19話【飛び級でのランクアップは、お約束です】
オーガの討伐を終えた後、私とテトは、ギルドの応接室でギルドマスターと対面していた。
不良冒険者と対峙した時、私たちの側に立ってくれた彼は、現在、とても申し訳なさそうな表情をしていた。
「君たちが行なったことは聞いている。オーガ10体の討伐を城門前に居た人々は見ていた。それに、君たちが討伐しなければ、逃げ遅れた人々が少なくない被害を受けていた。感謝する」
「いえ、ただ倒せるだけの道具があっただけですから」
「それでも報告では、1発小金貨5枚の魔晶石を使って6体のオーガを倒したと聞く」
礫を高速で撃ち出すのは、Dランク程度の魔法使いでもできるだろう。
ただ、普通の石ころでは、魔物の体に当たって砕けてしまう。
今回は、硬化した魔晶石を使い捨てで使ってCランクの魔物の魔力の防御を突破して倒すことができたが、一般的に何度も使える手段ではない。
私的には、実験でやってみただけなので、そんなに恐縮されると逆に申し訳なく思う。
「ギルドとしての見解を話そうと思う」
「あ、はい。お願いします」
「貴重な魔晶石を使ってくれた君たちには申し訳ないが、ギルド内には、オーガ討伐の依頼は貼り出されていなかったために、事後受注による依頼の報酬などは発生しない」
まぁそれは仕方がないよなぁ、と思い頷く。
「しかし、オーガの素材は綺麗に残っているので、そちらはギルドで解体し、素材を売却した場合、1体小金貨2枚相当になる。普通ならオーガの死体が丸々、あれだけの数が揃うことはないし、依頼による報酬もない分、多少は色を付けた」
テトが倒した分と合わせれば、大金貨2枚。
普通の人が同じように魔晶石を使ったらと考えると赤字だろうが、私たちにとっては十分プラスだ。
「ううっ、魔女様~、テトの魔石~」
「ああ、そうね。オーガの素材の売却は問題ないけど、オーガの魔石は貰えるかな?」
「それは構わないが、売却で一番価値があるのは、魔石だが……」
「この子、魔石マニアだから」
そう尤もらしい理由を口にして、テトが魔石好きなのです~、と答えると、なるほどと頷く。
「そういう人は多い。自身が倒した魔物の魔石を集めて、戦果を飾る人は多い。特に騎士や冒険者にそういう傾向があり、十分楽しんだ後は、売却もできる」
地球でのハンティングした生き物を剥製にして飾るが異世界では、魔石がその対象のようだ。
なるほど、自身の実績を示すための魔石……と思う。
「確かに、魔石を残しておくのもできるが、少しはギルドの方に卸してほしいな」
「それなら私が倒した分は、売却するわ」
「それなら6体分の魔石か。なら合計で小金貨16枚になるがいいか?」
そう聞かれて私は、首を縦に振り、同意する。
「これで話は終わりかな?」
「いや、二人のランクアップについての話だ」
そう言われて、私は、ギルマスの話に耳を傾ける。
「二人の実力は、大勢が見る前でCランクの魔物10体を討伐。また、パーティー【風を見る鷹】もオークの上位種を瞬殺しているところを見ていたので実力としては、ランクを上げる実力はあると判断した」
そして、一度息を整えて、飲み物で口を潤して話の続きをする。
「人命優先の態度や行動などは、ギルドとしては掛け替えのない人材となり得るだろう。また戦果としては、二人をCランクに一気に上げることも考えた」
「考えたってことは、違うのね」
「チセ。君が使ったオーガの討伐手段は、魔晶石を利用した高威力な物理魔法だ。ただそれは使い捨ての道具を利用して本来の実力を底上げしているとも考えられる。それを鑑みるに、チセはDランク。単独で殴り倒したテトはCランクに上げたい」
私が高価な魔晶石を使い捨てで使った赤字分の補填を意味するランク上げだろう。
私としては、管理されたダンジョンに入る条件を最低条件のDランクを貰えるなら、ギルドマスターの提案に異論はない。
「私は構わない――『テトはいやなのです!』……テト?」
「むぅ、私は、魔女様と一緒がいいのです~! 一人だけCなんていやです~!」
「ちょ、テト!?」
突然異議を申し立てたテトを宥めながら話を聞くと、私とランクが違うのが気に入らないらしい。
だが、私のランクをCに上げることは無理なので、テト自身もDになると言い出したのだ。
「今までランクを上げろ、って要求は多く見てきたけど、ランクを下げろ、って本人から言われたのは初めてだぞ……」
「ごめんなさい……」
「いや、まだランク上げの処理がしてないから手間はない。ただ、よくよく考えれば、FからCにいきなり上がると目立つし、この前の不良冒険者みたいな連中に目を付けられるかも知れない。なら、Dランクでワンクッション置いた方がいいかもしれないな。その代わり、Cランクに上がる時の試験などの免除を申請しておこう」
それに私たちの実力だとすぐにCランクに上がりそうだ、と話してくれる。
「わーい、魔女様と同じカードなのです~」
「とりあえず、Dランクおめでとう、ってところかな」
ついでに薬草採取の依頼も終えて、新しくなったカードを受け取る。
「それで、嬢ちゃんたちはこれからどうするんだ? この町は、しばらくはオークの残党狩りがあるはずだぞ」
オークキングの集落は破壊したが、その際に逃げたオークも多数いる。
それを倒していく依頼は、オーク討伐なのでDランクとなり、しばらくは依頼に困らなさそうだ。
「Dランクになったからこの町を出て、もう少し別の場所を旅するわ。特に目的もないし、安住の地になりそうな場所を探すわ」
「まぁ、冒険者ならそうか」
そう言って、ギルドマスターが顎に手を当てて悩む。
「君たちほどの冒険者ならどこに行っても活躍できるだろう。この町に残ってほしい気持ちもあるが、応援しているよ」
ギルドマスターからの応援を貰い、私とテトは、ギルドから辞して宿に戻ると――
「町の門の前でオーガを倒した二人ってチセちゃんとテトちゃんだったなんて! 凄いです!」
宿屋の娘さんになんだか、英雄のように扱われたが、困った表情だけ浮かべてそそくさと自室に戻った。
「なんだか色々と疲れたわね。今日は、もう寝よう」
「はい、魔女様、お休みです~」
そうして私たちは、オーガを倒してもいつものように静かにベッドで眠る。
ただ、町の脅威になるオーガが討伐されたと聞いて、下の食堂兼酒場では、人々が騒ぐ音が夜遅くまで続いていた。
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