22話【オットー市の依頼】
「ありがとう。楽しかったわ」
「ありがとうなのです!」
「おう、嬢ちゃんたちも元気でな!」
乗り合い馬車を降りた私とテトは、御者や馬車でそこそこ話した人たちと別れを告げて、門番に聞いたギルドに向かう。
「この町には、どんな依頼があるのかしらね」
「どんな依頼でもテトが頑張るのです!」
そう言いながらギルドに入り、中を確かめる。
女の子二人がやってきたので、ギルドに居た人たちの視線が集まるのを感じ、受付嬢のいるカウンターに向かっていく。
「こんにちは。この町にさっき来たから挨拶に来たわ。これギルドカード」
「私もなのです!」
私とテトのギルドカードを受け取り、そしてDランクであることを確認してカードと私たちを二度見する。
フードを被った魔法使いの子どもと童顔巨乳な美少女の剣士が、一人前とされるDランクであることに驚いている。
「ギルドとしてオススメの宿はあるかしら? 見た通り、女性パーティーだから安全性の高いことを希望するわ」
「それでしたら、大通りの宿にいいところが一軒あります」
詳しい場所を聞いて、今日はそこに泊まることを決め、カードを返してもらう。
「依頼は明日から受けると思うからその時はよろしくね」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
まだ年下なのに大人びた話し方をする私に驚きつつも、ちゃんと受け答えしている。
そして、私とテトは、依頼掲示板を見る。
「うーん、うーん。分からないのです! でも、この依頼は薬草採取なのです!」
「そうね。でもそこはGランクの依頼だから、見習い冒険者の依頼を奪っちゃダメよ」
まだ文字が読めなかったテトだが、依頼を通して簡単な単語と数字を判断できるようになっており、日々の成長に驚かされる。
そんな中、DとEランクの依頼を確認していく。
「改めて見ると、色々な依頼があるのね」
討伐依頼はもちろんだが、Dランクからは護衛依頼や魔物の素材の収集依頼、近隣の村々からの依頼、金持ちの商家からの依頼などがある。
「さて、明日貼り出される新しい依頼も合わせて見てから受けましょう」
そう言って私たちは、掲示板から離れて、ギルドを出る。
そして私とテトは、ギルドに勧められた宿に泊まる。
値段は、ダリルの町の宿屋よりも少し安い大銅貨8枚でベッドや食事の質は、そこそこだった。
食後に物足りなさを感じた私は、【創造魔法】でダリルの町で食べた美味しい屋台の串焼きを1本作って食べ、テトに抱き締められるような形で眠りに付き、翌朝も朝一で貼り出されるギルドの依頼を見に行く。
「えっと……あっ、この依頼。いいかも」
「魔女様~? それってどんな依頼なのですか?」
「Eランクの依頼で【開拓村の後方支援】だって」
具体的な内容は、ここから三日ほど行った場所にある開拓中の新たな村への支援だ。
既に森を切り開いて、村ができていて、開拓事業に参加した冒険者たちがそこで村人になる予定らしい。
ただ、力自慢の冒険者たちに開拓事業は任せるが、日常的な支援は別の冒険者に求めるようだ。
報酬は、食費などはギルド持ちで、一人当たり、銀貨1枚だ。
私とテトの二人合わせれば、銀貨2枚。
この開拓事業は、オットー市を含む幾つかの都市を管理するギャスパー伯爵家が主導で行なわれているようだ。
「とりあえず、話を聞きに行こうか」
「はい、魔女様!」
私は、依頼書を持って受付の人に話を聞きに行く。
「すみません。この依頼、どういう内容ですか?」
「はい。あっ、受けてくれるのね。依頼の業務の内容は、食事の用意、衣類の洗濯、冒険者たちが倒した魔物の現地での解体と町への輸送、負傷した冒険者たちに対しての治療行為などです」
「なるほど……わかりました。この依頼を受けます」
「ありがとうございます。それでは、受理しますね」
依頼を受理した私とテトは、その足で依頼の開拓村に向かって歩き出す。
いや、正確には【身体強化】で、三日の距離を一日半で一気に駆け抜けるのだ。
馬車ののんびりした旅も悪くないが、【身体強化】で駆け抜けるのもまた別の楽しさがあった。
そして、話に聞いた開拓村に辿り着いた。
木々が切り倒され、複数の冒険者たちが古い家の跡地にテントを張って、しばらくここで寝泊まりしている様子が窺える。
ただ――
「酷い……」
そこかしこに魔物の返り血や体液で汚れた衣類や、開拓事業として送り込まれた食材が散らかり、飲み終わった酒瓶が転がる。
村ができていると言うが、テント村だとは思わなかった。
「すみません! 後方支援の依頼を受けに来ました!」
「新しいやつが来たか! おーい、監督官を呼べ!」
「ガッシュさん、お客さんですよ!」
この開拓生活に疲れているのか、一人の青年がよろよろと立ち上がり、私たちのところに来る。
ただ、私とテトの姿を見て、落胆する。
「はぁ、女子どもが二人か。まぁ、料理くらいはまともになるよな」
「私はチセ。それとこっちがテト。それであなたは?」
「ああ、僕は、この開拓事業の監督官で、村が軌道に乗ったら代官に就任する予定のガッシュ・ギャスパーだよ」
「ギャスパーって確か開拓事業の……」
「そう、一応王国の伯爵家の一員だけど……まぁ、味噌っかすの七男だよ」
貴族といっても三男辺りまでは地位と仕事にありつけるが、それ以外はめぼしい身の振り先がないらしい。
なので平民に紛れたり、武官や文官になったり、こうして開拓事業で成果を出して独立する他ないのだとか。
「とりあえず、なんなんですか、この状況は?」
フードを被ったまま、厳しい視線をテントで雑に寝ている冒険者に向けると、当人も困ったように頭を掻いている。
「開拓事業って言っても、魔物に襲われて滅んだ村の復興なんだよね。だから、決まった範囲の木を切り倒して、森の魔物を駆除して、人を呼んで終わりと思ったけど……」
「日々の生活能力がないから場当たり的なのね」
それに監督官もたとえ貴族の七男坊でも一応貴族だ。生活能力が皆無なのか。
家の跡地も整備しないとだし、長い間放置されていたのか、昔畑だった場所まで樹木が侵食している。
生活基盤がほとんどない状態だ。
本当によろしくないと私は、こめかみに指を押し当てる。
「それじゃあ、ガッシュさん。普段、開拓事業をしている人って、どのくらいの人がいるの?」
「4パーティー20人ほどだ。ほとんど男所帯だよ」
家を持ちたい妻帯者の冒険者は、堅実にお金を貯めてどこかの畑を買い取るらしい。
ここに居る人たちは、独身冒険者が中心だ。
開拓事業を成功させれば、この地に定住する家と土地持ちに、冒険者に戻るなら伯爵家が報酬を払うことになっている。
開拓事業の成功には50人、いや将来的には100人ほどの人を受け入れられる状態にしなければならない。
「とりあえず、パーティー毎にしっかり雨風凌げる場所が欲しいわね。そうなると五軒ほど家を復活させないと。テト!」
「はい、なのです! ――《ブロック》!」
テトは、使われていない近くの家の跡地に手を当てる。
すると、遺された家の石壁がガラガラと崩れてバラバラになる。
「うぉっ!? 何するんだ!」
「いいから、見てなさい」
テトが崩した石たちは、テトの土魔法によって汚れが落ち、不揃いな石が粘土のように千切れて、くっついて大きさが均一な石材になる。
そして、それが昔の家の土台の上に整然と積み上がっていき、あっという間に四方に壁ができる。
「あっ、魔女様、天井と入口がないのです」
「それじゃあ、入口は作って、壁の二辺を三角形にして。そこに梁を渡して、布を掛けておくから」
「はいなのです!」
途中で修正して、古い家の残骸を二つ消費して一つの家ができあがる。
「おおっ、すげぇ……」
「とりあえず、開拓に来た冒険者たちは、この家を使ってね。その辺でテントを張られると困るから。テト、無理しない範囲でその調子でね!」
「はいなのです! ――《ブロック》!」
二つ目の家を作り始める一方、私も開拓地の状況を確かめる。
「家の建設は、後から入ってくる人たちに任せるとして――ガッシュさん、この村の古い地図とかないの?」
「えっ、あっ……ありません!」
「なら、紙でも木でもなんでもいいからこの村の今の状況を書き出して」
「は、はいぃぃぃっ!」
年下の少女である私に凄まれて、慌てて準備し出すガッシュさん。
こんな人が開拓村を管理して大丈夫なのだろうか。いや、こんな人だから、こんな悲惨な状況になっているのだろう。
「おおっ、すげぇ、ガッシュに言うこと聞かせたぞ」
「って言っても俺たちだって、酒が欲しいって頼み込めば、ホイホイ出してくれるしな」
「違いねぇ!」
そんな軽口を叩く冒険者たちに対して私は、キッと睨む。
「食材とかの管理は私たちがするから、今までみたいにバカスカお酒を飲めるなんて思わないでね」
「おいおい、そりゃねぇぞ! 唯一の楽しみが!」
「そうだぜ! 金払いがいいって言ってもこんな開拓村に娯楽なんてありゃしねぇだろ! ふざけんな!」
まぁ、状況を見てもごもっともだ。
だが、ここで引いたら全部破綻する。
「なにか、文句、ある?」
全力で魔力を放出して威圧する。
私の威圧に仮眠を取っていた冒険者たちも慌てて目を覚ましたところで、私は魔力の放出を止める。
「私は私の仕事をするわ。私たちが管理すべき村の食材に手を出させるわけにはいかないわ。その代わり、開拓の途中で狩った魔物を食べるのも、売って金銭を得るのも自由だし、この開拓村に来た商人から自分で買うのも自由よ」
「わかった。悪かったよ」
威圧で黙らせ、理性的な説得でリーダー格の冒険者を黙らせる。
「魔女様~、お家ができたのです~」
「そう、それじゃあ、冒険者のみんなは、その家を使ってね! もちろん、今使っている場所のゴミも片付けて一纏めにしておいて、私が焼却するから」
そう言って私の威圧で目を覚ました冒険者たちは、ノロノロと動き始める。
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