20話【テトの新しい装備。そして、次の場所へ】
このダリルの町で目的を達成した私たちは、この町を出て次なる場所を目指す準備をしていた。
「次の乗り合い馬車は三日後ね。それまでに色々と揃えましょう」
「はーい。と言っても、何を揃えるんですか?」
欲しい物は、その都度私の【創造魔法】で生み出せばいい、とテトは考えている。
確かに、食料品や日用品などはそれでもいいかもしれない。
「怪しまれない程度に、食べ物とかを買っておきましょう」
「えー、保存食美味しくないのです~」
「じゃあ、テトが好きなドライフルーツはなしね」
「あー、魔女様、買いに行きましょう! 頑張るのです!」
甘味の話を出すとすぐに意見を変えるテトにクスリと笑い、私たちは、買い物をする。
確かに、テトの言う通り、創造魔法で作ればいいが、それでも何も買ってないのに常に新鮮なものを持っているととても怪しまれる危険性がある。
それから欲しい物としては――
「本とテトの新しい剣を買いましょうか」
「本と剣、ですか?」
オーガと一戦を交えた時、私が感覚で【原初魔法】を使っていることを思い知らされた。
そのために、魔法抵抗のある魔物に対して、ウィンドカッター程度の魔法では小さなダメージしか与えられなかった。
対ストーン・ゴーレム戦では、広い空間があったので高火力な火魔法を使えたが、ほぼ魔力ゴリ押しだったし、使い勝手も良くない。
周囲に被害を与えずに魔物の素材も傷つけにくい魔法を覚えたい。
「魔晶石を使った《ハーディング・ショット》は、確かにCランクの魔物に通用したけど、魔晶石を使わないでも倒せる手段を身に付けないと」
「そうなのですか~」
それにアレは物理魔法だ。霊体などの物理が利かない相手には意味をなさない。
「それとテトは、剣が折れちゃったじゃない。だから私が創造したナマクラよりもやっぱり鍛冶師が作ったちゃんとした剣の方がいいと思うのよ」
別に剣に拘りのないテトにとって、あまり興味のないことだろう。
だが、目元に魔力を集中させて分かったのだが、剣士の中には、魔力伝達率のいい武器を使っている人がいる。
例えば、ミスリルや魔鋼などと呼ばれる金属の武器だ。
武器の強度や重量などは戦いに直結するのだが、それとは別に身体強化の魔力は、自分の体以外の物に通しづらい。
体を纏う身体強化の魔力が100なら、普通の剣に魔力を纏わせると10に減衰している。
これがミスリルや魔鋼の場合だと、50~60の魔力を纏い、その分の武器の切れ味や強度が増す。
個人の身体強化を鍛えていけば、武器に纏わせる伝達率は高まるだろう。
だが、そんなことをするよりも元々伝達率がいい武器を使った方がより高い攻撃力を得られる。
「だから、テトには、魔鋼の武器を買おうと思うの」
「うーん。よく分からないけど、魔女様がくれるものは、なんでも嬉しいのです!」
「それじゃあ、武器屋に寄りましょう」
私とテトは、ギルドで聞いた冒険者たちが多く利用する武器屋に立ち寄る。
事前に、ギルドのカードに預けたお金も引き下ろし済みである。
「こんにちは。少しいいかしら?」
「あん? なんだ、嬢ちゃんたち、冷やかしなら帰れ。今は、仕事の最中だ」
「兄貴、そんなこと言うなよ。いらっしゃい、何をお探しかな?」
気難しそうな職人の兄と柔和な笑みを浮かべる弟のドワーフ兄弟が経営する武器屋は、話の通りらしい。
「予算は、大金貨3枚の範囲で、この子の武器と防具を揃えてもらえるかな?」
「お願いするのです!」
愛想のない私と逆に愛想を振りまくテトを見比べ、装備の予算を聞いて、困ったようにしている。
「ふん。ここにあるのはガキのおもちゃじゃねぇんだ」
「そうだね。お金を積まれても、使えない人に武器は――って、ええっ!?」
私とテトは、それぞれギルドカードを提出し、Dランク冒険者であることを示す。
「Dランク。それにチセとテト……」
「売ってくれない? テトは、そのままでも戦えるけど、やっぱり装備を整えておいた方が問題は避けられるのよ」
オーガを殴り倒せる実力があると言っても、何も知らない人がいる町に行った場合、そのままの私服よりも装備を整えた格好の方がトラブルは少ないはずだ。
「とりあえず、魔鋼かミスリルの剣とテトの動きを阻害しない革鎧とかお願い」
「ちょっと待て。あんたがテトって冒険者なら、あんたの使ってた剣を見せてくれ!」
先程までこちらを適当にあしらおうとしていた武器屋の兄が急に態度を変えた。
それでもテトは気にせず、ニコニコしながら、テトに渡したマジックバッグから折れた剣を取り出す。
「これは魔女様から貰ったやつなのです! 折れちゃったけど、大事なやつだからあげられないのです!」
「じゃあ、嬢ちゃんは、オーガとやり合ったのか?」
「途中で折れちゃって、殴り倒したのです」
そう聞いて、顎に手を当てる武器屋の兄と引き攣った笑みの武器屋の弟。
「あ、あははっ……僕のところにも倒されたばかりのオーガの革が来たんだ。それでどんな倒され方だったか知ってるんだけど、まさか君たちがあんなやり方を……」
私は、超硬度の結晶を高速でぶつけて頭部を破壊したのだが、テトは肉弾戦で撲殺である。
革は傷が少なかったが、その下の肉や骨、内臓が、ぐちゃぐちゃになってたらしい。
まぁ、オーガの肉や内臓にはほとんど使い道がなく、骨も粉末にして金属と混ぜ合わせて合金にするくらいだろう。
「ふむ。飾りっ気がない。鍛冶の見本のような剣だ。良くもなく、悪くもない。ただ、手入れが悪いな。魔法で血糊は払ってあるけど、研ぎ直しもされてねぇ。けど、魔力を通してるな」
創造で創り出した剣をそう評価する武器屋の兄を私たちは、見つめる。
そして、剣を確認した後、工房の奥から何本かの剣を持ち出してくる。
「嬢ちゃん。この剣を持って、魔力を流してみろ」
武器屋の兄の指示に従い、テトは、武器に魔力を通す。
その際、私も目に魔力を込めて武器の魔力伝達率を見て、右から順番に、鉄、魔鋼、ミスリルの順番となっている。
そして気付くのは、武器屋の兄弟も私と同じように目に魔力を集中している。
「おっ、そっちの嬢ちゃんも気付いたか? 俺たちが目に魔力を集めているのを」
「ええ。二人は、身体強化を習得しているんですか?」
「いや、俺たちは、生まれてこの方、道具作り一筋だ。ただ――」
物を作る、特に魔力が籠っていたり、込めたりする作業が多いために、必然的に職人たちは魔力を見ることに特化していくらしい。
「冒険者たちが無意識に体の魔力を使うように、俺たちは逆に秘伝として魔力を扱う術を学ぶ。町の鍛冶師と金物屋の違いってのは、魔力を扱えるかどうかだ」
「なるほど、勉強になります」
他にも目に魔力を集中させることで細かな作業が見やすくなったり、鍛冶の火の明かりで目を痛めたりするのを防ぐなど、そうした面もあるらしい。
「まぁ、話を戻すか。俺の勧めとしては、魔鋼の剣を勧めたいな」
「一応、大金貨3枚まで予算があるからミスリルの剣も買えるんじゃない?」
「まぁ、待て。確かに魔力の伝達率を考えるならミスリル一択だ。だが、剣を見た限り、テトの嬢ちゃんは、相当力が強い。そうなると、武器自体が頑丈な魔鋼の方がいいんだ」
なるほど……と説明に納得する一方、テトは、首を傾げている。
「それとな。テトの嬢ちゃんの折った剣は、大分魔力が馴染んでいやがる。こいつを使わない手はねぇぞ」
「どういうこと?」
私が尋ねると、いいことを聞いてくれた、と言うように鍛冶で日焼けした顔が愉快そうに笑みを作る。
「普通の鉄剣だと、魔力の通りが悪いよな。だけど、道具は使い込まれるほどに馴染む。それを魔鋼と混ぜ合わせて打ち直せば、いい剣が生まれるんだ」
「魔女様の剣が使えるようになるのですか?」
「ああ……最初は、魔鋼で作るよりも劣る。魔鋼を混ぜることで、魔力に反応して徐々に鉄が魔鋼に変質して強くなる。それに、使用者の魔力が馴染んだ武器は、魔力に反応して正しい形状に戻ろうとする」
一息にそう説明しきる武器屋の兄であるが、それに対して呆れ気味の弟が補足してくれる。
「最初は、魔鋼未満の剣になるけど、将来的には、手入れいらずの魔剣を作ろうって言ってるんだよ。兄さんは」
「手入れいらず、ってのは聞き捨てならねぇな。自動修復っつうんだよ! それに昔から有名な魔剣の類いは、時間を置けば直るってのは相場が決まってる!」
そう提案された私は、悪くないように思った。
これから旅を続けていく以上は、一所の鍛冶師にお世話になることは難しいために、テトの武器だけでも自動修復して手入れが要らなくなるのはありがたい。
「テトは、どう思う?」
「魔女様の剣がまた使えるならそれでいいのです」
「じゃあ、お願いします。費用については――」
その後、テトの魔剣を作ってもらうことになり、一緒に採寸してもらって私たちが倒したオーガの革を使った防具をオーダーメイドすることになった。
魔剣が小金貨9枚、オーガの革鎧一式が小金貨5枚と用意していた予算の半分で済み前金の半分を支払い、店を後にする。
「次は、本屋だね。本は、魔法書……と」
町の本屋にも辿り着き、興味のある本を小金貨7枚分買った。
内容は薄くても1冊で銀貨5枚や10枚もする物が多く、流し読みして必要な情報を集めていくと最終的にそれだけの値段となった。
結果、討伐したオーガの素材の売却額を使い切り、翌日から武器も無いのでまた薬草採取の依頼を受けていく。
そして1週間後、テトの装備が完成した頃に、武器屋に受け取りに行く。
「おう、似合ってるじゃねぇか!」
「ありがとうなのです!」
武器屋の兄弟が仕上げた装備一式を身に纏ったテトは、一端の女冒険者に見える。
「それじゃあ、残りの代金よ。数えてちょうだい」
「おう、確認したぜ。いい仕事をさせてもらった!」
「魔女様、魔女様! さっそく、やっていいですか!」
装備の支払いが終わったテトは、打ち直された剣を引き抜き構えている。
私が、チラリと武器屋の兄弟を見れば、頷かれた。
「魔力を通してもいいけど、振り回しちゃだめよ」
「はいなのです!」
そう言って、テトは体から膨大な量の魔力を放出し、それが剣にも流れていく。
「おいおい、こりゃ、たまげた……」
そしてテトの魔力を吸って剣の刀身が徐々に黒く染まっていき、先端まで変色する。
「普通は、少しずつ使っている間に魔力が馴染んで色が変わってくのに、一気に魔剣に変わっちまった」
「魔力量が凄い……剣士だけど、宮廷魔術師でもトップの人並みに魔力あるんじゃないかな」
唖然とするドワーフ鍛冶兄弟の前で、テトは嬉しそうに私に振り返る。
「どうですか、魔女様~。これでテト、魔女様を守れるですよ~」
テトが魔力放出を止めた瞬間、ふらっとしてその場にしゃがみ込む。
「テト、大丈夫? 無理しすぎよ!」
「ふへへっ、ごめんなさいなのです」
テトは核から一気に魔力を送り出して、魔鋼の変質を早めて魔剣を完成させた。
ゴーレムから進化した新種族のために人間よりも多い魔力を持つが、使った魔力の回復手段は乏しいのだ。
「もう、無茶しないの。それじゃあ、テトを連れてこのまま、町を出ます」
「おう、いい仕事させてもらったぜ。次にこの町に来たらその剣見せてくれや! それだけの魔力を持つ相手が使えば、更にもう一回、魔剣が変質化しそうだ!」
そんな二人に見送られて店を出て、町の乗り合い馬車の場所を目指す。
武器の完成を待つ間に乗り合い馬車の日時を調べ上げ、武器を受け取った後で乗れる馬車に乗って、気ままに次の町を目指すつもりだ。
「テト、本当に大丈夫?」
「ふへへっ、魔女様に抱きつけると嬉しいのです~」
背中に手を回して支えて、こっそりと魔力をチャージして回復させているが、全然反省の色を見せない。
そして、乗り合い馬車の場所に辿り着いた時、私たちを【風を見る鷹】の三人組が待っていた。
「よっ、チセの嬢ちゃんとテトの嬢ちゃん、待ってたぜ」
「ライルさんたち、なんでいるの?」
「見送りだ、見送り。他の冒険者たちが世話になったから、その見送り代表だ」
私とテトは、世話になった、と言われて首を傾げる。
精々、この町に居たのは、ギルドの資料室通いで1週間、薬草採取のランク上げで2週間、そして、テトの装備の間の薬草採取で1週間ほど。
合計で1ヶ月程度の滞在で、特に世話をした記憶はない。
「ジョンの治療の件やオーガの討伐の件もあるけど、お前らは、ここ1週間ほど依頼を終えた後、訓練所に居ただろ」
「そうね。ギルドの訓練所で護身術や避け方の練習をしていたけど」
私は、魔法による遠距離主体であるが、万が一接近された場合を想定して、護身術を練習していた。
ギルドの訓練所で休憩中の斥候や弓使いの人たちから足捌きや接近された時の考え方などを教わり、テトに追い掛けてもらって、練習していた。
「オーガも単独で倒せるのに、まだ強くなろうとする二人に触発されて燻っていた冒険者たちもやる気になったんだよ」
「そう? 別に、そんなことを意図したわけじゃないけど……」
「まぁ、そんな感じだ」
そうして私たちはライルさんたちから挨拶を受けた。
特に弓使いで同じ女性冒険者のアンナたちは、女の二人旅を心配してくれたのは、嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
「そろそろ出るから乗ってくれ!」
「魔女様、行きましょう!」
「それじゃあ、さようなら」
私たちは、乗り合い馬車に乗り、ゆっくりと進む馬車の中からダリルの町を見ていく。
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