6話【クレイゴーレムのテト】
「とりあえず、あなたの名前は、テトにしようか。これからよろしくね、テト」
私が粘土のゴーレムであるクレイゴーレムのテトに右手を差し出すと、握手を返してくれる。
見た目は、下半身が崩れたゴーレムっぽいが、意外と知性は高いようだ。
粘土の体なので握手したら手に粘土がくっつくのかと思ったが、意外とそんなことは無かった。
むしろ、粘土のしっとり加減が気持ちよかったかも。
「さぁ、今日こそ森の中を探索だよ。前衛お願いね」
無言のテトは、敬礼をして、辺りで何かを探すような素振りをすると一本の木の棒を見つける。
そして、それをブンブンとゴーレムの膂力で振り回すと、雨が降った後の生木が腐っていたのか、ぐにゃっ、と折れてしまう。
なんとなく悲しそうなテト……
「えっと、テトは、武器が欲しいの?」
私の言葉に、コクコクと頭を縦に降る。
「えっとじゃあ――《クリエイション》ソード!」
私が創造で産み出したのは、1本の鉄の剣だ。
刃はあんまり鋭くない分厚いナマクラのショートソードであるが、それを手にしたテトは、嬉しそうにしている。
そして近くの木を試し切りすれば、切れ味が悪くてもゴーレムの力でガッと樹皮が削れて剣が食い込む。
多分、斬撃より打撃系の一撃なのだろう。
「それじゃあ、今度こそ行こうか」
私がそう言って先に進むと早速、昨日と同様にゴブリンが現れた。
「テト、お願い!」
私が指示すると、テトは剣でゴブリンの棍棒と打ち合い、そして力押しでゴブリンをたたき伏せる。
そこで動きが止まったゴブリンに対して、私がウィンドカッターを放ち、今度こそ冷静に対処して倒す。
「よし、いい感じだね」
これなら私自身の危険も少ないと思っていると、テトが死んだゴブリンの心臓に切れ味の悪い剣を突き立てて心臓を抉り返している。
あまり見ていて気持ちのいい光景ではないが、何かを見つけたようだ。
「テト、それってゴブリンの魔石?」
私がそう尋ねると、テトは、私に小指の先ほどの大きさのゴブリンの魔石を渡そうとしてくる。
だが、血みどろで肉片のこびりつく魔石を渡されても困る。
「えっと……テトの好きにしていいよ」
私がそう言うとテトは、頭に見える部位からそれを体の中に取り込んでいく。
「えっ、食べても大丈夫なの?」
私は心配するが、平気といった風にジェスチャーするテト。
後で知ったのだが、ゴーレムやオートマタなどの存在は、倒した魔物の核を自身の核に取り込んで、知性や能力を成長させることができるらしい。
ただ、魔物の討伐で一番価値があるのが魔石なので、普通のゴーレム使いは、魔石を与えない。
何よりゴーレムの核を成長させるのに必要な魔石の量は、とても多いのだ。
また、何かの拍子にゴーレムの核が破損して機能停止した時、今まで核に吸収した魔石がパァになる。
破損した核を再生させるのにも大量の魔石が必要なので、成長させるほどに運用コストが高くなり難しくなる。
そのために、ゴーレム使いはゴーレムを成長させないのだ。
「魔石は、私の【創造魔法】で生み出せるから欲しければあげるよ」
『ゴッ!?』
「って、喋った!? あ、あはははっ、テトが喋れるようになった」
テトが短く、ゴッゴッと相槌を打つようにするのが可笑しく、そして久しぶりに誰かと話せたということに涙が流れ始める。
私は、意外と平原の真ん中のサバイバル生活で孤独を感じていたのかもしれない。
そして、私が落ち着いたところであることを思い付く。
「テト、さっきみたいに切れ味の悪い剣で心臓をえぐり出すの大変だから、ナイフをあげるね。――《クリエイション》ナイフ!」
イメージするのは、切れ味そこそこの解体に使えるナイフである。
それを受け取ったテトは、大事にそれを受け取り、ずぶずぶと体の中に取り込んでいく。
もしかしたら、あの体の中に仕舞っているのかも知れない、と思いながら私とテトは、森の中に進んでいき、魔物を倒していく。
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