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23話【為政者の会談】


 泣き続けて体の水分が不足しているテトは、休養のために一日空けて、エルネアさんとの会談が決まった。


「うむ、来たようじゃの」


 会談の場では、エルネアさんとアルティアさんの他にも、目を閉じた色素の薄めなエルフの女性がいた。

 眠っているわけではなく、しきりに長い耳が縦に小刻みに揺れて、こちらに顔を向けてくる。


「会談を設けてくれてありがとうございます。これは【虚無の荒野】で用意した贈り物です」


 マジックバッグから取り出したのは、エルフの国に対しての贈り物である。

【創造魔法】で創り出した世界樹の種や大容量の大型【魔晶石】、飛行可能な幻獣に乗る時の落下防止用の【浮遊石】のアクセサリー、古竜の大爺様から抜けた鱗など……


 ベレッタや大爺様たちと相談して決めた物で量は多くないが、こちらがどういう物を持つかを示すために贈り物に選んだ。

 それらを見て、目を剥くアルティアさんと目を閉じたエルフの女性が驚いた様子を見せるが、エルネアさんだけは――


「おー、感謝するぞ。早速今宵の晩酌にでも飲むとするかのぅ」


 そうした物ではなく、50年間熟成させた酒樽をポンポンと叩き、嬉しそうにしている。

 その様子に、アルティアさんが正気に戻り咳払いする。


「どれも大事に使わせていただきます」

「ええ、世界樹が複数きちんと育てば、その樹からまた種が取れるから頑張って育ててね」

「花が綺麗なのですよ~」


 そういう私とテトの言葉にアルティアさんが、本日二度目の驚愕に目を剥く。


「あの……世界樹が増やせるって……エルネア様、本当ですか?」

「うむ、そうじゃぞ。ただ世界樹単独では、自家受粉できないから複数の世界樹が必要になるのじゃ。じゃから唯一の世界樹などと言っておったが、その実単体では増やせなかっただけじゃよ」


 そう言って、エルネアさんが事実を突きつけると、二人は愕然としていた。

 長い時の中で固定観念に縛られた結果、忘れられた事実なんだろう。

 世界樹が木の実を実らせて種を付けない樹木ならば、幻獣のラタトスクはそんな世界樹に実る木の実を地面に埋めて冬越しの食料にする習性などないのだ。

 まぁ、ラタトスクの大半は、冬越しのために木の実を隠したままうっかり忘れて冬眠し、そのまま世界樹の種が春に芽吹くのがお約束なのだ。


「では、これでこの大森林を更に発展させられるのですね」

「うむ、じゃが良いのか? 世界樹の種など、我らエルフが喉から手が出るほど欲しい。それをこうして贈り物として渡すのは、自らの利益を手放したに等しいのだぞ」


 こちらを試すように愉快そうな表情で問い掛けてくるエルネアさんに対して、私は答える。


「別に構わないわ。万が一に私が死んで【虚無の荒野】の世界樹が全て伐採されたとしても、大森林を護り続けるエルフたちも育てていれば、世界樹は世界に残り続けるわ」


【創造魔法】を使える私が死に、世界樹の若木が全て失われれば、またエルフの大森林の世界樹が唯一の物に戻ってしまう。

 それは、世界に魔力を満たしたいリリエルの願いに反するのだ。

 ならば、自己利益を捨てて、エルフたちにも共に世界樹を育ててもらうことが正しいのだと信じる。


「流石、女神の使徒様ですね」


 そんな私の言葉に色素の薄いエルフの女性は、祈るように胸の前で手を組み、尊敬するような表情を向けている。


「ふむ……こうして貰ってばかりでは、妾の沽券に関わるのぅ」

「エルネア様、では……」


 思案するような表情を取り、閉じた扇子を手元で弄るエルネアさんに、アルティアさんが尋ねる。


「うむ。そなたらの【虚無の荒野】の防衛に関しては、協力しようぞ。まぁ、妾たちの国の防衛方法をそのまま取り入れるのは難しいじゃろうが、段階的に導入していく形がよいかのぅ」


 ハイエルフの女王と顔見知りになり、更に森林の防衛に関しての技術を提供してもらうことができただけで今回の訪問は成功と言える。


「ありがとう。正直に言えば、ダメって言われるかと思っていたわ。でも、これで侵入者対策の目処が立つわ」

「うむ。それと、もう一つ贈り物がある。ロロナよ」

「はい、エルネア様」


 今まで聞き手に徹していたエルフの女性が立ち上がり、ゆっくりと会釈してくる。


「私は、エルフの巫女で天空神・レリエル様の使徒を務めさせていただいております。ロロナと申します」

「私は、リリエルの使徒のチセよ。よろしくね」

「魔女様の護衛のテトなのです!」


 そうして、私が握手のために右手を差し出すと、同じように握手しようと手を差し出してくれるが、何度か空を切り掴めない。


「あ、あれ? おかしいですね。チセ様の魔力を感じられないから上手く握手できません」

「そうね。普段は、魔力を抑えているから分からないのね」


 少しだけ魔力を放出すれば、私の魔力の輪郭をハッキリと捉えられたのか、今度はしっかりと手を捕らえる。


「ロロナさんは、目が見えないの?」

「はい。生まれ付きで目が見えないのですが、魔力や精霊たちを感じられるので特に不便に感じることはありませんよ」


 そう言って微笑むロロナさんは、テトとも握手をする。


「世界樹の種のお礼としてお主らには、レリエルの祝福を受けた札を授けることにしようぞ」

「レリエルの祝福を受けた札? それは、どういうものなの?」


 ロロナさんが赤い布に包まれた木の札を二つ取り出して並べる。

 世界樹の木片で作られ、更に魔法的な刻印が施されたそれは、一種の魔導具であった。


「レリエルによって守護されたこのエルタール森林国では、転移系の魔法や魔導具などが使えぬ。じゃが、レリエルの使徒のロロナによって祝福された札を持つ者は、その制限を受けぬのじゃ」


 あとは、各々の魔力を通して専用化するだけじゃ、と言われる。

 まるでギルドカードだと思いながら、私とテトが一枚ずつ受け取り、それに魔力を通していくと色が変わり、重さは木材のままなのに金属のように硬くなる。


「おめでとう。これでそなたらは、【虚無の荒野】とエルタール森林国とを自由に行き来することができるわけじゃ。この城にでも【転移門】を置くかのぅ?」


 そう言ってニヤニヤと楽しげに笑うエルネアさんだが、なんとなくその真意が読み取れた。


「私たちが【転移門】を設置すれば、そこを通って【虚無の荒野】に遊びに来るつもり?」

「バレたか」


 レリエルの祝福を受けた札を持っているだろうエルネアさんは、このエルタール森林国から【虚無の荒野】を行き来できるのだろう。


「エルネア様、あなた一人で森の外に行かせるわけにはいきません」

「なんじゃ、夜の散歩で一人出歩くことがあるのに今更じゃのぅ」

「それでもです! と言うか、一人で出歩くのはお止めください!」


 小言を言うアルティアさんとそれを飄々と受け流すエルネアさんの様子にロロナさんが、ニコニコと楽しげに聞き入っている。


「よいじゃろう。久しぶりの異世界からの転生者なのじゃから、色々と面白い話が聞けるかも知れぬではないか。それに不老者でもあるのじゃぞ、ご近所付き合いは大事であろう?」

「へぇ、そう言えば過去の転生者たちの痕跡とか調べたことなかったけど、やっぱり居るのね」


 私がそう呟くとレリエルの使徒であるロロナさんが、説明してくれる。


「女神様たちが順番に、転生者様たちが同時に複数生存しないように調整しながらこの世界に送り出しているそうです」


 魔力によって寿命が延びる世界で、不老に至れずに亡くなった転生者がほとんどなのだろう。

 そうなると、100年や200年生きた者もいるのだろうか、人によっては300年生きた者もいるかも知れない。

 それでも、今この世界には私にとっての同郷人が居ないということなのだろう。


「そう気落ちするでない。チセの同郷の者の子孫がその血脈を繋いでおるわ」

「そうなのね」

「その昔この大森林の隣には、妾たちに何度も手を出す愚かな人間至上主義で奴隷制が根強く残る国があったのじゃ。その国を転生者が滅ぼして新たな国――サンフィールド皇国を建てて王になったのじゃよ」


 なんでもサンフィールド皇国の初代国王タカヤ・サンフィールド――日ノ原・隆也さんは、Aランクを超えるSランク冒険者となり、遂に奴隷国家を打ち倒して新たな国王となった後、奴隷だったお嫁さんたちと子沢山な生涯を過ごしたそうだ。


「ちなみに、『ハーレムはロマンだー!』とか言いながら人間、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、魔族と六人も嫁が居たくらいじゃ……」

「私としては、なんとも言えないわね」


 女の身としては受け入れられないが、それでも男の夢としての理解はあるつもりだ。

 けれど、そうした国王自身が多種族を嫁に迎えるような国だから、国自体が異種族との共存が進んでいるのかもしれない。


「晩年には嫁たちを次々に亡くし、最後にエルフの嫁を亡くしてからは自ら魔力による肉体の活性化を止めて150歳で緩やかに亡くなりおったがのぅ」

「……そうだったのね」


 魔力によって人は300歳まで生きられると言っても、生きる意味や目的がなければ、それだけで人の精神は弱って死ぬのだ。

 そして、エルネアさんのかつての友人について語る様子は、友人では生きる理由にはならなかったのか、と言っているような気がした。


「まぁ、湿っぽい話は、よいじゃろう。【転移門】は、城の一角にでも置いておけば、いつでもエルタール森林国の首都に遊びに来られるじゃろう」

「それじゃあ、早速置かせてもらおうかしらね」


 とりあえず、エルタール森林国に【転移門】を設置し、通過を許可する者をエルネアさんとアルティアさん、ロロナさんの三人を設定しておこう。

 それなら、たとえ他の人がレリエルの祝福の札を持っていたとしても【転移門】自体の機能で許可していない人物は弾ける。


「うむ。また来る時は連絡するが良い。【虚無の荒野】の侵入者対策で相談したいことがあれば、いつでも乗ろうぞ」


 そうして、私とテトは、城の一角に【転移門】を置かせてもらえることになった。


 これでいつでも【虚無の荒野】に帰れるようになるだろう。



8月31日に、GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました3巻が発売されました。

それに合わせてWeb版の魔力チートな魔女になりました6章を毎日投稿したいと思います。


『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。

作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「うむ。また来る時は連絡するが良い。【虚無の荒野】の侵入者対策で相談したいことがあれば、いつでも乗ろうぞ」 この連絡は、どのようにして行うのかな。
[気になる点] >「晩年には嫁たちを次々に亡くし、最後にエルフの嫁を亡くしてからは自ら魔力による肉体の活性化を止めて150歳で緩やかに亡くなりおったがのぅ」 あれ?結構重要なこと口走ってない? 12…
[一言]  ハーレム野郎、居た。(故人)
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