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18話【エルフの大森林~中層から深層~】


 アルティアさんとの大森林の横断の間、森の中で暮らす幻獣たちが時折、私たちの前に現れて私に撫でることを求めてくる。

 そんな第二の集落から第三の集落までの中層とも呼べる森林地帯には、様々な幻獣のテリトリーが存在する。

 そこに膨大な魔力を持った私の存在を感じ取った幻獣たちが【虚無の荒野】にいる幻獣たちと同じように魔力を求めてやってくるので、額や首筋を撫でて、魔力を送り込んであげる。


「可愛い子たちね。でも、私たちは行かなきゃいけないからごめんね」

「ダメなのです。魔女様を連れていかないでほしいのです」


 魔力欲しさに私を幻獣たちのテリトリーに引っ張り込もうと私のローブを咥える幻獣たちをテトが説得している。


「チセ様、気をつけてくださいね。この辺りは妨害魔法により方向感覚を狂わせているので、下手に迷い込むと遭難しますよ」


 うっかり幻獣たちに引っ張られて森の奥に案内されたら、この辺りの土地勘がない私は、きっと遭難すると思い、慌ててアルティアさんの傍に駆け寄る。


 そのような森を歩きながら、アルティアさんに妨害魔法の種類などを説明してもらった。


 霧を触媒として方向感覚を狂わせる魔法を森の各所に仕掛けたり――

 石やトーテムポールなどの設置物に魅了魔法を込めて自然と視線を引きつけることで幻獣たちのテリトリーから引き離したり――

 精霊たちによる監視を行なっていたりするそうだ。


「すごい規模でやっているのねぇ」

「こんな広い森を守るのは凄いのです」

「自慢の妨害魔法……と言えれば良いんですが、やはりこうした魔法の発動にも魔力が必要でして、広大な森の全てを補うことは難しいんですよね」


 そのために、少なくない侵入者が森に入り込み、ごく稀に密猟や人攫いなどを成功させてしまうので、幻獣の素材やエルフの奴隷たちを求めて汚い一攫千金の夢を見る悪党が後を絶たないそうだ。


 そうして妨害魔法に惑わされないように大森林を徒歩で進んでいく。

 大森林の奥は川や倒木、隆起や岩などが行き先を遮り、途中から獣道でもない場所を進んでいく。

 本当にこっちで合っているのかと疑問に思いながら、飛翔魔法でそれらの障害物を乗り越えながら進めば、中層の集落から一週間ほど掛けて深層の集落まで辿り着いた。


「ようやく、エルフって感じの幻想的な村ね」


 深層のエルフの集落では、世界樹の魔力が強すぎて、土地を切り開くことが困難であるために、大木を魔法で変形させて中を空洞にした住居に住んでいた。


「初めて来る人たちは、皆そのような反応をするんですよ」


 目に魔力を込めれば、所々に精霊が飛び交い、非常にキラキラした世界に見える。

 大きくて真っ直ぐな木々には、ドアや小さな丸窓が付けられており、こじんまりとしたまさに木の家が建っているのだ。

 どこからか水が流れる音が聞こえ、心地よい風が大木の住居となった木々の枝葉を揺らし、その隙間から光が降ってくる。


 そして、大分世界樹が近いのか、更に魔力濃度が濃く感じる。


「ここが人間で言うところの町になりますね。世界樹から落ちてきた枝や葉っぱなどは、一度、この町に集められて外の町に送り出すんです。ですが、いくら世界樹までの道のりが険しくともそれを踏破して密猟や人攫いを行なう人がいるんです」


 そうして、アルティアさんは、木々の隙間から見える天まで貫くんじゃないかと思うほど高い世界樹を見上げている。


「今日は、ここで一晩泊まってからエルタール森林国の首都に向かいます」


 2000年以上も外部と積極的に交流しなかったエルフの国に辿り着くのか、とワクワクしながら、エルフ独自の大樹の家を堪能しながら一夜を明かした。


 そして、翌日――


「ここから先は、更に強力な妨害魔法が掛かっています。それに少し道を外れれば魔物の生息域なので、迷わないように付いてきてくださいね」

「分かったわ。でも、ここから世界樹が見えるのに、妨害魔法とか意味があるのかしら?」


 妨害魔法に魔物の領域とは……かなりの危険地帯に進むのは分かった。

 だが、すぐ見上げれば、目印となる世界樹がある状況で迷うのだろうか、と首を傾げてしまう。


「そうですね……。ですが、チセ様方が見ている世界樹は、本当に本物の世界樹なんですか?」


 そう尋ねられて、訝しげに感じる私だが、それを判別する能力がないことに気付き目を見開く。


「深層は、中層よりも遥かに多くの精霊たちが世界樹を守るために、様々な妨害を張り巡らせています。例えば、光精霊が見える景色を僅かに右に曲げていれば、もしくは闇精霊が世界樹の姿を隠してしまえば――」

「辿り着けない、わね」


 他にも水精霊が森を濃霧で包んでしまえば、遠くの目印など分からなくなり、土精霊が魔力を攪乱してしまえば、《アースソナー》のような魔法も妨害されてしまう。

 もしかしたら、【魔力感知】などの探知手段も精度が著しく落ちるだろう。

 自然の力を味方に付けたエルフたちの力を心底恐ろしく感じる。


「それでは、改めて行きましょうか」


 もう少し気を引き締めないと、と思いながら自身の手に握る杖に力を込め、テトと一緒に大森林の深層に進んでいく。


「これは、結構辛い環境ね」

「魔女様、大丈夫なのですか?」


 早速大森林に入れば、濃霧が出迎え目の前を歩くアルティアさんの後をテトと共に追って進んでいく。

 魔力感知も効きづらく、視界も悪い環境は、流石に経験したことがない。

 山歩きに慣れている私たちだが、自然と歩みが遅くなり、口数も減って無言になる。


 前を歩くアルティアさんの後を無心で追い掛け、ふと後ろを歩くテトを見るために振り返る。


「テトは、大丈夫? ちゃんと付いてきている? ……テト!? アルティアさん、テトが居ないわ」


 振り返った先にテトが居らず、アルティアさんに声を掛けようと正面を向くとそこには、アルティアさんの姿もなかった。


「えっ……あっ……」


 居ると思っていた二人が居らず、一瞬何が起こったのか分からずに困惑する。

 確かに二人の姿はあったし、精度が落ちたけれど、【魔力感知】で二人の反応はあったはずだが、まさか精霊たちの妨害によって偽りの魔力を追い掛けていたのか、と愕然とする。

 その直後、魔力感知に反応があり、反射的に展開した結界に何かが勢いよくぶつかる音に、咄嗟に地面を蹴って飛翔魔法で空中に逃げる。


「――《マルチバリア》! 魔物の襲撃!? こんな時に――《ウィンド・プレッシャー》!」


 周囲の濃霧を振り払うために、周囲に強風を起こせば、鋭く長い牙と爪を持つ体長10メートルを超す虎の魔物セイバー・タイガーが居た。

 一体でBランク相当の魔物であるが、世界樹という豊富な魔力環境下で過ごしていたために、通常よりも二回りほど大きく推定でAランクに届きそうなほどだ。

 見知らぬ場所、予備知識も少ない状態では、どうしても戦闘では後手に回る。

「本当に、嫌な状況ね!」


 だが、不利な状況でも、昔相対した五つ首のヒュドラやデスサイズ・マンティスの時と比べたら、魔力や冒険者としての長い経験が私を成長させている。


「やってやるわよ! はぁぁぁっ! ――《ウィンド・カッター》!」


 いつもの癖か、素材を綺麗に倒し、周囲への被害を少なくするために、風刃の魔法を放つがそれを軽々と避けられてしまった。

 だが、魔力量による圧倒的連射によりセイバー・タイガーの体を捉えて、片足に傷を付ける。

 Bランク相当の魔物を倒すために多めの魔力を込めて風刃を放ったが、それでは足りないと瞬時に理解し、魔法に込める魔力量を調節して、再び風刃の連射が相手を襲う。

 二、三と回避と迎撃をしてくるセイバー・タイガーだが、傷ついた片足で動きが鈍った瞬間を見逃さずに、風刃の連射が胴体を捉えて、両断する。


「普段は、テトが足止めしてくれるから、思ったより魔力を消費したわね。さて早くテトたちを探すべきか、自分が遭難したことを認めて、あまり動かない方がいいか……」


 倒したセイバー・タイガーの死体をぼんやりと眺めると、再び殺気を感じてそちらを振り向けば、新たなセイバー・タイガーが殺気立っていた。

 それも五体の群れで現れたのだ。

 その他にも数多の魔物たちが倒したセイバー・タイガーの血の臭いに集まり、興奮して一触即発の様子になっている。


「……テトとアルティアさんとはぐれるし、魔物に襲われるし、よく分からない状況にいる! これは、遭難確定ね!」


 苛立ちをぶつけるように、魔物同士の縄張り争いの真っ只中にいることに悪態を吐きながら飛翔魔法でその場から離脱する。

 方向も分からずに森の木々の間を縫うように進み、血の臭いを落とすために《クリーン》の魔法を使う。

 そして、一息吐いたところで、いよいよ自分が今居る場所も戻り方も分からなくなり、とりあえず近くの泉を見つけて、そこに結界を張ってテトたちの迎えが来るのを待つことにした。


8月31日に、GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました3巻が発売されました。

それに合わせてWeb版の魔力チートな魔女になりました6章を毎日投稿したいと思います。


『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。

作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。

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GCノベルズより『魔力チートな魔女になりました』7巻9月30日発売。
イラストレーターは、てつぶた様です。
作画、春原シン様によるコミカライズが決定。

魔力チートな魔女になりました 魔力チートな魔女コミック

ファンタジア文庫より『オンリーセンス・オンライン』発売中。
イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
コミカライズ作画は、羽仁倉雲先生です。

オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

ファンタジア文庫より『モンスター・ファクトリー』シリーズ発売中。
イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
― 新着の感想 ―
[良い点] >世界樹の魔力が強すぎて、土地を切り開くことが困難 個人的にすごく納得できる設定でした。 なるほどなー。
[一言]  テトがギャン泣きして魔物をちぎって投げて無双してそう。
[一言] これ、虚無の荒野の防衛の参考にならない感じするなー
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