5話【多眼族の魔眼とその活用法】
【創造の魔女の森】にやってきた亜人系魔族には、額に第三の眼がある種族――多眼族がいる。
種族の起源は不明であるが第三の眼には、魔力が蓄えられおり、魔眼として様々な能力を発揮する。
身体的特徴も、隠しやすいために、人に紛れて占い師などをして生計を立てていたそうだ。
その日、人狼の集落に立ち寄った私は、偶然青痣を作った人狼と悪魔族の男性二人とメカノイド、そして多眼族の女性・フェイが居合わせるのを見つけ、声を掛ける。
「近くを通りかかったら、珍しい組み合わせで居るけど、何かあったの?」
「そっちの人たちは怪我しているのです! ここでなにをやっているのですか?」
私たちが、メカノイドや多眼族のフェイに声を掛けると、あちらも私たちに気付き、軽く頭を下げて説明してくれる。
『先日、人狼の集落で軽犯罪が発生したらしく、その調査を行なっているところです』
「少しお待ち下さいね。今調べますから」
メカノイドは、手元に紙とペンを持ち、これから起こることを書き記す準備をしていた。
そして、多眼族のフェイは、手を前に掲げ、閉じていた額の第三の眼を開き、そこに魔力を集中させている。
「……見えます。これは、男性同士の殴り合いの喧嘩ですね」
どうやら、この場に同席する人狼と悪魔族の男性同士が喧嘩をしたようだ。
多眼族の女性は、【過去視】の魔眼を使って、二人の過去を見ているようだ。
「ねぇ、これってどういう状況なの?」
『人狼男子の所有物を取った、取らないなどと口論になり、その結果、殴り合いの喧嘩に発展したそうです』
そういう喧嘩は、大抵どちらも悪かったり、はたまた勘違いから始まったりする。
「俺が戸棚に隠して置いた食べ物が無くなったんだ! あの時、俺の家に居たお前が食ったに違いない!」
「ふざけんな! おれはただお前の家の扉が開いていて不用心だと思って中覗いてただけだ!」
「やめるのです~! 喧嘩は、ダメなのです!」
メカノイドの説明に、再びヒートアップしそうな人狼と悪魔族の男性の間にテトが入り仲裁するが、二人はフンと顔を逸らす。
「ねぇ、二人って仲がいいのかしら?」
『難民キャンプで意気投合したらしいですね。別々の集落で暮らしていますが、狩りや野良仕事などで一緒になるそうです』
なんともはた迷惑な仲良しさんだ。
だが、人が多くなれば、その分軽度の住民トラブルも増えている。
田舎集落なんて、大らかで各家は鍵なんて閉めずに過ごしており、友人・知人が勝手に入ることがあり、本人たちもあまり気にしていない。
だが、元々迫害や隠れ里、放浪などで貧しい暮らしをしていたために食べ物関係ではかなりシビアでこうして喧嘩も度々あるのだ
『では喧嘩の解決のために、もう少し時を遡り、原因を探りましょう』
「はい」
私は静かに黙っていると、徐々に多眼族の彼女の口から喧嘩の原因が明らかになっていく。
「えっと……犯人は、そちらの悪魔族の男性ではありません」
「ほら! 見たことか! てめぇが全部飲んだの忘れた言いがかりじゃねぇのか!」
「その、そちらの人狼の男性もちゃんと戸棚に隠してあったみたいなんです。その食べ物を盗んだのは……クーシーです」
そう言われて、人狼の男性は、犯人が誰か思い至ったようだ。
人狼と盗み食いした妖精犬のクーシーは、魔力の親和性が高いのか、食べ物を分け与えたり、モフモフしたり、一緒に過ごしたりとかなり仲がいいようだ。
幻獣として高い知性を持つクーシーではあるが、時には獣としての本能を爆発させることがある。
具体的には、こっそり食べ物を盗み食いしたり、物を壊したりする。
普通に、犬を飼っていれば起こりえることである。
「……その、すまんかった。盗み食いを疑って」
「いや、俺も言い過ぎた。クーシーが原因なら、仕方がねぇよな」
二人とも原因が分かり、互いに謝罪をしている。
私は、メカノイドと多眼族のフェイに眼を向けると、小さく頷かれる。
「それじゃあ、これで問題は解決ね。いつまでも顔に痣とか怪我を残しておくと心配されるから治すわよ。――《ヒール》!」
「次からは、喧嘩はメッ、なのですよ」
私が喧嘩をしていた二人に回復魔法を施し、テトが可愛らしく叱りつける。
当事者の二人は、気落ちしたように肩を落とし、仲直りの握手をした。
「あなたもお疲れ様」
「事件を見事に解決なのです!」
私とテトが多眼族のフェイに労いの声を掛けると、躊躇いがちに頭を下げてくる。
「いえ……この力が役に立てて幸いです。それと、お願いがあるのです」
「お願い?」
おずおずとした様子に私とテトが小首を傾げながら、言葉を待つ。
事件を解決したご褒美が欲しい、と言うような雰囲気ではなく、非常に葛藤を抱えたような真剣な表情でいる。
言うべきか、言わざるべきか、悩んでいるが、最後には意を決して私に話してくれる。
「私たち、多眼族がこのようなお役目を頂き、光栄です。ですから! 私たちの身の安全と職務に対して嘘を吐けなくなる道具を頂きたいのです!」
「えっと……それは、どういうことかしら?」
自分自身、声色が平坦なために尋ねた声が、問い詰めるように聞こえたようだ。
多眼族のフェイは、私に不敬を働いたと思い慌て出す。
「ご、ごべんな゛ざい! 口応えしてずびばぜん!」
「いえ、怒っているわけじゃなくて……はぁ」
そして、とうとう泣きだしてしまい、私の方が泣かせたみたいで逆に泣きたくなる。
「大丈夫なのですよ~、魔女様は怖くないのですよ~」
ほんわかとしたテトが多眼族のフェイを慰める一方、私は一緒に居たメカノイドに説明を求める。
『彼女たちは、その第三の眼で【過去視】や【未来視】、相手のステータスや記憶、魔力の揺らぎを読み取る【鑑定】や【読心】【魔力視】などを行えます。その一方で、重大な秘密に触れる場合もあるのです』
「なるほど、そういう意味での身の安全ね」
古来より秘密に触れた者は、消されるか、身柄を確保して管理下に置かれる。
そうした意味で、身の安全を気にしていたのだろう。
『また、今回のような事件捜査では、彼女たちの能力に頼った面が大きいので、彼女が嘘の【過去視】を報告した場合は、容易に冤罪を生み出すことが可能なのです』
更に、こうした捜査職に就くに当たって、冤罪の防止と他者から見て公平な証言であると証明するために、嘘を吐けなくする必要があるのだそうだ。
「確かに、言われてみればそうね。そこまで考え付かなかったわ」
『ご主人様は、日々忙しくしておいでです。仕方の無いことかと……』
説明を受けて納得した私は、テトに宥められて落ち着いた多眼族のフェイを見つめる。
「確かに人には知られたくない秘密があるわ。それを知った時、故意に言いふらしたり、それで他者を害して自分の利益を得ようとした場合には、罰を与えなきゃいけない時がある。けど、私は秘密を握ったからと言って不当な理由で危害を加えるつもりはないわ」
「……はい。ありがとうございます」
落ち着いた多眼族のフェイは、深々と頭を下げてくる。
「それから――《クリエイション》正直の腕輪!」
私は、創造魔法を使い、魔導具を生み出す。
魔導具【正直の腕輪】の効果は、それを身に着けた者は、身に着けている間は嘘が吐けなくなるのだ。
それを多眼族のフェイに渡せば、頻りに感謝される。
とは言え、本人が認識した事実しか話せないだけで、説明能力や認識能力によって正しく【過去視】の内容を伝えられないかもしれない。
その懸念を伝えると――
「はい。その事に関しては、私たち一族でも共通の認識です。特に不確定な【未来視】を行なう場合は、先入観なしで客観的事実のみで状況を読み取り、推測を交えるな、と口を酸っぱくして言われます」
そうして頻りに感謝されると共に、多眼族の人たちに事件や事故を調査してもらう時のルール作りが行なわれた。
その後、多眼族は、その魔眼の力を持って【創造の魔女の森】の検察官としての地位を確立した。
また余談であるが、喧嘩の真相を突き止めた多眼族が私から【正直の腕輪】を送られたことで、何かしらの成果を上げた種族には、私から褒美が渡される、という噂が各種族の間で流れて、その噂の火消しに奔走することになるのであった。
8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されます。
また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。
https://www.ganganonline.com/title/1069
作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。
それでは、引き続きよろしくお願いします。