13話【息抜き妖精女王の来訪と不思議な木の実の真実】
誕生したダンジョンの検証と、【創造魔法】で生み出した素材を取り込ませることによる項目解禁などを繰り返し、色々な情報を調べ上げていく。
本来なら、ベレッタたちを補助に置いておけば、より効率的にデータの収集ができるだろうが、ほぼダンジョン運営は趣味で行なっているために、今は私とテトだけでやっている。
そしてダンジョンに通うこと1週間――思い付く限りのことを大方したので、いざダンジョンの階層を作ろうと考えて、何から作ればいいのか、分からなくなってしまう。
「……さて何を作ろうかしら?」
「テトは、美味しい物が沢山あって、楽しい場所が良いのです!」
「そうね。やっぱり当初の予定通りに利便性の高い階層かしらね」
ダンジョンコアに蓄えられた魔力を使い、階層のレイアウトを決めようとする。
そんな折りに、ベレッタがやってきて、来客を告げてくる。
『ご主人様……先ほど、エルネア様が訪れて、ご主人様に面会を希望しております』
「エルネアさん、久しぶりなのです!」
「もしかして、サボってこっちに来たとか?」
一応、【創造の魔女の森】とエルタール森林国の王城には、【転移門】を置かせてもらい、互いに行き来しやすいようにしているが、女王のエルネアさんがたった一人でホイホイと出歩くなど、普通に不味いだろう。
きっと、政務などをサボってこちらに来たと予想してしまう。
「ベレッタ、お茶の準備をお願いね。それと、少ししたらアルティアさんに連絡を入れてくれる?」
『畏まりました』
息抜きのために抜け出してきたのなら、少し相手をして満足させた後で、アルティアさんに回収して貰えばいいだろう。
私とテトがベレッタに呼ばれて屋敷に戻れば、屋敷の裏に植えられた果樹を見上げていたエルネアさんがいた。
「エルネアさん。一応、女王なのに、一人でこんな所に来て大丈夫なの?」
私が呆れ気味に声を掛けると、エルネアさんは優雅に振り返ってみせる。
「妾とて、たまの息抜きも必要じゃよ。それより、チセよ。【創造魔法】でまたとんでもない物を生み出しておったようじゃのぅ」
そう言うエルネアさんの視線の先には、果樹があった。
私たちがエルタール森林国に訪れる前に、世界樹や桜の霊樹を調べる際に、世界樹の若木に果樹を接ぎ木した樹だ。
成長速度や魔力生産力は普通の木々程度まで落ち込んだが、接ぎ木した果樹に魔力が行き渡ったことで【不思議な木の実】を付けるようになったのだ。
「エルネアさんも食べる? 美味しいわよ」
「テトが取ってくるのです!」
テトが樹に足を掛けてするすると登り、果物を幾つかもぎ取って来る。
それを見たエルネアさんは、呆れた表情をしている。
「チセが何故2000年生きる妾よりも魔力が多いのか、その秘密が分かったわ。その果物が伝説や伝承でなんて呼ばれるか、知っておるか?」
「ん? 【不思議な木の実】じゃないの?」
私が【創造魔法】で作り続け、こうして世界樹に接ぎ木することで生まれた魔力量を増やす果物だ。
だが、それはあくまで私の認識の範囲内での話である。
「様々な伝説や伝承はあるが、総じて【不老長寿の果実】と言われておる」
魔力が豊富な土地や、霊樹にのみ実り、時には数百年に一度実る果実の総称らしい。
それを一つ食べれば、寿命が延びる。
そのために、数多の人々が求めた食べ物らしい。
「魔力量が増えれば、人の寿命は延びる。特に【不老長寿の果実】は、食した者に莫大な魔力と共に力や若さを与えるなどと伝説や伝承の中で語り継がれておった」
「なるほど、ねぇ……」
私としては、某RPGのステータスアップアイテムをイメージしていた。
だがその実態は、旧約聖書の生命の樹の実やアヴァロンの林檎、黄金の林檎、桃源郷の仙桃などの前世の神話や伝説に出てくる様々な果実の方が近かったようだ。
「でも、【創造魔法】で生み出した物を食べてもエルネアさんが言うような莫大な魔力は増えないわよ。精々、魔力量が30前後増えるくらいよ」
「ならば、チセの生み出す果実は、魔力を増やす効能はあれど、未成熟な物なのじゃろう」
「なるほどねぇ」
そんな貴重な物を毎日食べていたのか……と遠い目になる私の隣では、先ほど捥ぎ取った果物をテトがモグモグと食べている。
『ご主人様、テト様、エルネア様。お茶のご用意ができました』
「あ、ありがとう。ベレッタ……今は少し落ち着きたいからお茶は嬉しいわ」
「おやつなのです!」
私は、お茶を飲んで【不思議な木の実】の事実をゆっくりと消化したい気分である。
テトは先ほど【不思議な木の実】を食べたばかりなのに、まだ食べるのか用意されたお菓子に手を付け、エルネアさんも優雅にお茶を飲み始める。
「エルネアさんは、今日来た理由はなに? 本当に息抜きだけ?」
「以前にも話したが、幻獣たちの相互繁殖計画を話したじゃろう? その視察のために近々、チセの森を見て回りたいのじゃ」
大陸西部のスタンピードが起こったために有耶無耶になっていたが、【創造の魔女の森】とエルタール森林国で、互いの土地に住まう幻獣たちの番い探しや互いの土地に新たな種の幻獣を行き来させたりするのだ。
「それは構わないけど、エルネアさんが直々に?」
「また、アルティアさんに怒られるのです!」
私が訝しげに尋ね、テトが苦労性の補佐官であるダークエルフの事を口にすれば、少しばつの悪そうな顔をしている。
「妾だって偶には息抜きも必要であろう? 女王の重責とか色々あるんじゃ」
「……程々にしないと、またアルティアさんに怒られるわよ」
私は、小さく溜息を吐きながら答えると、エルネアさんは唇を尖らせて少し不満そうにしている。
まぁエルネアさんとアルティアさんの関係については、部外者が立ち入る話ではないので、とりあえず話を戻すとしよう。
「それじゃあ、定期的に【転移門】でこっちに来るのかしら?」
「うむ。最初は妾が顔を出すが、いずれはこちらが送る人員と交流させて幻獣の番い探しをしてもらうつもりじゃな」
「また幻獣たちの赤ちゃんが増えるの楽しみなのです!」
そう言って、お茶を啜り優雅にお菓子を食べるエルネアさんに、そういうことならと納得する。
そして、エルネアさんの息抜きに付き合っていると、私たちの頭に念話が響き、屋敷の開けた場所――古竜の大爺様専用の着陸地に大きな影が差し込む。
エルネアさんの言葉に念話が響き、屋敷の開けた土地に古竜の大爺様が降りてくる。
『魔女殿と妖精女王殿が揃うと聞いてのぅ。ダンジョン談義に花を咲かせていると思って、駆け付けたが、間に合ったかのぅ?』
「大爺様よ、久しいのぅ! そう言えば、ロロナに憑依したレリエルから聞いたが、ダンジョンは、どのような感じなのじゃ?」
突然現れた大爺様も加えて、お茶会の場は一気にダンジョン談義一色に変わったのだ。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。