14話【魔女は、勤勉にギルドに通う】
朝、目が覚めた。
同じベッドで寝ていたテトの胸に顔を埋めており、ゆっくりと視線を上げると、にやけた表情で眠ったままのテトを見ることができた。
「ふへへっ、魔女様、もっと食べさせて、黒土~」
「どんな夢を見ているんだか」
私は苦笑しながら、テトの腕からゆっくりと抜け出し、その髪を手櫛で梳き、起こさないようにゆっくりと離れる。
「さて、今日の予定はどうしようか」
転生者である私と生後(?)数週間のゴーレムのテトだ。
正直、常識がない。
「とりあえず、色んな知識を集めないと、文化や風習やスキルについて学ぼうかな」
そして、町の鐘が8回鳴る頃まで、窓の外から町の通りを眺める。
人々の動きや行き交う人の服装などは、中世ファンタジーらしいものである。
「むにゃむにゃ~、魔女様~、赤土は、赤土のお団子は、あんかけ仕立てで~」
「テトはほんとうにどんな夢を見ているのかしら。ほら、そろそろ起きなさい」
「はい、魔女様! テト起きたのです! 起床したのです!」
私の呼び掛けと言うか命令にテトは、シャキッと起立する。
本当に寝ていたのか、疑問に思う反応の早さだが、多分これは元ゴーレムとしての命令機能が残っており、その命令系統からの強制覚醒だろう。
まぁ、手間が少なくて楽でいい。
「さぁ、着替えて朝食を取りに行きましょう」
「はーい。ごはん、ごはん~」
嬉しそうに着替え始めるテトに微笑みを浮かべ、宿の部屋を出て食堂に出る。
「おはようございます。昨日は、よく寝れましたか?」
「ええ、ありがとう。朝食頼めるかな?」
私が宿屋の娘さんに頼むと、すぐに朝食が出てくる。
パンに厚切りベーコン、生野菜のサラダ、スープと栄養バランスが良さそうだ。
「「いただきます」」
私とテトは、手を合わせて食前の祈りを捧げて、食べ始める。
朝食を食べながらそっと他の宿泊客や食堂の客を観察すれば、祈りを捧げたり、その略式の祈りをしてさっさと食べ始めたり、祈らずにそのまま食べ始めたりと様々だ。
(その辺は、教会的な文化圏なのかな?)
そして食べながら他の宿泊客などを観察して、あることに気付く。
(冒険者らしい人は少ない?)
今朝食を食べている人は、商人風な人や近所の住人たちだろう。
冒険者っぽい人もチラホラいるが、それでもこれから仕事に出かけるような感じではなく、仕事のないオフ日のようなラフな格好だ。
昨日の夕方に食堂を覗いた時には、結構冒険者らしい人は多かったと思う。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「はい。なんですか?」
朝食を食べ終えて立ち上がったところで、私は宿屋の娘さんに尋ねる。
「冒険者の人たちは少ないみたいだけど、どうして?」
「あー、それは、依頼を探しに行く冒険者たちは、鐘6回の頃には、食べ終えて出かけていますから」
「そう、勤勉なんだね」
ライルさんたちが真面目な感じだから、冒険者という名前とは違ってみんな勤勉なのだろうかと思ったが、どうやら違うようだ。
「鐘6回の時に新しい依頼が貼り出されるらしくて、割のいい依頼を目当てに朝から依頼の争奪戦らしいですよ」
「そうなんだ」
「冒険者は、ある程度の実力が付くまでは死ぬかも知れないし、報酬は安い大変なお仕事ってお兄ちゃんが言ってました」
「あなたのお兄さんは、私たちを案内してくれたギルド職員の人だよね」
「はい。うちのお兄ちゃんは、そうした朝の依頼を貼り出す準備で今日は早くからギルドに行ってますよ」
「冒険者もギルド職員も大変だね。ありがとう、いい話を聞けたわ」
私がそう言うと、何か期待しているような目を向ける宿屋の娘に気付く。
「はい。またいい話があれば教えてね」
「はい!」
私は、そっと宿屋の少女のエプロンのポケットに大銅貨1枚を入れた。
正直、チップ文化は日本人には馴染みはないが、今後もなにか良さそうな情報があれば、と思う。
「さて、テト。ギルドに行きましょう」
「はい、魔女様。それで今日は何するのですか? またオーク倒すのですか?」
小首を傾げるテトだが、私は首を横に振る。
「とりあえず、ギルドの資料とか色々見させてもらうつもりよ。まぁ、目安は1週間ほど色々調べ物ね」
「わかったのです!」
そう言ってギルドにやってくれば、既に冒険者たちが割のいい依頼を選び取った後なのか閑散としている。
私も早速依頼の掲示板を見に行って私たちのランクであるGランクを見る。
「町中のお手伝いに薬草採取とか……」
創造魔法で創り出した紙とペンに残された依頼の内容や報酬などをメモしていく。
そして、自分たちのランクより上の依頼なども確認していくと、オーク関係の依頼が幾つか残されていた。
「オークの食肉確保とオーク討伐の依頼かぁ」
それぞれ報酬に違いがあるがここに残っている、ということは、総合的に割の悪い部類の仕事なんだろう。
私たちが依頼の掲示板を確かめていることをギルド内に残ってお酒を呷っているような冒険者たちが見ているようだが、流石に絡んではこない。
まぁ、12歳の女の子に絡むような人は居なくて安心だ。
そして、受付カウンターに向かい、昨日ライルさんたちに対応していた受付嬢に話しかける。
「すみません。ギルドに本とかって置かれていますか?」
「本、ですか? それだったら2階の資料室を誰でも閲覧できますよ。ただ、本の持ち出しはできませんから、個人で複写などお願いします」
「わかりました。ありがとうございます」
私は、テトを連れて2階の資料室に向かい、そこに詰めている司書を兼任する事務員さんに利用の注意を聞いて、通い始める。
1日目、とりあえず目に付く本として教会から出版されている聖書などを流し読みするが、意味が難解すぎて、読むのに苦労する。
テトは、早々に飽きる。
2日目、今度は【創造魔法】で【速読】と【並列思考】スキルのスキルオーブを創り出して順調に読み進める。
その中でも魔族の一つの種族の起源に関する話は興味深かった。
吸血鬼の魔族の起源は、とある魔術師が、恋人の死体を使役したことが始まりであり、いつしか、仮初めの生命が宿り、その魔術師と子を成したことで吸血鬼たちが生まれた、という説だ。
「テトに似てる……」
その魔術師は、恋人の死体を素材にフレッシュ・ゴーレムを作ったのではないかと思う。
その結果、ゴーレムの核と死体が結び付き、多くの魔石などを取り込み、テトのように精霊も取り込んで進化した結果、吸血鬼の始祖が生まれたのかもしれない。
魔族は、魔石を体内に持つ人種という定義があることから広域的にはテトは、ゴーレムの魔族と言えなくもない。
それにテトの場合は、私が不足する魔力補充をしているが、吸血鬼の場合は、その名の通り吸血行為によって魔力を補っているのかもしれない。
そしてそんなテトは――
「てりゃー」
「ぐわぁぁぁっ!」
流石に、資料室に籠るのに飽きたためにギルドの訓練所で好きに動くことを許可した。
そうしたら、早速同じように訓練に来た冒険者たちと訓練で打ち合うことになったが、見た目と違うタフさと怪力で次々と冒険者たちを薙ぎ払っていく。
まぁ、それでもオークとは違い、人相手なので怪我させないように手加減するよう命令をしてあるので、テトとしても怪我をさせずに対応する人間の技術、というものを拙いながらも学び始めていた。
「これは、いい兆候かな」
そうして、二日目の調べ物も終わった。
私がテトをギルドの訓練所に迎えに行った時には、息一つ乱さないテトとその傍に死屍累々の冒険者たちが地面に転がされていた。
大怪我はないが、転がされてできた擦り傷や、訓練用の木刀で叩かれて打撲なんかができている。
「お疲れ様、それとテトに付き合ってくれてありがとう。――《エリア・ヒール》《クリーン》」
纏まって転がっているし、大怪我の人も居なさそうなので、雑に回復魔法で回復させて、汚れや汗などを落とす洗浄の魔法を施してから帰る。
そして三日目以降もテトに挑む人が増えて、帰りにお礼も兼ねて回復と洗浄の魔法を掛ける日々が続く。
三日目には、薬草と魔物に関する本を、四日目にはスキル一覧などを見つけ、紙にメモを取る。
そして、夜には、宿の一室で本から得た情報を基に【創造魔法】でスキルオーブを創り出して取り込み、自己強化を図る。
六日目――魔法使いの教本などはないが、その代わりに魔法使いが魔力を貯めて、必要な時に引き出せる鉱物【魔晶石】と、魔力を活用した技法である【身体強化】についての本を読み、ここで調べたいことが無くなった。
そして七日目――
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思った方は、『ブックマーク』や下記のポイント評価を押していただけたら幸いです。