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11話【新米ダンジョンマスター・チセ】


 私とテトが【創造の魔女の森】に誕生したダンジョンの中に入っていくと、白い壁や天井に囲まれたガランとした一室に台座とダンジョンコアの魔石が置かれていた。


「あれは、ダンジョンコアね。どうすれば、ダンジョンを作れるようになるのかしら?」

「とりあえず、触ってみるのです!」


 私が、テトに促されてダンジョンコアに触れると、ダンジョンコアが光を放ち始める。


「うっ……」

「魔女様! 大丈夫なのですか!?」


 それと共に頭に、直接ダンジョンコアの操作方法の知識を植え付けられ、苦痛の声を漏らすとテトが体を支えてくれる。

 知識の植え付けは、ダンジョンの簡単な扱い方のみだったために、一瞬で終わり、私はテトに大丈夫であることを伝える。


「平気よ。ただのダンジョンコアの操作方法を覚えただけだから……」


 私は、恐る恐る再度ダンジョンコアに触れるが、今度は光らずに沈黙したままであった。


「――《チャージ》。ダンジョンコア、起動!」

「おおっ!? なにか出てきたのです!」


 私がダンジョンコアに魔力を注ぎ、私とテトを中心に、何枚もの半透明な幻影が現れる。

 まるでホログラムのような情報を思考によって手繰り寄せ、それを一枚一枚確認しながら、関連する情報を引き出していく。


 トップページから始まり、ダンジョンのレイアウトから、召喚・設置・作成可能なアイテム。ダンジョン内に吸収させる素材、ダンジョンの収支状況……


「まるでゲームみたいなデザインね」

「よく分からないのです。でも、すごく見やすいのです!」


 思えば、古代魔法文明の暴走以降、神々が世界に導入したステータスシステムも、ゲーム的である。

 古くからあるダンジョンのシステムもゲーム的であることを考えると、元々この世界には、ゲーム的な法則が用意されていたのかもしれない、と考えてしまう。

 ただ、そのシステムを適用するかどうかは神々が決めている、という……


「魔女様、ボーッとしてどうしたのですか?」

「うん? いえ、なんでもないわ。早速、何ができるか確かめましょう」


 私とテトは、並んでダンジョンの階層作成や召喚できる物や道具などを見ていく。

 そして、最初にダンジョンに考えていた理想は、少しずつ打ち砕かれていく。


「少ないわね。圧倒的に召喚できる物が……」


 魔物や召喚物など、階層の構造の創造には、様々な魔力コストが掛かるが、それでも選択できる種類が足りないのだ。


「最初は、荒野と洞窟だけなのね。海岸階層とかはできないの?」


 また、魔物の召喚に関しても、二種類の選択肢がある。


 一つは、疑似生命体召喚だ。

 これは、選択した魔物をダンジョン内に疑似生命体として召喚するのだ。

 この疑似生命体は、ダンジョン内限定で存在できる幻のような魔物だ。

 もしも倒された場合、死体は残らず、その魔物由来の素材や魔石がドロップする。


 召喚時のメリットは――

 一つ目は、肉体を丸々用意しない分、召喚コストが安い。

 二つ目は、疑似生命体であるために召喚し続けるためのランニングコストも安い点だ。

 具体的にダンジョンからの魔力供給だけで生存できるので、食事などは不要になる点だ。

 三つ目は、非常に機械的でダンジョンマスターの命令に忠実という点だ。


 デメリットは――

 一つ目は、一切の成長がない点。

 よく、ダンジョンと外の魔物を比較すると外の魔物の方は、経験を積んでいるために手強いと言われている。

 それは、ダンジョンの魔物には生きて積み重ねる経験と言うものがないからなどと言われているが、まさにその通りだろう。

 二つ目は、食事不要である分、同時に繁殖もしない。

 三つ目は、疑似生命体であるために、魔物自身は魔力を生産することはない。


「大分、魔物や生物としての機能がオミットされている? いえ、違うわね。制限されているのね」


 もう一つは、完全召喚。

 こちらは、前者とは異なり、完全な肉体を持った魔物をダンジョンに召喚することができるのだ。

 召喚とは名付けられているが、この世のどこかにいる魔物を呼び寄せるのではなく、魔力から魔物を産み出す創造の一種だ。

 魔物が召喚されるプロセスとしては、魔力溜まりから魔物が自然発生するのと同じようなものだろう。


「むむむっ、内容が難しいのです! 魔女様は、わかるのですか?」

「ええ、一応把握はしているわ。けど、実際にやって慣れる必要がありそうね」


 完全召喚は、疑似生命体としてのデメリットの幾つかが消滅する代わりに、扱いづらさや召喚コストが跳ね上がるようだ。

 生命体として魔力を生産し、繁殖して数が増える。

 また完全召喚なので疑似生命体の召喚維持に必要だった魔力消費が無くなる。

 その代わりに、生命体として必要な食料を別途用意しないと、餓死してしまうそうだ。

 また、疑似生命体の魔物に後から追加で魔力を注ぎ込むことで、完全召喚の魔物に切り替えることもできるらしい。

 ダンジョンで引き起こされるスタンピードは、地上に出た瞬間に完全召喚させて解き放つことで効率的に地脈に溜まった魔力を消費・発散しているのかもしれない。


 とりあえず――


「ダンジョンは封鎖して、もう少し詳しく情報を集めないとね」

「はーい、なのです! テト、お腹空いたのです!」


 朝食も食べずに、ダンジョンを見に行くために飛び出してきたが、私もテトもお腹が空いている。


「テト。朝ご飯は、ダンジョンで食べない?」

「食べるのです! そして、すぐにダンジョン作って遊ぶのです!」


 私は、朝食を用意してくれるベレッタに通信魔導具で連絡を入れて、ダンジョンで朝食を取ることにした。

 偶に、外出や自分たちで料理を作りたい時もあるので、連絡を受けたベレッタも慣れた物だ。


「さて……テトは何食べたい?」

「うーん。昔食べた色々な物が入ったパンなのです!」

「パン……菓子パンとか惣菜パンかぁ。そう言えば最近作ってなかったわね、分かったわ。――《クリエイション》菓子パン&惣菜パン!」


 冒険者として野営していた時の名残のテーブルや椅子を用意し、【創造魔法】で菓子パンを作り出していく。

 アンパン、ジャムパン、メロンパン、ドーナッツ、デニッシュ、カレーパン、焼きそばパン、カツサンドやハムチーズサンド、コロッケパン、ハンバーガーなど。

 ビニールの包装に包まれたコンビニでも食べられるパンを何種類も創り出した。


 ベレッタが見たら、ならば私たちが作りますと言って、これよりも美味しいパンを作り出すだろう。

 だが、私たちが食べたいのは、前世の記憶や異世界転生した直後から食べて居た、あのチープな味なのだ。


「最近は、本当に良い物ばかり食べているけど、たまにはジャンクな味も食べたいのよねぇ……」

「テトは、カレーパンと焼きそばパンが欲しいのです!」

「私も頂こうかしら……」


 早速、狙いの菓子パンを選んでいき、ビニールを破って、モグモグしていくテト。

 私も、ソースがたっぷり染みたコロッケパンとハムチーズサンドを選ぶが、パンだけだと喉に詰まるので、ペットボトル飲料も創造する。


「久しぶりだけど、美味しいのです!」

「テトの食べてるカレーパンに使うスパイスも栽培できる気候も欲しいわよねぇ……」


 片手でサンドイッチを食べながら、視線だけは、空中に投影したダンジョンの情報を読み解いていた。


「魔女様、何か分かったのですか?」

「ダンジョンが元々持つサンプルやランダム生成の階層を見て作成時のコストと一日の維持コストを確認しているわ」


 維持コスト内には、破損した時の修理コストも含まれているようだ。


 階層作成の実行はせずに、ランダム生成の階層を削除する。

 ダンジョンマスターが不在の自然発生する今のダンジョンは、こうしたダンジョンが持つサンプルや選択肢内に存在する要素を使ったランダム生成なのかもしれない。

 そして、ダンジョンが誕生した土地の特色によって、作成できる階層のタイプが大凡決まっているのかもしれない。


「とりあえず、試しに一つの階層を作って、ダメなら消滅させようかしら」


 階層作成にも魔力を消費するが、階層を消す場合にも相応の魔力を消費するのだ。

 ただ、階層を消す場合には、ダンジョン内にいる生物が不在の必要がある。

 そのために、階層内の人間や完全召喚した魔物を強制転移によって退去させるなどの措置が必要になるだろう。

 私は、サンドイッチを食べながら、サンプル階層に手を加えていく。

 ダンジョンコアに触れた時、扱い方は分かったがそれはあくまで、ゲームのコントローラーの操作方法を覚えただけだ。

 ダンジョンについて分からないことが多いために、ゲームの攻略Wikiなどがあれば……などと思いながら、喉を潤そうとペットボトルの飲み物に手を伸ばす。


 その際――


「「あっ……」」


 視線だけをダンジョン作成する画面の方に集中していたために、握り損ねたペットボトルが手から逃れてダンジョンの床に落ちたのだ。


「あちゃぁ……やっちゃった」

「床が汚れちゃったのです……」


 今回飲んでいたのは、炭酸飲料だった。

 普段からベレッタたちが、紅茶や果物のジュースなどを用意してくれる反動から、こういう時は普段と違う物を飲むのだ。


「魔女様、タオルなのです!」

「ありがとう、テト。あっ……」


 テトが取り出したタオルを受け取った私は、テーブルに零れた分を拭き取り、次にダンジョン内の床の炭酸飲料も拭き取ろうとした時、ダンジョンに吸い込まれて消えるのを見た。


「ああ、まだ階層が出来上がってないとは言え、ダンジョンだものねぇ」


 ダンジョン内にゴミを捨てれば、勝手に吸収されて消える。

 それは、死体だったり、装備品だったり、落とし物だったりするが、とにかくダンジョンは階層の環境を維持しようと、足りない物を補い、不要な物は取り込むのだ。


 そして、ダンジョン内に零した炭酸飲料が消え、どこに向かったのだろうか、などと思いながらダンジョンの管理画面に目を向けると、見慣れぬ表示を目にする。


「えっ? なに、これ?」

「どうしたのですか、魔女様?」


 既に何個目かのパンを手に取り食べていたテトが不思議そうに聞いてくるが私も、見慣れぬ表示の内容を確認するために、ダンジョンコアを操作する。

 そして、浮かんだ表示はどうやら通知のようだ。


 ――『ダンジョンが【炭酸水】を取り込みました。以降、関連素材で設置できる物が解禁されました』


 今現在作りかけのダンジョンのレイアウトに設置できる物が増え、泉系の設置物の中に【炭酸泉】が追加されていた。


8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されました。

また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。

https://www.ganganonline.com/title/1069

作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。

それでは、引き続きよろしくお願いします。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
[一言] ウィルキンソンの水源じゃねえか
[一言] これは創造が捗るなぁw
[一言] 香料や合成甘味料、食紅等の原料となる物質は? ペットボトルも吸収させれば原油とか生成出来たりする? まあ、コスト高過ぎてまだ生成出来そうにないかな? とりあえずダンジョンが有能なゴミ捨て…
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