6話【Aランクパーティー《暁の剣》】
一旦、ギルドの資料室に置いた物を片付けた私と着替え終えたテトは、ギルドの酒場のところで【暁の剣】の面々と対面する。
「すみません。お昼のコレと、コレ、お願いするのです!」
「私は、普通にシチューセットと飲み物のジュース」
騒ぎを起こしたラフィリアと呼ばれるエルフの罰のために、奢りにしたためにテトは、遠慮無く食事を注文する。
私は、良識の範囲で昼食のセットメニューと果物のジュースだ。
そして、【暁の剣】たちは――
「おう! これ旨かったからとりあえず頼むか、それと麦酒だ!」
「俺も酒。それとつまみになるもの適当に」
「じゃあ、私は、コレと、コレと、コレ。あとサラダとワイン」
「私も食事を。それと、お酒じゃなくて、水を」
「なぁぁぁっ! あんたたち、私に奢らせるからって遠慮なさ過ぎ!」
非常に遠慮が無い。
それだけ仲が良いとか言えるのかもしれないが、エルフ少女は、若干涙目である。
「それで、話って?」
お酒を飲む前に素面の状態で話を聞きたいので早速切り出すと、リーダーのアルサスさんが真面目に答えてくれる。
「いや、ちょっとばかり前に遠方まで行って魔物退治してきて帰ってきたのが今日なんだよ。ただその依頼でうちの欠点が見えてな。六人目のパーティーメンバーとしてタンク。魔物の攻撃を前面で受け持てるやつを探そうと考えてたんだ」
「それでテトを勧誘したのね」
口いっぱいにお肉を頬張るテトは、私たちの視線を受けて、なに? と言いたげに小首を傾げている。
「まぁ、そうなんだけどな。うちの暴走エルフが迷惑掛けてすまんな。そっちの嬢ちゃんを勧誘するのは、スッパリ諦めた。仲のいいパーティーを引き裂いても恨まれるだけだしな」
「それが賢明ね。テトは絶対に私から離れないし、私もテトを絶対に離さないから」
そう言って、フードの下から見つめると、アルサスさんは、苦笑を浮かべている。
そんなリーダーの決定が不満なのか、若干エルフ少女が不満そうに頬を膨らませている。
「折角、Aランクパーティーが勧誘してるのに、その態度はないんじゃない?」
「お前は、反省しろ」
「痛っ! 酷い、殴ることないじゃないですか!」
まぁ、彼らのじゃれ合いが始まったと思って、静かに聞き流して、ご飯を食べる。
どうやら、リーダーのアルサスさん以外は、全員Bランクの冒険者らしい。
「それで、他にタンクの候補はいるの?」
「いや、地道に探すか、最悪Dで良さそうなやつを育てるかな」
そう言って、ちらりと魔女のレナさんとエルフのラフィリアを見る。
彼女たち二人がこのパーティーの遠距離メインアタッカーのようだ。
神父風の聖職者は、回復魔法とメイスによる物理攻撃もできるだろうし、斥候風の男も牽制で足止めや時間稼ぎなどもできるだろう。
現在でもパーティーのバランスは悪くないが、Aランクのアルサスさんがタンク役を兼任しているが、本職のタンクが入って全力で攻撃できるようになれば、更に爆発力が上がるだろう。
それにしても――
「羨ましい……」
同じ魔女でもこうも胸の大きさが違うのか、と絶壁の自分の胸を見つめる。
大人の色香と胸元の開いた黒いマーメイドタイプのドレスにマント姿が似合っている。
「……私も大きくなりたい」
「魔女様は、ちょうどいいサイズなのです。抱き付きやすいのです」
「そうそう、チセちゃんだっけ? まだまだ成長するわよ」
そう言って、私を撫でてくるテトとニコニコと柔和な笑みを浮かべる妙齢の魔女。
ただ、それに気にくわない者もいる。
「ふんだ。どうせ、テトって剣士にくっついてランクを上げただけでしょ?」
負け惜しみのようなラフィリアの発言に、ニコニコとしていたテトが無表情になり、瞬間的に殺気を放つ。
「魔女様を――『テト、止めなさい!』――はい」
私が命令で止めると、しゅんと意気消沈するテトだが、テトの殺気にアルサスさん側は反射的に武器に手を掛け、戦闘態勢に入っていた。
流石、上級冒険者は反応が早いなぁと感心しながら、意気消沈したテトが落ち着くまで私は、抱き締められ続ける。
「ラフィリア。お前は確かに強いけど、相手を見る目がなさ過ぎだろ。実力はBランクでも見る目の無さはDだな。チセの嬢ちゃん自体、魔力を隠してるけど、宮廷魔術師並の魔力があるぞ」
国に仕える宮廷魔術師たちは、各国を代表する最高戦力の一つだ。
魔物を倒してレベルを上げ、生涯を掛けて魔法の研鑽を積み、魔力量を増やしているためにピンからキリではあるが、最低1万。多くて3、4万の魔力があると言われている。
ただ、一応バレないように魔力の放出量を抑えているが、上級冒険者には筒抜けのようだ。
「その通り、今は魔力量は15000ってところね」
「凄いわね。若いのにそれだけの魔力があるなんてまだまだ伸び代があるわね。私が12000よ。そっちの僧侶は、7000ね。ちなみにラフィリアは、エルフだから同じ15000って多いのよ」
「ちょ、勝手に魔力量をバラさないでよ! それに私は、これからも成長してまだまだ増えるんだからね!」
同じ魔女の冒険者は、自らの魔力量を語ってくれる。
魔力量1万超えということは、彼女も宮廷魔術師になれるだけの素質はある一流だろう。
「ねぇねぇ。魔力量は凄いけど、魔法は何が使えるの!? さっき、訓練所で《クリーン》と《ヒール》を使ってたから水と光? ちなみに私は、火と闇が得意よ」
「私が攻撃で使うのは、風が多いかな? 火魔法と違って素材は傷まないし延焼の心配もないし。あと、旅していたから結界魔法も使うことが多いわ」
「そっかぁ。確かに素材を取る時は便利よね。それと女の子の二人旅ならそういう魔法も必須よね!」
同じ魔女同士で、なんとなく意気投合することができた。
そうやって上位の冒険者たちと軽い交流を深め、食事を終えた私とテトは席を立ち上がる。
「それじゃあ、私たちは帰るわ。明日からダンジョン攻略を始めるつもりなの」
「そうか、色々悪かったな! ダンジョンで会ったら、協力しようぜ!」
そう言って、ご飯を奢ってくれたアルサスさんたちに会釈してギルドを出て、賃貸アパートに戻ってくる。
そして、夕方に外食を終えて、アパートのお風呂を使おうとした時、なんと帰宅したアルサスさんたちと再び遭遇した。
どうやら彼らもこの賃貸アパートの契約者らしいことを知り、結果としてそれが初めての隣人との顔合わせとなった。
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