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14話【ダンジョンコアについての交渉】


 SIDE:イスチェア王国・王城執務室


 東の隣国であるガルド獣人国の穀倉地帯でダンジョンが発生したが、無事に攻略されダンジョンが消滅した報告に安堵する。

 下手をすれば、ダンジョンから溢れた魔物が穀倉地帯を荒らし、獣人国全体で飢饉が起きた可能性もある。

 それが原因で戦争になる可能性もあり、我が国でも国庫に蓄えられていた食料を売る準備を進めていたが、それが無駄に終わったことを喜ばしく思う。


「それにしても30階層のA級ダンジョンか。よく、早期に攻略できたものだ」


 我がイスチェア王国のダンジョン都市にあるダンジョンは、Aランクパーティーの【暁の剣】が最深部の30階層に到達したのが、8年ほど前だ。

 その際にダンジョン最深部でダンジョンコアを発見したが、あの地域の経済はダンジョンを中心に成り立っていることを考えて、ダンジョンコアをそのままにしてきた。

 そんな彼らがダンジョン攻略に掛けた歳月は、10年以上だ。

 それを僅か数週間の短時間で最深部まで到達してダンジョン攻略を成した冒険者は、さぞ優秀なのだろう。


 そんな風に思って簡易の報告書を読んでいると、ガルド獣人国でダンジョン攻略を成した冒険者の名前に見覚えがあった。


「なん、だと……! まさか、獣人国に居たのか!」


 Bランク冒険者の魔法使いのチセ。そして同じくBランク冒険者であるテト。

 彼女たちは、10年前に悪魔崇拝の邪教徒たちに襲われたエリーゼの死体を近隣の町に届け、娘のセレネリールを保護していた。

 そのことに気付いた領主が保護のために兵を動かそうとしたが、それより先に邪教徒たちが町中で彼女たちを襲撃し、セレネリールを連れて逃走していたのだ。


「やっと、手掛かりが……」


 国内外を探させて10年間、探し求めた手掛かりが目の前にあった。

 私は、資料を読み進めると、ダンジョン攻略者の冒険者チセがセレネという娘を連れていた報告を目にする。

 また、小さいながらもダンジョン攻略時に出た負傷者に対して、回復魔法を使ったことから小さな聖女と呼ばれていたらしい。

 その特徴と外見年齢は、セレネリールと一致しており、回復魔法の腕も母であり、聖女のエリーゼにも引けを取らない。


「すぐにガルド獣人国のヴィルの町に人を派遣し、冒険者チセとテト。そして小さな聖女・セレネを調査し、我が娘・セレネリールだった場合には保護するのだ!」


 失ったと思っていた娘を見つけた。

 娘を脅かす邪教徒は、徹底的に排除した。

 今度こそ、我が娘を取り戻す。



 SIDE:魔女



 ダンジョン攻略を終えて、拠点としている辺境の町のギルドで報告。

 その後、【虚無の荒野】の自宅に帰宅したら、テトとセレネと一緒にゴロゴロして過ごす。


 二週間不在だったが、【虚無の荒野】の様子は変わりなく、畑もスプリンクラーのような機能の魔導具を設置しているので畑に水遣りしてくれる。

 ただ、二週間放置していたために、食べ頃を逸して、少し大きくなりすぎたり、地面に落ちて駄目になった野菜などもあり、それらは、食べるのではなく生ゴミとして丁寧に大地に返すことにする。

 巡り巡って、豊かな土に……


 そして、しばしの休暇として1週間ほどのんびりと過ごしつつ、【虚無の荒野】の管理を続けていた。

 そして、休暇を終えて、町にポーションや薬草などを納品しに出かけたが、ダンジョンコアに関するガルド獣人国の王家との話は届いて居らず、普通に過ごしていた。


 そして、町まで三人で出かけて、家に帰ってきたら――


「お母さん、テトお姉ちゃん。はい、これ!」

「セレネ、これは何かしら?」

「えっと、私が稼いだお金でプレゼント!」


 そう言って、渡してくれたものは、セレネが雑貨屋さんで買ったと思しき、マフラーである。


「そろそろ寒くなるからね! お揃い!」

「ありがとう。セレネ、大事にするね」


 これはもう保存魔法に加えて、各種付与魔法によるエンチャントして大事にしないと、と思ってしまう。

 そんなこんなで10年目の冬が過ぎ、【虚無の荒野】に引き籠もる時期になる。

 冬場も三人で色々なことをして過ごし、春になり、いつものように町に出かける。


「私、キャルちゃんたちに会いに行ってくるね!」

「気をつけて行くのよ~」


 保育院時代の友達に会いに行くようで、ギルドの職員見習いの手伝いはまた今度だ。

 そして、ギルドに入ると見知った受付嬢が話をしてくれる。


「冬前に、ダンジョンコアの件で先方からの使者が来ているんですが……」

「それじゃあ、話を伺いますね」


 私とテトは応接間に通され、そこで待っていた二人の獣人が座っていた。


「ダンジョンコアの取り扱いに関して派遣された使者の文官のロールワッカとこちらが第三王子の――」

「此度の件で王よりその目で確かめろと言われたギュントンである」

 兎獣人のロールワッカとガルド獣人国の王子である毛色が特徴的な猫、ではなく虎獣人のギュントンと名乗る青年が並んでいた。

 ロールワッカは、片眼鏡を掛けて顔立ちの線が細く、ギュントン王子はロールワッカよりも二回りも大きく戦士のような体付きをしている。


「私は、チセ。こっちがパーティーを組んでいるテト。どっちもBランク冒険者よ。よろしく」

「よろしくなのです!」


 テトの物言いに、獣人国の王子が表情を引き攣らせるが、気にせずにソファーに座る。


「まずは、穀倉地帯に誕生したダンジョンの攻略と消滅に感謝する」


 ギュントン王子は、それだけ言って、あとのことはロールワッカに任せるようだ。


「ダンジョンコアの取り扱いの件について、ダンジョン攻略者であるチセ様方の要望となる契約ですが、幾つか確認したいことがございます」

「なんでしょうか」

「【虚無の荒野】は、古くから何者も寄せ付けない、神々が張られた巨大な結界のある場所と認識しております。なぜ、その地を欲しがるのでしょうか?」


【虚無の荒野】の結界内外に通過できる私は、その土地の所有者を明文化するために契約を求めるのだが、それをわざわざ言う必要はない。

 適当な理由を付けて、誤魔化すとする。


「魔法使いとして五大神の作った大結界に興味があり、それを研究したいの。そのために、その結界の外縁部を十分に調べるために必要なことなので」

「なるほど。ですが、要望された契約だと、土地全ては難しいですね。他国との境界線に掛かる部分もあります。なので、所有権を認めることができるのは、獣人国に面している側の【虚無の荒野】の四分の一。それと外縁部を自力で開拓したならその土地も認めることはできます」


 その土地を自力で開拓したのなら、土地の所有を認め、税を納める必要もない、などという話を受ける。

 なるほど、確かに他国との兼ね合いを考えると、難しい。

 だが、【虚無の荒野】4分の1の土地を認めてくれたのなら、他国にも同様の契約を結び、結果、全ての土地が私の物であると明文化できる。


「それでは、先程の要項を盛り込んだ魔法契約を作成します」


 そう言って、ガルド獣人国に面した【虚無の荒野】の四分の一が冒険者・チセが所有することを認める魔法契約書を作成する。


「それでは三部作成して、一つは王家、一つはチセ様。もう一つは、冒険者ギルドで保管します」


 そして、王の代理としてギュントン王子がサインする権限を持っているらしい。

 私は、作られた契約書を改めて確認し、細かな部分で抜け道などがないか確かめる。


「大丈夫です。それでは、サインを――『ちょっと待て』――」


 今まで厳めしい表情を浮かべていたギュントン王子が制止の声を上げる。


「私からも疑問が二つある。なぜ、貴様は我らに対して、結界を研究したいと虚偽を申す」

「虚偽、ですか?」

「我ら王族の鼻と耳は、敏感でな。訓練を積めば、汗の臭いや心臓の鼓動で相手が嘘をついているのか、おおよそ分かる」


 そうジロリと見つめてくるが、流石異世界だ。

 そういう特技を持った人がいるのか、と感心する。

 ただ――


「女性の汗の臭いを嗅ぐのですね。……あまり嬉しくない告白です」

「私だって、人の体臭を好きで嗅いでいるわけではない。それと、露骨に話題逸らしをするでない」


 チッ、引っかかってくれないか、と内心思う。


「では、真意は黙秘します」

「そう来るか。では、もう一つの質問だ。一つは、なぜパーティーを組んでいるのに、そちらの仲間に報酬がないのだ? 先程から聞いていれば、チセ殿が主体の契約のようだが?」


 パーティーとしてダンジョンを攻略し、それで得たダンジョンコアに関する扱いであるのに、契約相手にはテトの名前が一切出ない。

 それに対して、テトが答えた。


「魔女様との約束なのです。次のダンジョンコアは、魔女様の番だって……」

「ほぅ、次と言うことは、以前ダンジョンコアを手に入れたことがあるのか」


 テトが思わぬ失言をしたが、別にそれがどうした、といった気持ちだ。


「10年前に全5階層からなる小規模のダンジョンを攻略した時にダンジョンコアを手に入れましたが、もうありません」

「そうか、残念だ……」


 そう言って、王子は、思案するような表情をしている。

 今の発言でも匂いを嗅いで、真偽を判断し、引き下がった。

 そして改めて、このような意味不明な契約を結ぶべきか、それともダンジョンコアを確保するべきか。


 そんな思案している途中、私の身に着けている装飾品がけたたましい音を鳴り響かせる。

 いわゆる子どもに持たせる警報ブザーに似たものだ。


「な、なんですか!?」

「失礼。うちの娘がトラブルに見舞われたようです。しばし退席します」


 そう言って、私は、窓の扉を開け放ち、そこに足を掛けて空に飛び出す。


「魔女様、テトも行くのです!」


 そしてテトも窓から飛び降りて、地面に着地した後、私の後を追ってくる。


「なんなのだ。いったい……」


 部屋に残された獣人国の王子がそう呟く声が聞こえた。


読んでいただきありがとうございます。

面白いと思った方は、『ブックマーク』や下記のポイント評価を押していただけたら幸いです。


国王の視点、確保だと少々表現が荒々しいので保護に変えました。

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