21話【初めての馬車の旅】
ガタゴトと揺られる乗合馬車で次の町に向かう私とテト。
「これは、思った以上にキツイか。(――《クリエイション》クッション)」
硬い荷台と揺れる道にお尻が痛くなることを早々に察知した私は、マジックバッグの内側でお尻に敷くクッションを二つ小声で創造魔法を唱えて創り出す。
レベルの上昇と不思議な木の実を食べ続けたことで魔力量が4000の大台を超えて、創れる物の範囲がグッと広がっている。
ただ創造できる範囲が広がっているのだが、場当たり的に欲しい物を作るだけなので、特に活用しているのは、魔力タンクである魔晶石を作るくらいである。
「はい、テト」
「ありがとうなのです!」
最初は、町から離れる乗合馬車の旅、というものに少しばかり興奮したが、進む速度は遅いし、風景も変わらない。
「テト、ドライフルーツ食べる?」
「食べるのです!」
「テト、水を飲む?」
「貰うのです!」
暇すぎるのでやることと言えば、ダリルの町で買っておいた食べ物を口にするか、本を読んで過ごすかくらいだ。
そして、そんな私たちを他の乗客がチラ見して、興味無さそうに静かにする。
揺れる馬車で酔いそうではあるが、頭部に魔力を集中させれば、記憶力の向上の他にも三半規管なども強化されるので本を読む分には心配ない。
「なるほど……他の魔法には、こういうのがあるのか」
購入できた魔法書は、基本的な火、水、風、土の下位の魔法であり、その呪文や魔法陣などが書かれているが、魔法には様々な技能的な要素がある。
それを組み合わせていけば、中位や上位の魔法が扱えると予想し、メモ用の紙とペンを取り出して、考えをメモ書きに残す。
これが完成したなら、オーガのような相手に魔晶石を使わないで済む。
「お嬢ちゃんは、魔法書を読んでるみたいだけど、魔法使い見習いなのかい?」
「うん? まぁ、似たようなものかな」
「へぇ、すげぇ。どんな魔法が使えるんだい?」
「だいたい、明かりを灯す魔法とか清潔化の魔法とかそんな日常的なやつと攻撃魔法が少し」
そんな感じで魔法について一人考察して本を読みながら、他の乗客から話しかけられたことに受け答えする。
フードを深く被って顔とかよく分からない私は、見るからに怪しい。
少年か、少女かの判断が尽きにくいだろうが、ローブ下のワンピースを見て、女の子だと判断しているのだろうか、お嬢ちゃん、と話しかけられることが多い。
乗合馬車で暇なテトは、私の太ももに頭を預けるように寝転がり、テトの頭の上に本を掲げるようにして続きを読む。
しばらくして、他の乗客たちも世間話を始めたり、乗合馬車の御者が場を盛り上げるために話を振ったりする。
女の二人旅が珍しいために声を掛けられずに時間が過ぎていくが、場の空気を保つため受け答えはしっかりしているので悪くはならない。
そして、夕方前――
「今日は、ここまでだ」
そう言って、御者が馬車を街道沿いの休憩所に止めた。
乗合馬車や商人たちが街道に一定間隔で設けられた村や休憩所を利用することで、危険な夜間は協力して身を守ると共に、街道を管理する貴族たちが管理しやすいようにしているらしい。
「それじゃあ、テト。テントを張って、夕飯の準備をしましょう」
「はい、なのです!」
ダリルの町に来る以前の生活に戻ったようで、手際よくテントを張る。
創造したテントだと目立つので、外側には、蝋を塗って撥水性を持たせた地味な色合いの布を被せ、寝る準備をして、それぞれが食事を取る。
乗合馬車を使っている人たちは、大体が保存食のようなものと休憩所にある井戸水で食事を取るが、私たちは、簡単な野営の道具で食事を作り食べる。
「なぁ、嬢ちゃんたち、それは……」
「即席スープ。お湯を入れて混ぜるだけだよ。欲しいの?」
「ああ、くれるのか?」
インスタントスープを瓶に移し替えたものを使っており、それが気になる人が話しかけてきた。
「そうね。一杯、銅貨3枚かな」
創造したインスタントスープは業務用の物で、日本円で一杯20円もしない。
だが、この異世界にはインスタントスープのような便利なものもなく、珍しいので銅貨3枚……日本円で300円でも欲しい人は居るようだ。
「一杯頼む」
「器は持ってきて、そこに注ぐから」
乗合馬車の野営で温かなスープが飲めるとあってお金を出して求めてくる人が多い。
小さい子どもがいる三人家族が一杯のスープを買って、三人で分けて食べようとするので、こっそり多めに注いであげた。
「はぁ、野菜のスープで温まるなぁ」
「ああ、ちょっと物足りないけど、それでも旨い」
「野営の時の硬いパンを柔らかくするには、ちょうどいい」
そう言う乗合馬車の乗客たちの反応を見つつ、私は先に休み、テトに不寝番をしてもらう。
女二人旅だ。もしかしたら深夜の寝静まった頃に襲ってくるかもしれない。
だが、そんな心配は杞憂に終わり、無事に朝を迎え馬車の旅二日目になる。
二日目には、買った本も二度読み直して飽きてしまった。
それでも本の中には気になる文言があるので、その部分を何度も読み返したりしながら、馬車は順調に進む。
流石に馬車の旅だと二日目くらいには、清潔さが気になる人が出てくるし、一緒に馬車に乗って匂いとかが漂ってくるのはいやなので、希望者に《クリーン》の魔法を使ってあげた。
そして三日目、新たな町・オットーに辿り着いた。
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