15話【第一階層・南国孤島の疑似空間】
古竜の大爺様とエルネアさんとのお茶会から一夜明けて、私とテトは、ダンジョンコアの前に立っていた。
「さぁ、大爺様たちが教えてくれたビオトープ型のダンジョンを作りましょう」
「海の中に浮かぶ島を作って、美味しい物とかを沢山生やすのです!」
私は、まずダンジョンの階層範囲を設定する。
ダンジョンの階層の最大サイズは、5キロ×5キロの空間だ。
その中央に、ダンジョンに取り込ませた素材にある岩石や砂を使って、孤島の輪郭を整えていく。
「土地の面積比率は、海7、陸地3くらいでいいかしらね」
「魔女様~、地面が広い方が、沢山の果物を植えられるのです!」
「一応、海の生き物を放して繁殖もさせるつもりだから、海の面積が少ないと繁殖させる限界もあるのよねぇ」
「むむっ……お魚とかも食べたいのです」
世界樹に階層の魔力維持を頼った、ビオトープ型と資源型のハイブリッドだ。
ビオトープとしては、世界樹を始め、南国の果物のバナナやマンゴー、ヤシの木、カカオ、サトウキビ。
それに温暖な環境でのみ育つ薬となる草花を群生地として配置する。
まだ海水は注入していないが、海中にも食用や薬用になる海藻を生い茂らせ、大小の岩場を組んだ岩礁などを作るつもりだ。
「セーフティーエリアの泉と海に流れる川はこっちの方向に引いて、世界樹は孤島の中央に植えて……これでよし」
孤島の台地の中央には、大きな世界樹を設定し、その根元に安全地帯の泉を設置する。
ダンジョンの設置物には、二種類の設定をすることができる。
一つは復旧設定。もう一つが変化の容認がある。
例えば、薬草の群生地や鉱脈、トラップなどは、採取や採掘して数を減らしたり、罠が発動・解除されてもダンジョンの力と魔力によって、失った分を補う――これが復旧設定だ。
もう一方は、設置したらその後は、元には戻らないのが変化の容認である。
これは、宝箱のランダム設置や特定の設置物を成長や変化をさせたい時に使うようだ。
私がダンジョン外から移植した世界樹の大木は、そのまま成長するはずだ。
「魔女様。砂浜のこのスペースはどうするのですか?」
「南の砂浜は日当たりが良いから製塩所にするつもりよ」
とは言っても、交易によって塩を入手しているために、住人たちがわざわざダンジョンで製塩するかは、住人たちの判断に委ねよう。
万が一に、塩の交易が止まった場合の確保手段である。
「魔女様、綺麗なお花も植えるのです! パッと明るくなって楽しいのです!」
「もうここまで来ると、リゾート開発よね……」
テトの提案で空いている所に鮮やかな草花を咲かせ、海岸沿いには木造平屋の休憩所を建てれば、海の家だ。
段々と南国のリゾート的になっているが、泳げない私がこの海岸で遊ぶ光景を想像できない。
出来ることと言えば、水着に着替えて日陰の下で本を読んでいる姿だろうか……
そうして、最後に孤島の周囲を覆うように海水を注入し、海中に海藻や珊瑚などを植えていき、海で繁殖させる生き物の間引きのために疑似生命タイプの水棲魔物を召喚する。
「魔女様、大体できたのです!」
「そうね……一応、ダンジョンの収支に関しては……問題無いわね」
孤島階層のレイアウトを作成したが、初期の作成コストは、今日のためにダンジョンコアに溜めた魔力を使えば問題なく作成できる。
また、階層の維持コストもダンジョン内の世界樹やその他の植物などが発する魔力だけで現時点でも賄える。
「さぁ、いくわよ。ダンジョンコア、階層作成――実行!」
ズズズッとダンジョン自体が鳴動し、私たちのいるダンジョンコアの部屋の出入り口が消え、上層に向かう階段が現れる。
「おおっ、出口が無くなったのです!」
「たぶん、ダンジョンコアの部屋が一つ下にシフトしたのね」
1階だったダンジョンコアの部屋が2階になり、先ほど作った孤島が誕生したのだろう。
そして、私はテトを連れて孤島階層に向かえば、燦々と降り注ぐ疑似太陽とダンジョンに移植した世界樹の大木が出迎えてくれる。
「魔女様~、凄い暑いのです~」
「そうね。いきなり熱帯環境だとちょっと暑いわね」
私もテトの言葉に同意しつつ、魔法を使い、周囲の日射しと暑さを防ぎ、孤島の周囲を見回る。
下に向かう階段に近くには、ダンジョンの入り口に繋がる階段もあり、そこから外に出られるようだ。
また、孤島を歩き回れば、植えた植物などが青々と生い茂り実っているので、それらを捥ぎ取り味見をしつつ海辺に向かえば、一段下がった場所にだだっ広い砂地が広がっていた。
「まぁ、まだ海水を注入してないからこうなるわよね」
実際、海面より高い孤島の台地から溢れる川の水が砂地に流れ込んでいるが、ダンジョンの恒常性により水は溜まることなく、消えていく。
ダンジョンの管理は、階層作成後にもできるために、海水なしで作った。
「魔女様、これから楽しみなのです!」
これから起こることにワクワクするテトを連れて砂地から少し進んだ所まで足を運んだ私は、砂地に【転移門】を設置する。
「テト、準備はいい?」
「はいなのです!」
「それじゃあ、行くわよ!」
そして、【転移門】の通過設定を変更した瞬間、鏡面状だった転移門からドバッと勢いよく水が溢れ出す。
「きゃっ!? 凄い勢いね!」
「ふうぉぉぉぉぉっ! 色んな物が流れてくるのです!」
【転移門】から流れ込んでくる海水が勢いよくダンジョンに流れ込み、それと共に様々な生き物を運んでくる。
微生物や大小様々な水棲生物、水に巻き込まれて千切れた海草類や砂、砂の中に潜んでいた生物たちだ。
それらが砂地に流れてくると共に私は、ダンジョンコアの力を使い、ダンジョンに変化を引き起こす。
「注入された海水の吸収とそれを使った海水の補充――実行!」
だだっ広い砂地には、徐々に海水が満たされていき、ダンジョンに流れ込んできた生き物たちが方々に広がっていく。
また、同時にダンジョンに取り込まれた海藻などの生物が生きるために必要な餌場なども生み出していき、徐々に私たちのいる場所まで海水が上がってくる。
「大雑把だけど、これで生き物が定着すれば御の字よね!」
「大爺様にも手伝ってもらえて、よかったのです!」
ダンジョンの海にも生物を繁殖させる方法を考えた時、繁殖させる生物を選別し、生態系のバランスを調整しながら作るのでは、非常に時間が掛かる。
そのために、古竜の大爺様に協力してもらい、ダンジョン内の気候条件に近い土地へ対となる【転移門】を沈めてもらい、【転移門】を通って、直接生物の混ざった海水を注入しているのだ。
「おー、魔女様! 魔物も一緒に入って来たのです!」
「テト、お願い!」
「任されたのです!」
徐々にダンジョンに海水が満ちてくるので、私は砂浜の方に移動しながら、ダンジョンの状況をモニタリングする。
そして、【転移門】を通ってダンジョンにやって来た水棲魔物が私たちを狙って襲ってくるので、魔剣を引き抜いたテトが斬り捨てていく。
「うん。水位は予定量まで充填完了。波の動きも一定の範囲の強さをランダムで押し寄せるように設定完了。潮の満ち引きも現実世界の動きに同期。ダンジョンの海を守護する疑似生命の魔物を配置完了。間引きの設定と侵入した魔物の駆除命令は完了っと……しばらくは【転移門】を沈めたまま経過観察しましょう」
「はいなのです!」
ダンジョンと温暖な地域の海が繋がった【転移門】からの海水の流入が止まり、均衡が保たれているようだ。
海水の流入は止まったが、生き物は変わらず通過できる。
このまま長期間【転移門】を沈めたままならば、海水の流入時には入らなかった生き物も偶然入り込んで、ダンジョン側にも定着するかもしれない。
【転移門】を通したままだと魔物が入り込むリスクがあるが、それは転移門の大きさによって侵入可能な魔物の強さは大方決まるし、危険な生物なども、ダンジョンの疑似魔物によって排除されるのを期待しよう。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。