17話【薬草採取のプロはそれだけで一生食べられる】
さて、ギルドでトラブルが起きたために早めにギルドを後にした私たちは、早々に宿に引き籠もるのも不健康だと思い、ダリルの町を見て回っている。
「ほら、テト。屋台のお菓子買ってあげるから機嫌直して……」
「はい……魔女様」
私の手を掴んでトボトボと付いてくるテトの世話を焼きながら、買い食いなどをしつつ過ごす。
しばらく、お菓子などを食べているとテトの機嫌が直ったのかニコニコするようになり、そこで今後の予定を繰り出す。
「テト、明日からは町の外の依頼を受けようか」
「明日から?」
「そう、そろそろ依頼を受けよう。そして、段階的に依頼をこなしてまずはDランクを目指そう」
特にこの世界に来て目的はない。
だが、冒険者ギルドが管理しているダンジョンに入るには、最低Dランク以上の冒険者か、それに準ずる戦力を持つ人間のみが入場を許可されている。
それなりに社会的地位があればやりたいこともできるし、何か欲しい魔導具などがあればダンジョンに挑んで探せばいい。
それに――
「テトはアースノイドって新種族っぽいからランクが上がって身分が保障されれば、生きやすいはず」
「魔女様は? 魔女様は、どうするのですか?」
そう問われて私は、悩む。
「うーん。とりあえず、冒険者やっていれば、お金が集まって財力を満たせるし、強くなって武力が高まる。そしてダンジョン攻略や強い魔物を倒せば、名声が得られる。私たちを守るために必要な全てを効率良く集められるけど、先を考えてなかったわね」
そう考えると、新種族のテトはどのくらい生きるのだろうか。
そして、魔族扱いされれば、人の世では生きづらくなると思う。
「私は、テトと一緒に居られる安住の地を探そうかな」
「魔女様が一緒ならどこでも楽しいのです!」
無邪気に喜ぶテトに、私は苦笑を浮かべる。
この先、10年後か、20年後だろうか。
この世界で特異な私やテトを守るための場所を探す。
この瞬間から、それが私の目標となった。
「魔女様、冒険者やってれば、またダンジョンコア食べられるのですか? あれ、すごく美味しいのです」
「うーん。ダンジョンコアで味を占めちゃったか。でも、私たちの名誉や名声のために欲しいからダメよ」
それにテトよ。たった一つダンジョンコアの魔石を取り込んだだけで新人種になったのなら、二つ目、三つ目を取り込んだら、どうなるのか、私は怖いよ。
そんなことを思いながら、宿に戻りいつものように食事を取る。
最初はテトのお願いで一緒のベッドで寝たが、今ではそれが常態化して、常にテトに抱かれるようにして眠る。
朝になり、私たちは、1週間分の宿代を払い、ギルドに向かう。
そして、薬草採取の依頼を受注して、そのまま町の外の北の平原まで足を運び、薬草を採取する。
町の外に出て平原でポーションの材料となる薬草を30本集める、という依頼だ。
報酬も大銅貨2枚と安く、宿代の足しにしかならないが、今はオークキング討伐の準備でポーション需要が高まっているそうで、少しでも多く欲しいらしい。
「【創造魔法】で薬草1本生み出すのに、魔力量20かぁ」
私の魔力を使ってズルをしても依頼を達成できるが、消費魔力に対する金銭効率は悪いので地道に薬草を探す。
「魔女様~、こっちにも薬草あったのです~!」
「テト、お疲れ様! それじゃあ、丁寧に束ねてマジックバッグに入れておきましょう」
テトの意外な特技は、地面にあるものを探すのが得意ということだ。
なので、次々と薬草を見つけて、私が渡した採取用の短剣で指示された通りに丁寧に薬草を集め、私が最初から持っていたポーチ型のマジックバッグに入れる。
ギルドでマジックバッグの性能で値段が大きく違うことから検証してみたところ、私が最初から持っていたポーチ型のマジックバッグは、時間経過はするが、その速度が100分の1と非常に緩やかな遅延効果を持つバッグだった。
ダンジョン産のマジックバッグは容量が結構あるが、時間経過は普通のバッグ。
冷たいペットボトルのお茶などを入れていたが、大抵飲む時には温くなっていたし、大量に創造して入れていたので、今の今まで気付かなかった。
なので、鮮度が重要なものは、時間遅延のバッグに入れることにした。
テトが一生懸命、薬草を探す一方、私は目元に魔力を集中させ、平原を見渡す。
「魔力の多い薬草は、これね」
身体強化の応用である魔力の視認によって、マナポーションの材料を見つけることができた。
一つずつ丁寧に採取して、10本になったら紐で縛ってマジックバッグに入れる。
マナポーションの素材の薬草採取は常設依頼であり、10本で大銅貨5枚とポーションに使われる薬草よりも報酬が高い。
「まぁ、魔法使いの人口の少なさからくる需要だよね」
薬草採取の依頼の際に、たまに1本や2本混じっているので、それを個別でギルドが買い取ることはある。
ちなみに、こちらの薬草採取の依頼も集めるのが大変な割にFランクらしい。
「さて、テト。どれくらい集まった?」
「全部で94本なのです~! 魔女様の方は~?」
「私は、マナポーションの薬草が40本よ。テトと私の分合わせて依頼7回分ね」
最低GからFに上がるには、FもしくはGランクの依頼30回分の達成が必要になる。
なので、私とテトは二人でやっているので倍の60回分の依頼をこなす必要がある。
ちなみに、この30回分の依頼というのは、新人が毎日一つずつ依頼を達成させることを想定している数らしい。
「今日で依頼3.5回分ね。この調子なら10日くらいで二人揃ってFランクに上がれるね」
「でも、魔女様~? 毎日この数集めたら、他の人が困らないのですか? それに採り尽しちゃうのですよ?」
「それは、心配ないよ。薬草は、根っこさえ残っていれば、三日くらいで生え揃うらしいからね」
それに最近だと、町の北側にはオークの出現が確認されて、薬草採取を担うFランク以下の冒険者たちが、安全のために町中依頼か、森から離れた南側の平原で薬草採取しているために、私たちのいる町の北側は、薬草を採る人が少ない。
「さぁ、帰ろうか」
私とテトは、そのままギルドに戻り集めた薬草を納品する。
薬草採取は安い依頼であるが、時間遅延マジックバッグのお陰で鮮度を維持でき、需要があるので、本来、大銅貨26枚の報酬が少し値上げされて切りよく大銅貨30枚=銀貨3枚になった。
日本円にすれば二人で日当3万円は、中々にいい仕事だろう。
まぁ、私やテトのように魔力感知や地面との親和性が高くないと難しいだろうが……
「さて、今日は宿に帰ろうか。実験したいこともあるし」
「実験、なのですか?」
「そう、私の使える魔力を増やす実験」
そう言って、早めに宿に戻った私は、ベッドの上で胡座を組み、瞑想して魔力の回復に努める。
毎日、朝には不思議な木の実を食べているのでレベルアップなしでも私の魔力は、少しずつ増えて、現在は約2800だ。
「いくよ。――《クリエイション》! 魔晶石!」
魔法使いが使う魔力の回復手段の一つとしては、魔力を回復させるマナポーションともう一つ、魔力を貯めておくことができる結晶【魔晶石】がある。
今回は、私の創造魔法によって【魔晶石】を生み出す。
「ふぅ、できた……けど、空よね」
私が創造したのは、あくまで魔力のない空の【魔晶石】だ。
今消費した魔力量は2000ほどなので、どれだけ魔力量を補充できるのか。それによって、何個作り置きしておくべきか、と考える。
「魔女様? なんで魔力を回復させるのに、結晶作るのですか? マナポーションでいいんじゃないのですか?」
「そうね。理由としては、マナポーションは、飲まなきゃいけないのよ。そして、飲み過ぎるとお腹がタプタプになっちゃうからね。けど、魔晶石は、そのまま結晶の魔力で魔法を発動させるのよ」
うーん? 首を傾げるテトには、と水っ腹になる感覚や魔晶石の魔力で魔法を発動させる、という感覚が分からないのか、私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「とりあえず、疲れたから少し休むわ」
「わかったのです」
そして、瞑想することで魔力の回復に務め、回復した魔力を空の【魔晶石】に注ぎ込む。
「ふーん。大体、魔力量1000を貯められる感じかな?」
消費魔力の半分の容量と考えると、テトを生み出した時のゴーレムの核と大体同じだ。
「一日4回、魔晶石を生み出して、余剰魔力を貯めておけば、いざって時に色々使えるかな。いや、これも創造魔法の魔力に使えるんだよね」
私の最大魔力量+魔晶石に貯めた魔力で創造魔法を使えば、時間は掛かるが今まで創造できなかったものが作れるかもしれない。
それに最悪、魔晶石自体を売り払って金策にしてもいい、と考えている。
そんな検証を終えた私は、テトと夕飯を取り、いつものように眠るのだった。
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