22話【魔女、祭りの取りを務める】
冬至祭に向けて、各集落の代表を交えて会議や準備が行なわれ始めた。
私も冬至祭の祭りの会議に参加し、どのように祭りが作られているのか見ていた。
私の要望としては、女神ロリエルからの神託で祭りを行なう点、篝火などを焚いて冬場の健康を願ってカボチャなんか食べられればいいなぁと思う程度だった。
それぞれの集落の冬備えなどもあるために、それほど規模は大きくならないだろうと思っていたが、各集落が盛り上がるように様々なアイディアを出してくる。
「様々な要望が出たわねぇ」
「凄いのです! これ、全部やるのですか?」
私とテトが感心しながら、提案された催し物の一覧を見つめる。
男性たちによる演舞や力試しの試合、女性たちによる合唱、住人たちによる芝居や曲芸などの様々な催し物が提案された。
【創造の魔女の森】の盟主である私は、祭りの大枠を決めたが、こうした住人たちの催し物には口出しせずに自主性を重んじる。
日中の催し物はどれも楽しそうな内容で、女神様の神託で始まった祭りであるために、各集落の代表たちも非常に気合いが入っている。
私や女神様方に注目してもらおうと、自分たちが得意なことや人を楽しませられることを考えて、色々とアイディアを出していく。
それに私が口出しすれば、私の意見を尊重して止めてしまう可能性もあるのだ。
『これを絞るの大変そうですね』
そうして、提案された催し物の中から実現可能なものだけを取り上げて、そこから更にベレッタが主導で絞っていく。
食べ物に関しては、一日を通して提供されるが、カボチャメニューだけだと味気ないためにそれぞれの集落も作って持ち寄るメニューなどを提案する。
その中から実現可能な内容を絞り、不足している物などは【創造の魔女の森】の中から集めるか、外部から交易で調達するかなど考えなければならない。
そうやって会議を進めるのは良いのだが――
『それでは、多数決により、ご主人様による女神様への奉納の舞を行なってもらうことに決まりました』
「わぁぁっ、おめでとうなのです!」
「ちょっと待って、ねぇ待って! なんで最後に私が奉納の舞をすることになったの!?」
そもそも、奉納の舞ってなに!? と驚いてしまう。
そんな私に対して、ベレッタが代表して民意を伝えてくる。
『冬至祭の最後に時空間より帰ってきた魂を浄化して神の身許に戻す役目は、女神様の使徒であるご主人様を措いて他に居ません。ご主人様には、浄化魔法を使いながら、住人たちへのアピールも行なってもらうことになりました』
「だからって何で奉納の舞? 普通に全員一斉に篝火に向かって黙祷の時間でも用意すれば良くない? 私がそれに合わせて浄化魔法を使うから……」
全員に対して、『黙祷』と言って壇上で祈りを捧げるくらいならやるけど、流石に全員の前で踊ったことのない奉納の舞なんかをやるのは無理である。
そう思っている私に対して、テトは強く訴えてくる。
「ダメなのです! 魔女様もお祭りの、それにこの森に住む一人なのです! だから、魔女様も一緒にやるのです!」
「テト……」
今まで様々なことを一歩引いた場所から眺めることが多かった私に対して、テトが当事者になるように勧めてきた。
確かに、恥ずかしくはあるが、飛び込まなければ本当の【創造の魔女の森】の住人たちとの一体感を味わえないのかもしれない。
『一応冬至祭は、鎮魂の儀式も兼ねておりますので、ご主人様には【輪廻の錫杖】を持って頂き、その舞と共に浄化魔法を使って頂くことで集まる霊魂を効率よく鎮めていただくことも考慮しております』
「わかったわ。もう、テトに感情で訴えられて、ベレッタに理で諭されたら反論できないじゃない。ただし、今回だけよ。次回以降は別の人が【輪廻の錫杖】を持ってやってもらうからね」
私がそう言うとテトは、やったぁと喜びながら私に抱き付いてきて、ベレッタは口元に弧を描いて、畏まりましたと言って恭しく頭を下げる。
『さて、つきましてはご主人様にお願いしたいことがございます』
「えっと……なにかしら?」
そして下げた頭を上げたところで、ベレッタがそう切り出すので私は少し身構え、私に抱き付いたままテトがキョトンとした表情で小首を傾げている。
『冬至祭でのメイン会場に【創造の魔女の森】の住人全てを集めるのは、様々な観点から困難であると思われます。そのために、メイン会場と各集落や施設などのサブ会場を用意することになりました』
メイン会場では、先ほどの会議に上がった演舞や力試しの試合などを行い、サブ会場では各集落ごとが篝火を焚いて、料理を持ち寄り、食事をする一般的な村落の祭りが行なわれるそうだ。
『その際、メイン会場の様子をサブ会場にも伝えられるような通信魔導具の用意をよろしくお願いします』
「ああ、生放送されるのね。祭りの様子を……」
私の奉納の舞も大多数の住人に見られるのか、と思うと遠い目をしてしまう。
だが、テトやベレッタ、会議に集まった各集落の代表たちの期待の籠った目を向けられてしまうと、やるしかないと腹を括る。
それにセレネのリーベル辺境伯家や亡きギュントン公のハミル公爵家に送った通信魔導具があるが、アレの上位版のような魔導具を用意もしなくてはいけない。
あの通信魔導具だって、1個100万以上の魔力を使ったのに、それの上位版であり、生放送するサブ会場の数によっても、相当な魔力量を使うだろう。
更に、演舞や試合などが途中で中断されないように、通信を維持できるだけの【魔晶石】による魔力ストックも用意しないといけない。
『それからご主人様には、人前に立って頂くために奉納の舞の練習や衣装合わせなどがあります』
「えっと……祭りの準備とか手伝わなくていいの? 私も準備手伝うけど……」
『女神様方への奉納の舞は重要ですので、ご主人様には集中して頂きたく思います。また、祭りの準備などにご主人様のお手を煩わせる事ではありません』
そうきっぱりと言い切られてしまった私は、大人しく奉納の舞の準備をするのだった。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。