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魔力チートな魔女になりました~創造魔法で気ままな異世界生活~  作者: アロハ座長
2章【教会の聖女な魔女】

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11話【ダン少年】


 ギルドカードに預けたお金はあるが、また稼がないとなぁ、という気分で今日もギルドの依頼掲示板を確認する。


「私たちが森林階層の採取依頼をしたからその辺りの依頼はないわね。どうする?」

「食材が欲しいのです。それか、のんびり過ごしたいのです」

「そうね。それじゃあ森林階層で食材を落とす魔物倒して、その下の平原階層で薬草採取しようか」


 そうしてギルドの近くにあるダンジョン入口を目指して歩き出すと、つい最近聞き覚えのある声が聞こえた。


「なぁ、俺をダンジョンに連れていってくれよ!」

「いちいちしつこい! お前なんて足手纏いだ!」

「俺だってこう見えてもFランクなんだ! だから――『しつこい』――いたっ!」


 一組の冒険者たちにパーティーに入れてくれるように頼む孤児に鬱陶しそうに腕を振ると男の子が尻餅をつく。

 小さい子どもに暴力を振るったことに後ろめたさを感じるが、それでもこれからダンジョンに入る邪魔をされて苛立ち気味に舌打ちをしてダンジョンに入っていく。


「ううっ、いたたっ……」

「あなた、大丈夫?」

「あんたら、昨日の冒険者の姉ちゃん」


 若干、涙目で立ち上がるが尻餅付いた時に付いた手を擦り剥いたのか、少し痛そうにしている。


「ほら、手を出しなさい」

「はぁ、なんだよ」

「いいから――《ウォーター》《ヒール》」


 掌に向けて、滲んでいた血を水魔法で洗って回復魔法を発動されば、傷口が塞がり綺麗になる。


「これ……神父様と同じだ」

「あなた、私をテトのオマケみたいに思っているけど、私はこれでもCランクよ」

「魔女様は凄いんですよ! ドーン、ドーンと雷を落とすことができるのです!」


 そう言って私の凄さを広めようとするテトだが、擬音の含んだ説明に少年はポカン、としている。


「とりあえず、何があったか話してちょうだい」

「……あんたに、何ができるんだよ」

「できることなら手伝ってあげるわよ。まぁ、子どもを危ない目に遭わせる気はないから」


 そう言って、ふて腐れるように視線を逸らすが、チラリと私たちの方を見る。


「信じて、いいのか?」


 そう言って、近くの屋台で串焼きとジュースを買い、冒険者向けに用意された野外テーブルに座る。


「俺は、ダン。孤児院の子ども。うちの孤児院、経営が厳しいっぽいんだ。領主様は、お金を出してくれるけど、やっぱり足りないんだ」

「子どもたちの年齢と数は、どんな感じ?」

「今は、16歳の兄ちゃんと姉ちゃんが、神父とシスター見習いで孤児院の手伝いをしてくれてる。他の兄ちゃんたちは15歳で独り立ちしてるからいないんだ。12から14歳が10人で俺たち9歳から11歳が10人、その下のチビ共が23人」


 色んな事情で孤児院に来る子が多いらしい。

 冒険者の親が亡くなったためだったり、親戚に虐待されて保護されたり、親に捨てられたり……

 子どもの中には、里親が見つかって引き取られることもあるが、それは稀である。


「それでどうしてお金が欲しかったの? それにダンジョンに入ろうとしたの?」

「今よりいい暮らしをして神父様を楽させたいし、チビどもにもっと良い生活をさせたい。ダンジョンに入って魔物をブッ倒せば、レベルが上がって今より強くなって、楽にお金を稼げると思った」


 まぁ、子どもらしい向こう見ずな考えに溜息が漏れてしまう。

 隠し持っているのは、孤児院を卒業した先輩冒険者の忘れ物だろう、採取ナイフだ。

 その程度の準備しか持たずにダンジョンに挑むなど、わざわざ殺されに行くようなものだ。

 そういう子どもが後を絶たないから管理されているダンジョンの入口には、人を配置して、Dランク以下は立ち入り禁止にしているのだろう。


「じゃあ、入れないってわかっていたんなら、なんで冒険者に声掛けてたの?」

「Dランク以下でもダンジョンに入れる方法があるんだよ……」


 そう言ってダン少年が語るのは、制度の穴を突いたような方法だった。

 個人としてはDランク以下でも冒険者パーティーとしての平均ランクがDならダンジョンに入れることができる。

 私やテトのようにマジックバッグを持っている人は稀なので、ダンジョン攻略に必要な荷物を背負うポーターという人材をパーティーに組み込むようだ。

 Eランクの冒険者は、その荷物運びを行ないながら冒険者の戦い方や野営の基礎などを学び、Dランクに上がるための下積みを積むらしい。


「けど、それって危ないんじゃない? 荷物運びのEランクだからって不当に報酬を下げられそうよね。それに、パーティーの人たちが悪意があれば、魔物を誘き寄せたり、逃げる時に置き去りの囮にされるかもしれない。それか、奴隷として攫われたり、快楽殺人者が優しい顔をして近づいて誰も見ていないダンジョン内で殺されるかもね」

「えっ……」


 その可能性に至らなかったらしい、少年は愕然としている。

 まぁ小柄な少年には、冒険者たちの荷物運びはできそうにないし、むしろ今まで断ってくれた冒険者たちの方が子どもを危ない目に遭わせないための良識があったかもしれない。


「それじゃあ、どうすればいいんだよ」

「……はぁ、仕方がない。一肌脱ぎますか」

「魔女様、お風呂の時間じゃないのです」

「いや、そういう意味じゃないから……」


 そう言ってテトをジト目で見てから、少年に一つの提案をする。


「ねぇ、あなたたち薬草採取はする?」

「えっ? そりゃ、GとFランクまでしか登録できないから俺たちが受ける仕事って薬草採取ばっかりだぞ」

「なら、その薬草をギルドに卸さずに、ポーションを作った時は幾らで売れると思う?」


 私の質問に対して、少年は指を折って数え始める。

 だが、読み書きも計算も少し不得意なダン少年は、頭を抱え始める。


「わ、わかんない。沢山お金が貰えると思うけど、ポーションの値段知らない」

「そうね。一般的な薬草採取だと大銅貨2枚ね」

「うん。いつもそれくらい貰ってる。子どもたちを連れてみんなで探させてそのくらい」

「それと同量の薬草からポーション3本分を作れる。ポーションの値段は、銀貨3枚よ」


 軽い怪我ならもう少し安くなるが、教会の回復魔法などは、大体銀貨3枚くらいだろう。


「神父様の回復魔法と同じだ。それだと3本だから、凄い銀貨9枚になった!」


 その事実に気付くと共に、ダン少年の表情がくしゃっと歪む。


「ずるい。俺たちが町の近くの平原まで出て集めた薬草がたった大銅貨2枚にしかならないのに、大人たちはそれでポーション作って銀貨3枚で売るなんて」

「でも、それが手に職を付けるってことよ。素材のまま売るよりも加工したものを売った方が儲かる。だから人は勉強して良い暮らしになろうとするの」


 子どもにとっては、理解しにくいことだろう。

 そして私は、ダン少年に提案する。


「私は、あなたをダンジョンに連れていくことはしないわ。けど、お金を稼ぐ方法は教えてあげる」

「本当なのか?」

「ええ、この町では慢性的にポーションが不足しているわ。それならあなたたちが薬草を採取して、その薬草からポーションを作って売るのよ」


 そんな方法が……と少年は目を見開くが、すぐに俯く。


「無理だよ。そんな方法……誰も孤児の俺たちになんか教えてくれないよ」


 どの町でも調合師などの技能職は、家族経営が多いために、数が増えず、弟子入りするのも稀なのだ。

 そのために、家族経営の技能職というのは増えにくい傾向がある。


「ポーションの作り方なら、私が教えるわ」

「ホントか!?」

「ええ、ただ神父様に報告と相談よ。それでダメだったら、別の方法を考えるわ」


 そう言って、私はダンジョン探索の予定を切り替えて、ダン少年を連れて教会に向かう。


「あなたたちは昨日の……それに、その子は……」

「神父様、こんにちは。まずはこの子を怒らずに、私の話を聞いていただけますか?」


 それから今日のダンジョン前で見た出来事とその危険性を神父様に話し、それでもお金が必要とする少年の意志に対して、提案をする。


「彼らは薬草を採取することが得意です。なので、彼らの中から調合師を育てることができれば、将来の自立と孤児院の状況改善になるのではないでしょうか」

「……そう、ですか。この子がそんなことを」

「俺たち、知ってるんだ。神父様、孤児院のためにお金を稼がなきゃいけないから色んな所に頭を下げに行ってるって」

「……おまえたち、気付いていたのですか。確かに、寄付のお願いをしていることはありますが、情けない姿を見せていたようですね、お恥ずかしい」

「神父様は、情けなくないし、恥ずかしくない!」


 そう言って神父様は、疲れたように溜息を吐き出して困ったように笑うが、ダン少年はすかさず反論する。

 それだけ神父様は慕われているのだろう。


「わかりました。チセさんの申し出をお受けしたいです。ただ、教えるだけでは終わりではありません。子どもたちが安全に過ごせなければ」

「はい、分かっています。子どもたちの安全のため、上手く冒険者ギルド、もしくは更に上の偉い人を巻き込むつもりです」


 少年がこの場にいるために、あまり物騒なことは言いたくないためにそう言葉を返すと、神父様は、嬉しそうに頷いてくれる。


「色々準備もおありでしょう。それと、私もこの子とお話があるので、今日はお引き取りをお願いします。ダンには少しお説教が必要なようです」

「わかりました。それでは」

「えっ、ちょ……姉ちゃん、待っ……」


 神父様は、穏やかな笑みで私たちの退出を促し、ダン少年には少し圧の籠った微笑みを向ける。

 私が素知らぬ顔で部屋を退出した後、少年は穏やかな神父様に懇々と今日のことで説教をされたのだと思う。


 孤児院救済の話がやってきたのは僥倖だろうが、それとダンジョンに行こうとしたのは別だ。

 大人に怒られて成長しろ、少年。


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