5話【エルフの冒険者・ラフィリア】
アパートで起床して、ギルドに通い、資料室で本を読む。
それが読み終わったら、この町にある図書館に通う日々を1週間ほど続ける。
ダンジョン都市に来て、ダンジョンにも潜らず、ギルドの訓練所通いや図書館通いする私とテトは、ある意味目立ち、いい意味で受け入れられていた。
「テトさん、いらっしゃい! 今日もお願いします!」
「はい、なのです!」
訓練所に通うテトは、圧倒的なタフさで冒険者相手に100人組み手をしているような状態だ。
また、最初テトを勧誘しようとした人たちも、体育会系のノリと勢いなのか、テトの舎弟っぽい感じになっている。
対する私は、悠々自適な読書生活をしていた。
初めて読む本が多数有り、幾つかの魔法書も書店で手に入り、様々な魔法スキルの知識を手に入れた。
攻撃手段は【原初魔法】で十分だが、様々な伝承や逸話などに存在する魔導具についての情報は、かなり有意義だ。
魔力さえ確保できれば【創造魔法】で再現できるだろう。
例えば、実際に作ってみた物が【返呪の護符】である。
魔封じの呪いや洗脳、魅了、隷属化などの魔術的な呪いを防ぎ、相手に倍にして返す消耗型の魔導具だ。
1個作るのに、3万の魔力が必要な消耗アイテムのために、【魔晶石】に貯めた魔力も利用して生み出し、私とテトが身に着けている。
また、そうした魔導具の効果を明確に創造し、複数の効果を併せ持った武器や防具、魔導具などを創り出そうと考えたが、効果が複雑になるほど必要魔力が増えて、今はまだ圧倒的に魔力量が足りない。
たまにテトと一緒にダンジョン都市に買い物に出かけたりと、旅の中では味わえない一箇所に落ち着いた悠々自適な生活をする。
そんな感じで休暇と趣味とダンジョン攻略の準備して2週間が経ち、そろそろダンジョン攻略を始めようかという矢先、事件が起こった。
いつものようにギルドの資料室で本を読み、テトは訓練所で仲良くなった冒険者たちと手合わせしていると、聞き慣れない大きな音が響く。
「なに! 魔法でも使ったの!?」
訓練所からの大きな音に私が慌ててギルドの資料室の窓辺に駆け寄ると、濛々と土煙が立ち籠め、ギルドの訓練所の内壁が崩れていた。
そして、その反対側には、冒険者と思しき少女が弓を構えていた。
「あれは……エルフ? それに弓矢に【精霊魔法】を乗せたの?」
目に魔力を込めてエルフの少女を見れば、風精霊たちが周りから弓矢に魔力を与えているのが見える。
ちなみに【原初魔法】は、自身の魔力で自然現象を再現するのに対して、【精霊魔法】は精霊に魔力を渡して高効率で精霊に再現してもらう違いがある。
また、魔力の燃費の面では、人種よりも魔力の扱いに長けた精霊が代行するので低燃費・高威力だったりするのは、余談だ。
「約束通り、あなたに勝ったので私たちのパーティーに入ってください!」
そう高らかに宣言するエルフの少女の視線の先には、瓦礫の中から起き上がるテト。
「いたたっ、なのです! 模擬戦で怪我させるような攻撃は駄目なのです! 危ないのです!」
「なっ!? 私の必殺の一撃を!」
身体強化で防御したために外傷はないが、それでも訓練用の衣服がボロボロになっている。
「テトに怪我がないのは良かった。トラブルかもしれないし、私も行こう」
私は、慌てて資料室から訓練所に向かえば、テトとエルフの少女は、勝負を続けていた。
とは言っても普段のテトは真っ正面から模擬戦を受けるのだが、今回はテトが逃げ回り、エルフの少女が追撃をしている。
「次こそ私の必殺の一撃で負けを認めさせてあげる!」
「止めるのです! 他の人を巻き込まないって魔女様と約束したのです! それに、安全に手合わせしない人とはやらないのです!」
「なら、負けを認めて、私たちのパーティーに入りなさい!」
「いやなのです~!」
そう言って執拗にテトを追い掛けるエルフの少女。
テトは、訓練に来た冒険者が巻き込まれないように動き続けると、エルフの少女に訓練所の隅に誘導されてしまう。
「さぁ、覚悟しなさい! 今負けを認めるか! それともこの攻撃を受けて負けるか選びなさい!」
「どっちも嫌なのです!」
そう言って拒否の言葉を口にするテトに更に、エルフの少女の弓矢に精霊魔法の魔力の高まりを感じる。
「テト! ――『ラフィリア! お前、何やってるんだ!』――っ!」
私が、テトとエルフの少女の争いを止めようとした声に、男性の大きな声が被せられる。
その声が訓練所に響いたところ、エルフの少女はビクッと震え、恐る恐る振り返る。
「アルサスさん」
「おめぇ、なに勝手に他の冒険者に迷惑掛けてんだ!」
アルサスと呼ばれた風格のある戦士が現れると、訓練所にいた冒険者たちにも緊張が走る。
そんな彼の周りに斥候風な男に、妙齢の女魔法使い、そして神父風な男がいた。
「だって、私たちのパーティーには今必要な人材よ! それに私が勝てば、パーティーに入ってくれるって」
「テトに勝ったら考える、とは言ったけど、パーティーに入るとは一言も言ってないのです」
って、魔女様が言うように言われてるです! とエルフの少女の言葉を遮るテトの言葉に、アルサスと呼ばれた冒険者は、額に手を当てて、空を仰いでいる。
「お前! そういうのは、パーティーお断りの常套句だろ! って言うか、無理矢理パーティーに加入させようってことだろ! それに他の冒険者も巻き込み掛けてるじゃねぇか!」
そう言って、叱りつけるリーダー格の冒険者。
大声での怒鳴り声は、頭に響くので好きではないが、話している内容は常識的なので好感は持てる。
その間、テトはもう終ったと判断して自分が叩き付けられて崩れた壁に手を当てて土魔法で直している。
「悪かったな、うちのメンバーが迷惑掛けて。それとその壁は、こいつに修理費を出させて直させるから良かったのに」
「使い終ったら綺麗にするように魔女様に言われてるのです。だから、元通りにして次に使う人にも迷惑にならないようにするのです」
そう言ってなんでも無いようにニコニコするテトに、アルサスと呼ばれた冒険者は、出来た嬢ちゃんだ、と呟き、胡乱げな目でパーティーメンバーのエルフの少女を見つめる。
「悪かったな、うちの歳ばっかり喰った非常識エルフが迷惑掛けて」
「私は、まだ67歳の若いエルフです!」
「気にしてないのです。いつもと違う模擬戦は、面白かったのです」
リーダー冒険者の言葉に、67歳のエルフ少女が反論しているが、それを無視してニコニコ笑顔で大人の対応をするテト。
そこにアルサスが本題を切り出す。
「ラフィリアが強引で悪かった。それと改めて、俺たちのパーティーで前線の魔物を引きつけるタンクとして加入しないか?」
今度は、礼儀正しく普通に勧誘するが、テトの答えは――
「魔女様と離れるから嫌なのです。あっ、魔女様なのです!」
きっぱりと断った後、私を見つけたテトが駆け寄ってくる。
「テト、お疲れ様。――《クリーン》《ヒール》」
一応、怪我はしてないだろうが、清潔化と回復魔法を掛ける。
ただ、魔法ではテトのボロボロの衣服までは直せないので、マジックバッグから着替えを取り出して渡す。
「テト、着替えていらっしゃい。今日はもう、訓練にならなさそうだし」
「はーい、なのです」
着替えを受け取ったテトが更衣室に走っていく中、私もテトの相手をしてくれていた冒険者たちにいつもの清潔化と回復魔法を掛けて、アルサスという冒険者と対面する。
「俺は、アルサス。Aランク冒険者で【暁の剣】のリーダーをやってる」
「私は、魔女のチセよ。Cランク冒険者で、テトと一緒にパーティーを組んでいるわ」
互いにリーダー同士で自己紹介する。
「悪いな、パーティーメンバーを引き抜くような真似して、知らなかったんだ。それと少しだけ話さないか?」
「そうね。迷惑を被ったお詫びってことでお昼を奢ってくれるなら」
「了解。全部、ラフィリアに奢らせる」
「そんな、横暴よ! 横暴!」
年齢や身長差がある相手だが、どうやら侮られることもなく互いにいい話ができそうだ。
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