略だと納得する。
「昇格試験は、半年後にあります」
「わかったわ。今日は、私たちは帰るわ。ありがとう」
「ありがとうなのです! また来るのです!」
そうして私たちはギルドから帰り、しばらく教会のお世話になり続ける。
時折、冒険者が私とテトのいる大聖堂や治療院に情報収集に来るのは、同じ昇格試験を受ける冒険者か、そんな冒険者に頼まれた人だろうか。
そんな感じでしばらく過ごしていると、遂に、セレネの父親である国王に会う日取りが決まった。
「セレネリール様、チセ様、テト様、こちらです」
王宮からの馬車が用意され、裏口から登城した私たちは、控え室に案内される。
「それでは、姫様のお召し物を整えますので、しばしお待ちください」
「えっ、ちょ、お母さん。助け……」
「頑張って綺麗になるのよ~」
「行ってくるのですよ~」
セレネが待望していたお風呂に連れていかれ、たっぷりと時間を掛けて綺麗にされる。
そして、セレネの体格に合わせたドレスを身に着ければ、立派なお姫様の誕生である。
「お母さん。これ、恥ずかしい。それに動きにくい」
「まぁ、それが王族の務めかしらね。とりあえず、これ着け直しましょう」
入浴の際には、防御魔法などを掛けて送り出したが、帰ってきたら私が用意した魔導具を身に着けさせる。
セレネが身に着けるにしては無骨でドレス姿とは調和が取れていないが、実利を取らせてもらった。
「それでは、国王陛下がこちらに参ります」
「ううっ、緊張する」
「大丈夫よ。それよりお茶でも飲んで落ち着きましょう」
「セレネ、このお菓子は美味しいのですよ。食べないのは勿体ないのです」
私とテトは、緊張も感じさせずに王宮の美味しいお茶を飲んでいる。
流石、淹れ方や茶葉の質がいいのか、香りが良くて飲みやすい。
普段、家で使っている【創造魔法】産の茶葉(1缶魔力量500)の安物とは色々違う。
「これは、どこ産の茶葉なのかしら?」
「そちらは、ダジル領のローゼリーンという種類で王室御用達の一品となります」
「へぇ、良いわねぇ。今度、買いに行こうかしら」
「お母さん、馴染みすぎ~」
「セレネもお茶請けのクッキー食べるのです。美味しいのですよ」
「ううっ、テトお姉ちゃんも……あっ、ホントだ、美味しい……」
一応、事前に付与した【礼儀作法】スキルと、滞在中の大聖堂にいる貴族の子女だったシスターたちによるマナー講座で、付け焼き刃だけど綺麗な所作でお茶を飲む。
そうしていると部屋がノックされ、男性たちが現れる。
一人は、まだ30代の若い国王らしき人物で、残り二人は側近だろうか、一人が文官でもう一人護衛の騎士だろうか。
護衛の騎士の立ち居振る舞いと魔力の質からして、Aランク冒険者のアルサスさんに匹敵する強さだと思う。
男性たちの登場に伴い、セレネが緊張して表情が引き攣るが、男は静かに微笑みかける。
「今回は、非公式の面会だ。気楽にすることを許す」
「そう、お言葉に甘えて……」
そう言って、国王の入室で控えていたが、クッキーに手を伸ばし、メイドさんにお茶のお替わりを頼む。
セレネに小声で、お母さんと小突かれたが、これは場の雰囲気を和らげようとするためにわざとだ。
それと国王の反応によっては、そのままセレネを連れて【虚無の荒野】に帰ることも考えているが――
「それでは、改めて自己紹介をしよう――イスチェア国王にしてセレネリールの父・アルバードだ」
「私は、セレネの育ての母でBランク冒険者のチセよ」
「セレネのお姉ちゃんをやってるテトなのです!」
そして、アルバード国王の視線がセレネに向かい、セレネが緊張しながら自己紹介する。
「チセお義母さんとエリーゼお母さんの娘のセレネです。あなたが私のお父さん?」
「ああ、そうだよ。セレネリール」
「その……セレネリールってまだ慣れなくて……セレネって呼んでほしいです」
「そうか、わかった。それにしてもセレネは大きくなった」
立ち上がった国王はセレネに近づき、その小さな体を抱き締める。
娘の成長を実感しているのか、今まで探してきたことが実を結んだのか、強く抱き締めている。
「アルバートお父さん?」
「もう悪魔教団に離されないし、失わせない!」
そんな声に会わせてメイドや国王の連れてきた側近たちも感動の再会の場面で啜り泣くが……
まぁ、この場は、とりあえず黙って見守る。
そして、しばらくして落ち着いた国王がセレネを放して、こちらに目を向ける。
「セレネを保護し、ここまで育ててくれたこと感謝する。また、エリーゼたちの亡骸を近くの町まで運んでくれて感謝する」
国王だから容易に頭は下げないが、それでも目で感謝の気持ちを訴えかけてくる。
「その感謝、受け取ります。それと今回の旅路では、セレネの母親の墓参りも目的なので」
「エリーゼは、王家の墓に埋葬されている。今度共に行こう。そしてセレネは、この王宮でこれまで失った時間を取り戻そう!」
そう力強く言う国王だが、私は待ったを掛ける。
「それは、育ての親として判断しかねるわ」
「なに?」
「セレネは、平民に近い生活を送ってきた。それがいきなり王族の生活に引き入れられて、セレネは幸せになれるのかしら?」
私の淡々とした言葉に、国王の側近たちの眉がピクリと上がる。
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