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4話【研究塔での美容品作り】


 研究塔では、この地で採れる薬草を集めて処理し、ポーションが作られている。

 作られた各種ポーションは、各集落に常備薬として配られている。

 最近では、薬草の知識を持つラミアたちが研究塔でポーション生産に加わり、一気に生産量が増えたのだ。

 そのため、調合師の数が少ないガルド獣人国に、ポーションが交易品として出されるようになった。


 そんな研究塔の作業場の一角での問題が発生し、私のところに報告が来たのだ。


『ご主人様、研究塔にて窃盗の発覚と犯人の確保を行ないました』


 珍しく冷ややかな表情のベレッタと彼女に連れられて、見事な土下座を決めるラミアが三人並ぶ。


『『『も、申し訳ありませんでした!』』』

「……詳しい報告をお願いできる?」


 土下座からの全力謝罪に、こめかみを指で押さえて頭痛を堪えながら、訳を尋ねる。


『ポーション作成のために研究塔に出入りしているこちらのラミア3人が、研究塔の常備薬の一部を複数回に分けて窃盗しておりました』


 窃盗したこと自体は問題だが、なぜ私のところにその話を持ってくるのか、少し首を傾げてしまう。


「一応、罰則に関してルールが決まっているわよね」

『はい。窃盗に関しては、被害者への金銭。もしくは労働による弁済です。今回の件ではご主人様がご用意した常備薬なので、ご主人様に弁済という形になります』


 この者たちを如何様にしても構いません、とベレッタが告げてくる。


「申し訳ありません! どうか、罪は私だけで同胞達の追放はご勘弁を!」


 いや、そんなことしないからと内心思うが、和ませ役のテトが模擬戦に出掛けているために、どうしても場の雰囲気が重くなる。

 とりあえず理由を聞かなければ、罰も与えられない。


「あなたたちは、なんで薬なんて盗んだの? 各集落に常備薬があるでしょ?」

「その……ポーションを作る時、偶にナイフで怪我したり、液体が飛んで肌に火傷が出来たりするんです……」


 ラミアたちの語る内容は、実に女性らしい理由だった。

 最初は、傷や火傷の治療のために、常備薬を使っていたそうだ。

 だが、ある時、常備薬の中の火傷に効く軟膏で古い火傷のシミなどが消え、肌の調子も良くなったそうだ。


「これを使えば、火傷やシミが消えて、肌のハリ艶が良くなって男受けすると思ったからです! ごめんなさい!」

「「ごめんなさい!」」

「あー、まぁ、結構、女系魔族にとっては死活問題よねぇ……」


 まさか、火傷用に用意した常備薬の軟膏が、美容クリームとして利用されるとは思わなかった。

 しかも女系魔族は、異種族の男性と番うことで子を成す。


 植物系の女系魔族であるドライアドやアルラウネは異性関係には頓着していないが、クインビーとアラクネは、番うために旅人の男性を攫い、ラミアも気分を高揚させるお香などを調合して子種を得ていた歴史がある。


 そんなラミア三人娘が、使えると思った軟膏を美容目的で盗み出したのだ。


「何が問題だったか、ベレッタから説教されているわよね」

「「「は、はい……」」」


 本来ある常備薬が盗まれて無くなっていた場合、作業中の負傷者の治療が遅れていた可能性があるのだ。


「そうね。罰としてしばらくは私の仕事を手伝ってもらうことと、薬の治験者になってもらうわ」

「「「はい……謹んで、受け入れます」」」

「それじゃあ、今日は帰りなさい」


 私がラミア三人娘を帰すと、ベレッタが口を開く。


「ご主人様、処遇が甘すぎます」

「そうかしら。でも、火傷用の軟膏が美容クリームとしての需要があったのねぇ。そのままだと美容クリームとしては物足りないから、もう少し改良して、ついでにスキンケア用品も開発したいわねぇ」


 美容関係に強い関心を持つ【調合】スキル持ちが三人だ。

 彼女たちをただ罰して今まで通りだと、同じように他の者たちに火傷用の軟膏が盗まれる可能性が高い。

 ならば、彼女たちに協力させて美容クリームを作り出し、それを売った方が窃盗防止になるのだ。


「さて、火傷に利く薬草をベースにした軟膏だけど、そこに加える素材とかも新しくピックアップしましょう」

『お手伝いいたします。ご主人様が楽しそうで何よりです』


【創造の魔女の森】で採れる素材をピックアップし、火傷軟膏に組み合わせる素材の選定を始める。


 そして翌日、研究塔の最上階である私の研究室にやってきた三人は、緊張した面持ちで揃えられた素材と私を見つめていた。


「それじゃあ、三人には昨日の火傷の軟膏の作り方を教えるわ」

「ちゃんと素材の準備はしてあるのです!」


 今日はテトが助手を務める中、ラミア三人娘に以前から盗んでいた軟膏の作り方を教えていく。


「火傷の軟膏には、ダミヤンの花と世界樹の葉のエキスが使われてたのね。なんて贅沢品」

「それに、お香でも使うモギモグサも入ってます。これで火傷の炎症を抑えていたのね」

「ひぃぃぃっ、火傷の軟膏の効きがいいと思ったら、そんなに魔力籠めてたの!?」


 私が軟膏を作る過程を実演すれば、ラミア三人娘が悲鳴にも似た声を上げる。

 使われている素材はごく一般的なハーブの類いだが、魔力を籠めたことで薬効成分が強化されるので効き目が段違いなのだ。

 火傷軟膏には――約1万の魔力(一般的な冒険者3人分以上)が籠められている。


「さぁ、マナポーションは用意したから、作ってみましょう」

「「「は、はひぃ……」」」


 三人とも自分の魔力量の半分近くの魔力を軟膏に籠めろと指示されて、及び腰になりながら完成させた。

 元々【調合】スキルが高めであったために、初めての軟膏作りでも勘が働いたのか完成する。


「うん、上々ね。これなら、四人で美容クリームとしての改良ができそうね」

「「「へっ?」」」


 完成した火傷の軟膏は、テトが常備薬の置き場に運び、彼女たちが使った分を補充する。


「美容クリームの完成まで、しばらくはお手伝いと治験者をお願いね」


 そう言って、私は早速目星を付けていた素材での調合を始める。

 三人は、窃盗を犯した自分たちが美容クリーム作りなんて、自分たちのやりたいことを出来ていいのか、と困惑しているが、薬作りを始める。

 だが、段々と慣れてきた三人は、マナポーションで魔力を回復しながら、事前に当たりを付けていた軟膏を作り出していく。

 私も美容クリーム作成を行なうが、私一人の作業量とラミア三人娘の作業量は大体同じくらいだったりする。

 そして完成した美容クリームを私が【鑑定魔法】を使って効能を調べる。


「7番と15番、20番が皮膚症状の特化型美容クリームになったわね。23番が汎用美容クリームとして一番良さそうね」


 残りは、ボツではあるが、三人に協力してもらった後、実際に使用感を確かめてもらう。

 鑑定魔法の結果以外にも、匂いやべたつき、しっとり具合など……継続して使ってもらうには、細かな部分での改良が必要になるのだ。


 そうして、繰り返し調合を行なった結果――美容クリームが完成したのだ。


「やったぁ!」「終わったー!」「これで解放されるー!」


 美容クリーム作りのための調合と治験を繰り返し、彼女たちの肌艶は良くなっているが、その内心はボロボロである。

 自らが犯した罪の清算が終わり、晴れ晴れとした気分でいるようだ。


「それじゃあ、今後とも美容クリーム作りは、お願いね。私好みの保湿クリームが手に入って良かったわ」

「魔女様! 今日のお風呂上がったら、テトが背中に塗るのです!」


 不老の私でも、お風呂上がりや冬場は肌が乾燥しやすく、刺激に弱い柔肌には保湿は欠かせない。

 美容目的ではないが、満足のいく保湿クリームが手に入ったことに内心喜ぶ。

 その一方で、今後も美容クリームを作り続けるハメになることに気付いたラミア三人娘は絶望したような表情を浮かべていた。


 後日、彼女たちの作った美容クリームは、【創造の魔女の森】の女性陣たちに広く行き渡るまで、延々と作り続けるハメになり、ようやく罪が清算できたと判断されてベレッタから追加人員が補充されたのである。

 あと、その間の労働に対する対価も支払われているので、彼女たちが損したことはないのである。


8月30日にGCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』5巻が発売されます。

また現在、ガンガンONLINEにて『魔力チートな魔女になりました』のコミカライズが掲載されて、下記のURLから読むことができます。

https://www.ganganonline.com/title/1069

作画の春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りをお楽しみ下さい。

それでは、引き続きよろしくお願いします。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
美容や治療の為に薬を使いたくなるのはわかる、あったら手に入れたいとなるのもわかる、でも盗むのはまずもっておかしいと思うのは私だけだろうか?頼めば分けてもらえると考えなかったのだろうか。そこから自分たち…
[気になる点] 窃盗ではなく、着服では?
[一言] すっかり領主や国王の仕事になったなぁ 主人公を知る人はどんどん老いていき、代替わりしていくと、なかなかトラブルも増えそうね。
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