2話【最初にガツンと、躾けは大事です】
「おう、嬢ちゃんたち。今日はよろしく頼むな!」
「ええ、こちらこそ、よろしくね」
ただダンジョン都市に向かうだけでは味気がないと私とテトは、その方面に向かう商隊の護衛依頼を受ける。
寄り道している1年の間に、魔物や盗賊に襲われたのを助けた後、護衛を引き受けることが何度かあり、ギルドを通していないが一応護衛依頼の経験があったりする。
ギルドで護衛の依頼を受けた私とテトは、依頼主にギルドカードを見せると、驚きの表情を浮かべる。
「嬢ちゃんたち、若いのにその歳でCランクなのかい?」
「上がったばかりだけどね」
「いやはや優秀なんだね」
フードを目深に被った魔法使いの格好をしている私を侮る様子はなく、内心ホッとする。
そして、護衛依頼を受けた冒険者たちも集まり始めて冒険者同士で自己紹介する中、一組の冒険者たちが私たちのことを不愉快そうに見つめ、突っかかってくる。
「おい、女と子どもが護衛依頼に参加して失敗したらどうするんだ? それとも他の冒険者に守ってもらって、依頼を達成する魂胆か?」
明らかな貶む態度にフードの下で私は、深い溜息を吐き出す。
冒険者の中には、男尊女卑の考えを持つ人たちもいる。
確かに冒険者の世界では、どちらかと言うと男性冒険者の方が比率が多い男性社会ではある。
だが、女性冒険者にも優秀な人は居るし、これから護衛依頼が始まって互いの連携が必要になるのにそれを止めない仲間の冒険者たちも、どういうことだろうか。
「おい、何とか言えよ。チビガキ!」
いいだろう、その喧嘩を買おう。
「テト」
「はい、なのです!」
慣れたように私が指示を出すと、テトは文句を言った冒険者の腹を殴る。
あまりに自然な動きに誰も止めることができずに全員が唖然とする中、殴られた相手は、革鎧越しに浸透した衝撃で腹を抱えて、蹲るように倒れる。
そんな相手に私は、杖を突きつける。
「それじゃあ――《ヒール》」
回復魔法でテトに腹部を殴られた相手は、苦しみが和らぎ、顔を上げる。
腹部を殴られた事で一瞬、意識も飛んでいたようで呆然とした表情をしていた。
「うっ、俺は……」
「私たちに不当な言い掛かりをしたからテトがその喧嘩を買って、あなたは殴られた」
「てめぇ、よくも!」
「そーい! なのです!」
相手の冒険者が食って掛かってくるので今度は、テトの左ストレートが顔面を捉える。
今度は相手も身体強化をして構えていたのでテトが更に力を込めて殴った。
その結果、相手の冒険者は、地面に一度バウンドして跳ねて倒れている。
「よし、生きてるわね。流石、冒険者――《ヒール》」
再び回復されて起き上がった相手は、こちらに怯えるような目で見ている。
「な、なんなんだよ。お前たちは……」
「さて、これで私たちの実力は分かったわよね」
そう言って、こちらを侮った冒険者たちに向けて魔力の威圧を向ける。
それに相手がビクッと震えたので、私の威圧が終わった後、仲間から責められていた。
その後、こちらを見守っていた今回の護衛依頼を務めるリーダーの冒険者がにこやかに私とテトに話しかけてくる。
「災難だったな。あんた、魔力量を隠蔽してるだろ?」
「ええ、そうよ。どうして分かったの?」
「魔法使いにしては少ないって感じた。だから、逆に抑えてるな、って判断したんだ。まぁこれが判断できるのは、Cランク相当の冒険者からかな」
そう言って、親切に教えてくれる先輩冒険者。
つまり、Dには侮られ、C以上には魔力量は分からないが、ランク相当の実力はあると思われているようだ。
「ありがとう。冒険者になってまだ1年ほどだし経験も浅いから色々と教えてもらえて助かったわ」
「別にいいって。依頼中は、その回復魔法、頼りにしてるぜ」
そう短い会話をして、商隊の出発時刻が来たために、私たちの護衛依頼は始まる。
三日を予定する護衛依頼は、順調だった。
時折、魔物が襲ってくるが、各人が上手く対応して倒してくれる。
ただ私とテトが最初に躾けた冒険者は、なんとなく周囲の警戒以外にも私とテトに怯えるように警戒しているために、他の冒険者に怒られたり、精神的に疲弊しているようだ。
また野営も【創造魔法】で用意しておいたインスタントスープなどを用意して食事をしていたら、前みたいに他の冒険者や護衛の商人たちにスープを求められて一杯銅貨3枚で売ることになった。
夜は、交代して警戒しつつ、テントで眠りに就く。
唯一、テトが地面を操作して作った湯船に魔法でお湯を貯めて入るお風呂に入れず、清潔魔法の《クリーン》だけだったのが、護衛依頼での不満点である。
こういう所が私たちの行動を制限するので、やっぱり集団での依頼よりテトと二人の方がいいなと思ってしまう。
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