4話【魔女の調べ物~古都・アパネミス編~】
私とテトは、翌朝からギルドに向かった。
他の冒険者たちもギルドに向かって依頼を受けたり、そのまま直接ダンジョンの中に入っていったりする。
私たちはこのギルドでもどんな依頼が多いのか掲示板を見て確かめた後、私はギルドの資料室に。テトはギルドの訓練所に向かう。
「テトは相変わらずね」
テトは、見た目こそ褐色肌の可愛い美少女だが、見た目以上に身体強化の使い手だ。
一応、怪我させないようにセーブさせているが、ゴーレムの命令に忠実な側面を持つために、攻撃を受ける時の恐怖心がない。
いつも相手を怯ませるために魔力を僅かに込めた雄叫びを上げる冒険者の威圧に怯むことなく反撃してくるテトに、訓練所に来ていた冒険者たちも困惑しているようだ。
「さて、私は調べ物をするかな」
ペラペラとギルドの資料室にある本を流し読みする【速読】と【記憶術】で大体の本は理解が可能だ。
更に本を読んだ後、目を瞑り10秒間、昔読んだ本の知識と比較を行ない、矛盾点や相違点を洗い出す。
場合によっては、どちらかが写本時のミスだったり、参照元の資料の違いがあったり、色々ある。
ただ知識としては、めぼしいものはないが、ダンジョンの魔物と採取可能なものに関する本は、熟読した上で後で本を買おうと心にメモする。
「あっ、地図。こんなところにあったのね」
大陸全土の地図をギルドの資料室で見つけた。
縮尺も正確でないただ各国の境界線と各国の主要都市が書かれているだけの地図だが、その地図の中央、複数の国と国境線に接する空白地にそれがあった。
「――【虚無の荒野】、見つけた」
流石、遷都したとはいえ旧王都だ。
地図としての地名などは大分古いが、それでも大まかな地理は間違っていない。
そして、この王国の北の方に複数の国家が囲うように空白地があり、その地名には――【虚無の荒野】と書かれていた。
「なるほどね。ここが【虚無の荒野】……って、うん? この場所は」
縮尺の正確でない地図だが、どう見ても小国に匹敵する広さの空白地が広がっている。
だが、それよりも気になるのは――
「ここ、私が転生させられた場所じゃない?」
イスチェア王国の北部の辺境の地名には、ダリルの町の名前がある。
私が転生させられた場所は、虚無の荒野の外縁近く――ムハド帝国とイスチェア王国の国境線に近い平地だと思っていたが違ったようだ。
「ふぅ【虚無の荒野】の場所が分かった。けど、まさかあそこがねぇ」
確かに、雑草が生えてスライムくらいしかいない。
本当に、価値のあるものなど何も無い荒れた大地だった。
まぁ私が読んだ旅行記の記述が古いなら、多少雑草が生えるくらいの変化は、あり得るだろう。
「まぁ【虚無の荒野】の場所がわかったし、次は、その場所を手に入れるだけの名声とお金ね。もっと冒険者としての実績が欲しいな。やっぱり当面はダンジョンで資金稼ぎかな」
そう溜息を吐きながらも、【創造魔法】で創り出した紙に地図を描き写していく。
そして、本を戻し、新しい本を手に取る。
そうして、昼食を取った後も資料室を読み漁り、ギルドで売られているダンジョンの魔物図鑑と公開されているダンジョンの地図を購入する。
「そろそろ夕方ね」
夕暮れ時になれば、私はテトを訓練所に迎えに行く。
「魔女様! おーい、なのです!」
「テト、相変わらずね」
体力お化けのテトは、朝から夕方まで冒険者相手に模擬戦をしていたようだ。
死屍累々と挑戦者は倒れている。
「それで、今回は、何組いたの?」
「えっと……三組なのです!」
この三組とは、テトの容姿や模擬戦での実力を見て、パーティーに勧誘しようとする冒険者たちの数だ。
各地のギルドで同じようにテトの技術向上と気晴らしのためにやっていたのだが、強引に誘ってくる相手が居た。
その度に私が出ていって相手をするのも面倒だったので――『私を倒せたら、パーティー加入を考えてもいい、なのです!』と言わせている。
大体、強引な勧誘に挑発をすれば、乗ってくる脳筋冒険者は多いので、そこでテトが勝てば、黙らせることができる。
最悪、それでテトが負けた場合は、私が出ていって話を付けることになっているが、今まで一度も負けたことがない。
「そう、お疲れ様。それじゃあ――《クリーン》《エリアヒール》!」
私は倒れている冒険者たちにいつものように清潔化と回復魔法を使う。
「テトの訓練相手をしてくれたお礼よ。しばらくはお願いね」
いつものようにお礼の魔法を掛けてから借りているアパートの一室に戻り、夕飯までの間にポーションなどを作る。
「ダンジョンには、魔力吸収の罠があるらしいからマナポーションを用意しないとね」
たとえ【魔晶石】で魔力を代用できても、【魔晶石】から魔力を吸収して回復はできない。
魔力吸収の罠で魔力が枯渇状態になれば、あの吐き気などの体調不良でまともに戦闘を継続することができないだろう。
たとえ、魔力量が15000を超えた今でも、そういう時の即時回復手段は、必要だと感じた。
「そうなのですか~。テトの方も色々とダンジョンの話を聞けたのです~」
それからテトの方では、模擬戦相手の冒険者と仲良くなってダンジョンの話を聞けたようだ。
本では分からない情報は価値があるが、テトの表現力だと若干分かりづらく、何度も繰り返し聞いて理解する必要がある。
まぁ、その時間が謎解きみたいで、楽しかったりするのだ。
そうして、ダンジョン都市での生活は少しずつ始まった。
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