27話【神々の空間での語らい】
大規模転移魔法の発動から一ヶ月が過ぎ、【虚無の荒野】は少しずつ落ち着きを取り戻す。
また住人が増えたことで、信仰の拠り所として【創造魔法】で一軒の教会を建てた。
中には、私が夢見の神託で見えた女神たちの姿を想像して創り出した神像を設置して、そこの管理を神族だと名乗るシャエルが名乗り出た。
「魔女よ! この教会は私に任せるがいい! 立派に管理して見せるぞ!」
浮遊島には聖書などはないが、まぁ神像を崇めたり、農作物をお供えする場、住人たちの憩いの場として使われるようになる。
ついでに古竜の大爺様を奉るための祠も隣に用意されて両方が活用されている。
ただ、まだ見ぬ天空神レリエルと冥府神ロリエルの像だけは、一般的な教会に置かれた再現度の低い神像となっているのはご愛敬だ。
そして夜――しばらくの間無かった夢見の神託の黒い空間に私とテトが立っていることに気付く。
「ここは、リリエルたちの空間よね」
「また会えるのですか! 嬉しいのです!」
『こんばんは、チセ、テト。浮遊島の件、ありがとうね』
顔を上げればリリエルが降り、その左右にはラリエル、ルリエルもいた。
『チセちゃん、本当にありがとう~。浮遊島を気に掛けていたけど、女神としてのリソースをあの島ばかりに掛けられないから現状維持で留めていたのよ』
リリエルが私にお礼を言うと、その隣から出てきたルリエルが私を抱き締めようと腕を伸ばす。
私は咄嗟に身構えて一歩下がるが、そんなルリエルの服をラリエルが掴んで押し留める。
『ったく、ルリエルは相変わらずスキンシップが激しいなぁ。だから、レリエルとロリエルから距離を取られるんだろ?』
『え~、だって、可愛い物はつい構いたくなるじゃない?』
『あなたたちは、重要な話があるでしょ』
真面目なリリエルが、姉神と妹神を叱りつける様子を眺めながら、これから何があるんだろうか、と身構える。
そして、ニコニコとおっとりとしたお姉さん的な雰囲気を出していたルリエルがすっと真面目な雰囲気を守る。
『改めて、神々の結界の解除による私の負担を減らしてくれたこと。幻獣と住人たちの保護と移住に関して、助けてくれてありがとう』
「別に、クロの故郷だから、立ち寄って助けただけよ」
「今回は、難しいお話ばかりでテトは力になれなかったのです」
そう真っ直ぐにお礼を言われると、少し照れるのでいつものように魔女の三角帽子で顔を隠し、テトはテトでベレッタのように各所の調整などができずに落ち込む。
『それと、伝えなきゃいけないことがあるわ』
「伝えなきゃいけないこと?」
ルリエルの顔を見るために視線を戻すと、少し言い辛そうにするルリエルに代わり、遠慮のないラリエルが口にする。
『本来あの浮遊島は、海母神のルリエルと天空神のレリエルが管理しているんだ。つまり、レリエルもお礼を言うべきなのに、この場に居ないことだよ』
『ごめんなさいね。今、レリちゃんは忙しいのよ』
「忙しい? ああ、【虚無の荒野】や浮遊島のような神々が抱える場所で問題があったの?」
ラリエルの頼み事の時の廃坑奥深くの魔物やルリエルの浮遊島のように、私が解決できればいいんだけどと思うが、それを受けたリリエルが優しく諭す。
『チセのお陰で【虚無の荒野】の再生は順調よ。それに近いうちに浮遊島の結界同様、【虚無の荒野】の結界も完全に消えるわ。チセたちの苦労の甲斐があって森や平原、湿地とかの多様な環境が生まれたわ。土地が蘇ったのだから、あとは自由に生きて良いのよ』
「自由に生きていい、って生きてるつもりなのよねぇ」
「魔女様は、いつも楽しんでいるのです!」
私は、割と気ままに生きているが、リリエルたちにはそう見えなかったのだろうか、と内心肩を落とす。
たまの休日には、指名手配されているはずのローバイル王国に向かい、画家の青年――いや画家の男性から絵を買い取ったり、有名な食器工房の新作食器などを見に行ったりしたのだが……
だが、まさか私たちがローバイル王国を飛び出して1年で、王が幽閉されて政治体制が議会制に変わり、指名手配も解除されるとは思わなかった。
議会政治を取り入れているが、貴族の権力が強いために議員の多くが貴族で構成され、少数だが、外部機関として冒険者や商業ギルドのマスターたちも政治に参加しているそうだ。
まぁ、それはさておき――
『レリちゃんの領域には問題はないみたいよ。でもね、レリちゃんは天空神。空と風を司っているけど、それと同じくらい空間に関する権能も持っているのよ』
「空間って異空間とか亜空間みたいな物?」
例えば、天使や悪魔、精霊や妖精、幽霊などの精神生命体は、一枚隣の空間に存在するなどの話もある。
また、神隠しや迷い家などの現象や伝承などは、そうした別の空間に入り込み、ふとした瞬間に戻ってくるなど色々ある。
『そう、そのレリちゃんが新しい異空間の異変を感じて、それの監視をしてるみたいなのよ』
大抵は、世界の理の修正力などで異空間は自然消滅するが、場合によっては固定化してダンジョンのようになる時さえあるのだ。
『杞憂だと良いんだけれどね』
そう溜息を吐き出すルリエルに対して、私もできることを伝える。
「一応、何かあったら教えて。可能なら、私も手伝うわ」
「テトも頑張るのです!」
『ええ、ありがとう、チセちゃん、テトちゃん。もし助けが必要ならお願いするから』
『さて、話し合いも終わったところで、最近の【虚無の荒野】について色々と教えろよ』
ルリエルからの重要な話し合いが終わったところで、ラリエルがこちらに絡んでくる。
しかも、リリエルもスッと何もない空間からテーブルと椅子、ティーセットを取り出し、話し合いに加わる。
『さぁ、重要な話も終わったし、チセを労うためのお茶会よ。最近あったことを色々と聞かせてちょうだい』
「分かったわ。それじゃあ、色々と聞いてもらおうかしら……」
新たに生まれた幻獣の赤ちゃんたちが可愛いこと。
ベレッタが私たちに色々な服を着せてこようとすること。
最近、【転移魔法】で買いに出かけた本が面白いこと。
ユイシアと共に、獣人や竜人種族の持つ固有スキル【獣化】や【竜化】スキルを参考に、大人への変身魔法を作り上げている最中であること。
また、古竜の大爺様の昔話などを聞きに行ったことなどを語るのだった。
一つ一つは、日常の何気ないことであるが、それをリリエルたちは楽しそうに聞いてくれた。
今では、数百人の集落の住人を守る立場にあるために、知らず知らずの内に無理していたのだろうか。
リリエルの言うとおり、少し休んだら、テトを連れて気ままな冒険者として旅に出ようかなどと考える。
GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました2巻が発売されました。
また『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。
作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。
引き続きよろしくお願いします。