21話【竜魔族の戦士・ヤハド】
一夜明けた翌日、私たちはベレッタも連れて浮遊島に転移した。
浮遊島も神々の結界が張られ、幻獣が暮らしていけるだけの魔力濃度があるために、ベレッタたちメカノイドやまだ進化していない奉仕人形たちも活動が可能である。
『お初にお目に掛ります、緑青の古竜様。私は、チセ様に仕えるメイドのベレッタと申します』
『ほぅ、古代魔法文明の人形が魂を得て魔族となったか』
『はい。遺跡で放置されていた私をご主人様が魔族とすることで助けてくださいました』
『魔女殿のお力か、世界にはまだまだ不思議なことがあるものだのぅ』
ベレッタと古竜の大爺様との顔合わせが終わり、私たちは浮遊島の調査を行なう。
その際、天使族のシャエルと竜魔族のヤハドも同行してくれる。
「大爺様から昨日、何を頼んだのか聞いた。貴様たちになるべく協力しろとも言われた」
「某たちの中にもこの島だけの世界に閉塞感を感じている者もいる。地上への移住に好意的な者もいるのだ」
渋々と言った様子のシャエルに対して、ヤハドは竜頭の口で笑みを作って好意的に申し出てくれる。
「早速、魔女殿の土地に移り住むのでござろうか?」
「いえ、土地の準備もできていないし、この島での生活様式とか、幻獣が好む食べ物とか教えて欲しいわ」
「お安いご用で聞きたいことがあれば、何なりと質問してくだされ」
ヤハドが率先して私とテト、ベレッタ、ユイシアを案内しつつ、浮遊島のことを学ぶ。
週に二回、浮遊島に訪れて、不満げなシャエルに睨まれながらヤハドから様々なことを学ぶ。
幻獣たちの生活環境を再現するために必要な植物の種や苗を受け取り、または確認した後、【創造魔法】でその植物の種子を創り出して、屋敷のメイド隊と共に栽培、植樹を行なう。
また彼らの集落についても学んだ。
村の生活様式は、土魔法で作り上げた石の建築物が多く、畑は小麦などを中心に古竜の大爺様の知識から輪作も行なっていた。
「食事は、何を食べているの?」
「小麦や豆、後は森の中に生える芋や果物を中心でござる。また天使のシャエルたちが中心で海に網を投げ込んで、魚を捕らえるでござる」
「へぇ……すごいわね」
浮遊島は結構な高さに浮いているが、海面まで降りて、漁をして浮遊島まで戻ってこられるシャエルたち天使族の飛行能力に驚く。
「ふん……この浮遊島では、家畜に適した動物は既に数百年も前に絶滅してしまった。だから、代わりの食べ物として私たちが漁に出て捕らえてくる」
「そう、大変なのね」
「当たり前だ! 海面からこの浮遊島までの高さの往復だ! この島で一番危険な仕事なのだ」
だからこそ、自分たちの種族に誇りがあるのかもしれない。
「そして、空を飛べない我らは、主に農耕をしながら生活している。また幻獣たちから僅かばかりの恵みを頂き、それを使って道具を作ったりもしているのだ」
例えば、幻獣たちの抜けた牙や角を研いで刃物にしたり、爪を使って農具を作るなどしている。
この浮遊島では、金属鉱脈などがなく、そうした道具に頼っているために魔法は使えてもどうしても文明レベルはそれ相応まで下がってしまう。
他にも幻獣たちの強靱な体毛を編んだ網やロープは、天使族たちが漁で使ったり、島に戻ってくる時の命綱になったりするらしい。
他にも外部の人々が来たことで隠れていたが、竜魔族の女性はヤハドみたいな竜頭ではなく竜人に非常に近い見た目だった。
ただ、体の鱗を占める割合が竜人より多く、体内に魔石があるくらいで、外見的な違いはほぼないだろう。
そこで、ふとローバイルにいた時に見聞きした昔話を思い出す。
「そういえば……」
「魔女殿、どうしたのだ?」
「いえ、昔話として空から降りてきた竜人の美女が竜人の青年と結婚して英雄の子を産んだ、と言う昔話があるらしいの……」
確か、ローバイルの北部の沿岸部にある昔話らしい。
とても美しい竜人の女性が海岸に打ち上げられており、それを助けた竜人の青年が介抱し、思いが結ばれて子どもが生まれた。
生まれた子どもは非常に力が強く、強い魔物を倒して、英雄と呼ばれるようになったそうだ。
異世界版、かぐや姫と桃太郎を合わせたような話だったように思う。
それに、その昔話を教えてくれたのは、ローバイルの北部の港町でギルドマスターをしている竜人族のドグル氏だ。
『――そして、その竜人の英雄の子孫が俺って話だ! まぁ、嘘かホントか分からないが、ご先祖様はどこから手に入れたか分からんが、上位の竜の鱗のペンダントをしていたんだ。それがこれだ』
彼の持ちネタらしい昔話と取り出された緑青色の鱗のペンダントを思い出し、ヤハドたちに語る。
「……我らは代々大爺様の生え替わった鱗をお守りにしている」
そう言って、取り出して見せたのは、ドグル氏が昔見せたペンダントよりも鮮やかだ。
数百年が経ち、古竜の魔力が抜けて劣化したペンダントの本来の姿なのだろう。
「我らの浮遊島では人や幻獣たちが島から滑落することが時折ある。我らは体が丈夫故、魔法で落下の勢いを殺したために海面に衝突しても生き延びたのだろう。だが、海に落ちたなら死んだと思っていたが、我が一族の中で運良く外で血を繋げた者がいたのだな……」
「そうね……」
しみじみと呟くヤハドに私は、呟く。
「某は、一度外で一族の血を繋げた者に会ってみたいものだ」
「そう……もしかしたらその人も自分のルーツを知りたいかもしれないわ」
世界は、思わぬ形で繋がっている。
それが竜魔族たちの移住を前向きにさせる切っ掛けとなったのだった。
そして、しんみりとした雰囲気を振り払い、生活様式や幻獣たちの生態、植物の種子や苗木の確保などを行なっていくのだった。
私があれやこれやと質問し、ベレッタが情報を記録して、テトが護衛し、ユイシアが興味深そうに色々と視線を向ける。
GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました2巻が発売されました。
また『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。
作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。
引き続きよろしくお願いします。