14話【虚無の荒野での一日:Sideベレッタ】
その日は、テト様がご主人様のお遣いに出かけられた後、私はご主人様に同行して研究塔までやってきた。
「こうしてベレッタと二人っきりってなんだか久しぶりよね」
『そうですね。何分、ここは人が増えましたから』
「ベレッタの方は、最近どう? 楽しんでる?」
調合のために私に背を向けたまま楽しげに尋ねてくるご主人様に対して、私の回りについて語り始める。
普段は、事務的な報告が多いがそれとは別で非常に主観的な内容で話す。
『実は、私たちメカノイドのステータスに変化がありました』
「えっ? ステータスに? 新しいスキルでも取得した?」
一度、調合の手を止めて振り返るご主人様に私は、自身の種族について語る。
『はい。私の種族名が、メカノイドからメカノイド・オリジン。そして、ご主人様が創造した初期の20体がメカノイド・ハイエンドになりました』
それに伴い、全体的な能力が向上した。
特に、私を頂点に、20体の高機能モデルとなったメカノイドたちは、【虚無の荒野】の各部門の責任者を担っている。
【虚無の荒野】の魔力生産力の監視、住人たちの生活に関わる――【内務部門】
屋敷の管理に関わる――【清掃部門】
ご主人様たちの食事を管理する――【調理部門】
畑や果樹、農作物を生育、庭園の管理をする――【農業部門】
家畜や川魚の養殖、【虚無の荒野】の幻獣たちの状態観察する――【生物部門】
【転移門】による人の移動の管理・監視、外部の人間との交渉する――【外交部門】
外部との物品のやり取りなどをする――【商業部門】
内外の脅威に対して、武力でもって解決する――【警備部門】
購入する本や美術品、作り上げる道具の管理・整理をする――【家財部門】
これらの仕事の全般に臨時戦力として加わり対応する万能メイドたちの【メイド部門】
この10の部門毎に19体のハイエンドたちが配属され、その下に10人ずつの部下を持ち、日々職務に励んでおります。
また、ご主人様のお弟子であるユイシア様に付いていったメイドのアイもハイエンドになっていることを確認済みである。
なお、最初は各々ができる仕事を交代で行なっておりましたが、新たにご主人様にご用意していただいた奉仕人形たちは、メカノイドになる過程で適性や個性に鑑みての縦割り職務となりました。
「そうだったの。気づかなかったわ……」
『ご主人様に伝えなくても問題ない些事だと判断し、報告を留めていました』
「言ってくれれば良かったのに、それってお祝い事でしょ? ベレッタに何かプレゼントをあげないと」
ご主人様の調合が終わったのか、道具を魔法で片付けながら振り返ってくる。
そんなご主人様の言葉に私は、目を見開く。
『使用人の分際でご主人様に何かを頂くなど、できません』
「ベレッタも、もう少し欲を言ってくれると嬉しいのよね」
『……難しいですね。何かを欲するというのは……』
私は、ご主人様やテト様が日々楽しそうに暮らしているのを眺めるのが、幸せで満ち足りている。
あまり過度にひらひらした服はご主人様もテト様も好みませんが、機能的でありつつ少女らしさのある衣服は日替わりで身につけてくださるので、目の保養になります。
ですが、もし叶えてくださる、と言うのであれば……
『その……二つほど、お願いがあります』
「私に叶えられることなら、なんでも言ってちょうだい」
時間は掛かるかも知れないけど、【創造魔法】なら多少のことはなんとかするわ。
そう言って微笑まれるご主人様に対して、私は努めて冷静にお願いを口にする。
『テト様のように、頭を撫でながら魔力が欲しいのです』
「頭を撫でながら? そんなことで良いの?」
キョトンとした表情のご主人様は、可愛らしく小首を傾げ、私を手招きする。
12歳の体で成長が止まってしまったご主人様と私とでは身長差があるので、ご主人様の目の前でしゃがむと、そんな私の頭を撫でてくださいます。
「いつも私たちのために頑張ってくれてありがとう。でも、頑張り過ぎちゃダメよ。たまには休まないとね」
優しく日々のご奉仕を褒めてくださり、更には私を心配して労ってくださる。
ご主人様の優しく、穏やかな魔力が体に染み渡り、核の魔石に魔力が補充されていく。
そして、しばらくの間、頭を撫でられ続けた私は、もう十分です、と小さく告げて立ち上がる。
『ご主人様、ありがとうございます。ご主人様の魔力――チセニウムを摂取できました』
「たまにベレッタが変なこと言うから、本気なのか冗談なのか、ちょっと分からないわね」
ご主人様の癒やしの魔力・チセニウムを大量摂取したことで、更なるやる気が起きましたが、頑張りすぎてはダメと言われたので休みの日の充実方法について考えるしかありません。
それと、もう一つのお願いは――
『私もテト様の魔剣のようなご主人様を守る武器が欲しいのです』
「武器? ベレッタって普段は素手よね」
テト様や同じメカノイドたちとは、素手による格闘術と魔法を鍛えている。
そのために今までは、拳に魔力を纏わせればそれで良かったのだが――
『この手を覆える手甲のような武器が望ましいです。ご主人様たちを守るために武器を手に持っては満足にご奉仕ができませんので』
両手が自由に使えて、なおかつ戦闘に耐えられる物が好ましいのだ。
そんな私の願いにご主人様は、悩むように声を上げる。
「そうなると、殆ど防具よね。昔手に入れて売っちゃった【大地の御手】って防具があるけど、それを改造する形で良いかしら?」
『ご主人様が作ってくださるのなら、お任せします』
「分かったわ。――《クリエイション》! 【大地の御手】!」
ご主人様の【創造魔法】が発動され、一つの籠手が産み出される。
物の重量を軽く感じさせる効果がある防具らしい。
だが、ご主人様は、それでは終わらなかった。
「コツコツと試しに作ったこれも使っちゃいましょう」
『ご主人様、それは――』
「余った魔力で【創造】し続けたんだけど、一度に創れるのが、10グラムしかないのよね」
ご主人様が見せてくださったのは、青みがかった魔法金属――アダマンタイトである。
最硬の金属とも呼ばれる魔法金属は、魔法抵抗力に優れており、加工が難しくある。
それをご主人様は、土魔法で粘土細工のように操り、籠手の金属部分を全てアダマンタイトに置き換えていく。
その結果――
「ふぅ、久しぶりに面白い物ができたわね」
『ご主人様、やり過ぎだと思います』
【大地の護り手】
土属性の魔力が浸透した籠手を改造して作られた魔導具。
この籠手に触れている間は、どんなものでもその重さを感じなくすることができる。
また、逆に重さも変えることができ、一定の衝撃をアダマンタイトが吸収して放出することができる。
【重量無視】【質量操作】【衝撃吸収】【衝撃放出】、これらの能力を持った防具となった。
なにより、最硬のアダマンタイトで作られた魔導具がそうそう壊れるはずもなく、国宝級を超える魔導具となってしまった。
『ご主人様、本当にこれほどのものを私が頂いてよろしいのでしょうか』
「それはベレッタの物よ。普段使いするにはちょっとゴツいから使い道はなさそうだけど、ごめんね」
『そんなことありません。大事に使います』
そうして、ご主人様から【大地の護り手】を頂いた私は、その日の夜、その籠手を嵌めて【虚無の荒野】でも手つかずの荒れ地に来ていた。
魔法の練習場所や組み手、模擬戦の試合場所として好きに暴れられる場所である。
そんな場所に立ち、私は、籠手に魔力を込めていく。
『はぁぁぁぁぁぁっ――!』
自らの拳を大地に叩き付けた瞬間に、地面が爆散する。
『軽く殴ってこの威力ですか……』
まるで重さの感じない籠手で大地を殴れば、クレーターが生まれた。
【衝撃吸収】とは、自身が殴った衝撃もアダマンタイトが吸収して、打撃に乗せて放出できるのだ。
またアダマンタイトの衝撃吸収量が尋常でないために、自身の手に掛かる負担が恐ろしく少ない。
この籠手は防具としての性能が高いので、相手からの攻撃を防ぎつつ、蓄えた衝撃を纏めて相手に返せる一撃必殺の武器にもなる。
『更に【質量操作】で自身の拳の重量を上げてもよし、掴んだ相手の重量を軽くして投げても良し。【衝撃吸収】で様々な攻撃動作で発生する衝撃を常に吸収し続け、相手に押しつける。恐ろしいですね』
武器の性能だけならば、古代魔法文明の物よりも性能が高い。
まぁ、古代魔法文明の武装は、汎用性、量産性、操作性などを追求した魔導具であるために、一概には比較できませんが、非常に手に馴染む。
『この力があればご主人様に対する脅威の排除の助けになるのかもしれません』
私は、総アダマンタイトの籠手を外して屋敷に戻るのだった。
後に【創造の魔女の森】の主である【創造の魔女】のチセには、二人の側近の名前が挙がる。
一人が【創造の魔女】の傍で常に前衛を務めている守護者・テト。
そして、もう一人が【創造の魔女】が不在の際に【創造の魔女の森】を委ねられた代理人・ベレッタ。
そんなベレッタの特徴である籠手は、こうして生まれたのである。
8月31日に、GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました3巻が発売されました。
それに合わせてWeb版の魔力チートな魔女になりました6章を毎日投稿したいと思います。
『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。
作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。