21話【さらばダンジョン都市】
「チセの嬢ちゃん。色々と言いたいことがあるけど、ありがとう。それとテトの嬢ちゃんを死なせてしまって悪い」
「ああ、そのことね。テト、いい加減に起きなさい」
「はいなのです!」
「うぉっ!? い、生きてる!?」
上半身と下半身を両断されたテトだが、倒れた地面から元気よく返事をして、体を再生させて繋げ直す。
「切られたのに、血も出てないし、生きてる! まさか、アンデッド!?」
「違うわ。まぁ、詳しい話をするから休みましょう」
私たちは、6階層に築かれた拠点に戻り、そこから新たな魔物が降りてこないか確かめながら、事情を説明する。
「はぁ……チセの嬢ちゃんが【創造魔法】ってユニークスキル持ちで、テトの嬢ちゃんは、ゴーレムだったのか……信じらんねぇ」
「信じてくれなくても良いけど、黙っててね」
「むしろ、言えねぇよ!」
アルサスさんに渡した魔剣がどのように生まれたのか。
そして、テトがゴーレムに自我を失った精霊を取り込んだことで生まれた新種族であり、両断された程度で死なず、体の一部を土に戻してみせた。
全員信じられないように見ていたし、定義としては魔族と呼ばれる存在のテトに警戒する。
だが、私を膝に抱えて『魔女様成分の補充なのです~』なんて言っている様子に毒気が抜かれたようだ。
「それにしても【創造魔法】かぁ。さっきみたいに魔法武器とか貴金属を創造できるって考えると、色んな奴らに狙われそうだな」
私の【創造魔法】は、悪意を持って使えば、様々なものを破壊できる。
お金を過剰に創り出せば、貨幣価値は崩壊する。
食べ物を過剰に創り出して、市場に大量に流通させれば、一次産業は大打撃を受ける。
【スキルオーブ】や魔法武器を創造して兵士に与えれば、短期間で強力な軍隊を作れる。
だから、【創造魔法】の使用には人間の良心が問われると思う。
下手にその存在を知られれば、碌な結末にはならないだろう。
それに魔力が多ければ、寿命が延びやすい世界だ。
死ぬまでと言うのが、数十年ではなく数百年、もしくはそれ以上の可能性もある。
「けど、いいのか? 俺に魔剣を渡して」
「他の冒険者を守ろうとするアルサスなら渡してもいいかなと思って。それと孤児の誘拐の件のお礼よ」
「そう言ってもらえると、光栄だな」
そうして私たちは、倒したデスサイズ・マンティスのドロップについて話し合った。
アルサスさんが倒したが、私が創り出した魔剣とテトの時間稼ぎのお陰で討伐できた。
私たちは、デスサイズ・マンティスのドロップした素材について相談し、最終的に――
「よし、素材はお前らが持っていけ! 筋書きは、俺とお前らが共闘してデスサイズ・マンティスの討伐を果たした! それでお前らはBランクに昇格を推薦する!」
「それじゃあ、貰いすぎじゃない?」
「アホ! 俺の折られた魔剣が大金貨20枚の価値があるのにそれ以上の性能の不壊の魔剣。いや、こいつは聖剣だ! 国宝級の魔法武器だ! そんなものとAランク魔物の素材程度じゃ釣り合わねぇぞ!」
そうして私たちは、5階層に引いてデスサイズ・マンティスを警戒していた冒険者たちが様子見のために戻ってきたところで、筋書きの話をした。
それから三日間、私たちは、6階層を拠点として各階層の確認を行なう。
私は、各階層が正常化しているかの確認は、このダンジョンの探索歴が短いからと免除され、拠点で食事の用意をしていた。
そして、3日間の戦闘と3日間の調査によるダンジョンの正常化が確認され、7日目に私たちはダンジョンから帰還することになる。
「大変なのね。ダンジョンのスタンピードの対応って」
「まぁ、年に一度の行事みたいなもんだ。俺は、もうこれで7回目で慣れたが、世の中には、管理されてねぇダンジョンからの被害もあるからな」
そう言って、しみじみと呟くアルサスさんは、腰に吊るした聖剣を撫でる。
魔剣が折られたことは知られていたが、新たな聖剣の存在には、大勢の冒険者から注目を集める。
それは、私がダンジョンで見つけた所有者を選ぶ聖剣であり、デスサイズ・マンティスに魔剣を折られたアルサスさんに渡したところ、所有者に選ばれたという話で決まった。
無論、所有者資格は、アルサスさんのような人々のための清い心の持ち主になるように制限を掛けた。
ギルドに帰り、スタンピード中の集めたアイテムなどの扱いについては冒険者に任されるが、後日スタンピードの対応に参加した冒険者への報酬が約束された。
そして、多くの冒険者たちの前で、私とテトの戦闘の様子が確認され、Bランク冒険者たちと遜色ない働きをした。
最後の最後までデスサイズ・マンティスと対峙したためにテトと共にBランクの昇格が決まった。
「無事に、スタンピードを乗り越えたことを祝して」
『『『カンパーイ!』』』
冒険者たちがスタンピードの終わりを祝し、酒場で盛大に酒杯を掲げる。
そんな宴会に私とテトも連れ出され、隅に座るようにしてご飯を食べていた。
「あはははっ! 魔女様~、この飲み物ふわふわしておいしいのれす~」
「テト、お酒飲んじゃったの? こっち来て、お水飲んで」
「ふへへっ、魔女様が三人なのれす~。幸せなのれす~」
ゴーレムなのに酔うのか、とかダンジョンの毒ガスなどは効かないのに酒で酔うのか、とか色々ツッコミを入れたいのを抑えて、酔っ払ったテトを介抱しつつ、私たちは休んでいる。
「よぉ、スタンピードの終結とBランク昇格、おめでとさん。その歳でBランクに上がるなんて、すげぇよ」
「ありがとう。お酒は飲めないけど、乾杯」
ジュースの注がれたコップをカツンと打ち合わせると、お酒が入って陽気になっているアルサスさんが話しかけてくる。
「二人は、この後どうするんだ? ずっとダンジョンの攻略を目指すのか?」
そう聞かれて、私は考えていたことを伝える。
「そうね。生まれ故郷を見つけたからテトを連れて、行こうかと思うわ」
「生まれ故郷?」
酔っ払って私の太ももの上に頭を預けて、眠り始めるテトの髪の毛を優しく梳きながら話す。
「気付かずに通り過ぎた目的地でもあったからね。一度、そこを目指そうかと思ってね」
私とテトが生きやすい場所は、最初から転生させられたあの荒野だった。
以前までだと何日か掛けて歩いて進んでいたが、今は飛翔魔法や身体強化で短時間で辿り着けるだろう。
「嬢ちゃんは、生まれ故郷に帰ったら何するんだ?」
「そうね。誰の土地でもないから開拓とか整備して自分の土地にしたいわ」
「若いのに、もう腰を据えるのか?」
「いつだって帰る場所があると安心するものよ」
そんなものか? と首を傾げるアルサスさん。
「まぁ、嬢ちゃんたちの魔法は凄いからすぐに住み心地のいい場所になるかもな!」
「もしもできたら見に来るといいわ」
私の【創造魔法】を知っているアルサスさんの言葉に、私は、力強く頷く。
住み心地の良い場所を創る、そう決意する私は、もういっぱいになったお腹でちびちびとジュースを飲む。
そして、夜も更けて酔っ払いの冒険者も前後不覚になる前に、テトを連れて退散することにした。
「それじゃあ、私は帰るわ」
「むにゃむにゃ……粘土はオヤツに入る、のですか?」
どんな寝言だ、と笑いが盛れる中、闇魔法の《サイコキネシス》でテトの重量を軽くして空中で浮かべて運び、テトをベッドに降ろす。
「ずっとダンジョンに居たから埃っぽい」
私は、賃貸住居のお風呂を借りて、そこでお風呂に入ってからテトが眠るベッドにそっと入り、怒濤の一週間を終えるのだった。
そして翌朝、ギルドカードの更新のためにギルドに訪れれば、夜通し酒場で飲み食いしていたのか、二日酔いで死屍累々となっている冒険者たちを見つけた。
「み、みずぅ……死ぬぅ……」
「あー、大変そうね」
私とテトが受付嬢にカードを差し出してギルド証の更新を頼みつつ、労えば、苦笑を浮かべる。
「酒なんて、もう二度と飲まねぇ……」
そう言っているのは、アルサスさんだったが、多分また飲むのだろう、と容易に予想できた。
そして、私とテトは、Bランクになったギルドカードとスタンピード対応の報酬、そして素材の売却での金銭を受け取る。
七日間の報酬と素材の売却は、一人当たり大金貨20枚とこれまでで一番の報酬である。
「報酬は、ギルドカードに付けてください。それと、私とテトは、この町での目的を果たしたので、別の町に行こうと思います」
「そう、ですか。稼ぎ頭がいなくなって寂しくなります。ですがお二人なら、どこでも活躍できると思います。頑張ってください」
そうして挨拶を貰った私とテトは、次に教会に向かう。
「神父様。Bランクに上がりましたので、近日中にこの町を発とうと思います」
「そうですか、寂しくなりますね」
元々は流れの冒険者と言うことで納得してくれ、子どもたちにも説明したらかなり引き留められた。
力では容易に振り切れるが、振り切れないために大人しく今日は、孤児院に泊まり子どもたちとの交流を深めた。
ただ、その日は、一番親しかったダン少年の様子がおかしかったことに気付く。
そして、翌日――半年間借りていた賃貸を解約し、その足で本屋に行って様々な本を買い集めてからダンジョン都市を出て行く。
ただ、ダンジョン都市の出入り口で待っていたのか、孤児院のダン少年が待ち構えていた。
「……チセ姉ぇ、行っちゃうのか?」
「ダン少年、見送りに来たの?」
私よりも年下の少年は、俯き気味に頷く。
「チセ姉ぇには感謝してる! みんな感謝してるんだ! 俺たちに仕事とお金を稼ぐ手段を教えてくれて、攫われた時も真っ先に助けに来てくれた!」
「もう感謝は、十分もらっているわ」
そう言うと、俯き気味のダン少年は、耳まで真っ赤にして顔を上げる。
「感謝してる。感謝しているけど、それと同じくらいチセ姉ぇに憧れてるし、好きなんだ! 色々教えてもらったり、一緒にいると楽しかった! だから、この町に、孤児院に残ってくれよ!」
「ありがとう。素敵な告白ね」
「じゃあ――」
顔を赤く、目元を潤ませる少年ってのは、中々庇護欲をそそるが――
「残念だけど、ダン少年の気持ちに応える気はないわ。だって私には、目的があるんだもの」
「そんな……」
「私も孤児たちと触れ合って楽しかったわ。それにダン少年のことは、弟みたいで好きよ。けど私は、悪い魔女だからね。今度は、こんな悪い女に惚れちゃだめよ」
そう言って、額を軽く指先で小突くと泣きそうな顔を見せまいと服の袖で乱暴に拭う。
「チセ姉ぇのバーカ! いい男になって! 立派な調合師になって! お金もいっぱい稼いで! それで絶対に後悔させてやるからな!」
「ええ、私が後悔するくらいの素敵な大人になってね」
そう言って、私は見送りに来てくれたダン少年が孤児院の方に駆け出すのを見る。
「魔女様は、罪な女なのです。幼気な少年の初恋を苦いものに変えたのです」
「テト? いつそんな知識覚えたのよ」
「孤児院の子どもたちとギルドのお姉さんたちなのです」
私は、テトにしゃがむように指示して、そのホッペを軽くふにふにと揉む。
「魔女様、満足したのですか?」
「ありがとう、落ち着いた。さて、【虚無の荒野】を改めて目指しましょうか!」
「はいなのです。どこまでも付いていくのです!」
私はテトと共に、これまでの旅路を逆走するように北の町・ダリルを目指して進んでいく。
第二章もありがとうございます。
現在、オンリーセンス・オンラインの執筆期間に入りましたので、この続きは未定です。
気が向いたら続きを書いて投稿しようかと思いますので、気長にお待ちいただけたらと思います。
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