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15話【パウロ神父の独白】


 SIDE:パウロ神父


 私がこの町に流れるまで、色々なことがあった。


 私は、貴族の子どもとして生まれ、高貴な血筋の者の義務として教会に幼い頃から入れられた。

 まぁ、高貴な者の義務と言えば聞こえはいいが、五男坊の体の良い厄介払いだ。

 だが、私は運のいいことに魔法を使う才能があった。

 そこで五大神教会のリリエル神を祭る教会に入り、【神聖魔法】を学び、人々を癒やし、災いを退け、呪いを解き、この世を管理する五人の神々の信仰に邁進した。


 五大神教会とは、創世神話から始まり、創造神が九つの大陸を生み出し、それぞれの大陸に神々を生み出して、人々を導いた、とされる。

 そして、我々の大陸には、ラリエル様、リリエル様、ルリエル様、レリエル様、ロリエル様の五人の女神様が私たちを見守ってくださり、その五人の女神を教えを守り奉るのが五大神教会である。


 創世神話は、古い神話であり、五大神たちの逸話が私たちのよく知る教会の神話となっている。

 それに、九つの大陸とそれぞれの大陸の神々とされていて、2000年前の大災厄以前の人々は行き来できたと言われているが、現在では他の大陸を移動する航海技術は存在しない。


 ただ、時折沿岸部に他の大陸から流れ着いたと思しき漂流物が打ち上げられたりするので、他の大陸の存在は認められているが、未知の世界と言えよう……閑話休題。


 若い頃は、そんな五大神教会の未来の枢機卿などと持て囃されたが、他の者たちに妬まれ、疎まれ、ついにはダンジョンを擁するこの都市に送られ、更に上を目指すことを諦めることになった。


 だが、そこで私の真の信仰が試される時だった。

 この都市の教会と孤児院の管理者として、時には領主様と話をし、安息日には教会に集まる人々に対して、神や聖人たちの教えを説き、親を失った子どもたちの安寧のために日々奔走する。


 私ならやれる。そう信じて動くが早くも挫折し、妥協し、それでも子どもたちにひもじい思いをさせまいと動いた。

 時には、女神の力を借りたいと、教会の一室で祈りを捧げたこともある。


 それでも日々変わらず、だが、何人かの才能ある孤児たちには、私の学んだ【神聖魔法】を教えて、孤児院から送り出した。

 各地の小さな教会で神父をする者もいれば、怪我をした人に対して癒やしを与えたり、冒険者となる者もいた。

 それ以外にも、何も与えられずに送り出した子どもたちも人との繋がりに恵まれ、職に恵まれ、生活の糧を得て、僅かばかりでも恩返しとして教会に寄付を送ってくれる。


 それでも足りない現状と徐々に衰える体に、このまま次代を任せよう、とすら思った頃、その人物は現れた。


 ローブを纏った黒髪と黒目の魔法使いの少女・チセと小麦色をした快活そうな少女・テトの二人組の冒険者だ。

 魔法使いの少女の方が主体として話をするが、中々に落ち着いた物言いに、ふと私と同年代のような安心感すら覚えた。

 孤児院の子どもたちとそれほど変わらない年頃だと思うのに、だ。


 そして、持ち込まれた呪いの装飾品を浄化して、寄付を頂く。

 このお金で、しばらくは孤児たちにいい物を食べされられる。

 内心そう思っていると、私の世話をしている孤児の一人・ダンが、ダンジョンに連れていってくれと頼み込む。

 私が不甲斐ないばかりに小さな子どもたちも町の近くで薬草取りに行く。

 だが、魔物が現れるダンジョンは見過ごせない。

 まだ子どもの彼らには、身を守る術はないのだ。

 そして、私に怒られたダンは走り去ってしまう。


 それを見たチセさんは、更に孤児院のためにお金と食料を寄付してくださった。

 ただ装備の解呪のために来たのに、孤児院の現状を聞いて、ありがたいと思う。


 それからは驚きの日々だった。


 翌日チセさんが来たかと思えば、ダンジョンに行こうとするダンを送り返してくださり、ポーションの作り方を教えると言うのだ。

 また、孤児たちの自立支援のために孤児院でお金を稼ぐ方法やそのための道具などを私財を投じて用意してくださった。


 冒険者ギルドや領主様を巻き込み、一つの大きな枠組みとして孤児院の自立支援が誕生したのだ。

 特に、冒険者ギルドのギルドマスターは、孤児院出身の冒険者が身近にいるためか孤児院の内情にも通じており、孤児院のことを考えた提案をなさってくださり、そして領主様も話を聞き、問題点を文官たちが考えて、実行する。


 怪我人の治療の関係でギルドマスターと話をすることがあるのだが、孤児院のことを考えた提案をされたために、お礼を言おうとしたら――


「あの嬢ちゃんに言われたんだよ。孤児院がポーション作っても孤児院の経費を減らさないように、って。万が一、調合技術が途絶えて無収入になったら困るってな」


 だが、それだと孤児院の横領とかも問題になるから、定期的に子どもたちの様子を見る名目で孤児院の監査が入るけど、気分を悪くしないでくれ、とも言われた。

 あの少女は、どれほど先を見ているのだろうか。

 そして、ダンジョン都市ならではの廃棄される木材を使った製紙事業も短時間で作り上げ、利益を上げる見通しを作った。


 その才気は、女神リリエル様が孤児たちを救うために遣わせた神の子なのでは、という考えが過ぎるほどだ。


「神父様。これで子どもたちが作った紙で聖書を作れば、女神の信仰を広めやすくなるわね。これで教会の上の方から支援を引っ張りやすくなるし、他の町に孤児院と調合と製紙施設をセットで建てるモデルケースができた」

「チセ様、あなたは……」

「――ってのは建前よ。これで子どもたちに文字の読み書きが教えやすくなった。この町は木材がダンジョンから採れるから、紙に書く炭も不足しない」

「折角、利益を上げている紙を子どもたちにも使わせていただけるんですか?」

「ええ。子どもたちが孤児院を卒業しても生きていける読み、書き、計算。それと技術を教えるのが第一。利益は二の次よ。それに子どもたちがお金を稼ぐから、神父様は今まで働いてた時間を減らして、聖書を写させるついでに、子どもたちに読み書きを教えられるわね」


 そう言って、私に調合と製紙技術、文字の読み書きの教本を何冊か渡して、教会の方に送るように言ってきた。

 どれもチセ様とテト様の手書きらしい。


 余談であるが、この紙による勉強には、二つの話がある。

 チセ様が残してくれた本は、改めて複写し、きちんとした装丁の本に作り替えられて、多くの教会で扱われる教本となった。

 もう一つは、チセ様が子どもたちに紙を使わせることで子どもたちが意外な才能を見つけた。

 ある子は、絵を描くことから町の看板屋になり、またある子は精緻な絵から教会専属の宗教画家となり、今までに無い自立の道を歩むことがあった。


 子どもたちのために先を見据える力は、まるで未来を予知する魔女のようにも見え、その心根は人々を慈しむ聖女のようにも見え、褒め称えれば恥ずかしがる姿は年相応の少女のようにも見える。


 そんな彼女の助けになれば、と私が教会からもらった五大神たちの奇跡を模倣した【神聖魔法】の魔法書を渡した。

 私は、この地に送られて日々の奔走で魔法の鍛錬を疎かにしたが、きっと彼女なら役立ててくれるはずである。


読んでいただきありがとうございます。


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