20話【今までで一番楽で大変なお願い】
テトと一緒に眠りに就いたある日の夜、私とテトは、再びあの夢見の神託の空間にいた。
「今日のリリエルたちは、何の用かしらね」
「魔女様と一緒に、お茶会なのです! 魔女様、今日は何を創ってくれるのですか?」
時々、リリエルたちに呼ばれて夢見の神託の空間に訪れては、お茶をしながら日常の出来事を話していくのだ。
その中で、飲み物や食べ物がないと味気ないので夢の中で【創造魔法】によって創り出した食べ物を一緒に食べる。
最初は上品にケーキと紅茶とかだったが、次第にリリエルたちから前世のお菓子や食べ物をリクエストされた。
その結果――時には日本食からファミレスの料理、ジャンクフードを、また時にはチープな駄菓子やお菓子なんかを生み出してみんなで食べたりするのだ。
美人・美少女な女神がジャンクフードにコーラ片手に駄弁る光景は、信者が見たら卒倒しそうである。
まぁ、こんな夢の中で前世の食べ物を創り出してこっそり食べているので、現実世界では、そうした物を創り出すことはサッパリないのだが……
「そうね。今日は――和菓子が食べたいわねぇ」
どら焼き、大福、饅頭、カステラ、羊羹、かりんとう、おせんべいなど……作ろうと思えば作れる物を【創造魔法】で生み出していく。
そして、和菓子に合わせて、緑茶も用意していると、リリエルと共に一人の少女がふわふわと浮かびながらやってきた。
「リリエル、いらっしゃい」
「いらっしゃいなのです! 沢山、魔女様が用意してくれたのです!」
『ええ、今日は呼び出してごめんなさいね。それと――』
リリエルが連れていた少女をそっと前に押し出すと、スーッと滑るように空中を移動し私たちの前にやってくる。
真っ白な髪の毛を肩口で切り揃えた少女の頭部に光輪が輝き、背中から翼が生えており、リリエルと同じ神だと思われる。
「冥府神・ロリエルかしら?」
「最後の女神様なのです!」
第九大陸と呼ばれるこの大陸の五人の女神たちに会い、唯一会っていなかったのが永い眠りに就いていた冥府神・ロリエルだ。
それもつい最近――とは言っても大陸西部のスタンピード後なので十数年前だが――短時間ではあるが目覚めることができたと聞いていた。
なので、いつかは会えると思っていた。
『んっ、初めまして……』
外見は私と同じ12歳ほどの真っ白な少女神は、眠そうに閉じていた目を開き、薄紫の瞳でじっと私たちを見つめる。
『最近、心地良い祈りが届いてた。だから、あなた、好き』
「えっ、祈りって、ってちょっと……」
『……疲れた』
ふわふわと浮いていたロリエルは、急に力が抜けるように地面に堕ちて脱力する。
その様子に驚く私とテトに対して、リリエルは困ったように溜息を吐く。
『やっぱり、まだ外出は早かったかしらね』
『……や。リリ姉様たちだけ美味しい物食べるのズルい。私も食べる』
そう言って、地面で脱力したままリリエルに抗議の声を上げるロリエル。
「えっと、そこで寝るとアレだから、ベッドを創りましょう。――《クリエイション》!」
創造魔法で柔らかなベッドを生み出し、私とテトでその上に運ぶとベッドの柔らかさにロリエルは満足げな表情を浮かべている。
『むふっ……気持ちいい。このベッド持って帰っていい?』
『ロリエル、多少は女神としての威厳ってやつを保ちなさいよ』
恥ずかしそうにするリリエルを余所目にベッドでだらけるロリエルは、どら焼きを一つ念動力か何かで手繰り寄せてパクッと咥える。
『……美味しい』
眠そうな表情はそのままだが、口角だけは僅かに上がって幸せそうに食べるロリエルの姿に、私たちはホッコリと癒やされ、そして各々が興味のある和菓子に手を伸ばし、緑茶を啜る。
だが、それがベッドの上であるために、ものぐさ感が拭えないが……
「そう言えば、リリエル。今日は、ロリエルの顔見せのためだけ?」
『いいえ、ロリエルからお願いがあるらしいのよ』
女神からのお願い……今までもあった事なので、断るつもりはないが十数年前のレリエルの件では大陸西部の危機とスケールが大きかった。
今度は、どんなお願い事かと身構える中、ロリエルは口を開く。
『……私は眠りながらも、この大陸の生と死の輪廻を廻していた』
「ええ、そう聞いているわ」
「大変だったのです!」
『実は寝てたから実感がない。ただ機械的に権能を行使してたら、気付いたら2000年が経っていた』
死者の魂をドンドンと輪廻転生させて、生者が生まれれば、彼らが発する魔力が世界に満たされる。
そのために機械的に輪廻転生を行なっていた。
『ただ、2000年前の古代魔法文明の暴走で時空間に呑み込まれて輪廻から外れた魂が大勢残っている』
「十年以上前にあったスタンピードの時に、偶然一部の魂が戻ってきたのよね」
私がそう相槌を返すと、その通りとロリエルが頷く。
『時空間を漂う魂が少し戻ってきた。それで少しだけ起きていられるだけの力が戻った。でもやっぱり本調子じゃないから、あなたに会うまでに10年以上掛かった。そして、まだまだ沢山魂がこの世界の外側を漂っているの。それを掬い上げたい』
真剣な表情のロリエルがそう語るが、右手には新たに手繰り寄せたカステラを持ち、口の端に食べ滓を付けているために、どうにも締まらない。
「それで、私たちは何をすればいいの?」
時空間を漂う魂を掬い上げるために、私たちに何を頼もうと言うのか尋ねれば、思わぬ答えが返ってきた。
『冬至に、お祭りをお願い……』
「えっ? 魂を掬い上げるのに、なんでお祭り?」
『放浪する魂は、故郷の世界に帰りたがっていた。でも、この世界に帰るための道しるべが分からない。だから、この星が最も暗い日にお祭りを開く。暗い中なら祭りの小さな光でもハッキリ見えて、魂が帰ってくる』
「なんだか、楽しそうなのです!」
テトは乗り気だが、そのような大事な役目のあるお祭りで何をやればいいか分からない。
どのような神聖な神事を行なうべきか、と悩む私の心を読み取ったのか、ロリエルは、答えてくれる。
『魂たちの灯台になって。――飲んで、騒いで、楽しんで。派手なほどいい。そうしたら、魂たちがこっちに気付いて集まってくる。そうして集まった魂を浄化する。たったそれだけでいいの』
そう言われれば納得できるが、お祭りなど世界各地で行なわれているのではないか、と思ってしまう。
『確かにお祭りは各地で行なわれているけど、古代魔法文明の暴走で時空間の壁が薄い所は、この地くらいだからね。他の場所のお祭りじゃあ、効果が薄いのよ』
リリエルの説明に、その通りだと言うように頷くロリエルは、今度は大福を手に取って食べる。
「一応納得したし、冬至のお祭りね。ちょうど良いんじゃないかしら?」
【創造の魔女の森】では、植えた桜の木の下で飲み食いする花見祭が定番となっているが、後は各々の集落がやる収穫祭などがある。
最も日が短い冬至にお祭り――死者のための鎮魂祭をやるのはちょうど良いかもしれない。
『うん、期待している。それとできれば、毎年お願いね』
「毎年ね……それは思ったより大変そうね……」
「でも、楽しみなのです!」
まぁ、狙いとしては、放浪する魂をこの世界に呼び戻すための祭りであるが、今生きている人のための祭りにもしたい。
これは【創造の魔女の森】の住人たちの力を借りて、行なわなければならないように感じるのだった。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。