20話【ユイシアの不老の資質】
「あの日、倒れているユイシアに触れた時、共感のような物を感じたのよ」
「共感……ですか?」
「そう……私と同じ【不老】スキルを所有できる資質の持ち主に会った時に感じる感覚よ」
既に私の事を【不老】スキル持ちだと知っているユイシアだが、その【不老】スキルが自分も得られる可能性があることに、今日一番で目を見開いている。
「えっ、嘘ですよね。だって、私は普通の平民で漁師の娘で、落ちこぼれだったんですよ……そんな【不老】なんてスキルが得られるなんて……」
「ユイシアの体を調べて分かったのは、【不老】の資質持ちに血筋も魔法の腕前も関係ないという事」
神々が直接作り出した原初の人々が持っていた資質だ。
その資質を隔世的に持って生まれた人が、肉体に膨大な魔力を宿すことで【不老】スキルを得るのだ。
伝承や伝説、神話などに登場する不老長寿の賢者や魔女たちがそうした人間たちである。
だから、例え【不老】の資質持ちであろうとも、魔法や魔力が乏しく、【不老】を手に入れることができずに普通の人生を歩む人は多いだろう。
逆に、豊富な魔力を持ち、弛まぬ鍛錬を続けた魔法使いであっても、その先天的な資質がないために不老に至れない者も多くいただろう。
「じゃあ、チセさんは私を【不老】の仲間にするために、助けてくれたんですか? それじゃあ、テトさんも同じ【不老】スキル持ち……だから、全然変わらないんですか?」
「……それは、違うわ。テトの場合は、私が作り出したゴーレムが進化したゴーレムの魔族なのよ」
「そうなのです!」
ユイシアの疑問に私がテトの正体を明かすと、テトはいつものように体の一部を泥土に変えてみせる。
「そうだったんですか……もう、なんだか、チセさんなら何でもアリなのかなぁ、って思いました」
もう今日一日で何度も驚きすぎて、そういうものか、と全部受け入れるつもりのようだ。
「ユイシアを助けた理由は、【不老】の仲間を作るためじゃないわ。ユイシアがある程度、自活できるまで成長したら、独り立ちさせるつもりだったわ」
それこそ、私とテトが浮遊島に乗り込んだ後、あの家を買い取ってユイシアの独り立ちの際の贈り物にするつもりだった。
まぁ、それも【不老不死】を求めた国王やそれを唆かしたオルヴァルトの所為で追われる立場である。
「それに魔女様は、ユイシアを【不老】にするのが幸せになるとは限らない、って言ってたのです」
テトに以前語った私の言葉をテトが勝手に口にするので、私は苦笑いを浮かべる。
「老いずに長く生きるのは、凄い事じゃ……」
「不老になってまだ30年程度だけれど、気ままな生活を送れているのは力があってのことよ」
「あっ……」
ユイシアの呟き、何かに気付いたのだろう。
もし、私に力がなければ、サザーランドの次期当主であるオルヴァルトの策略により捕まり、【不老不死の秘密】を探るために飼い殺しになっていた可能性を。
また、時折話した義理の娘のセレネの話を聞いて、自分だけが老いずに子どもが成長して大人になる寂しさを感じ取ったのかも知れない。
「だからね。ユイシアは私の弟子になったけど、【不老】は強要しないわ。それに今の【遅老】スキルの状態なら、まだ寿命が長い人として自然に死ぬことができるわ」
ユイシアは既に、一日銀貨3枚以上を稼げるだけの魔力と知識。そして、魔法を得ているのだ。
ローバイル王国での騒動から逃げ出せたので、このままイスチェア王国かガルド獣人国に送り届けて、自立した生活を送り、人としての人生を謳歌することもできる。
私としては、むしろそれを勧めたいが――
「チセさん。私は、まだチセさんから色々と学びたいです! それに浮遊島のことも見届けずにここを離れるなんて、嫌です!」
「ユイシア……」
「だから、【不老】とかそういうのは抜きで今後もよろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるユイシアに、私は苦笑いを浮かべてしまう。
「それに、浮遊島とか幻獣とか古竜とか女神様とか! 普通なら一生掛けても出会えないことが沢山あるんですよ! ここを離れて普通の生活を送ったらきっと……いえ、絶対に死ぬまで後悔すると思うんです!」
「ふふっ、そうね。確かに、そうかもね」
「一緒に頑張るのです!」
ユイシアの熱意に私は、静かに同意するのだった。
こうして、翌日から【浮遊島】からの移住者を受け入れるために準備が始まり、ユイシアも私の弟子としての生活が始まるのだった。
SIDE:ユイシア
チセさんたちの弟子になって【虚無の荒野】の屋敷で暮らすようになった私の日常は、実はそれほど変わらなかった。
「おはようございます、クロさん、アイさん」
『にゃ~!』
『おはようございます、ユイシア様』
折角、故郷の浮遊島に帰れたのに、何でか私と一緒に行動するクロさん。
そして、メイド長のベレッタさんが、屋敷での生活を教えて貰うためにアイさんというメイドさんを着けてくれた。
なんでも色々な場所がこの屋敷の中にあり、一人だと簡単に迷ってしまうらしい。
そんなアイさんの案内で食堂でチセさんたちと食事を取った後、今日の活動に移る。
「アイさん、今日は魔法の練習をしたいんだけど……」
『でしたら、北の転移門に案内します』
アイさんの案内で複数の転移門が置かれた部屋に通され、北の荒野に出る転移門を通り抜ける。
「ここは、荒野……」
『ご主人様の命を受けて我々が森林の再生を行なっておりますが、それも屋敷を中心とする中央部と南部方面を中心に行なっており、北部方面は未だ手付かずとなっております』
「なるほど、ここならいくらでも魔法を使って良いのね」
『はい。時折ご主人様が新しい魔法を試したり、テト様とベレッタ様が組み手をしたり、我々メイド隊が自主訓練を行なう時にもこの場所を使用します』
荒れた地面は、所々に戦闘痕のクレーターができていたりする。
『それでは、ユイシア様。魔法の鍛錬を頑張って下さいませ』
私の背後に立ち、鍛錬を行なう様子をアイさんに見守られる。
魔力が尽きたら、瞑想による魔力回復。そしてまた魔法の練習を繰り返す。
この場所には倒すべき魔物がおらず、討伐してのレベルアップを行えないため、ただただ反復練習だけを行なう。
だが、それだけでは精神を病んでしまうので、チセさんが集めた本を読んで魔法の勉強や知識を深めたり、チセさんに同行して浮遊島の人々や幻獣たちと触れ合ったり、たまにチセさんの【転移魔法】で近くの村々を訪れて、流れのポーション売りとして少しばかりのお金を稼いだ。
ローバイルでは指名手配されていることを想定して、偽名でユイと名乗り、世俗とは隔絶した生活を送っていく。
そんな中、ステータスの【遅老】が【不老】スキルに変わっていないか確かめるのが日課になっていた。
GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました2巻が発売されました。
また『魔力チートな魔女になりました』は、コミカライズが決定しました。
作画は春原シン様、掲載はガンガン・オンラインの予定となっております。
引き続きよろしくお願いします。