3話【魔女一行、ダンジョン都市に入る】
護衛依頼を受けた私とテトは、ダンジョン都市の一つ手前の町で依頼達成した後、そのまま歩いてダンジョン都市に向かう。
「本当に、この辺は魔物が少ないわね。あっ、薬草」
「魔女様! こっちにもあったのです!」
私たちは、のんびりと街道沿いを薬草採取しながら進んでいる。
場所は変わっても生える薬草の種類は変わらないので、慣れの作業だ。
そうして、夜になれば、町で買い足した食材と【創造魔法】で創り出した調味料などを使って料理をする。
「今晩は、カブのクリームシチューで良いわよね」
「はいなのです! とろとろのカブと厚切りベーコンが美味しいのです!」
「残念だけど、今日は、鶏肉よ」
「鶏肉でも美味しいのです~」
以前倒して、解体した鳥系魔物の肉を一口大にして、鍋に入れる。
そうしてできたクリームシチューをパンに浸して食べたり、【創造魔法】で創り出したご飯で食べたりとその日の気分で食べる。
そして、夜になれば――
「魔女様、準備はいいのですか?」
「ええ、ちゃんと目隠しも用意したわ」
テトが作った石の湯船の周りには、金属の支柱と目隠しの撥水性の布を掛けた簡易的なお風呂を作った。
更にその周囲には、【原初魔法】の結界も張っており、久々にお風呂に入る準備を整える。
「さぁ、お風呂入れるわよ。――《ウォーター》《ファイアーボール》!」
石の湯船に水を注ぎ、火球の魔法で水を温める。
また、作り置きした乾燥させた柑橘系の皮や薬草を混ぜて袋に入れた物を湯船に沈めて薬湯にする。
「ふぅ、一日の終わりは、これよね」
浄化魔法による汚れ落としとは違い、柑橘系の香りに気分的な高揚感も生まれる。
そして、テトと互いに髪の毛を洗い合い、ほかほかと体が温まったところで眠りに就く。
疲れ知らずのテトは、いつものように不寝番に付き、1日が終わる。
そうした旅の野営慣れした私たちは、数日を薬草採取しながら進んだ結果、ダンジョン都市である古都・アパネミスに辿り着く。
「さて、辿り着いた」
町への通行は、冒険者用の列に並び、処理される。
どこの町でも冒険者の行動は妨げないために非常にスムーズだが、ダンジョン都市は、冒険者が経済の中心のために更に扱いがいい。
門番にギルドの場所を聞き、迷わずそこに向かえば、この都市に誕生したダンジョンの傍にギルドが建てられ、ダンジョン入口を管理しているらしい。
「まぁ、ダンジョンとかのことは後回しで少し情報収集ね」
「えー、ダンジョンの魔石、欲しいのです~」
「はいはい。その代わり、ギルドの訓練所には、いい訓練相手がいると思うから行くといいわ」
「はーい、なのです!」
現金なテトの様子に微笑みを浮かべながら、ギルドの受付に行く。
「こんにちは。今日、この町に来たから挨拶に来たわ。これは私たちのギルドカードよ」
「ようこそ、いらっしゃいませ。拝見させていただきます」
フードを目深に被った怪しい子どもだが、ギルドカードを先んじて提示すれば、問題は少ないことはこの一年の旅で学んだ。
またダンジョンの挑戦には、Dランク冒険者から可能になるらしく、地方からダンジョン目当てでやってくる冒険者は珍しくないだろう。
ただ、私のような子どもの背格好でCランクに軽く驚かれた。
「ありがとうございます。今後は、どのような予定でしょうか?」
「しばらくは、ダンジョン挑戦のために長期滞在する予定よ。宿……は割高になるから借家とかはないかしら? 長期で借りられるものが良いわ」
しっかりと受け答えした私に戸惑いつつも外見よりも大人だと判断した受付嬢は、幾つかの資料を取り出す。
「それでしたら、ギルドと提携する不動産屋が管理する借家が幾つかあります。その他には、元・冒険者が経営する一室だけの賃貸住居もあります」
話を聞くと、家を丸ごと借りるよりもアパートのような形式の賃貸もある。
私とテトは、基本寝に戻るか、荷物を少し置くだけであるが、アパート管理は元冒険者の人たちがしてくれるのでセキュリティーもバッチリらしい。
「なら、その賃貸住居を借りたいから紹介状をお願いします」
「わかりました。少々お待ちください」
「それと、待っている間に、素材の納品をしたいのだけれど……」
「それでしたら、あちらのカウンターにお持ちください」
私とテトは、素材カウンターの場所を確認し、そちらに移動して、道中で採取した薬草を取り出す。
「これらの薬草の買い取りをお願いします」
「かしこまりました。すぐに査定しますね」
時間遅延型のマジックバッグに入っていたために、鮮度は良好だ。
将来的には、私の魔力量を増やして、幻とも言われる時間停止型のマジックバッグを創造したいものだ。
そんなことを思いながら待っていると査定結果と紹介状の用意が終ったようだ。
「こちら、とても品質のいい薬草なので、銀貨6枚にさせていただきました。それとこちらは賃貸住居の紹介状とその地図になります」
「ありがとう、早速行ってみるわ」
そう言って、私はテトを連れてギルドから賃貸住居に移動する。
二階建ての建物で建物の外側の扉から各々の部屋に入る様子にアパートのように感じる。
賃貸は、一ヶ月小金貨2枚だったので、とりあえず半年分の小金貨12枚を一度に支払ったら、驚かれてランクを聞かれた。
「Cランクよ。ただ、あんまりお金を必要とする生活をしてなかっただけ。それより聞きたいことがあるけどいい?」
「はい、なんでしょうか!」
「この賃貸ってお風呂があるみたいだけど、どこかしら?」
「あー、風呂はありますよ。裏手に」
ダンジョンの魔物を倒せば、死体と血は消えて、魔石や魔物の素材が残るので汚れにくい。
だが、冒険者の依頼には、ダンジョン以外の依頼もあるので町の外から帰ってくれば、返り血で汚れている場合がある。
それを洗い流す用の風呂らしい。
「自分たちで入れる分には、自由に使って良いのね」
「水の移動とか薪代が自前で、使い終わったら清掃してくれるなら構わないよ」
「わーい。しばらくお風呂に入れるのです!」
すっかり風呂好きになったテトに私は苦笑を浮かべつつ、借りる部屋にやってきた。
2階の角部屋を借りた私たちは、その部屋の真ん中に旅の途中で手に入れたお気に入りのベッドを取り出しておく。
これは、私とテトが一緒に寝ても十分な大きさの上等なベッドを創造魔法で作り出したのだ。
最高級ベッドの創造には、【魔晶石】の魔力も借りて3万魔力ほどかかった。
ヒドラを両断した刃状の金属の塊に比べたら、職人の技術や細かな知恵と工夫が凝らされているので、質量的には劣っていても今まで創造した中で2番目に大きな創造物だ。
そんなベッドにテトが飛び込むのを見て、私は苦笑を浮かべつつ、続いて備え付けのテーブルに【創造魔法】で創り出した調合道具を置いていく。
気が向いた時にでもマジックバッグに入っている薬草で手慰みのポーションでも作ろうか、と考える。
「さて、明日からはギルドの資料やダンジョンの情報を調べましょう」
「その前にお腹が空いたのです~」
「それじゃあ、食事に出かけましょう」
テトがベッドの上でジタバタするので、少し早いが近くの食堂に向かった。
そこでは、ダンジョン産の魔物料理やそのダンジョンで見つかった調味料が使われていたのか、かなり美味しい料理に満足しながら、アパートに帰ってくる。
そうしてダンジョン都市・アパネミスでの一日を終えた。
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