13話【孤児院救済】
私は、孤児院救済を決めた時から自重するのをやめた。
朝、起きてテトと一緒にダンジョンの21階層に転移してランドドラゴンを倒し、それを換金して、必要なものを購入する。
私とテトで一日過ごすのに銀貨10枚もあればいいので、大体が孤児院に必要な食料と生活雑貨、これから調合を教えるのに必要な道具と様々な本だ。
それらをテトと一緒に持って教会に向かった。
「テト様、チセ様。ようこそ、いらっしゃいました」
「神父様、こんにちは。これが今日の分よ」
そう言って孤児たちに必要なものを渡し、孤児院の話を聞く。
「領主様から孤児たちがポーションを作って販売することに関しては問題無く、安定して作り出すことができれば、子どもたちの安全対策を取ってくださるそうです」
「そう、よかったわ。早速、教えたいのだけれど、いいかしら」
「はい。本日からよろしくお願いします」
私はテトを連れて孤児院の方に向かった。
そして、待っていたのはダン少年と、少年と近いか、少し上の年齢の少年少女たちが数人だ。
「ダン少年。約束通り、調合を教えに来たわ」
「ホントかよ……神父様に待つように、って言われたけど……」
未だに半信半疑の孤児院の子どもたち。
まぁ自分と同年代くらいの女の子から教わる、と言われれば、疑う気持ちの方が大きいだろう。
私は、孤児院の台所を借りて、ポーション作りを実演しようとするが……
「竈が割れてる。それに、薪がないわね」
「その……薪代も馬鹿にならないし、近くに森がないから拾いに行けないんだ」
そう言えば、ダンジョンの11階層から森林エリアに変わるために、引退したDランク冒険者たちが木樵としてダンジョンの木々を伐採して持ち帰り、薪にしているというのが、ダンジョン都市での生活で分かった。
「そうね。今日は私の手持ちの薪を使うわ。次からは私が薪を多く持ってくる」
そうしてポーション作りを一から教える。
一般的な薬草を取り出し、水で汚れを落とし、枯れた部位などをナイフで切り落とし、葉っぱの部分を細かく刻んでお湯に入れる。
そして、薬草10本分でポーション1本作れる。
その際の分量は、基本目分量で各調合師の勘ではあるが、私は開拓村で調合を学んだ頃、【創造魔法】で計量カップを創り、それでポーション作りに最適な量を調べていた。
「それじゃあ、薬草10本に対して、このカップの200の目盛りまでね。それと加熱する時に、湯気で減る分も考えると追加で100の目盛りね。2本分以上を作る時は、それよりも蒸発する分が少ないけど……まぁ今は一本ずつ作りましょう」
それぞれ小鍋で薬草を煮立て、沸騰させすぎないように掻き混ぜる。
「その混ぜてる時に、自分の魔力を木へらに通して、鍋の液体に魔力を付与するのよ。傷が早く治るように、良くなるようにって願いながら」
私が実演すると鍋の中の薬草から薬効成分が滲み出し、魔力と結合して薄緑色に輝く。
ポーションの薬草の鮮度と魔力を込める質によって、ポーションの回復量は変わる。
私の場合は、取れ立ての鮮度がいい薬草を、15000の圧倒的な魔力量によるポーションへの付与しているので、一般的な下級のポーションでも中級であるハイポーションに近い回復量になる。
世の中にある複雑な魔法薬だと、今の私以上の魔力量を持つ宮廷魔術師クラスの人間が何日も掛けて魔力を送り続ける必要がある。
余談はさておき、完成したポーションの入る鍋を竈から降ろし、布で葉っぱを漉し取り、冷ましてポーション瓶に詰め替えて、出来上がったポーションを見せる。
「この中で怪我してる子は……いたわね。ほら、使ってみなさい」
子ども同士で走り回って転んだのか膝を擦り剥いていたり、家事で手先が荒れている子も居た。
そんな子たちにポーションを使わせて、その効果を実感させた。
「すげぇ、ホントにポーションができた」
「さぁ、あなたたちも順番にやりなさい」
実演の後は、実際にやってみる。
だが、子どもたちは、魔力量が足りないためか鈍く光ったり、光が明滅を繰り返し、上手くできない。
そして完成したポーションは、七割以上が失敗で、成功しても最低品質のポーションに全員が落胆して肩を落とす。
「みんな、なんでポーションを一本分ずつ作るかわかった?」
「うん、魔力って結構使うんだね」
全員を鑑定のモノクルで見たら大体魔力量は、50から100で、ポーションを作れる魔力量としては、中品質までなら上手くいけば、といったところだろう。
だから、2本や3本など纏めて数を作るには、1000や2000の魔力量が必要であり、子どもたちにはそれだけの魔力量がない。
だが、魔力を付与するセンスがある人が何人かいたので、これから成長に伴っての魔力量の増加やポーション作りに慣れて魔力消費が抑えられるかもしれない。
「チセの姉ちゃん! もっとポーションの練習をさせてくれ!」
「ダメよ」
「どうして!?」
「ポーション作りには、魔力が必要だけど、あなたたち全員魔力が残り少ないの。だから、回復するまで座学よ」
そう言って、目の前の少年少女たちに調合で作れる薬の種類やその素材と調合法。
そして、値段などを教えたり、文字の読み書き、計算などの基本、魔力を一定に流す方法などを教えていく。
ただ――
「兄ちゃん、姉ちゃん……」
「あー、こらこら。今、俺たちは、ポーション作りを教えてもらってるところだから入ってきたらダメだぞ!」
孤児院には、ポーション作りを学ぶ子ども以外にも沢山の子どもたちがいる。
「テト、子守をお願いね」
「わかったのです。みんな、テトと遊ぶのです!」
精神が若干幼いテトは、すぐに子どもたちと打ち解けて孤児院の裏手で遊び始める。
それも孤児院の庭で土魔法で粘土をぐねぐねして遊んだり、孤児院の建物の罅などをテトに教えるとすぐに魔法で直すので子どもたちは面白がって、次々とテトに教えて、直る光景にキャッキャと笑っている。
「さて……そろそろお昼ね。昼食の準備をしましょう」
「ぷはぁ~、チセ姉ぇ。スパルタ」
ポーションを教える私は、ダン少年にチセ姉ぇなどと呼ばれて他の子どもたちに定着してしまった。
それと、スパルタと言われたが、自分でも結構詰め込みしている自覚はある。
けど、ポーション作りで魔力を流し込む技術を応用すれば、冒険者になった時でも有用だし、目に魔力を集中させれば、マナポーションの素材を見つけやすくなるなど、彼らが今より豊かな生活を送るには必要な技能だ。
今は理解できなくても頭の片隅にでも置いておいてほしい。
そして、お昼には――
「「「おいしー!」」」
「そう、美味しいのね。それならもっと食べなさい」
20階層のランドドラゴンを倒したついでに、他にも何体かの魔物を倒して手に入れた食材でお昼ご飯を作る。
大きい子が小さい子の面倒を見ながら食べる孤児院の食事風景は、とても楽しそうである。
「テト、私は神父様にご飯を持っていくから、みんなの面倒をお願いね」
「分かったのです。好き嫌いはいけないのです。全部、美味しくできているのですよ」
私は、お盆にパンとスープとおかずのお肉と野菜炒めなどを乗せて、教会にいる神父様に運んでいく。
「失礼します。神父様、お昼ご飯です」
「おお、チセ様。わざわざ、すみません」
私は、教会の方にお昼ご飯を運ぶと神父様は、なにやら作業を止めて昼食を受け取る。
「おや、今日の食事は、ずいぶん豪勢ですね」
「私の手持ちの魔物の肉などを出しましたが……差し出がましかったでしょうか?」
「いえ、ありがたいことです。時折、孤児院出身の冒険者が寄付してくれるんです」
そう言って、神父様は小さく祈り、食べ始める、
「チセ様のお陰で孤児院に少し光明が見えました」
食べていた手を止めて話し始める神父様の話に耳を傾ける。
「子どもたちが孤児院を出た後も自立できるならば、子どもたちの将来に希望が持てます」
「そう……けど、あまり期待はしすぎないでね。私は、冒険者だから別の場所に移動するわ。この支援も一過性のものよ」
「ええ、分かっています。ですが、それでも感謝しないと」
神父様も分かっているだろう。
子どもたちによるポーションの販売は、軌道に乗ったところで、それはいつまでも続くものじゃない。ちゃんと維持しようとしなければ、すぐに崩れてしまうものである。
それが一年後か、五年後か、十年後か……それでもやらずに居られなかったのは、私の性分なのかもしれない。
「それじゃあ、私は子どもたちの方に行きます」
「はい、私の方は冒険者ギルドや調合ギルド、領主様と話をしてきます」
神父様の食べ終えた食器を持って、私が退席しようとすると、神父様から一言。
「あなたは不思議な人です。外見は、孤児院の子どもたちと変わらないのに、その心は私とあまり変わらない大人のようにも思います」
「……そう、ただ生まれが特殊なだけよ」
「私は、どうすれば、この恩をチセ様に返せるのでしょうか?」
若干、泣きそうな、それとも困ったような表情の神父様。
彼から恩を貰わないのは簡単だ。だが、それはずっと彼の心に残り続けてしまうだろう。
だから――
「それなら、教会の使う魔法を教えてほしいわ。私、魔法が好きな魔女だから」
「なら、教会の神聖魔法の魔法書の用意をしておきましょうか」
「それは、とても期待できそうですね」
そう言った私は、食事を終えた神父様の食器を持って退室するのだった。
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