21話【冬至祭の準備】
『失礼いたします。ご主人様、おはようございます』
「おはよう、ベレッタ」
「むぅ~、おはようなのです~」
入室前のノックに目覚めた私は、部屋に入ってくるベレッタに挨拶を返しながらベッドから抜け出す。
私がテトの腕から抜け出したことで、遅れてテトも寝惚け眼を擦りながら目覚めて挨拶をしてくれる。
そして、少しの間ぼんやりと過ごしていたテトがハッと目を見開き、大きな声を上げる。
「はっ、そうなのです! お祭りをするのです!」
『テト様? お祭りですか?』
「今日、冥府神のロリエルから神託があったのよ。冬至祭を開いて欲しいって」
私は、着替えをしながらベレッタに夢見の神託での話を説明する。
『流石、ご主人様です。またもや女神様方から神託を授かるとは……畏まりました。我らメイド隊一堂が総力を挙げて、冬至祭の準備に当たります』
「えっと……私が聞いて来た話だから、私も手伝うわよ」
「テトもお手伝いをするのです!」
冬至祭までの日数は、残り二ヶ月ほどであるために急ピッチで進めなければならず、私とテトが手伝いを申し出るが、ベレッタは静かに首を横に振る。
『この【創造の魔女の森】では毎年の桜の花見や各村々での祭りがある程度で、この地全体の祭りが無かったので、ちょうど良いと思います。各集落の代表に連絡して新たな祭りの設立を考えましょう』
【転移門】の使用許可から始まって、祭りの開催意義、祭りの開催場所の選定、その会場の準備や祭りの料理の選定と食材の準備、催し物の選定など……決めなければならないことは多数あるが、その殆どはベレッタたちに丸投げになりそうである。
「私たちも何か手伝えることはないかしら?」
『今はまだ、ご主人様たちにはどっしりと構えて頂けたらと思います』
「残念なのです……でも、料理の味見くらいは任せて欲しいのです」
『畏まりました。それでは、料理の味見は、ご主人様とテト様にもお願いいたします』
「そうね。それじゃあ、事前のリクエストとして冬至の料理には、カボチャを使ったものを出してもらえる?」
『カボチャ……ですか? 理由を伺っても?』
「そうね。前世での風習の名残……かしらね」
黄色は魔除けの意味合いがあり、また栄養価の豊富なカボチャを冬至に食べることで無病息災を願う風習が前世にある。
また、今回の冬至祭は、彷徨える魂を導くための祭りであるために、同じく魔除けの意味合いがあるハロウィンのカボチャのランタンも思い浮かべてしまう。
『そのような風習について知識がございませんが、どこかの地域にはそのような風習があるのかもしれませんね。ですが、ご主人様が冬にカボチャを食べたがっていたのには、そう言う理由があったのですか』
「テトは、魔女様の作るカボチャのクリームシチューや煮物が大好きなのです!」
もう何十年もベレッタと一緒にいるが、冬至近くになればカボチャの料理をリクエストするのを不思議に思っていたようで、その疑問が解決してスッキリとした表情を浮かべている。
とりあえず、冬至祭のメニューにはカボチャの使用が決定したが、祭りの準備や各集落の代表者を集めるのはベレッタたちに任せることになった。
私たちは、ただ神託の内容を伝えただけで、まだ本格的に始まらないために普段通りと言われてしまうと逆に困ってしまう。
「――と言うことで、古竜の大爺様に相談に来たのよ」
「よろしくお願いするのです!」
そうして普段通りにしていいと言われても困った私は、古竜の大爺様の所に相談に来たのだ。
『ふむ、彷徨える魂を導くための冬至祭かのぅ。また、女神様方も古い祭りの風習を願った物じゃ』
「古い祭り?」
「昔にも同じようなお祭りがあったのですか?」
私とテトが古竜の大爺様に尋ねると、古竜の大爺様は嬉しそうに答えてくれる。
『うむ。大昔の冬至祭では、最も太陽が弱まる日は逆に太陽の再誕を祝う日とされたり、そこから更に死者の輪廻転生による再誕を願う日など、時代ごとに意味合いや風習も変わっていったんじゃ』
「そんなにお祭りがコロコロ変わっていいのですか?」
テトが不思議そうに首を傾げているが、きっと古竜の大爺様視点だと、数百年、数千年単位での祭りの変遷なのだろう。
『なに、人間の都合で祭りなど容易に意味合いや内容などが変わる。厳粛な儀式や一部の貴族階級に許された風習も時代を経て、大衆的な行事に様変わりした。だが、その日を祝おうとする人々の思いや願いは変わらず、祭りを通して神に祈りが捧げられておるのじゃ』
私は、なるほど……と頷きながら古竜の大爺様の話に耳を傾ける。
「それじゃあ、【創造の魔女の森】での冬至祭は、この地を管理している女神リリエルと冥府神のロリエルに捧げるってことね。あと、太陽再誕を祝うから太陽神のラリエルでしょ……」
「そうなると、他の二人の女神様が仲間外れになっちゃうのです!」
「それじゃあ、冬の寒い雪や風が和らいで、暖かな春の訪れを水の女神のルリエルと風の女神のレリエルに願う?」
『ふははははっ! 魔女殿たちの都合の良いように祭りを作ればよかろう! 女神様方も祈られて悪い気はせんじゃろう!』
この大陸の五大神全員に願う祭りなんて、欲張りセットなお題目に古竜の大爺様が大笑いしている。
そうなると、五大神全員を祈る祭りに変わりそうだ。
「それなら、冬至祭に何が必要なのかしら? ロリエルの希望だと彷徨う魂の導きになる光が欲しいのよね」
『ならば、篝火やトーチなどを用意すると良かろう。一晩中火を絶やさず過ごせば、迷える霊魂もこの地に辿り着けよう』
「それは、いい考えね。後でベレッタの方に相談しましょう」
前世の日本のお盆には、迎え火・送り火の風習がある。
お盆にやってくる霊魂を迎え、現世からあの世に再び旅立つために火を焚くのだ。
そう考えると、キリスト教の冬至祭やらハロウィンやら日本のお盆的な要素が盛り込まれたお祭りになりそうだ、と笑ってしまう。
そして、古竜の大爺様に一頻り相談したところで、冬至祭に対するビジョンが明確になった。
「ありがとう、大爺様。お祭り、楽しみにしてね」
「魔女様とテトは何をやればいいか分からないけど、楽しみにするのです!」
『うむ。ワシはこの巨体であるから容易に手伝えはしないが、楽しみにしておるぞ』
そうして、私たちは古竜の大爺様の住処から出て、ベレッタの元に向かい冬至祭でやりたいことを希望したのだった。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。