27話【突発的な魔物の暴走と防衛。そして、創造による暴威】
お見合いパーティーは、成功に終わったようだ。
何組かカップルが誕生し、またカップルとは別にこの村に移住していいと言う人もいた。
なので、時間を掛けてゆっくりと互いを知り、ゆくゆくは新たな家庭を作るだろう。
そう思いながら私とテトに割り当てられた小屋で寝ていると、激しい震動を感じ、反射的に飛び起きる。
「テト! 何か来る! すぐに備えて!」
「はいなのです!」
杖を片手に飛び起きる私と、その後に続くテト。
それに他の冒険者たちも開拓事業を続けていたとは言え、冒険者としての勘は鈍っていないのか、素早く各々の家から飛び出す。
「チセさん! なんだ、コレは!」
真っ先に私に尋ねてくるガッシュさんに、首を横に振る。
「分からない。みんな、非戦闘員の誘導を!」
「わかりました! それなら村長宅の地下室に案内します!」
「お願い! ――《フライ》!」
私は、ガッシュさんたち冒険者たちに避難誘導をお願いし、飛翔魔法で高く飛び、森の方を見つめる。
魔力を目に集めて、夜の森を見通そうとする中、森の中に無数の怪しい光を見つけた。
「あれは、魔物……このままだと折角作った村が……」
地上を走る魔物の姿を見るに、幾ばくの猶予もない。
「テト! すぐに村を囲うように防壁を作って!」
「はいなのです!」
私の指示でテトは、村と森の境界の土を操作し、高さ5メートルほどの圧縮した土壁を作り上げる。
小さな開拓村一つを囲う大魔法に冒険者や避難中の移住希望者たちが驚く。
その中で私とテトは、高い土壁の上に乗り、北から迫る魔物たちと対峙する。
「やるわよ。――《ウィンド・カッター》!」
森から現れた魔物に無数の風刃を放ち、魔物たちの体を切り刻む。
三十は超える魔法が魔物たちを一掃する中、その間を縫って現れた魔物たちが村を囲う壁に迫ってくる。
「さぁ、やるのです!」
そして、壁の上から飛び降りたテトは、迫る魔物たちを次々と剣で切り伏せる。
テトの魔力を浴びた黒い魔剣は、魔物を易々と斬り裂き、テトの体に噛み付く魔物もテト自身の【身体強化】による防御で阻まれ、膂力で容易に振り回される。
「チセの嬢ちゃんたち! 俺たちもやるぞ!」
「テトの嬢ちゃん、前に出すぎだ! 戻ってこい!」
冒険者たちも非戦闘員を村長宅の地下室に誘導し終えたようで、次々と集まってくるが、それでも構わずに嬉々として魔物たちを叩き斬り、返り血を浴びている。
「テトは平気よ。勝手にやらせておいて」
「ああ、そうする。あそこに飛び込む勇気はねぇよ」
魔物の強さとしては、DやEランクなどの低位の魔物だろう。
だが、それが森から際限なく現れて、テトを恐れることなく次々と襲ってくる。
それどころか村の壁に沿うように何かから逃げているようにも見える。
「それじゃあ、塀の上から魔物の侵入を防いで。間違って壁の外に落ちないでね」
「わかった。って言っても、この程度の魔物なら、五分は耐えられる!」
その程度の時間があれば、自力の跳躍で壁に登って脱出できると言う。
流石、そろそろ開拓村に腰を据えようというものの、Cランク相当のベテラン冒険者たちだ。
「それじゃあ、私は、森の奥へ向かうわ」
「おい、一人で行こうってのか!」
開拓団を引っ張ってきたリーダー格の冒険者が私を止めようとする。
だが、私は、それに対して首を横に振る。
「原因を排除しないとジリ貧の可能性もあるわよ。それに私は空を飛んで様子を見に行くけど、付いてこられる人はいる?」
そう言うと、冒険者たちは黙ってしまう。
飛翔魔法など高度な魔法を見せられて、皆黙ってしまう。
「それじゃあ、行ってくるわ。テト、みんなを守ってあげて!」
「はい、なのです!」
魔剣を振り回し、ニッコリと私に笑みを向けるテト。ただ、べっとりと返り血を浴びているので、終わった後はお風呂かな、などと思ってしまう。
そして一人、夜の森に向かって飛んでいくと森の木々が倒れ、山の中にポッカリと穴が空いているのが見えた。
「なに、アレは? ――《ライト》!」
穴の上空に留まり、照明のための光魔法を打ち上げる。
そして、森の中に空いた大穴の中身が露わになる。
「魔物。アレは、竜?」
のっそりと現れる緑色の体表を持つ生物は、長い蛇のような鎌首を持ち上げ、逃げ遅れた魔物を丸呑みにしていた。
それもその頭は一つではなく四つ存在し、四対の目が灯りを打ち上げた私を見つめていた。
「多頭の竜――ヒドラってやつかしら?」
ダリルの町の魔物図鑑で見たが、ヒドラは、高い再生能力を持ち、頭が多いほど厄介さを増すらしい。
三つ首でCからB-ランク、四つ首でBランクに匹敵するだろう。
「三つ首のCランクだったら、開拓村の冒険者たちが束で掛かれば倒せるだろうし、四つ首だったら犠牲を払えば倒せるかも。でも――」
ここ一ヶ月近く、共に生活してきた相手が犠牲になるかもしれない。
そんな思いが頭を過ぎり、一瞬考えを巡らせている間に、四つ首のヒドラが私を丸呑みにしよう首を伸ばして狙ってくる。
「ちっ! ――《ウィンドカッター》!」
襲い掛かってくるヒドラの頭部を掻い潜りながら、その頭部や首に風刃を放っていく。
オーガと対峙した際、薄皮一枚しか切り裂けなかった反省を生かして魔力を多めに込めたのに、皮膚の下数センチほどしか切れなかった。
『『『――キシャァァァァァァッ!』』』
強力な魔物との評価に見合う身体強化による硬度を持つ上に、魔物の特性として斬り裂かれた部位が泡立ち、すぐに傷が再生されてしまう。
「面倒。だけど、体の強度としては、オーガと同等かな? これで終わりよ! ――《ハードシュート》!」
私は、マジックバッグから4つの魔晶石を取り出し、オーガを倒した時と同じように加速して打ち出す。
超硬化した結晶体がヒドラの頭部に突き刺さり、貫通し、力なく頭が落ちていく。
「ふぅ、これで討伐完了……じゃないか」
地面に落ちて地響きを上げるヒドラの頭だが、傷口が泡立ち、再生して再び持ち上がる。
「普通は、脳を破壊されたら終わりだけど……ああ、どれか一つの脳があれば、再生するのか」
倒れたヒドラの首の付け根に隠れるようにまだ小さな五つ目の頭が生えていた。
「じゃあ、今度は、逃がさない!」
再び再生したヒドラの首を五つとも破壊するために【魔晶石】を放っていく。
だが、ヒドラの五つの頭は、私の攻撃を学習したのか、一番大きな頭が魔結晶を全て受け切る。
そして、ズタズタになる頭部だが、それもヒドラとしての再生力で治っていく。
「ホント、無理ゲーよね! 五つの頭を同時破壊とか――よっと!」
『『『――キシャァァァァァァッ!』』』
激しい水流のようなヒドラのブレスが放たれ、それを掻い潜り避ける。
これが炎や毒のブレスだったら、山火事や汚染が起きていたかも知れないために、水流のブレスは、不幸中の幸いだろう。
だが、水流のブレスでも何度も地表に放たれれば、森が荒れてしまう。
「一人でヒドラを倒す……どうする。どうやって倒す!」
幸い、本体は重鈍なために逃げること自体は容易だ。
だが、一度にヒドラの五つの頭を同時に破壊する威力の魔法はない。
なら、ヒドラの頭に繋がる体を完全に破壊すれば、実質、首を落としたようなものだ。
「さぁ、やりますか!」
私は、飛翔魔法でヒドラの胴体のほぼ真上まで高度を上げる。
五本の首を伸ばしても届かない高さ。
そこでマジックバッグに貯めていた大量の魔晶石を取り出す。
私の魔力を呼び水として、取り出した魔晶石から魔力を引き出す。
膨大な魔力が私に集まり、その負荷で魔晶石が次々と砕けていく。
「1000魔力量が貯められていた魔晶石が100個! 全部で10万魔力を使った創造魔法だ! ――《クリエイション》ギロチン!」
10万の魔力からヒドラの胴体を両断するための巨大な処刑刃が誕生し、空中に浮遊する。
「落ちなさい!」
そして、私の残りの魔力で落下の道筋を着け、闇魔法の加重により加速度を増して落ちていく。
『『『――キシャァァァァァァッ!』』』
頭上を見上げて逃げようと重鈍な体を引き摺るように動かすヒドラだが、頭上から迫るギロチン刃が胴体と頭部の付け根に落ちる。
大質量の落下の衝撃に、それを受け止めるヒドラの胴体がザックリと両断されて、首だけが地面を這うように逃げ回る。
「まだ生きてるのね。しぶとい。けど、目に見えて魔力が減ってる?」
多分だが、ヒドラの頭部が再生の特性を司り、それを支えるのは胴体の魔石から供給される魔力なんだろう。
それが一斉に両断された結果、パニックになった頭部がそれぞれ這うようにして逃げようとしているのだ。
だが、首同士が根元の胴体の肉の一部で繋がっており、互いの頭が足の引っ張り合いをして逃げ出せない。
「さて、残り魔力も少ない。早いところ倒そう」
処刑刃の創造の大部分は魔晶石で賄ったが、それでも私の魔力を使っている。
残り魔力量が少ない中、私はマジックバッグから自作のマナポーションをクイッと飲み、魔力の回復をする。
「創造で作ったやつより回復量が高い。やっぱり、創造魔法産のやつは非効率ね」
一本で魔力500程度回復するやつだ。
普通の魔法使いなら十分だが、私としては、1割程度の回復量では満足できない。
それでも急速な魔力の減りを緩和したことで、精神的に落ち着く。
そして、私の体ほど大きなヒドラの頭部をどうやって破壊すればいいか、思案する。
「一応、まだ予備の魔晶石があるから――《ハードシュート》!」
今度こそ、逃げられないヒドラの頭部に硬化した魔晶石を高速射出して頭部を完全に破壊し、沈黙させる。
「ふぅ、とりあえず、ここに結界を張って、朝まで待とう」
流石に疲れた。
五つ首のヒドラはAランク。いや、未発達だからA-だろうか。
それでも人類の脅威になる魔物を倒したことに疲労感を覚え、ヒドラの血の臭いが充満するこの場所に自身を守る結界を張って休む。
そして、2本目のマナポーションを飲みながら、近くの木に背を預けて、フード付きのマントに包まるようにして夜を過ごすのだった。
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