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33話【ここは創造の魔女の森】


 今回の一件で難民側だけではなく、他にも色々なことがあった。


「チセ~、森の管理を見てきたわよ。一応、伐採予定の木々に印を付けてきたわ」

「ラフィリア、ありがとう。この前作ったジャムを持っていく?」

「色々なジャムを用意したのですよ!」

「ありがとう、シャエルが喜ぶわ」


 難民キャンプで人々を助けるために、冒険者パーティー【暁の剣】のアルサスさんは、冒険者ギルドに働き掛けて難民を支援するために、【暁の剣】の後継者であるトニーさんと共にダンジョン都市アパネミスに帰っていった。

 一方、エルフのラフィリアは、そのまま現地で活動した後、森の専門家としてシャエルの家に居候という形で【虚無の荒野】に移住してきたのだ。


「ねぇ、ラフィリア。良かったの?」

「うん? 何が?」

「ここに住むことなのです! 冒険者としてまだまだ頑張れそうなのです!」


 私とテトがラフィリアが何故移住したのか尋ねると、ラフィリアは苦笑しながら答えてくれる。


「ここら辺が頃合いだと思ったのよ。今回だってAランク冒険者としての名声でアルサスと一緒に呼ばれただけで、もう十何年も前からほぼソロで活動していたからね」

「そうだったの?」

「ええ……だから、そろそろ腰を落ち着ける場所も考えていたところで、今回の件でシャエルやヤハドさんと出会ったでしょ?」


 同じ長命種族のいる面白そうな場所であるために、嬉々として移住してきたのだ。


「後は、シャエルが昔の私みたいにツンツンしてて、なんか放っておけないのよね」

「そうね。ラフィリアは、昔より丸くなったわよね」

「柔らかくなったのです!」

「なんか、その言い方は太ったように聞こえるけど……まぁいいわ」


 そうして【虚無の荒野】にラフィリアさんが加わった。

 他にも――


「でりゃぁぁぁぁぁぁっ――!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ――!」


 筋骨隆々な二本角を生やした大男と竜魔族のヤハドが訓練用の得物を手に模擬戦をしていた。

 激しい模擬戦に砂埃が舞う中、私たちの存在に気付いた二人は、こちらに笑いかけてくれる。


「おおっ、魔女殿と守護者殿、いらしていたのか!」

「見ていてくれたか! 我が筋肉の高まりを!」


 手を振ってくれるヤハドに対して、二本角を生やした大男――鬼人族のガスタは筋肉を主張するようにポージングを取っている。

 他にも竜魔族や天使族の模擬戦に、鬼人族の戦士たちが集まっていた。


 彼らは、元々人里離れた鬼人族の集落から出稼ぎで出ていた人たちだ。

 魔族差別が強い人里では一般的な職に就きづらい彼らは、外貨獲得の手段として、圧倒的な身体強度を活かし、冒険者や傭兵として他国に出稼ぎに出ていたのだ。

 それがスタンピードにより国内にあった里が滅び、各地に散った鬼人族が古竜の大爺様のお陰で合流した後、出稼ぎから戻ってきた彼らを受け入れた私たちに忠誠を誓うようになった。


「我ら鬼人族は、魔女殿に絶対の忠誠を誓います!」

「まぁ、ほどほどに頑張ってね」


 頑張りすぎないように注意した後、新たにできた集落を巡れば、皆がそれぞれのできることを頑張って日々暮らしている。


 そうして、次の場所に向かうために森を歩いていると、森を巡回する一団と遭遇する。


「あっ、魔女様とテト様だー」

『魔女様~、テト様~』

『ゴー!』


 小麦色の肌をしたテトに似た若い少女に、土精霊、そしてクレイゴーレムの奇妙な組み合わせの一団だ。

 彼らは元が全て同じテトが作り出したクレイゴーレムである。


 テトが進化して【アースノイド・プリンセス】になった結果――


 ――テトと同じ【アースノイド】という魔族に変わる者。

 ――ゴーレムの体を捨てて、精霊に昇華した者。

 ――クレイゴーレムのまま、その能力が向上した者。


 この三つのパターンに変化しているのだ。


 そして現在――


「チセにテトよ。中々【創造の魔女の森】に帰ってこないので心配しておったのじゃ」


 国境線上の砦の難民キャンプが解散されて屋敷に帰ってきた私たちの所にエルネアさんたちが訪ねてきた。

 巨大な骨の巨人を倒した後、早々に帰ってしまったエルネアさんだが、【エルタール森林国】に戻った後、様々な支援物資や難民の受け入れをしてくれていた。

 そして、今は現地で何をしてきたのか、私たちの話を聞いて楽しそうに耳を傾けてくれる。


「ほほぅ、そのようなことをやっておったのか。大変じゃったのぅ」

「やっぱり放っておけないからね。それより、その【創造の魔女の森】ってなんなの?」


 ここは【虚無の荒野】なのに……と思うがニヤリとした表情を浮かべるエルネアさんが教えてくれる。


「あれだけ大っぴらに【創造魔法】を使うからのぅ。チセのことを【創造の魔女】と認知され、お主らが住む森だから【創造の魔女の森】じゃよ。ここが荒野だったなどと言われても、もう誰も信じんからのぅ」


 特に移住者が【創造の魔女の森】もしくは、【魔女の森】と呼んだりして定着している。

 また、ベレッタを筆頭とするメカノイドも私を示す魔女という単語が入っていることに好印象を抱き、更に古竜の大爺様は――


『それはよいのぅ。【虚無の荒野】が生まれ変わったことを示す意味でも【創造の魔女の森】と改めて呼び名を変えるのが良かろう』


 などと言って、容認してしまえば、多数決の原理から言って名前が変わったのは必然である。


「それなら【古竜の森】とか【緑青の森】で良いのに」

「でも、テトは、【魔女の森】って呼び方が好きなのです!」


 私は、自分の呼び名が含まれる呼び方は嫌であるが、テトは嬉しそうにしているので、少しだけそれでも良いか、と思った。


「この一年、妾たちの方も各地に発生した難民エルフたちを大森林や大陸各地のエルフの集落に振り分けて大変じゃった」

「そう、ありがとうね。難民を引き受けてくれて」

「よいよい困った時はお互い様じゃ。それにチセに礼を言われると背中がむず痒くなる」


 そう言って、ベレッタのお茶を飲みながら屋敷の中に響く子どもたちの楽しげな声に耳を傾け、屋敷が随分と賑やかになったように思う。


「そうじゃ、忘れておったが、お主らの土地は、精霊が少ないじゃろ?」

「そうね。まだまだ若い土地だから、精霊とかはほとんど居ないわね」

「テトが作ったゴーレムさんがなってくれただけなのです!」


 精霊は、様々な自然物を司り、自然の調整を行なってくれる霊的な存在だ。

 今のこの土地は、大分緑に覆われているが、それでも精霊が自然発生するには、せめて100年以上の自然物か、今よりも豊富な魔力が必要だろう。


「外から精霊が移り住むか、この土地で亡くなった幻獣たちの霊魂が精霊に昇華するか……まぁ、こればかりは時間が掛かるわよねぇ」


 リリエルの張った大結界は、魔力の流出入を阻害するために、魔力生命体の精霊の移動を拒んでいるのだ。

 いずれ結界が消えれば、風を伝って風精霊が、川の水や地下水脈を伝って水精霊と少しずつ数を増やしていくだろうが、時間の掛かることだ。

 この土地を気に入って居付いてくれる精霊が居ることを願うばかりだ。


「ふふふっ、そう言うと思ってのぅ。移住希望の精霊を連れてきたのじゃ」

「移住してくれる精霊?」

「ほれ、いつまでも隠れてないで出てくるが良いぞ!」


 エルネアさんがパチンと扇子を閉じると、彼女の周りに妖精たちが現れる。


「あなたたちは、私の魔力を吸ってた子?」

「むぅ、魔女様を攫った子なのですか?」


 閉ざされた泉に連れ去り、魔力を吸って中級精霊に昇格した妖精たちに、テトが唇を尖らせて、警戒しつつ、私を奪われないように抱き締めてくる。


「許してやれ、とは言わぬ。自制の弱い妖精型の下級精霊は、時に人にイタズラをしたり、気に入った者に過度に干渉してしまう。チセの魔力の質が好みじゃったんじゃよ」


 幻獣や魔力生命体には、魔力の好みがある。

 魔力量では私の方が多いが、ケットシーのクロが弟子のユイシアを選んだように、魔力量と個人が好む魔力の質には関係性はない。


 ただ、エルフの大森林に訪れた際に、膨大な好みの魔力の持ち主が、気軽に幻獣たちに魔力を分け与えていたのだ。

 そのために、自分たちも魔力が欲しいと好意の暴走を招いてしまったそうだ。


「全く、妾との相性は悪いようで、妾が何か言っても不貞不貞しい態度を取りおるわ」


 精霊石を私に渡せ、とエルネアさんが言っても納得いかない様子だったのは、魔力的に相性の悪いエルネアさんに命令されたからだろう。

 もし私が言ったなら、自身の存在すら削って、より密度の濃い精霊石を送ってきたかも知れない、とエルネアさんに言われて少し焦る。


「いくら私を好いてくれるって言っても、自分の身は大事にして欲しいかな」

「今は、中級精霊に格上げされて自制心も持っておるから、もう問題も起こさないじゃろう。精霊が居れば、土地は豊かになる。森の木々は更に魔力を産み、自然と精霊が産まれやすい環境になる。じゃから、移り住まわせてやってはくれぬか?」


 そう言われて私は、チラリと妖精たちを見ると懇願するようにこちらを見てくる。

 バランス良く六属性おり、土属性の精霊のみに偏っているこの土地にとっては、多くの属性が増えて良いことだと思う。

 むしろ、私から2000万魔力を抜かれたが、精霊石を貰い、この土地に精霊たちが移住してくれるのは、逆に貰いすぎなようにも思う。


「分かった、受け入れるわ」

「うむ。チセならそう言うと思っておったぞ。では、精霊たちよ、しっかりと励むが良い」


 そして、エルネアさんに激励された精霊たちは、新たに自身が依代とする場所を求めて、飛び立っていく。


「ホント、ドンドンと変わっていくわね」


 随分と【虚無の荒野】……いや【創造の魔女の森】は賑やかになったものだと思う。


 そんな大きな変化と小さな変化の繰り返しをしながら、私たちは今日も生きていくのだ。




これにてWeb版『魔力チートな魔女になりました』6章が終わりとなります。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

楽しんで頂けたでしょうか、もしよろしければ、下部の作品の評価のところにポイントを入れて頂けたら幸いです。


引き続き、7章に関しては気長にお待ちいただけたらと思います。


8月31日に、GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました3巻が発売されました。

それに合わせてWeb版の魔力チートな魔女になりました6章を毎日投稿したいと思います。


『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。

作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
初期にテトが土と植物の精霊を生み出したことを知ったらエルネアさんはどんな反応するんだろ?
[良い点] 6章お疲れ様でした! ここまでほんとに気持ちよく読ませていただきまた! 良い作品をありがとうございます(о´∀`о) 書籍も追っていきたいと思います!
[一言] これで完結かな?お疲れ様でした!! 一気読みしちゃった笑笑
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