31話【ローバイル王都への旅立ち】
ローバイル王国の港町でしばらく細々とした依頼を受けつつ、【虚無の荒野】とを行き来する生活を続けていた。
そんなある日、今日も港町のギルドで依頼を受けようと訪れた私たちは、竜人のギルドマスターのドグル氏に応接室に呼ばれた。
「悪いな。呼び出したりして」
「いえ、大丈夫よ。それより、何かあったの?」
ギルドマスターがAランク冒険者の私たちを呼び出すなんて、余程のことでも起きたのか、と少し身構えるが、苦笑を浮かべたドグル氏が用事を説明してくれる。
「お前らが来てくれたお陰で、大分この町周辺の塩漬け依頼が減って助かった」
「そう言ってもらえると助かるわ」
私たちAランク冒険者に見合う依頼などは、月に1回発生すれば多い方だ。
そうなると必然的に、下位の依頼を受ける事が必要になる。
割のいい依頼は、該当するランクの冒険者に任せて私たちは、依頼報酬が平均相場通りか、それよりやや低い依頼を受けている。
あまりに報酬が低い依頼は、ギルドによって精査される。
依頼主に資産があるにもかかわらず報酬を出し渋れば、依頼の報酬相場が下がり、冒険者やギルドがお金を得られずに苦しい立場になる。
それを防ぐために、ギルドが事前に依頼を精査して弾くこともある。
ただ、中には精査した結果、本当に依頼主が切迫している状況やそれしか報酬が出せない場合、または将来的に様々な危機に発展する可能性がある依頼は、通している。
「ローバイル王国の北方沿岸地域の潜在的な脅威となる不人気依頼の殆どは解消された。この町の領主も同じ気持ちだが、改めて感謝する」
「止めてください。私たちに頭を下げる必要はないです」
「魔女様と一緒に、楽しく依頼をこなしていただけなのです!」
そう頭を下げるドグル氏に私たちが頭を上げるように言えば、ドグル氏は困ったように笑う。
上位の冒険者としては、潜在的脅威が成長して自分たちが受けるのに見合う規模に成長したら、そこでようやく依頼を受ける。
そちらの方が報酬も跳ね上がり、自身の派手な名声にも繋がる。
だが、そうした報酬と名声の裏には、既に起きてしまった被害が存在するのだ。
この二十年ほど、ガルド獣人国でAランク冒険者としてやってきたから知っている。
だから私たちは、そうした被害を未然に防ぐ意味合いも込めて、自分たちの手の届く範囲で潜在的な脅威を排除して回る。
アリムちゃんたちが住む廃坑の町なんかの魔物退治などは、その最たる例だっただろう。
「本当に、二人は高潔だな。私が現役の頃は、そんなことを考えなかった。ギルドマスターとして管理する側になって、思い知ったよ」
そう言って、自分自身の過去に溜息を吐き出すドグル氏だが、まだまだ若々しく見える長命種族の竜人が行うと、少し可笑しく思う。
「とりあえず、感謝は受けるけど、話はそれだけ?」
「いや、この地域の潜在的な脅威が少ない状況でAランクパーティーがこの地域に滞在したままだと勿体ないのでな。王都のギルドに移らないか?」
「「王都のギルド?」」
首を傾げる私たちにドグル氏が勧めてくる。
「この町よりも王都の方が各地の依頼が集まりやすい。Aランクパーティーは、掲示板には載らない国や貴族からの依頼がギルドから直接冒険者たちに依頼されるだろ?」
「そうね。確かに、王都に場所を移すのもいいかもね」
転移門がある私たちにとって、場所や距離はあまり関係ない。
王都ならこの港町よりも、多くの交易品が運び込まれるので、楽しそうである。
「ちょうど、一週間後に王都に向かう交易船の護衛依頼があるんだ。シーサーペントの討伐依頼での海上での戦闘実績もあるから王都に行くついでに受けてみないか?」
「わかったわ。その依頼、引き受けるわ」
そうして、私とテトは、ローバイル王国の王都に向かうために、準備をする。
まずは、借家の片付けと引き払う準備。
この町から王都に移るので、馴染みの朝市の漁師や朝市で知り合った人々に挨拶回りをしつつ、食材を買い溜めしておく。
「海に出るなら――海母神・ルリエル様のご加護があらんことを」
「船旅ならいい風に恵まれるように――天空神のレリエル様の恩寵があらんことを」
「ありがとうございます」
「ありがとう、なのです!」
私たちにオマケをしてくれた漁師夫婦の老人たちにそう言葉を送られた。
私とテトが、リリエルとラリエルの二柱から使徒認定を貰った――二神の使徒だとバレたりしたら大変だな、と思いながら残り1週間を過ごす。
そして、借家の転移門を回収して家の鍵を大家に引き渡し、その足で港に停泊された護衛対象の交易船に向かう。
「こんにちは。商人のワードさんですか?」
「ああ、そうだが、お嬢ちゃんたちは?」
日焼けした肌を持つ中年の商人に話し掛けると、振り返り私たちを見返す。
「ギルドマスターのドグル氏から交易船の護衛を受けた冒険者です」
「これがギルドカードなのです!」
私とテトがギルドカードを提示すれば、依頼主の商人は驚き、再び私たちを確かめるように上から下に視線を動かす。
「あなたたちですか! この前のシーサーペントの件で出港が足止めされてたが、解決してくれた冒険者というのは! それにドグルさんから直々に見た目は少女だが、40歳を超えたベテランだって話は、聞いています!」
この容姿だから訝しむ人が多いが、ドグル氏がちゃんと根回ししてくれたようだ。
「私たちは、交易船の護衛って初めてだから、逆に色々と学ばせてもらいます」
「お願いするのです!」
「ああ、それならうちで契約している冒険者のパーティーがいるから話を聞いてください」
日焼けしているが、若干腰が低い交易商に導かれて交易船に乗り込み、今回の護衛依頼の話を聞く。
冒険者と船員が一日4交代で海を監視して襲ってくる魔物を退治して航海を続けるそうだ。
この時期は、北から吹き下ろす風があるために、航海日程は二週間前後とのことらしい。
「とりあえず、監視の時間以外は好きに過ごしていいぞ。寝るもよし、飯を食うもよし、釣りをするのもいい」
「ありがとう。実際に、やりながら覚えるわ」
そうして船の甲板に登り、船員たちによって運び込まれる交易品を見つめる。
食料や水、食事を作る燃料などが大部分であり、その他にそれなりに収益性のあるものを詰め、本当に重要なものは商人のマジックバッグに入れているようだ。
「それじゃあ、出発するぞー!」
交易船が王都に向けて港を出港する。
ある程度までは、船員の手漕ぎで進み、そして帆を広げて風を受けた船は冲を進んでいく。
私とテトは、船の後方からお世話になった港町を見つめる。
「楽しかったわね」
「また遊びに行きたいのです!」
廃坑の町は豊かではないがそれでも穏やかなドワーフたちの暮らし。
港町の喧噪と陽気な人々の笑い声などが思い出される。
行こうと思えば、【転移魔法】でいつでも行き来できるが、その時々の一期一会の出会いの楽しみがある。
その楽しみを胸に、帽子を外して髪を海からの風に靡かせた私たちは、ローバイル王国の王都に思いを馳せるのだった。
これにて『魔力チートな魔女になりました』の4章が終了となります。
また5章のストックが溜まりましたら、今回のように毎日投稿させていただこうと思います。
現在、GCノベルズ様より『魔力チートな魔女になりました』1巻が発売しておりますので、加筆修正が加えられ、イラストレーターのてつぶた様の可愛らしいイラストも加わって更に幸せな気分になれると思います。
またガンガン・オンラインにて春原シン様の作画でコミカライズが決定しました。
春原シン様の可愛らしいチセとテトのやり取りを今から楽しみにしております。
それでは、皆様良いお年をお迎え下さい。