16話【夢見の神託】
私は、賃貸アパートの一室でテトと共にベッドでゴロゴロしながら過ごしていた。
「久しぶりのお休みです~。魔女様もゆっくりするです~」
「ええ、そうね」
後ろから私を抱き締めて、ベッドに倒れ込むテトとその腕の中で、神父様から譲り受けた魔法書を読んでいた。
「なるほど、【神聖魔法】には、こういう魔法があるのね」
私の魔法は、攻撃一辺倒か、便利なのでと飛翔魔法、清潔化の回復魔法、身体強化を頻繁に使っている。
その魔法を支えるのは、属性魔法の複合である【原初魔法】だ。
対して教会の魔法は、それぞれの神が使ったとされる魔法や属性に分類されづらい無属性魔法として扱われている。
例えば、霊体に対して魔力によるダメージを与える【マナブラスト】や相手からの敵意や害意を判別・感知する【センスエネミー】、自身の魔力を他者に付与し身体強化を施す【ブレス】などがある。
「無属性魔法は、本当に便利よね」
教会の魔法を一つずつ確かめるが、大体は、再現できそうだ。
なにより、教会の魔法書は、かつての聖人・聖者たちが使った魔法を逸話付きで説明されていた。
これは、魔法のイメージ発動には非常に有用であると同時に、教会への信仰を布教させるためのものなんだろうな、と宗教的な側面から考察してしまう。
「いけない。つい余計なことを……」
「魔女様~、それ面白いのですか~」
「ええ、面白いわ。今度新しく覚えた魔法をテトに使ってあげる」
「楽しみなのです~」
そうして本を読んでいくと、後半の方の魔法は、かなり難易度が高い魔法になっている。
特に、あるページには神父様が挟んだメモが書かれていた。
『私は、ここまでしか魔法を習得することができませんでした。ですが、まだお若いチセ様なら、修練の果てに辿り着き、多くの人を救ってくださるでしょう』
それと神父様の魔力量は、15000であることも書かれており、宮廷魔法使い並ではないか、と思ってしまう。
「神父様の魔力量でもできない魔法かぁ……」
一定時間以内の死者蘇生、欠損部位の再生治療、神託、神威召喚などだ。
どれも魔力量が数万から十数万単位で必要な魔法だろう。
「死者蘇生や再生治療ができれば便利だけど……」
首を動かし、私を抱き締めてゴロゴロしているテトを見る。
「どうしたのですか、魔女様?」
「いいえ、なんでもないわ」
ゴーレムから進化したテトに人間の魔法は意味が無いだろう。
心肺蘇生させるための心臓や脳などはなく、欠損部位は土石で補充ができる。
そもそも私自身に使う時は、相当なピンチの時だろう。
欠損部位の再生魔法など、使わないに越したことはない。
そうなると残るは、神託になる。
「私を転生させた、あの存在が女神リリエルか、改めて確認するかな」
私は、テトの腕から抜け出し、本を開いて神託を受ける魔法を準備する。
敬虔な信者にしか神託は受けられないと言うが、女神・リリエルの姿を直接見ているために、神託を受けるのは、大丈夫だろう。と思ったのだが……
「なにも起きない……」
「魔女様~、そんなことより眠る時間なのです~」
「そうね。最近、忙しすぎたから」
そう言って、私はテトの腕の中で眠りに就く。
…………
……
…
私は、気付けば謎の空間に立っており、そこには一人見覚えのある美しい女性がいた。
「女神・リリエル? あれ? 私はまた死んだの?」
『いえ、あなたは神託の魔法を使い、私との繋がりを得ましたよね。ならば、あの場で神託を下すよりも夢でお会いした方がいいと思いました』
「そう……」
これは夢の中で、私はテトを残して死ななくてよかった、と安堵する。
もしテト一人で残したら、色々と心配になる。
『あなたの活躍は見ていました。それに孤児院に関して、感謝します』
「見られていたのは、恥ずかしいわね。けど、神様が私に感謝?」
神とはもっと傲慢だと思っている私としては、感謝されるのはなんとなく釈然としない。
それに、私を転生させた時の最低限のやり取りなどの印象が強く、あまりこちらに友好的なように感じない。
『あのパウロ神父には、私の加護を少しだけ与えているのです。彼の心労を取り除いてくれたことへの感謝を。それと私たち神々は、人々から捧げられる魔力と信仰心によって力を発揮します。あなたの行いが、私たち五大神の信仰心を高め、地上に対する干渉力を高める切っ掛けとなるのです』
「その高めた干渉力? で、あなたたちは何をするの? それとなんで私を異世界に転生させたの?」
色々と疑問はあるし、こっちは記憶はあやふやだが、多神教でありつつ無宗教で有名な日本人としての自我が強い。
神の真意を知りたい。
『本来なら転生者たちには教えないのですが、いいでしょう。一言で言えば、この世界は今、魔力が少ない状態なの』
「魔力が少ない?」
『そう。古代の魔法文明の暴走により魔力が枯渇した状態が約2000年。それによって文明は衰退し、魔力で支えられた上位魔物たちは死滅するか特定の地域でしか住めず、世界は停滞しています』
「それと私の転生になんの関係があるの?」
『信仰によって得た力で異世界から転生者を呼び寄せるのです。その際に、科学文明の発達した地球で使われていない魔力も一緒に貰ってくるのです。そして、転生と共に魔力の薄い地域に送り込み、世界の魔力濃度を高めているのです』
「それが、神々の力の使い道と私の転生した【虚無の荒野】って場所ね」
『はい。本来は、人々の信仰で得た魔力の使い道は、救済のための奇跡でしょうが、それでは世界の魔力枯渇は改善しない。特に魔力枯渇が酷い地域には、人間が侵入しないように結界を張り、転生者と魔力を呼び寄せる以外は、ほとんど力が使えない状況です』
私はその話を事実かどうか確かめる術はないが、ある種の納得がある。
ならば、転生者を長生きさせて発生させる魔力を必要とする理由になる。
「わかったわ。その話、信じるわ」
女神リリエルの澄ました表情が一瞬、驚きに変わる。
『あなたは、私たちに対して疑う気持ちがあるのに信じるのですか?』
「最初は澄ました顔で事務的なやり取りをするから信じられなかったけど、まぁ2000年も荒廃しかけた世界を立て直そうってしてるなら、同情くらいするし、できる範囲で手伝いをするわよ」
『神に対して同情するのですか。ですが、そう申し出てくれるのは嬉しいです』
私の発言に、女神リリエルが初めて人間らしい苦笑を浮かべた。
「やっと人間らしく笑ったわね。そっちの方が私は好きかな」
『一応、神には威厳が必要なんです。はぁ……』
そう言って、幾分か肩の力を抜いたリリエル神は、じっと私の目を見る。
『そろそろ時間ですね。夢見の神託は、たくさんの魔力を使うからもう終わりね。また時間と魔力が空いた時にでも夢見の神託を送るわ』
「えっ、ちょっと!」
そして私は、テトに揺すられて起きた。
どうやら寝ている間に、神託で大量の魔力を消費したのか、体の魔力がスッカラカンで強制的に途切れたようだ。
ただ、魔力枯渇による気持ち悪さで更に一日ベッドで苦しむことになった。
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