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25話【冬至祭の夜の部~奉納の舞~】 


『ご主人様、準備を行ないましょう』

「魔女様、綺麗になるのです~!」

「えっと……別に気合い入れなくて良いのよ」


 武闘会も幻獣枠での参加者? であるグリフォンが優勝し、その一段高く作られた闘技場を舞殿として整えられ、夕刻には盛大に各地で篝火が焚かれ始めた。


 少しずつ日が落ちていく中、私は、ベレッタたちによってお風呂に入れられて全身を磨かれ、お風呂上がりには、薄く化粧を施されて、舞装束に着替えさせられる。


「やっぱり、改めてみんなの前に立つと恥ずかしいわね」


 修道士のローブをベースに作られたゆったりとした舞装束のフードを目深に被り、ひらひらとする袖を摘まんでみる。

 歩く時もローブの裾が足首辺りまであり、少し屈むだけで地面に着きそうで、舞っている最中に踏んで転ばないか心配になる。


「魔女様、綺麗で可愛いのです! でも、今抱き締めると服がしわくちゃになるから我慢なのです!」

「テト、ありがとう」

『ご主人様。そろそろお時間です。参りましょう』


 私は、テトとベレッタに誘導され、【転移門】を通って舞殿まで移動する。


「魔女様だぁ、綺麗」「素敵、それに聖女様みたい」「ああ、ありがたやぁ、ありがたやぁ……」


 メイン会場の舞殿まで行く道は整えられており、その途中では、天使族のシャエルが待っており、シャエルの管理する教会で保管されていた【輪廻の錫杖】が差し出されていた。


「シャエル、ありがとう」

「魔女の舞、楽しみにしてるぞ。みんなの度肝抜いてこい!」


 悪戯っぽく笑うシャエルに私も微笑みを返して、錫杖を受け取り、音を鳴らさないようにゆっくりとした動きで運んでいく。


 その静かでゆっくりとした動きだからこそ、これから起こる浄化の舞への期待が高まっていく。

 舞殿の四方には、大きな篝火が焚かれており、その中央に立った私は、舞を踊り始める。


 シャン、と手首の動きだけで金属の輪っかを鳴らすと共に、錫杖に魔力を通し、浄化の波動を広げていく。

 何度も何度も練習したゆったりとした舞に合わせて、白い舞装束が優雅に動く。

 また浄化の波動が【創造の魔女の森】に広がり、夜の帳が落ちた空間からぽつり、ぽつりと人魂が現れ始めた。


 闇夜に青白く漂う人魂を浄化するのにどれだけの魔力が必要だろうか。

【輪廻の錫杖】は、光魔法などの効果を15倍に増幅してくれるために、ほんの少しの魔力で浄化の波動は広がっていく。

 だが、シャンと錫杖の音に合わせて浄化の波動を広げても集まった人魂は、魔力の光を零していくだけで天に昇ってはくれない。

 ただ、私を中心に闇夜の中から現れた人魂が揺蕩い、動きに合せて剥がれ落ちる魔力が粉雪のように降り注いで空中や地中に溶けるように消えていく。


「ああ、12年前の奇跡だ……」


 誰かの呟きが聞こえる。

 スタンピードで巨大なスケルトンの集合体を浄化した時を思い出したのだろう。

 だが、私はそんなことを思う余裕はなく、ただ深く深く舞に意識を集中させ、動きを繰り返しながら、浄化の魔法を広げていく。

 日が暮れたことで人魂が最も活性化するこの時間帯に亜空間からこの世に舞い戻り、こうして揺蕩うことで祭りに参加しているのだろう。

 そして、揺蕩う人魂の大きな流れから満足した魂が順番に抜け出し、天に昇っていく。

 どうか、冥府神ロリエルの許に行き、転生を経て次の人生で幸せになってほしい。

 そう願いながら、私の魔力が尽きるまで延々と錫杖を振るい、舞を踊り続ける。

 

 時間にして数時間は舞い続けただろうか。

 魔力が尽きて、舞を止めてもまだ上空には、無数の人魂が揺蕩っている。


「はぁはぁ、浄化しきれなかったかしら?」


 そんな人魂を見上げながら、舞殿から降りるとテトとベレッタが迎えながら、私の呟きに答えてくれる。


「魔女様、お疲れ様なのです。あの人たちは心配ないと思うのです! その内、帰ると思うのです!」

『古代魔法文明の研究では、魂が纏う魔力には、生前の記憶や知識、人格などが記憶されているそうです。そして転生する際は、その魔力をああして脱ぎ捨てて来世に旅立つそうです』


 人の記憶や知識、人格は脳が司っている。

 だが、前世には心臓提供者であるドナーの記憶の一部が、心臓移植患者に移る記憶転移という現象があると言われている。

 魔法や霊魂のあるこの世界では、死者の残留思念などが存在して語り掛けてくるのだ。

 脳以外にも魂が纏う魔力に記憶を宿していてもおかしくはないかもしれない。


 私たちは、頭上に揺蕩う人魂たちが纏う魔力を脱ぎ捨てながら天に昇っていく光景を見守りながら祭りを過ごしていく。


 この霊魂を導く冬至祭は、後に住人たちに引き継がれていく。

 そして後年、祭りの取りとして、神器【輪廻の錫杖】を用いて霊魂を導く浄化の舞と集まった霊魂が空に昇る様子から、星になる死者を見守ることから――【星見祭】という名に変わり、数百年続く伝統の祭りへと変わるのだった。


8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。

また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。

https://www.ganganonline.com/title/1069

作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。

それでは、引き続きよろしくお願いします。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
[良い点] 何時も安心してお話を楽しく読まさせてもらっています。 [一言] 筆不精で今まで申し訳なく思いますが、第200話のお祝い、私もしたく思い、初コメ入れさせてもらいました。 いつも楽しく、時に…
[一言] 今日のシーンだけでもアニメでみたいです。
[一言] 200話(0話と閑話一つ含みますが) おめでとうございます!
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