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7話【魔女の森の幻想集落】


【創造の魔女の森】に来た人たちの多くは、一般的な集落を作って暮らしている。

 亜人系魔族や獣系魔族が移住した魔族人口の9割以上を占める。

 残りの虫系魔族クインビーとアラクネ、植物系魔族のドライアドとアルラウネは、四種族で一つの集落を作り、共生関係にも似た生活を送っている。

 彼女たちは、全員がラミアと同じ女系魔族でもあるために、上手くやっているようだ。


 今日は、そんな魔族の集落にやってきた。


「お日様が気持ちいいね~」

『ねぇ、今日は何して遊ぶ?』『森の植物元気にする?』『今日はどこまで遊びに行く?』


 集落の入り口には、アルラウネの少女が切り株に座り日向ぼっこをしており、その周りを楽しそうにこの地に新たに住み着いた精霊たちが囲んでいる。

 その姿からアルラウネが、精霊とも同一視されることもあるのは納得である。


「あ~、魔女様たちだ~、いらっしゃい~」

『あー、魔女だ~』『美味しい魔力ちょーだい!』『ちょーだい、ちょーだい!』


 そんなアウラウネの少女たちが私たちが来たことに気付き、のんびりとした声を掛けてきて、集まっていた精霊たちも私の回りに集まってくる。

 そんな精霊たちを宥めながら、アルラウネの少女と挨拶を交わす。


「こんにちは、調子はどうかしら?」

「遊びに来たのです!」

「お日様が気持ちよくて~、お水も魔力も美味しいの~」


 そう言って、マイペースに日向ぼっこを続行するアルラウネの少女。

 そんな彼女の魔力に触発されたのか、この周囲には、日の当たる場所に様々な花が咲き乱れ、その花の間を忙しなく蜂魔物のハニービーが行き交い花の蜜や花粉を集めている。


「ここは、一層ファンタジーって感じの村よねぇ」

「テトは、ここの雰囲気好きなのです!」


【創造の魔女の森】の中でも木々の密集度が低い日当たりのいい森の中に住処を構えた四種族の集落。

 植物系魔族のドライアドやアルラウネの力により、植物の成長を促進させた大樹の内部の空洞化とその強化を行ない、大森林のエルフの集落で見たような樹の家が建ち並ぶ。

 そんな大樹同士の枝を繋ぐように掛けられた吊り橋を補強するように蔦が巻き付き、立体建築のようになってる。

 そんな集落をアルラウネのいる草地から眺めていると、アルラウネの少女が何かを思い付いたようにこちらに声を掛けてくる。


「魔女様~。よかったら、この子を連れて行っていいよ~」


 そう言って、むんずっと地面から生える植物の茎を掴んで引っこ抜くと、一本の艶やかな人の姿にも似た根っこが現れる。

 その根っこは、虚ろな窪みの目や口でジッと私たちを見つめ、手足のような根っこをヒョイッと上げている。

 どこか可笑しくも可愛らしく思える摩訶不思議な植物にビクッと肩を震わす私だが、少ししてそれが何か理解する。


「それは、マンドラゴラ……よね」

「前に魔女様が種を播いたやつなのです!」


 この【創造の魔女の森】の自然の中でただの一般的な植物や薬草だけでは勿体ないと、【創造魔法】で生み出した希少な薬草の種を播いており、その一部がマンドラゴラであった。


「私たちの傍にやってきたの~。この子は、今が肥えているよ~」


 のんびりとした声でそう紹介されたマンドラゴラは、頭の葉を掴まれたまま、胸を張るように手の根っこを腰に当てている。

 そして、よくよく周囲を見回せば、地面からズリズリと抜け出したマンドラゴラが自立歩行してアルラウネやドライアドの傍の地面に、潜り込み移動している。

 植物系魔族たちの傍が居心地が良いのか、【創造の魔女の森】に播いたマンドラゴラたちが自分で移動したようだ。


「確か、私の知識ではマンドラゴラってもう少し萎びた感じで移動しないし、抜くと絶叫するんじゃなかったかしら?」

「それは質の悪いマンドラゴラ~、この子たちは艶々で生きが良いの~」

「確かに、艶々してて美味しそうなのです!」


 アウラウネの少女に同意するテトだが、確かに生きが良いと言うより、生きが良すぎて自立歩行している。

 それにハニワのような窪みのとぼけた顔が妙に愛嬌があるために、摺り下ろしてエキスを抽出するのに躊躇いが産まれる。


「この子は、魔力をたっぷり溜め込んでるから、そのまま煮詰めれば、いいエキスが出るよ~。エキスが出切ったら、また地面に埋めれば、そのうち元気になるの~」

「それなら、平気かしら? とりあえず、このマンドラゴラは連れて行くわね」


 アルラウネの少女から受け取ったマンドラゴラを受け取ると、器用に私の手を伝って肩によじ登り、そこに定位置として座る。

 そのまま煮込めば、エキスを抽出できると聞き、マンドラゴラがお鍋のお風呂に浸かる様子を想像して、これもファンタジーなのかしら? と一人首を捻りながらテトと共に、樹上の集落に足を踏み入れる。


「あら、魔女様。ようこそ、いらっしゃいました」


 そんな吊り橋の上から声を掛けてくるのは、アラクネの女性だ。


「とてもいい生地をありがとう。今は、寝間着に使っているわ!」

「すべすべで気持ちが良いのです~」

「それじゃあ、魔女様たちの衣服全部、私らの生地に変えられるように頑張るわ」


 そう良い笑みを浮かべたアラクネの女性は、腕に乗せた蜘蛛魔物のアルビノ・アイを撫でながら、大樹の枝の上に作った自身の家に入っていく。

 他にも木々の上には、蜂系魔族のクインビーが飛んでおり、彼女が使役する蜂魔物のハニービーたちが樹の洞に巣を作っていた。

 その樹の洞から飛び立つハニービーたちは、ここから少し離れた場所の平地でアウラウネの管理する花畑から花の蜜や花粉を集めて蜂蜜や蜜蝋を作っているのだ。


 そんな大樹の集落は、家になっても木々はまだ生きている。

 集落全体が静寂に満ちており、風にそよぐ枝葉の擦れる音や、木々を飛び交うハニービーの羽音、樹上の家に住まうアラクネたちが奏でる機織りの音。


 そんな大樹の集落の間を歩きながら様子を窺っていると、どこからか底抜けに明るい声が響いてくる。


「こんにちはなのです~! 食べ物採ってきたのですよ~」

『お肉もお魚も、お野菜に果物もあるのです~! ブツブツコーカンするのです~!』

『ゴー!』


 アルラウネと一緒に居た精霊とは毛色の違う一団が、この集落の代表のドライアドの家の前に集まっていた。

 あの子たちは、テトの眷属であるアースノイドと土精霊、そしてクレイゴーレムたちである。

 彼女たちは、元々テトが作り出したクレイゴーレムから進化した存在である。

 蔦で編んだ籠にいっぱいの食べ物を詰めている子たちは、この集落の代表のドライアドに渡している。


「いつも届けてくれて、ありがとうね。それじゃあ、これ、あなたたちにお礼よ」


 そう言ってドライアドから、アラクネ製の衣服とハニービーの蜂蜜が詰まった壺を受け取ったアースノイドたち。

 早速、小躍りしそうなほど喜んでいる様子を見ていると、なんとなく黄色い熊のぬいぐるみを思い浮かべてしまう。


「それじゃあ、さよならなのです~」『さよならなのです~』『ゴー』


 そして、衣類や蜂蜜入りの壺を受け取ったアースノイドたちが、小走りで去って行く。


「……そう言えば、あの子たちってどこにでも居るわよね」

「そうなのです!」


 テトの眷属のアースノイドたちは、【創造の魔女の森】の何処にでも現れる。

 私たちの屋敷の雑用や畑仕事の手伝いに――

 森林の木々の間引きや植樹、狩りの手伝いに――

 幻獣たちのお世話――

 各集落の手伝いや集落間での荷物の運搬に――

 学び舎の子どもたちの遊び相手や高齢者たちの村々のお世話や話し相手に――

 結界外の魔物退治に――


 様々な場面でふと視界に入るアースノイドたちは、まさに【創造の魔女の森】のお手伝いをしてくれる妖精さんポジションを確立している。

 いつも愛らしい土精霊や愛嬌のあるフォルムのクレイゴーレムと一緒に楽しそうに過ごしているので、誰も彼もがアースノイドを受け入れている。

 だが……


「あの子たちって、何人いるのかしら?」

「わからないのです!」


 テトが生み出していたクレイゴーレムから進化したアースノイドと土精霊は、約100人ずつ居るが、クレイゴーレムに関しては人数が不明である。

 寧ろ、新たに生まれたアースノイドたちが増やしている可能性があるほどに、割と何処に行っても見かけるのだ。

 もはや、クレイゴーレムと言う名の別のナニカである。


「それに、アースノイドたちがどこで暮らしているのか、知らないのよね……」


 他の魔族たちの集落は、知っている。

 精霊たちは自身の司る自然物の傍に居るので、割とどこに居ても不思議ではない。

 クレイゴーレムたちも土の中に隠れたりして過ごす。

 だが、アースノイドたちの集落と言うのを今まで見たことがないのだ。


「テトは、知っているのです!」

「そうなの? じゃあ、案内してくれる?」

「はいなのです!」


 そして、ドライアドたちの集落を後にして、テトの案内でアースノイドたちの集落に向かう。

 向かう先は、大昔に魔力生産のスポットにするために世界樹を植えた場所だ。

 ここも世界樹の成長により、一際大きな森林になっていた。


「魔女様~、こっちなのです!」

「テト、こっちって、木の根っこ?」

「はいなのです!」


 木の根元に斜めに空いた穴があり、その周りは魔法でしっかりと舗装されていた。


「地下に集落を作っていたのね。それなら上空からは見つからないはずだわ」

「魔女様、暗いから手を繋ぐのです!」


 乾いた笑みを浮かべながら穴を覗き込む私に、テトが手を差し伸べて先に進んでくれる。


 そして、世界樹の木の根元の穴を進んでいくと、不思議な光景が広がっていた。


「光る植物……明るいわね。それに、幻想的……」


 光を発するヒカリゴケや、蛍光色に発光するキノコ、ぼんやりとした光を灯す小さな花などが壁や天井、地面に生い茂っていた。

 そして、大穴を抜けた先には――


「樹木の家の次は、キノコの家かぁ……これもファンタジーよねぇ」


 穴を抜けた先には、大きな空洞が広がっており、その中に巨大なキノコが建ち並んでいた。

 キノコ毎に形が異なり、横に太いキノコもあれば、縦に細長いキノコ、二つのキノコが寄り添い合うように育ったキノコが建ち並んでいる。

 テトに導かれて、巨大なキノコに近づけば、石膏のように強度を保ち、きちんとした家として成立していた。


「魔女様、あのキノコは凄いのですよ! 大きくなると、カッチンコッチンになるのです!」

「これも魔法植物なのかしらね?」


 どうやら目の前に建ち並ぶ巨大キノコは、完全に成長し切ると岩のように硬くなるようだ。

 そんなキノコを魔法でくり抜き、扉や窓を付けて家として活用しているようだ。

 他にも、地下深くでは綺麗な水が湧き出しており、余分な水がこの大空洞に満ちることなく、世界樹の根に吸い上げられている。

 また、発光植物などのお陰でこの場所は常に明るく、程よい暖かさと湿気が保たれ、様々な植物が育てられている。

 そんな集落を見回っていると――


「あー、魔女様なのですー!」『テト様もいるのですー!』『ゴッゴッ、ゴー!』


 集落にいるアースノイドたちに見つかり囲まれてしまった。

 そのまま私とテトは、アースノイドたちに楽しく持て成される。

 その時の気分は、日本昔話のお結びころりんのお爺さんか、不思議の国のアリスである。


 ドライアドたちの大樹の集落とアースノイドたちの地下集落という幻想的な場所を二カ所を回ることができ、楽しい一日だった。

 ちなみに、アルラウネから預かったマンドラゴラは、お鍋のお風呂でエキスを抽出した後、程よくエキスが抜けた後は自分の足で森へと帰っていった。

 森の中でまた栄養と魔力を蓄えて、また艶々に成長するのだろう。

8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されます。

また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。

https://www.ganganonline.com/title/1069

作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。

それでは、引き続きよろしくお願いします。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
[一言] そのうち銭湯に通うマンドラゴラな景色が出来上がったりしてw
[一言] I've been waiting for the sequel eagerly. It's great! Still a lot of fun to read. Thanks for th…
[一言] あらま残念 愛嬌感じるマスコット的マンドラゴラが魔女御一行の仲間入りかと思ったら帰っちゃったか 土の中じゃないから魔女様の魔力が間近にあってもダメだったかぁ
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