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8話【ある日、森の中、アリさんに出会った】


 私たちの生活は、週に二日か三日、町に通う日々が続いた。

 セレネに社会性を覚えさせるために、町の保育院に預け、その間私は、【虚無の荒野】の結界の外に生える薬草、それらを使ったポーションなどを納品する。


 そんな中――


『ママ~、絨毯って空を飛ぶの?』


 アラジンと魔法のランプの話を、セレネの寝物語として聞かせた後に、お風呂上がりに足元に敷いた濡れたタオルを見ながら、そんなことを言う。


『あれは、特別な絨毯なのよ。だから、普通の絨毯は飛ばないわね』

『そうなんだ……』


 そう寂しそうに呟くセレネ。

 空飛ぶ箒の次は、魔法の絨毯かぁ、と空を仰ぐ。

 ただ、空飛ぶ箒の積載量だとテトを連れていけないので、新しい移動手段を考えていたために、魔法の絨毯を作ることにした。


 重力制御などの要素は、既に空飛ぶ箒で学んでいるのでその応用だ。

 更に魔力を通しやすい糸を創造して、素体となる絨毯に糸を縫い付けて、魔法陣を作成する。

 そうして毎日、夜なべをして完成させるのに、二ヶ月ほど掛かった。


「やったぁ! 魔法の絨毯だぁ! これでテトおねえちゃんもいっしょに町に行けるね!」


 そんな風に喜ぶセレネに、それが理由か、と苦笑を浮かべる。


「セレネは優しいのです。テトは嬉しいのです」

「テトおねえちゃん、くすぐったいよ~」


 そんなセレネをテトが存分に褒めながら、体をぎゅっと優しく抱き締める。

 コロコロと可愛らしく笑うセレネを見つめるが、今日も予定は詰まっている。


「それじゃあ、今日からテトも一緒に町に行きましょう」


 そして、魔法の絨毯に乗った私たちは、今日も森の上空を飛んで、町に向かうのだが――


「ママ、あれ?」

「ええ、分かってるわ。テトはセレネをお願い!」

「了解なのです!」


 町に近づくと町の近くの平原に黒い何かが蠢くようにしていた。

 私は、魔法の絨毯を上空に止めて、その絨毯の上から空を飛ぶ。

 飛翔魔法でセレネが指差した場所を目指し、マジックバッグから使い慣れた杖を持つ。


「あなたたち、助太刀は必要?」

「誰だか知らないが頼む! 小規模のスタンピードだ!」

「分かったわ、喰らいなさい! ――《アイスランス》!」


 平原に居たのは数百を超えるグラン・アントたちだ。

 私は、その頭上から氷槍を降らせ、その頭部を貫き、倒していく。

 最近では、【虚無の荒野】に魔力を満たすのは、世界樹を活用しているために、魔力には余裕がある。

 5万を越える圧倒的な魔力量から大量の氷槍を生み出し、地上へと降らしていく。

 

 Dランク魔物のグラン・アントはこちらを脅威に感じたのか、仰ぎ見て、顎を開閉させて蟻酸を吐き出すが、私の結界に阻まれ、届かない。

 更に大量の氷槍を生み出して、一方的に蹂躙を続ける。

 数百の蟻の魔物は、僅か三十分程度で全滅させることができ、他の魔物がいないことを確認して、地面に降り立つ。


「あなたたち、大丈夫?」

「あんたは……たしか子連れの」

「Bランク冒険者、魔女のチセよ」


 私の容姿とは裏腹に、Bランク級の脅威である魔物のスタンピードを単独で殲滅する能力には納得したようだ。


「助太刀助かった。あれだけの魔物とぶつかり合っていたら、こっちも被害が多かった」

「そう、それじゃあ、私は町に行くから」

「おいおい、ちょっと待て!」


 後のことはこの場に居合わせた冒険者に任せて、町に行こうとしたが、止められてしまった。


「なに?」

「いや、普通は、魔物の解体とかするだろ。ほら、魔石とか甲殻とか」

「あなたたちに全部あげるわ。町に娘を送り届けないといけないし」


 そう言って、軽く合図を送ると、離れた場所に滞空させていた魔法の絨毯がやってくる。


「ママすごい! 全部やっつけちゃった!」

「ええ、もう怖いアリさんは居ないから、町に行きましょう」

「はーい!」

「じゃあ、そういうことで……」


 そう言って、何か言われる前に魔法の絨毯に乗って、町まで行く。

 町の出入りでは、既に門番の人と顔馴染みになっているが、テトとはこの町に初めて来たので軽く自己紹介してからギルドが運営する保育院に向かう。


「それじゃあ、私とテトは、お仕事してくるから良い子で待ってるのよ」

「はーい! キャルちゃんトゥーリちゃんと遊んでるね!」


 保育院には、上級冒険者の子どもが預けられるが、その手伝いとして孤児院の子どももやってくる。

 その中でも子どもの付き合いとしてセレネには、キャルちゃんとトゥーリちゃんという同年代の女の子と仲良くなっているようだ。

 キャルちゃんが人間の女の子で、トゥーリちゃんが犬獣人の女の子だ。

 どちらも可愛らしく、仲良く遊んでいるところを見ると、ほっこりとする。


 まぁ、ちょっとイタズラ好きな男の子や意地悪する子もいるために、そうした子が預けられる曜日は避けて、更に嫌なら逃げてしまってもいいことを伝える。


『みんな、仲良くしなきゃいけないんじゃないの?』

『全員と仲良くするのは、難しいからね。いやな人、きらいな人と無理に関わるよりも距離を取って逃げちゃっていいのよ』


 保育院に通い始めて、子ども同士の付き合い方の話をしている時、そういう話をした。

 納得してないが、みんな仲良くなど無理なのだから、当たり障りのない距離の取り方を覚えてくれれば、と思う。現にセレネは着実に人付き合いを覚えて、日々楽しそうに暮している。


「さて、私の方もギルドに行きましょう」

「はい、なのです!」


 セレネを預けた後、ギルドに向かった私たちは、ギルドの納品カウンターに立ち寄ろうとするが、その前に受付嬢に呼び止められた。


「チセさん! 良いところに! ギルドで緊急依頼が出てます!」

「緊急依頼?」

「小規模のスタンピードが発生してグラン・アントの群れが見つかりました! このままでは町にぶつかると思うので、その討伐です!」


 D以上の冒険者に向けた強制依頼で、Bランクの私もその内側に入る。

 セレネちゃんを預けたなら、すぐに救援を! と叫ぶように言う受付嬢だが、私は聞き流す。


「あー、それなら問題無いわ」

「問題無いってどういうことですか!」

「いや、来る途中に交戦中の冒険者を見つけたから、助太刀してきたわ。多分、魔物の死体の解体と生き残りでも狩ってるんじゃないかしら? はい、今回の分のポーションと薬草ね。精算お願いね」


 そう言って、マジックバッグから次々とアイテムを取り出す。


「多分、もうそろそろ伝令でも来るんじゃないかしら?」


 そう言って、精算が終わるまでギルドの一角で休ませてもらう。

 そうすると、冒険者の使い魔か何かが開け放たれたギルドの窓から飛び込み、手紙をギルド職員に渡してきた。

 そして――


「先程は失礼しました。ご助力、ありがとうございました」

「別に構わないわ。娘を保育院に送る途中で見つけたからね。娘の前で負傷者の出そうな状況を見捨てるわけにはいかないからね」

「それでもありがとうございます」


 けれど、あの慌てようとグラン・アントの群れと対峙する冒険者の戦力から言って、強制依頼で送り出す戦力にしては少ないように感じる。


「なにかギルドの方でも事情があるの?」

「実は、こちらの地方の領主様が、北東方向にワイバーンの群れが出たとのことでそちらの方に上級冒険者たちが取られて……」

「そう……まぁ仕方がないわね」


 割のいい依頼だったのか、挙ってその依頼を受けた結果、戦力の空白ができたようだ。

 互いに労っていると、猫獣人の受付嬢が一緒にいるテトに気付く。


「そう言えば、そちらの方は?」

「ああ、前に説明しなかったかしら、パーティーを組んでいる人がいるって。予定の都合上、拠点としている家で待ってもらってた子よ」

「テトなのです! 魔女様と一緒にパーティーやってるのです!」


 そう言ってテトがギルドカードを渡し、私の時と同じように驚かれる。


「テトさんもBランク!? それに、21歳……」


 ロリ巨乳な美少女のテトは、ギルドカードを作成した時が公称16歳なので今年で21歳になっている。

 実際にはゴーレム娘であるために外見年齢と実年齢が一致しないが、まぁややこしくなるので言わないでおく。


「チセさん……なにか若返りとか、若さを保つ魔法とか使っているんですか?」

「ただ、魔力量が多いだけよ」


 まぁ魔力量増やしすぎて、不老になっちゃったし、テトも寿命不明で人間じゃないから、と内心呟く。


「はぁ……獣人族は、種族全般的に魔力が少ないので、羨ましいです」


 そういう猫獣人の受付嬢。

 人間よりも魔力が突出して多い人の割合は少なく、獣人族の魔力量は、人間と同じ平均して50~100前後らしい。

 その分、身体的な強度や柔軟性が高く、魔力も多い人は、身体強化を扱える他に種族固有の自己強化スキルである【獣化】などを使える場合があるらしい。


「まぁ、そんなことはいいんじゃない。それよりポーションと薬草はどう?」

「はい。今回も買い取りさせていただきます。それがこちらです」


 受け渡された代金を見て、頷く。

 若干、イスチェア王国に比べれば、買い取り額はやや高めであるが、それがこの地域の値段である。

 獣人は、自己治癒力が高いのでちょっとの怪我ではポーションを使わないので、調合師が育ちにくい環境である。

 その反面、自己治癒力では治りきらない傷には、良質なポーションが必要である。

 だが、調合技術が育ちにくい土地柄で良質なポーションを確保する機会は少ないのだ。

 そのために、私の作る高品質ポーションは需要が高く、割増しで買い取られるのだ。


 ちなみに、獣人族は突出した魔力持ちが少ないので、マナポーションの需要はあまり高くない。


 そんなこんなで軽く受付嬢から情報を聞いたり、依頼掲示板での採取依頼などを確認し、良い感じの時間になったので私は、セレネを迎えに行って【虚無の荒野】まで帰る。



読んでいただきありがとうございます。

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