24話【冬至祭の昼の部~武闘会~】
冬至祭に向けての準備を手伝いたいが、【創造の魔女の森】の盟主である私自らが手伝う必要はないと断られた。
そのために日々の日課などの合間に、奉納の舞の練習を続け、また各集落に祭りの映像を中継するための通信魔導具を【創造魔法】で創り出していく日々。
そうした日々が過ぎて、冬至祭の当日がやってきた。
前日から各集落に配られたカボチャで用意したカボチャ料理が並び、冬至祭は朝から賑わいを見せる。
各集落では、祭りに合わせて集落全体での集団結婚式などが行なわれ、何組かのカップルが夫婦となる。
一方、各集落の代表やそれに近い立場の人たちが集まるメイン会場でも、結婚式が行なわれた。
「おめでとう。末永く仲良く暮らしていくのよ」
「おめでとうなのです!」
「ありがとう、魔女様、テト様」
祭り用に設えられた石造りの壇上には、何組もの魔族のカップルたちが立ち並び、私とテトが一人ずつ祝辞の言葉を贈り、その様子が通信魔導具によって各集落に放映されている。
今回の集団結婚の中には、竜魔族のヤハドも同族の女性と並び緊張した面持ちで視線を集めている。
今年は竜魔族の長老が亡くなる悲しい事があったが、それを振り払う慶事として次期族長であるヤハドの結婚が上がったのだ。
そんな集団結婚に向けて通信魔導具に向けて祝辞を送り、祭りの料理を皆が食べていく。
前日には、古竜の大爺様が遠くまで出て狩ってきた巨大な鳥魔物の肉も料理として並んでいる。
その合間合間に、壇上では余興の演舞や合唱などが行なわれて、各集落に通信魔導具で放映されていくのは普通ではないが、美味しい物を食べて冬場に向けての英気を養う祭りは何処も同じである。
そうして、午前のメインである集団結婚が終わり、午後には石造りの壇上は、そのまま闘技場として姿を変えるのだ。
『こちら武闘会場の司会を務めるメイド隊エーナでございます。メイン会場のベレッタ様との通信状況はどうでしょうか?』
『こちらメイン会場のベレッタです。通信状況は良好です。説明をお願いします』
そうしてベレッタとメイド隊の司会の子は、メイン会場の闘技場の上で拡声と通信魔導具を使いながら、午後の部の説明が始まる。
『これより始まるのは、この【創造の魔女の森】にて魔女様を守るに相応しい強者を決める武闘会が開催されようとしております! 予選を潜り抜けた各種族の猛者たちが集まり、空席の四天王の地位に就くのは誰でしょうか!』
「えっと、空席の四天王って何? 私、そんな制度を作った覚えないんだけど……」
『ご主人様。住人たちが口にしている俗称です。一般的にご主人様を頂点に不動強者であるテト様、古竜の大爺様、そしてメイド長である私の三者を除いた住人の中で最強の四番目を決定する武闘会となっております』
「最強の四番目……」
ベレッタの言葉に私は思わず復唱してしまう。
見る者によってはそのトップに立つ私が魔王で、それを守るテトたちはその配下の四天王ってのは、確かに嵌まりすぎである。
それに隔絶した強さを持つ三人に対して、住人の中の最強の四番目を決める戦いだが――「くくくっ、やつは四天王で最弱」というフレーズが頭の中を過ぎる。
「楽しそうだから、テトも出たかったのに残念だったのです~!」
「ま、まぁ、とりあえず、怪我しないように見守りましょう」
『試合形式は、事前に予選を通過した選手たちによる一対一のトーナメント戦です! また装備にはダメージを魔力で肩代わりする魔導具を身に着けて頂き、気絶・降参・場外・審判による判定などにより勝敗が決します! それでは一回戦第一試合――開始!』
『『――うぉぉぉぉぉぉっ!』』
第一回戦の戦いでは、現れた人狼の男性とケンタウロスの男性が互いに雄叫びを上げながら、戦いを始める。
通信魔導具による中継映像は、常に最適な位置で撮影されており、観戦者たちも盛り上がりを見せる。
そして、その雄叫びの中に混じる言葉に、私は驚きで目を見開く。
『魔女様が安心して我らにこの地を任せられる実力を示すのだぁぁぁっ!』
『それを示すのは、この俺だぁぁっ! 魔女様の重荷にはならぬぞぉぉぉっ!』
そう言って、手刀を放ち、槍を振るう二人の姿を見つめ、隣にいるテトとベレッタを見つめる。
だが、二人は私に微笑みかけるだけで何も言わず、次々と戦いは移り変わる。
竜魔族や鬼人族、ミノタウロスたちの圧倒的な膂力、天使族や悪魔族による飛翔と上空からの魔法、アラクネやドライアドたちの糸や植物による搦め手など、戦いの実力を見せていく中、やはり戦いの言葉の中には、私に対する言葉が混じる。
『魔女様に頼るだけの弱い存在ではないと示せ!』
『魔女様に寂しそうな表情を浮かべさせるな! あの方の邪魔になる弱い自分を殺せ!』
『弱き私たちの存在で魔女様を縛り付ける義務と責務を作り出すな!』
『あの方に道を示されたなら、我らが道を作るのだ! あの方にこれ以上頼るな! あの方が求めるのは自由! 自由を守れ! 優しさに甘えるな!』
そのような言葉が飛び交い、激しい戦いが繰り広げられる。
あまりの戦いっぷりと言葉に呆然とする中、私の背後から影が伸び、振り返ると古竜の大爺様がこちらを見下ろしていた。
「大爺様、これって……」
『皆、魔女殿が大好きである、ということじゃ。ひたむきで真摯に住人たちと向き合い、その幸福を望む魔女殿が――』
そして、だが……と古竜の大爺様が一度言葉を句切る。
『住人たちも魔女殿の幸福を望んでいるのだ。ワシらのような移住者や難民たちを受け入れ慈しんでくれる魔女殿だからこそ、時折見せる遠くを見るような寂しそうな表情が気になっているのじゃよ』
そう言われて私は、自分の顔を撫でる。
そのような表情をしていたのだろうか、自覚はなくても無意識にそうしていたのかもしれない。
そして、一度自身を振り返り、そして自分の本心を見つけた。
「多分、私はまた旅がしたかったのかもね。どことも知れない場所を旅して、見たことない物を見に行きたい。この土地で蓄えた知識を実践してみたい」
テトと二人で旅をしていた時は、自分の故郷を探して放浪していた。
そして今は、自分たちの帰る場所である【創造の魔女の森】が出来上がり、守るべき人も抱えるようになった。
また一所に留まれば、じっくりと本を読み、そして知識を蓄えることができた。
それを実践するための素材や現場に自分で足を運び、自分の目で見て、自分の手で経験して自分の力を試してみたいのだ。
「贅沢よね。旅している時は、帰る場所が欲しくて。いざ帰る場所ができ十数年も過ごしたら、また旅をしたくなる」
再生の終わった【創造の魔女の森】という土地に十数年過ごしてきた。
それでも足りないくらい、十分に魅力が詰まっている土地である。
その魅力を知らない内からまだ見ぬ場所や旅に思いを馳せるなど、罰当たり過ぎるように思えて、自嘲気味に笑ってしまう。
『若者は、それくらい無鉄砲な方がよいじゃろう』
「大爺様。私こう見えても80歳のお婆ちゃんなんだけどね」
『ふははははっ、まだまだ1万年を超えるワシに比べたら、若造どころか赤子にも等しいわい。まだまだ小さく纏まるには早いじゃろ』
武闘会の様子を観戦する古竜の大爺様は、私との会話に大笑いを浮かべ、私もクスクスと笑みが零れる。
『魔女殿の盟友として、この土地を守ろう。なに、古竜という存在から土地を奪おうとする者など、そうそう居らぬわ』
例え、どのような宝があろうと最強生物の古竜から宝を奪う真似をする者は居ないだろうと笑う。
『外部への抑止力は、古竜の大爺様が。内外の様々な調整は、私や私を含むメイド隊が引き受けます。どうかご主人様は、御心のままに』
いずれ旅に出る、その思いのために、住人たちの代表が集まる合議制の会議にしたり、なるべく私が関わらずともこの土地を運営できるようにしているのだ。
それにこの土地が嫌いだから旅に出たいのではない。
本当に、1ヶ月か2ヶ月ほど見知らぬ土地に出掛けて、その土地でしか味わえない経験をしたいだけなのだ。
そんな私の願いを住人たちが後押ししてくれるのだ。
そして、一戦毎に治療と調合担当のラミアたちによるマナポーションによって選手たちが万全の状態で次に挑んでいき、トーナメントは進んでいく。
最後に――
『――キュオォォォォン!』
『Aランク冒険者の底力! 舐めないでちょうだいよぉぉぉぉっ!』
最後は、この土地に住む幻獣代表として参戦したグリフォンとエルフのラフィリアが激闘を繰り広げている。
『チセ、見てるわよね! あんた時々、私が故郷の里から飛び出す前みたいな顔してるわよ! 旅に出たいなら好きにしなさい! その間、私がこの土地守ってあげるんだから!』
そして、旅先で孤児院にしたように自分の思うがまま周りを振り回して来なさい、などとラフィリアが無責任なことを言っているのに笑ってしまう。
『えっ、わっ、ちょ! あんた、ここは私に勝ちを譲りなさいよ。――きゃっ!?』
『――クルルルルルルルルッ!』
そして、そんなAランク冒険者のラフィリアと幻獣グリフォンとの戦いであるが、高位の幻獣は人間が単独で打ち勝てる相手ではない。
グリフォンの突撃でラフィリアが場外に落ちたために、グリフォンの優勝が決まり咆哮を上げている。
そして、冬至祭に集まる住人や幻獣たちが、グリフォンの優勝を拍手で褒め称える。
私がこの土地に居なくても、彼らが守ってくれる。
そんな頼もしさが優勝者のグリフォンにはあった。
逆に私が、外に出ることでこの土地に人や幻獣、知識、技術などの新たな風を運び込んでくることを期待されている。
「テトも魔女様と一緒に、また旅に出たいのです!」
「ええ、そうね。色々と驚きや発見がある気軽な旅をしたいわ」
この【創造の魔女の森】は私の故郷である。
そして、既に止まり木で十分休んだために、そろそろ飛び立たなければいけないかもしれない。
だが、その前に今回の武闘会の優勝者であるグリフォンには、以前作ったアダマンタイトのメダルを嵌め込んだベルトを首に通してあげることにした。
三種のメダルは、何らかのご褒美と交換であるが優勝者のグリフォンには無用な物となってしまうので、アダマンタイトメダルに空いた穴の中心に魔石を嵌め込んで自然回復強化の魔法を付与した魔導具にして贈呈した。
そして、武闘会が終わり徐々に日が暮れ始める。
私がこの土地を旅立つことを改めて強く意識したが、その前にこの冬至祭の最後の締めを成功させなくてはならない。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。