8話【久しぶりにダンジョンの宝箱を見つけました。中身は……】
ダンジョンの11階層から再開するが、11階層からは出現する魔物が強くなり、ダンジョンの地形も森林タイプに変わった。
そのために、障害物のない平原よりもダンジョンの木々に魔法が邪魔されることが多く、テトが近づいて剣を振る方が効率的に倒せるようになった。
それに剣が当たれば、大体の魔物が一撃では倒せるのだ……
「うーん。ここからは森林エリアだから、もっと効率のいい魔法ないかしら」
炎は炎上が怖いけど、風や水魔法はイマイチだ。
光は威力過多だし、土だとテトと属性が被る。
「闇……実体のない影とかのイメージが強すぎて闇で攻撃って難しい……」
いや、影を魔力で半実体化させれば行けるか、などと自身の影を操作して攻撃するが、物理ダメージとしては若干弱い。
ただ、霊体などの相手に対しては、有効な属性だろう。
「風、風……カマイタチ、突風、台風……あっ、雷撃!」
それなら威力を調節すれば応用が利きそうだ。
「とりあえず、――《サンダーボルト》!」
適当に魔力量1000程度を使って生み出した雷撃は、近くの木に落ちて、根元まで真っ直ぐに木を割ってしまう。
「うーん。威力が強すぎる。もっと弱めでいいかな」
そうして威力の調整をすると、大体魔力量50で雷の矢を放てば、Dランク程度の雑魚魔物なら一撃だと分かった。
感電死なので、魔物の体は雷の矢が当たった箇所が若干焦げるだけなので、ダンジョン以外でも素材の確保にも使える。
また、風刃がほぼ直線なのに対して、雷の矢はこちらからの誘導が利くので、木々の間を縫っての命中率も高い。
「もっと威力を絞れば、対人捕縛用にも使えるわね。うん、ダンジョンは本当に魔物が尽きないから練習のやり甲斐がある」
そう言って陽気に森林型ダンジョンを進み、15階層のゲートキーパーも10本の雷の矢を放ち、感電したところでテトが魔剣で斬り掛かる。
その際に、相手が帯電したままだったらテトにも電流が流れると思ったが、元ゴーレムのテトにとっては、電流は効かないらしく、誤爆の心配もなかった。
そうして16階層からは、森林エリアはそのままに、エリアの広さも拡大化するらしい。
「この辺りになると地図の信憑性が薄れる感じね」
「魔女様、どうするです?」
「とりあえず、近くの安全地帯の泉の魔法陣を登録して一旦帰りましょう」
明日以降は、1日1階層くらいの探索ペースになるかもしれない。
そうして私たちは、ダンジョンから帰還し、翌日ダンジョン攻略を再開する。
「森林エリアには、薬草やキノコ、食べ物が沢山あるのね」
16階層からは最短距離でダンジョンを攻略するのではなく、ダンジョンの各所にいる魔物を倒したダンジョン内限定のドロップアイテムを集めると次の階層の階段が開くらしい。
なので、地図を頼りに該当する魔物を見つけ、倒していく。
「この辺りも木々での視界の悪さと不意打ちに気をつければ、強さはあんまり変わらないか。あっ、また薬草」
ダンジョンの階層を歩き回る距離が長いので、その途中で見つけた薬草などを採取している。
帰ったら、ポーションでも作ってギルドに売りつけようか、などと考えていると、グレイ・ウルフの群れが現れる。
この中のリーダーが次の階層を開くアイテムを持っているらしいが、こう群れで集まるとどれか分からない。
「今回はテトに任せるわ」
「はいなのです!」
私は、風魔法で浮遊して引いた視点からテトの戦いの様子を見る。
襲い掛かってくる魔物たちを斬り捨て、その隙をついて死角から襲い掛かってくるが、テトは振り向き様に裏拳を放ち、打ち倒し、また回し蹴りで二体を蹴り飛ばす。
そうして剣術と体術を駆使してウルフたちを刈り取れば、ものの数分で群れの全てが死体となり、ドロップアイテムに変わる。
「ふぅ、集める方が大変ね。それ専用の魔法でも考えるかな。うーん、吸収だと違うか。拾い上げる、引力。――《アポート》」
倒した魔物のドロップ品が私の掌に向かって集まり始める。
これは便利と思うが、集まっても私の掌が小さくて零れ落ちるので、歩いて探すよりは便利だけど、結局テトと一緒に拾い集めなければならなかった。
そんな感じで私たちなりのダンジョン探索を進め、16階層を超えて17階層に辿り着いた。
「どうやら一度階層の扉をクリアしたら、次からは通過できるのね」
「魔女様? どうします? 続けるですか?」
「うーん。一度くらい、このダンジョンでのダンジョン宿泊を試した方が良いかもね」
前にクリアしたダンジョンは、洞窟型ダンジョンで安全地帯も周囲を壁に囲まれていたので、警戒する方向は入口だけで良かった。
だが、今回は、他の冒険者も利用し、平原や森林などの開放型ダンジョンのためにその辺りの違いを見つけ出す必要があった。
「さて、夕飯はどうしましょう」
「はーい、お肉を食べたいのです!」
「ああ、そう言えば、ドロップに良い肉があったわね」
森林階層に突入してしばらくして、イノシシ魔物が現れた。
それを倒すと魔石とブロック肉を手に入れたのだ。
部位的にロースに近い感じがする。
「うーん。それなら、ポークステーキかしら?」
別名、トンテキだ。
私は、野営用の竈にフライパンを乗せて、その上に【創造魔法】で作り出したサラダ油を引き、アイテムボックスから野菜を取り出しカットする。
そして、それを油で炒めて、お皿に敷いたら、厚切りにカットして包丁で筋切りしたイノシシ魔物の肉をフライパンに載せて、これまた【創造魔法】で創り出した【ニンニク醤油風ステーキタレ(業務用)】を良い感じで焼き上がったところに掛けていく。
焼き上がったポークステーキを野菜炒めの上に乗せれば、肉の脂とステーキタレが下に敷いた野菜に染み込む。
「はい、ポークステーキ。それとインスタントのコーンスープ。主食は、パンよ」
「美味しそうなのです。いただきます、なのです!」
テトが作った岩のテーブルにテーブルクロスを引いて、料理を並べる。
こんな野営にしては手の込んだ料理だが、ニンニク醤油の香りと味は、とても暴力的に美味しかった。
「女の子として口臭がニンニクの匂いをしたままなのはどうなのかしら? 《クリーン》の魔法で消えるかしら……あっ、消えた」
「魔女様~、お風呂の準備できたのです~」
「わかったわ。それじゃあ入りましょう」
テトがダンジョンの地面を操作して浴槽を作り、私がその中にお湯を作って入る。
野営としてはやり過ぎなほど快適に過ごして、夜はテントと寝袋の中に入って眠る。
そして、何事もなく朝を迎え、ダンジョンの攻略を再開する。
「それじゃあ、行きましょう」
「今日も、頑張るのです!」
張り切るテトの言う通り、昨日の面倒な階層ギミックも慣れてしまえば、すぐに終わる。
ただ、この辺りの階層の素材は、ギルドに採取依頼を出されていたために少し採取のために探索する。
「あっ、宝箱」
「誰かの見落としなのですか?」
「それはないと思うわ。新しく湧いたのかもしれない」
私たちは、ダンジョンで見つけた宝箱に慎重に近づく。
そして、テトに結界魔法を掛けて、宝箱を開いてもらう。
――ヒュン、プシュー。
「おわっ、ビックリしたのです!」
「毒針と毒霧の罠ね。結界魔法を張っておいてよかった」
まぁ、テトの体は人間のように見えるがその実、泥土で構成された体なので、たとえ人間の急所に刺さっても核さえ傷つかなければ問題無い。
それに、人間の身体に作用する毒なども泥土の体のために受けない。
「魔女様~、こんなお宝があったのです!」
「ちょ、テト、勝手に触らないの! 私が今、鑑定するから……あっ」
テトが手に持った籠手と宝飾品のうち、宝飾品の方は怪しく輝き、テトの首に巻き付こうとして、バチっと何かに弾かれるように地面に落ちる。
「ほわぁっ、またまたビックリしたのです~」
「テ、テト、大丈夫なの!?」
私は、慌ててテトに駆け寄り問題無いことを確認し、鑑定のモノクルを取り出して、テトに巻き付こうとした宝飾品のネックレスを見る。
【絞殺のネックレス】
元は、性能の良いネックレス型の魔導具であったが、ダンジョン内で変質して呪われてしまった。
手に取った人間の首に勝手に巻き付き、絞殺しようとする。
それにテトは、身体に対しての状態異常には強いが、呪いなどの精神的な抵抗力は、標準的なのだろう。
ただ、事前に対策として【返呪の護符】を身に着けさせていたので、呪いの装備に首を絞められることは防げた。
ただ、消耗品のために服の下に隠してあった護符は、焼き切れたようにボロボロになっている。
「テト、代わりの【返呪の護符】よ。付け直して、それとこれをそのままだと危ないわね。石の箱を作って」
「はい、なのです」
私は、地面に落ちた呪われたネックレスを浮遊魔法で浮かべて、【創造魔法】で生み出した布に包む。
そして、テトの作った石の箱の中に布で包んだネックレスを収めて、ロープで厳重に石箱を縛ってからアイテムボックスにしまう。
「よし、これでいい。それとそっちの籠手の方は……あっ、結構いいものね」
【大地の御手】
土属性の魔力が浸透した籠手。
この籠手で握っている間は、どんなものでもその重さを半分程度に感じることができる。
「戦士向きの防具ね。それに常時発動型っぽい。テトはいる?」
「えー、いらないのです」
テトはゴーレムとしての身体強度と圧倒的魔力による身体強化で軽々と人を薙ぎ払う。
今更、それが少し楽になる程度では装備としての意味はないようだ。
「だって、そんな籠手を付けたら魔女様を抱き締めた時、ゴツゴツが魔女様に当たっちゃうのです」
「いや、そんな理由で要らないの? まぁ、私もサイズが合わないし、売ろうかな」
大剣使いのような冒険者には、垂涎の品だが、私たちには無用の長物のようだ。
ただ、こういう魔導具があると認識したために、次からは膨大な魔力を使って【創造魔法】で創り出すこともできるだろう。
「さぁ、先に行きましょうか」
「はい、なのです」
十分にこの階層での採取物も集めて、階層を上がる。
そして20階層は、Bランク下位に位置するランドドラゴンという地竜の一種がゲートキーパーとして現れる。
普通ならCランク冒険者数人がかりで抑えて、遠距離から魔法で攻撃してダメージを負わせていくのだろうが。
「テト!」
「はいなのです!」
魔法使いの私を守ることなく飛び出したテトは、駆け抜け様に地竜の足を魔剣で斬り捨てる。
そして、私は、浮遊魔法で空に浮かび――
「ドラゴン相手にはどんな感じかしらね。――《サンダー・ボルト》!」
頭上から落雷を落とし、ランドドラゴンの叫びが響く。
だが、それで力尽きないのは流石、亜竜の生命力なのだが――
「もう一発――《サンダー・ボルト》!」
一発1000の魔力を込めた落雷をもう一発落としていく。
流石に、落雷の魔法が2発必要なほどの強敵だが、ヒドラの再生のような特異な能力がない分、楽に倒せた。
そして、黒焦げになったランドドラゴンの死体が消え、後には、Bランクに相応しい魔物の魔石と小瓶に入った赤黒い液体だ。
「これは、ランドドラゴンの血液ね」
竜種の血は、様々な薬を作るのに使われることが多いためにかなり高額で取引されているらしい。
ランドドラゴンは、竜種の中でもワイバーンと同列の知能の低い亜竜だが、それでも血の力は強い。
ただ、落雷で黒焦げになり、血液だって沸騰しているのに、どうして新鮮な血液がドロップするのだろう。それに瓶詰めの瓶はどこから……
「考えても仕方がないか。そういうものね。さて、21階層に進んで帰りましょうか」
「賛成なのです! 近くの食堂で食べたいのです!」
私とテトは21階層に進む。
そこは、再びエリア構造が変わり、今度は私たちも見慣れた洞窟エリアが続いている。
この町のトップ冒険者のアルサスさんたちもこの付近の階層にいるだろう。
「とりあえず、ここからは地図がないから少しずつマッピングして、安全地帯を探しましょう」
「わかったのです」
私は、テトを先行させながら洞窟を進み、地図を歩いて作成する。
洞窟の道は比較的広めであり、エリアの広さも20階層基準のために私たちが最初に入ったダンジョンよりも格段にマッピングが大変なようだ。
それでも夕暮れ前には21階層の安全地帯である泉を見つけ、そこにある転移魔法陣に登録してダンジョンから出る。
「うーん。疲れたし、今からギルドの報告に行くと夕飯食べ損ないそうだから、明日にしましょう」
「わかったのです!」
ダンジョンから出た後、急ぐ報告や依頼はないためにギルドの訪問は後日にすることを決めて、アパートに戻り久しぶりにベッドでテトに抱き締められて眠る。
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