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23話【魔女、舞の練習をする】


 冬至祭の最後の取りを飾る奉納の舞を任された私は、早速メイド隊によって衣装合わせをさせられることになった。

 なったのだが――


『やっぱり、ご主人様にはこちらのデザインの方がよろしいのではないでしょうか?』

『いえ、それは元々教会の衣装ですので舞のための機能性が足りません』

『では、こちらの衣装はどうでしょうか? ご主人様の前世にあった異世界の舞装束ですが……』


 不老であるために以前に把握された採寸をそのまま利用できる。

 そのために、いきなりメイド隊が用意した舞装束用の衣装に次々と着せ替えられ、それを見て、テトやメイド隊の子たちが意見を口にしている。


「魔女様、その衣装も可愛いのです!」

『テト様からの意見は好評なようです。お次ですが……』

「あははははっ……はぁ」


 次の衣装に着替えて、評価し、また着替え、それを延々と繰り返して着せ替え人形にされているために、段々と私の目から光が失われていく。

 そして、一通りの着せ替えが終わり、衣装担当のメイド隊がデザインについて話し合いを始める中、解放された私は、そのままソファーに突っ伏してしまう。


「魔女様、お疲れ様なのです」

「テト、疲れたわ」


 本当に疲れた。

 ベレッタたちメイド隊の子たちが私に色々と衣服を着て欲しいと思う気持ちは知っている。

 この世界に転生してから今まで服装に関して殆ど頓着していないために、ベレッタたちが自然と用意してくれる衣装の組み合わせは非常に有り難かったりする。

 だが、以前私を着せ替え人形にさせられて疲れた記憶があり、今回の舞装束の衣装合わせも非常に疲れた。


「よしよし、魔女様は、頑張ったのです~」

「テト、今は甘えさせて」


 私はテトの腰に抱き付くようにソファーに寝っ転がり、そんな私の頭をテトが撫でてくれる。

 そして、そんな私に衣装担当のメイド隊の子が声を掛けてくる。


『ご主人様、舞装束のデザインが完成しました。ご確認をお願いします』

「うん。これは――」


 ソファーで横になる私は、顔だけ上げてメカノイドの子から差し出された舞装束のデザイン画を見る。

 聖職者のフード付きの白ローブをベースにノースリーブなその衣装は、肘から先に日本の舞装束である千早のような袖があり、長いストールが肩から前に垂れ下がっている。

 全体的にゆったりとした布地が多い舞装束を纏ったまま動けば、ひらりと布地が動きに合せて動くことが予想できる。


「えっと……いいんじゃないかな?」


 私の本音を言えば、コスプレ衣装でこんなのありそうだと思うけど、この衣装で舞を踊ってひらひらとする様子を見てみたいと思う。

 私がそう答えると衣装担当のメイド隊は、力強く頷く。


『では、早速衣装を作成して参ります』

「ええ、お願いね」

「楽しみにしているのです!」


 私は、決定した衣装デザインを持って退出するメイドたちを見送った後、そっと溜息を吐く。


「次は奉納の舞の振り付けと練習よね」

「シャエルたちが付き合ってくれるみたいなのです!」


 衣装が決まれば、今度は舞の練習である。

 とは言っても一から舞を作るために、浮遊島で舞踊を嗜んだ天使族のシャエルや一族で大陸西部を転々と流浪していた悪魔族の中には踊り子などの芸能や占いなどで生計を立てていた者もいた。

 そうした子たちが集まり、奉納の舞について考えるのだが――


「チセの錫杖を目立たせるなら、槍の動きを取り入れた演舞だ!」


 そう言ってシャエルは、輪廻の錫杖を模した金属の輪が無数に掛かった杖を槍の様に振るい、突き、払い、音を荒々しく掻き鳴らしていく。


「いいえ! 魔女様の魅力を伝えるためには、大胆な動きではなく、腰の動きですわ! 腰!」


 そう言って、一方の悪魔族の女性であるディヴァルナは、指先や手首、腕を滑らかに動き、誘うような腰の動きや足の見せ方など、見ているこっちが少し恥ずかしくなるような扇情的な踊りを披露している。


「お前は、馬鹿か! チセに、そ、そんな、ハレンチな踊りをさせる気か! それに錫杖を使ってないじゃないか!」

「そっちこそ、魔女様の魅力は、そんな荒々しい振り回しではなく、大人の魅力を感じさせる踊りで引き出されるものではなくて?」


 天使族のシャエルと悪魔族のディヴァルナが互いに睨み合うが、私としては――


「どっちも却下」

「「――ええっ!? なんでだ(ですか)!」」


 二人が声を上げて抗議の声を上げるが、隣で見ていたテトは、うーんと顎に指を当てて意見を言ってくれる。


「二人の踊りは、凄くいいけど、魔女様には似合わないのです!」


 私と一番長く居るテトに言われた二人は、愕然とするが、私としては二人の踊りには観る物があった。


「私としてはもっと落ち着いた静かな舞をしたいのよね。ただ、シャエルの舞踊の杖の振り方やディヴァルナの踊りの足運びとかも参考にしたいかも」


 そう言って、私はシャエルの持つ錫杖を借りて、即興で舞を踊ってみる。

 とは言っても動きの派手さや滑らかさもない、非常にゆったりとした舞だ。

 ――シャン、シャンと両手で斜めに構えた錫杖を手首の動きだけで鳴らし、ゆったりとした歩幅で右に、左の動き、錫杖を鳴らさないように半円を描く様に腕を回し、ピタリと目の高さで止めた錫杖を鳴らす。

 両手で構えていた錫杖を右手に、左手にと移し替えて、ゆったりとした動きで錫杖をシャン、シャンと鳴らしていく様子にテトたちが食い入るように見つめている。


 イメージとしては、日本の神楽舞の一種である鈴舞をイメージして舞っていく。

 ゆったりとした動きで少しずつ角度を変えながら回転し、その度に錫杖を鳴らしていく。


 ゆったりとした動きの体重移動や自分の目線の高さに錫杖を掲げ続ける動きは、普段使わない筋肉を酷使する。

 冬至祭の当日は、どれだけの時間舞い続けるか分からないが、身体強化を使えなければ、長々と舞い続けて居られないだろう。

 更に本番では、【輪廻の錫杖】を通して浄化魔法も発動し続けなければならないので、今から考えるとかなりの魔力を使いそうである。


「……ふぅ、こんな感じかしらって、えっ、ちょっと!?」


 そんなことを考えながら、鈴舞を模した動きを10分ほど続けて終えた所でテトたちを見ると、三人の様子に驚く。

 テトはいつも通りに満面の笑みで拍手を送ってくれるが、シャエルは唖然としたような表情で目を見開き、ディヴァルナさんが大粒の涙を流しながら拍手を送っていた。


「知らなかった……こんな舞もあるなんて」

「神々しすぎまず! 魔女様、神々しすぎて、浄化ざれじゃいまずよぉぉっ!」


 ディヴァルナさんは、声が濁るほどに涙を流して感動しているので、逆に驚いてしまう。


「えっと……ホントに、なんで泣く要素が何処にあったの?」

「魔女様、凄かったのです! ゆったりとして、綺麗で、格好良かったのです!」


 安定の全肯定テトに、本当に私の舞のどこに感動する要素があったのか分からず、放心状態のシャエルと号泣するディヴァルナさんが落ち着くまで待つ。

 そして――


「今の踊りは、どうだったかな?」

「凄かった。まさにチセらしい、神秘的で静謐な雰囲気のある舞と音色だった」

「その意見には同意です! 動きの所々をもっと磨いていけば、更に魔女様の神々しさにも磨きが掛かります!」

「神秘的……静謐……神々しさ」


 確かに、物静かで穏やかなのは好きではあるが、そこまで誇張表現されると逆に、困惑してしまう。

 私がテトに助けを求めるが、ニコニコと満面の笑みのテトに助けは求められないと知り、二人から舞の動きを確認しつつ、洗練していく。


 シャエルには、錫杖を鳴らす時の手首の動きや上半身の姿勢を維持し続ける時の心構え、ディヴァルナさんは、足捌きを指導してもらう。

 本番当日は、異次元から帰ってきた魂がどれだけの時間で浄化できるかわからないが、浄化するまでこの舞を何度も繰り返し、踊り続けることになるのだろう。


8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。

また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。

https://www.ganganonline.com/title/1069

作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。

それでは、引き続きよろしくお願いします。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
[一言] 巫女服はいいぞぅ…(by.巫女服好き) イメージったって、そんなパッと舞えるものなのだろうか…? レベルによる能力値の暴力とかそんなものなのか? それはそれとして巫女服なのでヨシ
[一言] 本人は自覚皆無だろうけどこの舞やったら浄化フィーバーの予感 想定以上の魂が一度に引き寄せられて女神サイドがパニくる、まであるよきっと…
[一言] なんか,前世で巫女さんやってたんじゃないかなと思う自分。イメージでっていってもそんなその場でいきなり鈴舞とかできんでしょと。
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