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20話【魔剣《暁天の剣》】


 目が覚めてダンジョンのスタンピードが三日目に突入して、ダンジョンの奥から現れる魔物にBランク帯の魔物が混じり始める。

 私たちが見慣れたランドドラゴンを始め、古い資料で到達したとされる25階層以降の魔物が姿を現わす。

 そんなBランク帯の魔物に対して、Cランクパーティーは複数が組んで一体を相手にし、Bランクパーティーは一パーティーが一体。

 そしてテトは、単独でBランクの魔物を相手にし、私はCランクパーティーのフォローに入る。


「いくわよ。――《サイコキネシス》《ハードシュート》!」


 飛翔魔法で空を飛び、マジックバッグからヒドラを切断した時に使い、分割して回収した鉄の刃を硬化魔法と合わせて射出した。

 鉄の刃に貫かれた魔物は、地面に縫い付けられ、満足に身動きが取れない。

 そして、次の魔物に対して同じように鉄の刃を発射し、魔物の侵攻を遅らせると共に、Cランク帯の冒険者たちが安全に狩れるようにフォローする。


「さて、この魔物は初めてね」


 多分25階層以降のBランクでも上位に位置するだろう魔物を鉄の刃で地面に縫い付ける。

 だが、他の魔物よりも力が強いために、強引に引き抜いて進もうとするが――


「――《グラビティ》」


 加重の魔法で抜けかけた刃が再び地面に縫い付けられ、相手は再び拘束される。


「動かれると面倒だし、やろうか。――《サンダー・ボルト》!」


 その魔物の頭上から雷を落とす。

 通常の状態なら体表に魔力を覆ってダメージを軽減できるだろうが、貫通した鉄の刃に電流が通り、体内から破壊していく。

 そして、雷撃が収まった時には、魔物が絶命しており、後には地面に立つ鉄の刃と魔物のドロップである魔石と素材が落ちている。


「嬢ちゃん、そろそろ終わりが近いな。もう一踏ん張りだ」


 流石Aランクの冒険者でアルサスさんたちも次々と魔物を打ち倒している。

 事実、最後のBランク魔物を倒して、周囲には魔物は居なくなった。

 後は数日ダンジョンから魔物が降りてこずに、各階層で適正な魔物が誕生しているかなど、スタンピードの終結の確認に入る。


「これで終わりかしら……」


 そう呟いた私は、浮遊魔法で平原階層の空から7階層の階段を見ていると、そこから何かがこの階層にやってきた。

 新たなBランク魔物かと思い、そちらに目を向けると、存在感のある魔物を見つけた。


「アルサスさん!」

「ああ、分かってる! まさか、現れたのか、それも他の魔物よりも強い!」


 このダンジョンの規模のスタンピードで現れる魔物は、Bランクまでだと言われている。

 その中で現れたあの魔物は、Aランクの魔物だろう。

 私が倒した五つ首のヒドラに比べれば体は小さいが、その分強力な能力を持っているのかも知れない。


「あいつはヤバイな。Cランク冒険者はすぐに退避しろ! Bランクの奴らは、身体強化を全力で張って防御を固めろ! 下手したら、一瞬の間に首と胴体がおさらばするぞ!」


 先頭に立つアルサスさんが指示を下し、AランクとBランクの冒険者たちが中心となって、黒光りする甲殻と鎌を持つ昆虫型魔物・Aランクのデスサイズ・マンティスと対峙を始める。


「嬢ちゃんたちも地上に逃げろ! それとスタンピード終結まで耐えろ! 運が良ければ、こいつは、地上に上がらず、ダンジョン奥に戻る!」

「いえ、私とテトも残るわ。戦力は少しでも多い方が良いでしょう?」


 既に数日間のスタンピードの連戦と直前のBランク魔物との連戦でどの冒険者たちも満身創痍だ。

 まだまだ余力を残しているのは私とテト。そしてアルサスさんたちのパーティーのようだ。

 それに、運が良ければ地上に上がらないということは、運が悪ければ地上に放たれることと同義だ。

 地上には、孤児院の子どもたちがいるのだ。

 絶対に、ダンジョン内で全てを終結させる。


「わかった。それじゃあ、行くぞ!」


 こちらの方針が決まった直後、三角の頭に無機質な瞳、人の倍以上の大きさのデスサイズ・マンティスが羽を広げて、地面を滑るように迫る。


「テト、防ぐわよ! ――《アース・プリズン》!」

「了解なのです!」


 私も地面に降り立ち、テトと共に、平原の地面を操作して、デスサイズ・マンティスの突撃を止めようと石で二重、三重と囲う。

 魔法の石檻は、魔力で強化されているためにタダの檻よりも強度が高い。

 だが、デスサイズ・マンティスは、両手の鎌を振るとまるで抵抗もなく斬り裂いていく。


「本当に足止め程度ね。けど――」


 魔法使いのレナさんや弓矢を構えるエルフのラフィリアたちの遠距離攻撃がデスサイズ・マンティスに殺到する。

 魔法の余波で視界を遮られるが、魔力感知を続ければ、デスサイズ・マンティスの体を覆う魔力が減っているのを感じる。


「来る!」

「次は、俺だぁぁっ!」


 魔法の余波を斬り裂き前に出るデスサイズ・マンティス。

 上位冒険者の攻撃を受けた結果、背中の片方の羽が落ちているが、それでも戦闘する意志は衰えていない。


 そして、アルサスさんの剣とデスサイズ・マンティスの鎌が打ち合いをする。


 手数で攻めるデスサイズ・マンティスに対して、アルサスさんはそれをかろうじて防ぎきるが、攻撃に転じられない。

 アルサスさんが引きつけている間に他の冒険者たちも隙を見てデスサイズ・マンティスに攻撃を加えるが、硬い甲殻に剣の表面が滑ってうまくダメージを与えられない。

 唯一、テトの剣撃が外殻を砕き、ダメージを与えている。


「このまま行けば――っ!?」


 何度もデスサイズ・マンティスとの打ち合いを繰り返すアルサスさんは、デスサイズ・マンティスの両手の鎌に魔力が集まるのを感じ、咄嗟に引く。

 そして、振り抜かれた攻撃を紙一重で躱すアルサスさんだが、武器である魔剣が両断されてしまった。


「テト、アルサスさんのポジションに入って!」

「わかったのです!」


 テトがデスサイズの攻撃を防ぐために割り込み、武器の魔剣が半ばから断ち切られたアルサスさんが呆然としながらそれを見つめていた。


「アルサス、大丈夫!?」

「……俺の剣が、折られた」


 彼の仲間たちが心配するが、アルサスさんは疲労と武器の破損に動揺していた。


 スタンピード対応の精神的支柱であるAランクパーティー【暁の剣】のアルサスとその武器である魔剣が折れたのだ。

 その動揺は、他のBランク冒険者たちに広がるが、すぐさま正気に戻ったアルサスさんは、指示を下す。


「もう俺には攻撃手段がない! 通じるのは魔法使いの攻撃だけだ! ここは一旦引いてまた遠距離から魔法で仕留める! 冒険者たちは、一階層ずつ引いて、そこで魔法使いたちの一斉攻撃に備えろ!」


 その指示で残った冒険者たちが少しずつ引く中、現在唯一デスサイズ・マンティスを足止めできるテトが残っているために、私も残る。


「さて、チセの嬢ちゃんもテトの嬢ちゃんと一緒に引け。俺が少しだけでも時間を稼ぐ」

「ちょっと、愛用の魔剣が無くなったのに予備の剣でなんとかなるわけないじゃない!」


 アルサスさんの決意に対して、レナさんが抗議する。


「じゃあ、テトの嬢ちゃんに任せて、俺たちも引けってのか? まだ先がある彼女たちにAランクの俺がか? ここは俺が死ぬ気で時間を稼ぐ!」


 何やら悲壮な覚悟を決めているアルサスさん。

 その間にもテトとデスサイズ・マンティスは打ち合いを続け、再びあの魔力の高まりによる鎌の振り抜きで、テトの魔剣も折られてしまう。


「お、おおっ? おりょ?」


 そして、アルサスさんを仕留められなかった時のことを学習したのか、二撃目の振り抜きで、膨大な魔力で身体強化していたテトの体を胴体から両断する。


「くっ、俺の決断が遅いからテトの嬢ちゃんを……」

「ねぇ、アルサスさん。武器があれば、アイツを倒せる?」


 私は、淡々とした口調で尋ねる。

 悲壮な覚悟で挑む人の悲劇に対して、私が圧倒的な魔力の暴威で消し飛ばすのは簡単だろう。

 だが、男の人にはプライドがある。

 ならば、それを立ててやりたくもなる。


「何を言ってるんだ?」

「答えて。武器があれば、勝てる?」


 アルサスさんは、訝しげにこちらを見返す。

 相棒のテトが倒されたことで私が狂ったわけでもないと気付いたアルサスさんは、力強く頷く。


「ああ、勝てる。いや、勝ってテトの嬢ちゃんの仇を取る!」

「それじゃあ、特別にいい魔剣を創ってあげるわ。――《クリエイション》!」


 結局、コツコツと貯め込んだ魔晶石は、大きな物を作る時に一度に使ってしまう。

 前回の巨大ギロチンを創り出すのに10万魔力使ったが、今回はその三倍の30万魔力で創造魔法を行使する。

 マジックバッグからバラ撒くように取り出した魔晶石から膨大な魔力の光が溢れ、寄り集まり夜明けのような金色の光へと変わっていく。


 膨大な魔力を感じ取ったデスサイズ・マンティスは、怯えるように後退る中、一本の魔剣が完成した。


「《暁天の剣》ってところかしらね」


 魔剣の能力は、不壊、身体能力増強、光刃生成だ。

 まさに夜明け――【暁の剣】に相応しい魔剣だ。


「はい。これで子どもたちを助けるのに手伝ってくれた借りは返せたわね」

「なんだ、この剣……ああ、もう分かんねぇ! けど――」


 私から渡された魔剣を手に取り、空いた手で頭を乱暴に掻くが、魔剣を手に取った瞬間に、それが以前の魔剣とは比べものにならないほど強力なものだと気付く。


「ああ、やるぜ、やってやる!」


 そうして剣を手に取り、聖職者風の仲間に補助魔法を掛けてもらい、デスサイズ・マンティスに斬り掛かる。

 先程までは防戦一方だったが、魔剣の恩恵で高まった身体強化で先手を取り、魔力を通したことで生まれる光刃が甲殻を焼き切るように両断する。


「これで、終わりだ!」


 呆気ないほどデスサイズ・マンティスの両手の鎌を斬り裂き、そして胴体を両断し、それでも生きているデスサイズ・マンティスの頭部に向かって剣を突き立て、光の刃が焼き切る。


 これにてダンジョン都市のスタンピードが終結し、Aランクパーティー【暁の剣】は、魔剣【暁天の剣】を手に入れた。


読んでいただきありがとうございます。

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