18話【治療院のお手伝い】
翌日、食事を取ったあとマリウス枢機卿への面会を申し出たところ、その日の午後に会うことができた。
枢機卿とは忙しいのに、私たちに時間を用意してくれてありがたいことだ。
「こちらに滞在している間にやりたいことをお願いしにきました」
「はい、伺いましょう」
「セレネが聖女エリーゼ様がどのように働いていたのか知りたいそうなので、ここに滞在させていただいているお礼に、教会のお手伝いをさせてもらえませんか?」
「それは、こちらもありがたいことです。分かりました、手配しましょう」
そうして承諾を受けた翌日、子ども用のシスター服に着替えさせられたセレネは、可愛い。
そして、私は――
「お母さん、似合ってるよ」
「魔女様、可愛いのです」
「いや、なんで私も着ているの?」
正直、セレネだけだと思っていたが、私も教会の手伝いをすることになったらしい。
まぁいいけど、と思いながらも一週間の間で二日教会の手伝いをして、残りは町に出て王都の観光をしたり過ごす予定だ。
冒険者ギルドで行なわれるAランク昇格試験の日程も確かめなきゃいけないし、一度王都の大図書館に寄ってみたいところだ。
「それじゃあ、付いてきてください。こちらが治療院になります」
私とセレネ。そして護衛としてついてくれるテト。それと少し離れたところから王宮から派遣された騎士らしい人が回復魔法の使い手のシスターに案内されて、併設された建物に入る。
清潔感のある建物は、病院的な施設なのだろう。
ダンジョン都市のパウロ神父のように神父様直々に治療するのではなく、それ専用の施設があるのか、と感心する。
「私たちの仕事は、患者の治療です。チセ様とセレネ様の実力はこちらも把握しておりませんので、今日一日は私が補助に付きます」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
冒険者ギルドで手伝いをしているが、教会の治療ではまた雰囲気が違うために、セレネが戸惑っている。
そして、始まる治療では――
色んな怪我や病気の人が運び込まれる。
冒険者は基本、魔物との戦闘で受ける怪我や毒一辺倒なのだが、ここには様々な理由で来る人がいる。
――仕事中に高所から落下して足を折った人。
――長年続く病気の症状を訴える人。
――突然、体調を崩した人などだ。
「――《サーチ》。肋骨と背骨がヒビが入ってますね。《ヒール》」
「軽傷者は、こっちに集まってね。――《エリアヒール》。はい、あっちからお帰りねー」
そんな患者相手にセレネは、ゆっくりと回復魔法を使って、私は軽傷者だけ選別して、範囲魔法で纏めて帰す。
「ええっ……まだ小さいのに、私たちより回復魔法上手い……流石、聖女様方」
回復魔法の腕を褒められたのは嬉しいけど、これでも公的には23歳だから、多分今呟いたシスターより年上だと思う。
そうして、朝一番の人が多い時間帯が終わると、次は日中の仕事の怪我で運び込まれる人が多い。
「しっかりしろ! 大丈夫だからな!」
「――腕と足が切断されたのね。セレネは、足お願いね。私は腕やるから」
「わかった。――《クリーン》《ハイヒール》」
なんらかの事故で片腕と片足が千切れてしまった人が運び込まれた。
本当は私一人でも問題ないが、セレネと分担して治療に当たる。
一緒に運ばれた腕や傷口を《クリーン》の魔法で清潔な状態にして、回復魔法で腕を繋ぎ直す。
骨を繋げ、次に神経、血管、筋繊維、最後に皮膚と順番に回復させることで、難なく腕をくっつけて治療する。
これが完全に腕が無くなっていたら、再生魔法で生やさなくてはいけない。
繋ぎ直すのは大変だが、再生するのに比べたら、魔力消費量は少ない。
一番の重傷患者はその人だけで、一度昼食を取った後も夕方まで治療を続けた。
「嘘、えっ……なんで一日中魔力が続くの……ですか?」
朝に案内してくれたシスターからの質問に対して――
「私は、魔力量が多いのよ」
魔力量は10万だから、一日中使っても大した負担ではない。
「私は、お母さんほど多くないけど、要所要所で使っているかな」
セレネの現在の魔力量は、2万だ。
これだけ魔力量があれば、他の人よりも平均寿命は延びて100歳くらいまで生きるかもしれない。
ただ最近気付いたのは、魔力量が多い人の遅老現象は、身体機能の最盛期までは普通に成長し、そこから老化が遅くなるらしい。
そうなると、私が魔力量を増やして不老化したのに、その間の二年で一切成長しなかったのは、色々と疑問に残る。
これは真相を究明しなければ…………閑話休題。
そんな感じで今日も終わったのだが、夜に――
「私たちにも回復魔法を教えてください!」
既に回復魔法を使えるシスターや、才能はあるけど使えないシスターなどに詰め寄られた。
「お母さん……」
「あー、はいはい。それじゃあ、どこか空き部屋あるかしら? 講義してあげるから」
そうして突発的に回復魔法の講義が始まった。
主に人体解剖図を利用した、人間の身体機能の理解によるイメージ補完。
無属性魔法の《サーチ》を使った患部の特定により、全身に施す《ヒール》を患部のみに制限し、魔力量を節約する魔力節約術。
それと傷が塞がる細胞修復のイメージ補完の図解を教えていく。
《サーチ》を併用することで潜在的な病や合併症なども早期発見できる利点の説明。
回復魔法の使用回数を増やす、魔力増強訓練法。
こうしたものをシスターたちに教えれば、彼女たちは教会にある紙を取り出してメモを取る。
まるで大学の講義ね、と苦笑を浮かべながら真剣なシスターたちの質問に一つ一つ答える。
この時に書かれたメモが、後に五大神教会の回復魔法の教導書の元となり、教会の魔法書とは別に、聖女の教科書と呼ばれるようになる。
その結果、この訓練法を実行したシスターたちの中で今まで回復魔法が使えなかった人が使えるようになり、現在使っている人は、更に才能を伸ばしたのである。
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