28話【変化の魔法とちょっぴり大人な私】
再び旅に出ることを決意した私は、旅に出る前に一つの魔法を習得することに成功した。
その成果を見せるために屋敷の一室では、テトとベレッタ。そして、魔法の習得と研究に協力してくれた人狼の男性のハウルと悪魔族の女性のディヴァルナがいた。
二人は今、各集落の教育現場の纏め役のようなことをやっており、その一貫の研究として魔法習得に協力してくれたのだ
「いくわよ。――《メイクオーバー》!」
私の体が光に包まれ、そして徐々に体が変化していく。
手足が伸び、慎ましい胸も少しばかり膨らみ、それに会わせて衣服のサイズも調整される。
「おー! ちょっと大人になった魔女様も可愛いのです!」
「ありがとう、テト。こうしてテトと近い目線だとちょっと不思議な感じね」
私が習得したのは、12歳の外見を変化させる変化の魔法だった。
その魔法により16歳くらいの外見まで成長した私を、テトが抱き締めてくる。
『ご主人様、ようやくの完成したのですね。おめでとうございます』
「まぁね。って言ってもあまり燃費のいい魔法じゃないけどね」
魔法の習得を祝ってくれるベレッタに私は、苦笑いを浮かべながら答える。
12歳の外見で、Sランク冒険者だ、大人だと説明しても訝しまれ、逆に私の活躍や実績などが認知されると、外見から一目で知られてしまう。
今までは、多少目立つのは有名税だと考えて、【創造の魔女の森】に引き籠もるようになると、次第に私の噂も薄れて気にしなくなってきた。
だが、【創造の魔女の森】の盟主となった今――この土地の盟主である不老の少女である私と、あちこちを旅して回る冒険者の私とは、結び付かない方が都合がいいと思う。
そのために前々から研究していた変化の魔法を習得していたのだ。
「人狼のハウルと悪魔族のディヴァルナが協力してくれなかったら、完成しなかったわ。ありがとう」
「いえ、魔女様に協力できたこと! 一族の誉れです!」
「それに私たちのスキルの追究で、他の魔族たちの生活も一変します! こちらこそ、ありがとうございます!」
「魔女様~、二人はどんな風に大人になる魔法に関わったのですか?」
魔法研究に協力してくれた二人の魔族にお礼を言うが、逆にお礼を言われてしまう、そんな私にテトが魔法の成り立ちの疑問を投げ掛けてくる。
「身体構造の変化とかは、人狼の【人化】スキルや悪魔族が翼や尻尾を隠す時のスキルを参考に、身体構造を変化しているのよ」
「【人化】のスキルなのですか?」
以前、幻影魔法などをベースに大人になろうとしていた。
だが、それも失敗に終わり、大陸西部のスタンピード発生や難民たちの受け入れなどの忙しさで魔法の開発は中断していた。
そして一段落ついた後、人狼や悪魔族のような人の中に紛れて生活していた魔族たちの持つ【人化】スキルに注目したのだ。
『なるほど、身体組織を変化させる、と言うのは近しいところですね』
「ええ、人狼の場合、人と人狼で大きく体を変化させるし、悪魔族たちも角や尻尾、羽なんかを幻影で隠しているんじゃなくて、きちんと消しているのよね」
そこから発想を得て、他にも獣人の【獣化】や竜人の【竜化】スキルなどを調べて、より身体変化の魔法の理解を深めて、変化の魔法の完成に至ったのだ。
「この変化の魔法は、元々の体を変化させているので、魔女様が以前より気にしていた身体機能が年齢相応に高まっているのです!」
「それに、この魔法は、半人半魔の魔族たちがより人に近く変身することができるのです!」
魔族の二人が若干興奮したように説明する。
例えば、ラミアやアラクネ、ケンタウロスなど、半獣の魔族たちが使えば、本来の魔性を抑え込み、人間のような姿になることができる。
もちろん、【人化】の魔法やスキルの習得には、相応の訓練があり、その後も歩行訓練などの人型に慣れる必要があるが人間社会に溶け込みやすくなるのだ。
とは言っても、欠点がないわけじゃない。
「元々人狼や悪魔族たちの変身系スキルは、《ディスペル》とかの魔法の無力化や外部干渉に弱いからね。私も使われたら、すぐに戻ってしまう弱点があるわね」
よく物語であっさりと、追い詰めた人に化けた存在が正体を現すシーンや人狼が満月の日に本性を現すなどがある。
変化の魔法の性質的に、正体を突き詰められた精神的動揺や月光の魔力の外部干渉で変化が解けてしまうのだ。
私の場合は、長年鍛え続けてきた魔力制御能力で、ちょっとした動揺では変化の魔法は崩れないが、それでも【身体強化】に比べて維持が難しい。
「もう一つの弱点は、魔力消費量の多さね」
そして、もう一つの弱点は、変化の魔法の魔力消費量である。
元々の年齢から上下に1歳分の外見変化をした場合、1時間維持するのに約1000の魔力が必要となる。
私の場合だと、16歳の外見であるために1時間に4000魔力、丸一日維持するのに約10万魔力消費する。
『魔族の方々は、魔力不足に陥らないのですか?』
「魔族の人たちが使う場合には、魔性を抑え込んで人間の側面を押し出す形だから、それほど魔力は消費しないみたい。ただ、人間以外の存在が【人化】を使ったり、本来の年齢から加齢や若返りをしようとすると途端に魔力消費が増えるみたい」
魔力消費量の多さの欠点を説明した私にベレッタが質問を投げ掛けてきたので、私はそう【人化】スキル。及び、変化の魔法について説明する。
とりあえず、私の魔力量ならば、丸一日16歳の外見で過ごすことはできるが、それでも魔法の維持が大変であるために、適度に変化を解く必要があるのだ。
「そうなのですかぁ~。小さな魔女様も大きな魔女様も大好きだから、テトは嬉しいのです!」
そう言って私に頬ずりするテトだが、流石に16歳の姿の私は同年代の外見のテトに過度なスキンシップを受けると、ちょっと恥ずかしさを感じる。
『今までご主人様の衣服は、少女向けのみしか作れませんでしたが、これからは様々なサイズやデザインの物を作ることができますね』
「えっ、ちょっと……」
テトが抱き付いて逃げられない私は、ベレッタの静かな合図で部屋に展開されるメイドたちに表情を引き攣らせる。
そして、そんなメイドたちの登場に同席していた人狼のハウルと悪魔族のディヴァルナが生温い視線を送りながら退席していく。
『春から旅立つご主人様のために、衣服をご用意したいので、是非ともご協力を』
「えっ、あっ……あああっ――」
16歳の姿になった私は、テトに抱き付かれているために逃げることができずに、そのままベレッタたちメイド隊の着せ替え人形となった。
冬場には頻繁に着せ替え人形にされたが、新たな旅には、新しい衣服で心機一転して旅立つことができるだろう。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。









